All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1491 - Chapter 1500

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第1491話

辰巳が唯花に話しかけている時、理仁はそちらを見ていた。すると辰巳はすぐに何事もなかったかのように、箸を持ち上げ、適当に料理の上で手を泳がせていた。彼は今食事どころではない。彼は柴尾邸へ直接行こうと思っていたが、悟から食事に誘われたので、来ないわけにはいかなかった。それで先にスカイロイヤルのほうに来たのだ。唯花は辰巳の反応を見て、どういうことなのか察し、頭を傾けて理仁のほうへ目をやった。理仁は優しく尋ねた。「唯花、お腹いっぱいになったかな?」唯花はひとこと「ええ」と返した。理仁にあれもこれもと勧められてもうお腹いっぱいだ。「そんなに辰巳君を睨みつけてないで」唯花は小声でそう言うと、携帯を取り出して咲の番号にかけてみた。しかし、「お客様がおかけになった番号は電源が……」という機械音だけ返ってきた。咲は本当に携帯の電源を切っているようだ。咲は目が見えないのでLINEを使わない。電話が通じなければ、彼女に連絡する手段はないのだった。「咲さんの携帯は電源が入ってないみたい。後でお家まで見に行ってみて。明日の朝、花屋に行ってお姉ちゃんにあげる花を買うから、その時にちょっと話してみるね」辰巳は今唯花しか頼れる人物がいないようなので、唯花は手伝ってやるしかない。「ありがとうございます」辰巳は急いでお礼を述べた。そして少ししたら、柴尾邸へもちょっと行ってみるのだ。実際、咲は実家に帰っていなかった。彼女は辰巳に強引にキスをされた後、店員が店に戻ってから、花屋を出て行った。その後、浩司に電話をかけて、店からおよそ百メートルくらいの所で彼を待っているから迎えに来てほしいと伝えた。浩司が咲を迎えに来た後、星城にある海辺の住宅地へと連れていってもらった。咲はそこに一軒家を持っているのだ。その屋敷の名義は彼女のものではなく、浩司のものだった。こうすることで隠しておけるからだ。咲は海が好きだ。まだ失明する前、彼女は家でいじめられ辛い思いをしたら、一人でタクシーを使って海辺へやって来た。砂浜に座り、静かに大海原を見つめ、海風に吹かれていた。実の父親のことを思いながら。父親が亡くなった後、母親はすでに彼の写真の全てを燃やし尽くしてしまっていた。そして父親が彼女に残してくれた価値のあるものは、全て母親が売って
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第1492話

咲は、警察がこんなに早く、伯父が当時、彼女の父親を殺したという証拠を掴んだわけではないとわかっていた。伯父が勾留されたのは、母親の件に絡んで、彼も関係しているという証拠を理仁が持っていたからだ。弦が手に入れた証拠は、そのほとんどが表面上は加奈子に罪があるような内容だった。正一は妻を隠れ蓑として使うことができると考えていたが、弦がそれを逃すはずもなく、次々と新たな証拠を見つけ出したのだ。それで正一は自由を失ってしまった。加奈子の件は、星城で大きな話題となった。各メディアがこの事件を報道し、星城だけでなく、他の都市でもニュースを見る人は皆知っていた。だから、柴尾グループの社員たちも、もちろんこの件は把握している。社員たちは、もし、柴尾社長夫妻が両方刑務所に入ってしまったら、一体誰が会社を管理するのか、誰が後継者となるのか、様々な憶測をしていた。柴尾社長のたった一人いる息子だろうか。しかし、彼は確かまだ高校生だったはずだ。柴尾社長は息子の個人情報をしっかりと守っていて、彼らは誰一人として本人に会ったことがない。普段、咲は浩司を通して柴尾グループの運営状況を確認していた。咲がテレビ会議を開いている時、多くの社員は彼女は目が見えないし、まだ若い女性だから何も理解できないのに、臨時でグループを率いることができるだろうかと疑っていた。そして会議が終了すると、彼ら管理職層たちのその疑惑は全て吹き払われてしまった。咲は柴尾グループの状況についてよく把握している。それに、副社長である来栖浩二がずっと咲の隣に座っていた。副社長は社長からずっと信頼され、重宝されてきた。もし、そんな彼が咲を支持するというのであれば、彼らには何も言えない。彼らは管理職ではあるが、ただ会社の下で働いているサラリーマンなのだから。柴尾グループはそもそも柴尾家のものである。柴尾家の人間が会社を引継ぎ、変わらず彼らに給料を支払うというのであれば、誰が社長になっても彼らには大きな影響などない。この時、咲はまだ海辺の別荘にいた。辰巳がずっと咲に連絡が取れずに、再び唯花に頼みにいったことなど知らない。彼女は新しい携帯番号に変え、それを唯花にも教えていなかった。咲は教えるかどうか迷ったが、もし教えてしまえば、辰巳も知ることになる。庭で、咲はビーチチェアに
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第1493話

