辰巳が唯花に話しかけている時、理仁はそちらを見ていた。すると辰巳はすぐに何事もなかったかのように、箸を持ち上げ、適当に料理の上で手を泳がせていた。彼は今食事どころではない。彼は柴尾邸へ直接行こうと思っていたが、悟から食事に誘われたので、来ないわけにはいかなかった。それで先にスカイロイヤルのほうに来たのだ。唯花は辰巳の反応を見て、どういうことなのか察し、頭を傾けて理仁のほうへ目をやった。理仁は優しく尋ねた。「唯花、お腹いっぱいになったかな?」唯花はひとこと「ええ」と返した。理仁にあれもこれもと勧められてもうお腹いっぱいだ。「そんなに辰巳君を睨みつけてないで」唯花は小声でそう言うと、携帯を取り出して咲の番号にかけてみた。しかし、「お客様がおかけになった番号は電源が……」という機械音だけ返ってきた。咲は本当に携帯の電源を切っているようだ。咲は目が見えないのでLINEを使わない。電話が通じなければ、彼女に連絡する手段はないのだった。「咲さんの携帯は電源が入ってないみたい。後でお家まで見に行ってみて。明日の朝、花屋に行ってお姉ちゃんにあげる花を買うから、その時にちょっと話してみるね」辰巳は今唯花しか頼れる人物がいないようなので、唯花は手伝ってやるしかない。「ありがとうございます」辰巳は急いでお礼を述べた。そして少ししたら、柴尾邸へもちょっと行ってみるのだ。実際、咲は実家に帰っていなかった。彼女は辰巳に強引にキスをされた後、店員が店に戻ってから、花屋を出て行った。その後、浩司に電話をかけて、店からおよそ百メートルくらいの所で彼を待っているから迎えに来てほしいと伝えた。浩司が咲を迎えに来た後、星城にある海辺の住宅地へと連れていってもらった。咲はそこに一軒家を持っているのだ。その屋敷の名義は彼女のものではなく、浩司のものだった。こうすることで隠しておけるからだ。咲は海が好きだ。まだ失明する前、彼女は家でいじめられ辛い思いをしたら、一人でタクシーを使って海辺へやって来た。砂浜に座り、静かに大海原を見つめ、海風に吹かれていた。実の父親のことを思いながら。父親が亡くなった後、母親はすでに彼の写真の全てを燃やし尽くしてしまっていた。そして父親が彼女に残してくれた価値のあるものは、全て母親が売って
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