「もし、咲がここに数日泊まって、結城さんを避けたいなら、彼女に言って明日世話をしに来てもらうよ」浩司は男だから、咲の世話をするのはちょっと都合が悪い。それに、彼はもう一生咲の兄として生きると決めた。だから一定の距離を保っておかなければならない。仕事の事以外なら、できるだけ関わらないようにしている。今、彼女はまだ目が見えないからそれは仕方のないことだ。午後のテレビ会議では、ずっと彼が傍にいて手伝ってくれていた。「私と結城さんは別にどんな関係でもないわ」咲は急いで説明した。浩司は彼女におかずを取り分けてあげながら、暫く咲を見つめて言った。「咲、初めて知り合った時は、君はまだ中学校に上がったばかりだったよね。あれからもう十四年経った。咲がどんな人なのか、俺はよくわかってるよ。午後の会議で、ずっと忙しく集中しているように見せていたけど、心ここにあらずだったぞ。行動を止めてしまえば、その心があっという間にどこかに持ってかれる感じだ。俺は咲と結城さんの間で何があったのかは知らないけど、彼が店に来た時、明らかに嫉妬していたぞ。彼は、俺たちの関係を誤解してしまったんじゃないのか?それで咲に詰問してきて、お前が何も説明しないから、喧嘩になったんじゃないか?」咲は食事をする動きをわずかに止め、また何事もなかったかのように食べ始めた。「浩司さん、私と結城さんは別に喧嘩してないわ。私たちはただの友達よ、別に何も説明することなんてないでしょ。もう聞かなくていいわ、私は大丈夫だから。ただ、弟がもうすぐ帰ってくるから、彼が全てを知ってしまったら、私を恨むんじゃないか心配していただけ」柴尾家で、咲は母親がどうなってもどうでもいい。さらに継父と異父姉妹などなおさらどうだってよかった。しかし、弟のことだけは気にしているのだ。弟が毎回彼女を気遣ってくれる時、彼女は冷たい態度を取っていたが、実際、この弟には心を許しており、弟のことは本当の家族だと思っていた。弟は鈴とは違った。彼は本気で咲のことを姉として見てくれていた。そして彼女のことも守ってくれていた。彼が咲を守ってくれたことで、鈴が母親に頼んで、彼が小学校に上がった後、寮暮らしをさせ始めて、一週間に一度だけしか家に帰らなかった。そして今弟は高校三年生になったから、一カ月に一回しか家に帰って
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第1494話

咲は黙っていた。浩司は言うべきことは全て言ってしまった。咲が黙ってしまったのを見て、彼女が自分を少し卑下しているとわかった。もし他の男であれば、もしかすると、咲は自分が目の不自由な人間であるから相応しくないとは思わないのかもしれない。しかし、辰巳は結城家の二番目の御曹司なのだ。結城家は星城一の財閥家であり、柴尾家の所有財産は二百億しかない。そのうちの財産は審査が入れば差し押さえになってしまうだろう。その時、合法ビジネスで得られた財産を計算しても、恐らく数十億だ。兆超え資産の財閥家、結城家とは比べ物にならない。それに咲は自分が身体が不自由なことから、卑屈になり辰巳には釣り合わないと思っている。二人は食事を済ませて、少し休憩してから、浩司は車で咲を市内に送っていった。その頃、辰巳たちはホテルを離れたところだった。辰巳は少し酒を飲んでいたので、自分で車を運転しなかった。理仁から一人ボディーガードを貸してもらって、ホテルから直接柴尾邸へ車で連れて行ってもらった。どうせ彼はその近くに屋敷を持っている。柴尾家に咲を探しに行ってから、自分の別荘で今日は休めばいい。もし、咲がそこにいなかったら、彼女の店へ行くつもりだ。星城は大きな都市だが、彼女が行く場所といえばこのどちらかなのだ。それで彼は、今夜彼女に会えると思っていた。唯花はウトウトしている陽を抱きかかえて、理仁に言った。「理仁、清水さんに電話してお姉ちゃんに伝えてもらって。陽ちゃんは今日連れて帰るって。明日の朝七瀬さんにお稽古に連れて行ってもらいましょう」この時間なら、姉ももう寝ていることだろう。理仁は頷き、携帯を取り出して清水に電話をかけ、義姉への伝言を伝えた。彼らが陽を連れて帰るなら、義姉も安心するはずだ。清水は言った。「内海さんはもう寝ていらっしゃいます。九時になってもお帰りにならなかったので、きっと陽ちゃんは連れて帰ったのだろうと言って、待たずに休まれましたよ」「そうですか、じゃあ、清水さんたちも早めにお休みください」理仁は電話を切った後、唯花のところから陽を抱き上げた。陽はその時、目を開けたが、理仁であるのを見てひとこと「おじたん」と呼びかけて、すぐにまた目を閉じてしまった。理仁の懐に寄りかかり、夢の世界に入っていった。理仁は陽から可愛ら
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第1495話

車に乗った後、唯花は理仁に尋ねた。「九条さんに本当に占い師を紹介するつもり?」理仁は陽が気持ちよく寝られるように、姿勢を変えてやった。「もちろんだよ。この時間はばあちゃんはもう寝てるだろうから、明日教えてもらって、弦さんのお父様に伝えよう。彼から占い師に連絡してもらって、息子さんを見てもらえばいい」これで弦は逃げられなくなる。弦本人に連絡先を渡しても、行動しないかもしれない。「あなた、弦さんが言ってた話を信じてる?本当に病気なのかしら?」理仁は少し考えてから言った。「本当かもしれないし、言い逃れのための嘘かもしれないな。それは彼の父親に判断してもらうしかないな」きっと弦の父親である九条寛哉(くじょう ひろや)は今頃知らせを受けているはずだ。弦が逃げようと思っても、もう遅い。弦は理仁たちからしてみれば、かなりすごい人物であるが、上には上がいるというもの。父親である寛哉は弦を手のひらの上で転がす人物なのだ。もし、占い師が弦には結婚する未来が見えないと言えば、寛哉も仕方なく認めるだろう。「プルプルプル……」理仁がそう言ったすぐそばから弦から電話がかかってきた。理仁はそれに出た。「理仁君、普段、君のことはいろいろと助けているでしょう。今回に限っては私の頼みを聞いてもらいますよ」弦は電話越しに遠回しに言わず率直に言った。「先に私におばあ様のお知り合いである占い師の方の連絡先をください。私からまずコンタクトを取ります。それから、さっき話した病気に関しては本当ですので」弦は女性に全く興味なし。もちろん、それは男に対してもだ。彼は心身ともに健康そのもの。ただ女性を見ても何の反応もしないのだ。医者からは、もし運命の相手に出会えれば、きっと体も反応するだろうと言われたのだ。もし出会えなければ、一生独身だと。しかし、弦はどうでもよかった。彼が今夜ここまで自分の秘密を話したのは、悟の口から両親へとこの話が伝わり、結婚の催促をこれ以上されないようにするためだったのだ。それでやっと日々穏やかに暮らせる。そしてさっきの理仁の話を弦は少し心配していた。その占い師が本当に運勢を当ててしまう凄腕で、彼に運命の相手がいると言ってしまえば、両親からさっさとその相手を見つけに行くよう追い立てられることになる。
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第1496話

理仁の祖父母は本当にずっと仲が良く、祖父は死ぬまで祖母のことを愛し大切にしていた。弦は言葉を詰まらせて、すぐに電話を切ってしまった。二人の通話を唯花が傍で聞いていて、笑って言った。「九条さんも、ご両親からかなり結婚を急かされているのね」「彼は隼翔と年齢的にもそう変わらないからな。東夫人が相当息子の結婚にやきもきしてるんだから、弦さんのご両親がどれほど焦っていることやら。どの家の親もだいたい同じ感じだろう。子供たちが三十を過ぎたら、みんな揃って焦りだすんだよ」彼自身も同じく、三十を過ぎると、祖母がどうしても唯花と結婚させようとし始めた。以前の理仁は唯花のことをかなり誤解していた。今では、おばあさんに非常に感謝している。「他人はどうでもいいが、周りにいる兄弟や友人たちには、みんな幸せになってもらいたいんだよ」理仁も他人のことに世話を焼くタイプではない。彼はただ傍にいる人たちにも自分と同じように幸せを感じて生きていってもらいたいと思っているのだ。唯花は彼の肩にもたれかかった。「私もそう思うわ」理仁は片手で陽を抱いて、もう片方の手を唯花のほうに回した。……柴尾家の邸宅では、一階だけ明りが灯っている。辰巳は屋敷の前に車を止めて、ボディーガードにクラクションを鳴らさせた。するとすぐに、家の中から人が出てきた。それは使用人だった。使用人は屋敷の前に車が止まっているのを見て、主人が釈放され戻ってきたのかと思い、急いで門を開けに行った。門を開けて辰巳の車を見た後、見慣れない車だと思い主人が帰ってきたのではないとわかった。それですぐにまた門を閉じようとした。すると辰巳が車の窓を開けて、そこから顔を出し、使用人に尋ねた。「すみません、お宅の咲お嬢様はお戻りでしょうか?」以前、辰巳が咲を助けてここまで送ってきた時、柴尾社長夫妻は非常に感謝した様子で、家の中に彼を招き入れていた。それで使用人は辰巳を見たことがあった。「結城様は、うちのお嬢様をお探しでしょうか?咲さんなら、まだお帰りになっていません。きっとお戻りにならないのでしょう。ここ最近はずっと花屋のほうに寝泊りしておられますよ」辰巳は「そうですか」とひとこと返した。「では、すみませんが、私の電話番号を置いていきますので、お嬢様がお帰りにな
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第1497話

「うん、運転気をつけてね」咲は小さくそう彼に言った。浩司は「ああ」とひとこと返すと、咲が車から降りて屋敷の門まで行き、鍵を取り出して手探りで鍵穴を探し、ゆっくりと開けるまで見送っていた。この様子を見ていると、咲は身体が不自由な人には見えない。誰も目が見えていないとは信じないだろう。慣れた環境であれば、彼女は普通に暮らしていけるのだ。浩司は咲が屋敷の扉を開けて中に入って行くのを見届けてから、車を出した。すると、辰巳が前方からやって来るのが見えた。浩司は無意識にブレーキをかけようとした。しかし、彼は車のスピードを出していたので、向かいからやって来たのが辰巳であることをはっきりと確認できた後、すでに横を通り過ぎていってしまっていた。それでブレーキをかけるのはやめてしまった。バックミラーから、辰巳が柴尾家のほうへ行くのが確認できた。辰巳に浩司が咲をここまで送ってきたのを見られてしまっただろうか。見られてしまったのなら仕方ない。辰巳はすでに彼らの仲を誤解していて、咲も辰巳にどんな関係であるのか教えなかった。浩司が一体どのような人物なのか、彼も教えるつもりはなかった。これを機に、辰巳が咲に対して本気なのか、それとも目が不自由な彼女が珍しく少しだけちょっかいを出そうとしているだけなのか、確認することができる。この時、咲は辰巳が来ていることには気づいていなかった。彼女が屋敷の玄関を開けると、それに驚いた使用人たちが出てきて、彼女の姿を見た。使用人が近寄ってきた。「咲さん、お戻りになったんですね」咲はひとこと「ええ」と返した。使用人は自ら玄関を閉めた。しかし、辰巳が来たのを見て、振り向くと咲に伝えた。「お嬢様、結城様がおいでのようです」咲はそれに一瞬驚いたが、すぐに平静を装い言った。「もうこんな時間だから、結城さんにはお帰りいただいて。何か用事があるなら明日にしてくださいと伝えて」そう言うと、彼女は奥の方へと進んでいった。彼女の言葉を辰巳は全て聞いていた。しかし、それが聞こえていなかったように無遠慮に、使用人が玄関を閉める前に中へと入ってきた。使用人はそれを見た後、黙って玄関を閉め、さっさと退散していった。今、この柴尾家には咲とその弟である流星しかいない。流星はまだ学校にいるが、今週末には
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第1498話

辰巳はさっき、浩司が咲を送ってきたのを目撃していた。咲が帰ってくる前、辰巳はボディーガードに頼んで柴尾家から離れていたが、少し考えて途中で車を降りて戻ってきたのだ。柴尾邸の前で咲の帰りを待つつもりだった。浩司は辰巳とは知り合いでもない。車を運転して咲を送ってきた時、辰巳の後ろ姿から彼に気づけなかったのだ。そして浩司が離れる時に、辰巳は柴尾家からはたった百メートルほどの距離のところにいたのだ。それで咲が浩司の車から降りるのを見たというわけだ。辰巳はそれまで咲のことをとても心配していた。しかし、その一幕を目撃してしまったことで、堪らず変なほうに考えてしまい、怒りと嫉妬が湧き上がってきたのだった。あの男は咲と一体どういう関係なのだ?午後、そして夜遅くまで、彼女はずっとあの男と一緒にいたのか。「教えてくれ、あの男は一体誰なんだよ」辰巳は詰問するように尋ねた。咲はそれに返事をせず、彼の横を通り過ぎて行こうとした。すると辰巳は手を伸ばし、彼女の腕を掴んで引き戻した。咲は力を込めて彼の大きな手を振り解こうとしたが、辰巳はしっかりと掴んでいて、放そうとしなかった。「ねえ、手を放して!」辰巳は暫く彼女を睨みつけていたが、やがて語気を和らげた。「咲さん、ごめん、まだ怒ってるならもう一度俺を殴ってくれてもいい。一度と言わず何回でもいいよ。両頬殴られたら、その痛みを戒めにするからさ。今後、君の同意なしにあんなことしないと約束する。君のことを任務だと思ってるわけじゃない。君と触れ合う中で、どんどん好きになっていったんだ。ばあちゃんの指示を抜きにしても、俺はもう君のことが好きだ。だから、君が他の男と一緒にいるのを見て嫉妬してしまったんだよ。君も俺とは一切関係ないなんて言うから、お、俺は……、咲さん、俺が間違ってた。俺のことは殴っても貶してもいいから、こんなふうに俺を避けようとしないでくれないだろうか。携帯もずっと電源を切りっぱなしにしないでくれ。電話が繋がらなくて、余計なことを考えてしまう。君に何があったんじゃないかと、今日一日心配で、仕事も手につかなかった。頭の中は君のことでいっぱいなんだよ」辰巳は謝りながら、彼女への気持ちを告白した。彼は咲を愛しているとは言い切れなかったが、本当に好きで一緒にいたいとは胸を張って言
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第1499話

「咲さん……」辰巳は穏やかな声で尋ねた。「彼とはどんな関係なのか教えてくれたら、帰るよ」咲は少し黙ってから口を開いた。「彼は十四年前に私が助けたお兄さんです。本当の兄のように慕っている人です。彼にはもうすぐ結婚する彼女がいるんです」彼女は来栖浩司の名前は出さなかった。辰巳に彼のことを事細かく調べられたくなかったのだ。それでただ辰巳には、彼女たちが兄、妹としてお互いを見ているとだけ伝えた。つまり、辰巳には変なふうに考えるなと言っているのだ。「そんなこと一度も聞いたことないけど」「聞かれましたっけ?聞かれていないのに、わざわざ彼の存在を伝える必要があるんですか?」辰巳は言葉を詰まらせた。辰巳は彼女の周りの世界は単純につくられていると思い込んでいた。彼女の資料を調べたこともある。確かに普通で、単調なものだった。しかし、自分が彼女のことを調べた時は、そこまで深く調べようともしなかった。もしもっと彼女の人生のページをめくっていけば、きっと驚かされることがあるだろうと思った。今だってかなりのサプライズ、いや、かなり驚かされている。咲には実は彼氏がいたのだと思って、驚かされたのだ。そうではなく、兄と妹としてお互いを見ているのなら、問題ない。「咲さん、本当にごめん。俺が君たちのことを誤解して、傷つけてしまった。本当にすまなかった。俺のことを許してくれるだろうか」咲は何も言わなかった。辰巳は咲の様子から、まだ怒っているのが感じ取れた。咲があの男との関係を教えてくれたことで、辰巳もそれ以上は尋ねることはせず、彼女の手をとって優しく言った。「部屋まで送るよ」しかし、咲は手を引っ込めた。「結構です。ここは私の家だから、杖がなくても自由に動けますから」杖という言葉を聞いて、辰巳はようやく思い出した。彼女があの時杖を投げつけてきた時、それを掴みそのまま去っていったのだ。確か車の中に置いていたはず……「咲さん、君の杖は俺の車にあるから、明日車で君を店まで送るよ。その時に杖を返すから」咲は唇を動かしたが、断る言葉は出さなかった。「家には君一人なんだろう。部屋まで送らないと心配なんだ」「お手伝いさんたちがいます。おばも明日来るんです」こんな大ごとになったので、もちろんおばが彼女に付き添いに来る
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第1500話

咲は淡々と尋ねた。家政婦は仕切り越しに尋ねてきた。「お嬢様、もしかして結城家の辰巳様と付き合っていらっしゃるんですか?」「それはあなたと何の関係があるの?」家政婦は言葉を失った。暫くして、彼女は気まずそうに笑った。「お嬢様、以前、奥様と鈴さんがあなたのことを嫌い、何かにつけ嫌がらせをしていました。私どもは奥様から雇われた身です。あなたに同情していましたが、表だってあなたのことを助けるわけにはいかなかったのです。ご存じの通り、私もあなたを傷つけるようなことはしていません。普段、無視していただけです」空気のように扱っていれば、咲を傷つける必要もない。この家政婦も良い人とは言えないが、悪いとも言えない。「今はもう奥様も鈴さんも刑務所に入ってしまいました。奥様にはきっと重い刑罰が下されるでしょう。鈴さんのほうは恐らく数年で出所するはずです。鈴さんはずっとあなたに嫌がらせをしてきました。彼女が出てきたら、どうなさるおつもりですか?結城様は非常に素晴らしいお方です。結城家は力のある一族ですし、お嬢様が彼と付き合ているのなら、しっかりと捕まえておかないといけませんよ。あなたが結城家に嫁げば、もう鈴さんが出所してあなたに復讐をするかもしれないと心配しなくてよくなります」咲は彼女のことを構わなかった。家政婦はいろいろとお節介に咲に話したが、返事がないので、黙ってしまった。すると咲に浩司から電話がかかってきて、彼は電話越しに辰巳と何かなかったか心配して尋ねた。「大丈夫。彼は私に謝って、部屋まで送ってくれただけ」浩司はそれを聞いて安心し、いくつか彼女に注意して電話を切った。そして静かな夜が過ぎていった。翌日の朝、空が明るくなると、理仁は携帯の呼び出し音に起こされた。それで非常に不機嫌だった。携帯を手探りで取り、着信相手の名前も見ずに電話に出ると、冷ややかな声で怒鳴った。「こんな朝っぱらから電話をかけてくるとは、大したことじゃなければ覚えておけよ!」辰巳は恐る恐る口を開いた。「兄さん、俺だよ」理仁は辰巳からの電話だとわかると、速攻で電話を切ってしまいたかった。こんな朝早くにこの男が電話をかけてくるとは、絶対に良い話なわけがない。「兄さん、切らないで。今兄さんの家の一階にいるんだよ。兄さんが降りてくる?そ
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