All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1511 - Chapter 1520

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第1511話

おばあさんにそう言われて、唯花は安心できた。そうでなければ、家族の誕生日パーティーも知らないなんて、結城家を取りまとめる女主人となる自分は資格がないと思ってしまうところだった。「唯花ちゃん、明凛ちゃん、お仕事してちょうだいね。私は晴を連れて他のお家を回って招待状を渡してくるから」おばあさんは少しだけいて、立ち上がり店を出て行こうとした。唯花と明凛も立ち上がった。「おばあちゃん、昼はご飯食べに来る?」「いいえ、お昼は玲さんと食事するつもりなの。うちのホテルで奏汰にも付き合ってもらうわ」おばあさんはその言葉を出した瞬間、子供っぽい視線を唯花に向けていた。唯花はどういうことかわかり、笑って言った。「おばあちゃん、時間がある時はここに遊びに来てね。うちに引っ越して来てくれるのが一番いいんだけど、都合がいいし」唯花が「都合がいい」という言葉を出す時、おばあさんを意味深な目つきで見つめていた。おばあさんも同じくどういうことか理解した。「晴の誕生日が終わってから、そっちに引っ越すわ。もし、理仁が不機嫌になったら、代わりにあの子をなだめてちょうだいね。あら、そういえば久しく理仁をからかってないわ。あの頃が懐かしいわね」その言葉に全員が笑い出した。「唯花さん、牧野さん、これで失礼します」晴は笑顔でおばあさんの体を支えた。しかし、おばあさんからその手を払い除けられてしまった。「私はまだあなた達に支えられないと歩けないほど衰えていないわよ。おじいさんのところに行くのはまだまだ早いの」そして長年連れ添ってきたパートナーのことを思い、おばあさんは思わずため息をついた。「まるで昨日まで彼と一緒にいた感じがするのに、あっという間にあの人が亡くなってもう十年近く経ってしまったわね」「おばあちゃん」家族たちは、おばあさんが亡くなった夫のことを思い出すのをいつも心配している。するとおばあさんはすぐに現実に戻り言った。「こんなに長い時間が経ったのだから、私ももうそれをしっかり受け入れられるようになったわ。人というものはみんないつか死んでしまうもの。それはただ早いか遅いかの違いなだけ。おじいさんは私よりも先に天国に旅立ったわ。私が彼のところに行った時には、あの世界に慣れていて私を連れて案内してくれるから、慌てる必要がないわね」「おばあ
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第1512話

晴はおばあさんがまだ結婚の催促をしてこないと聞いてホッと安心していた。まだ二十三歳でよかった。どのみち、彼の上にはあと数人いるのだから、彼に矛先が向くことはない。実の兄は今年二十六歳で彼女はいないから、おばあさんは先にそっちへ催促に行くことだろう。「唯花さん、牧野さん、見送りは結構です。僕、おばあちゃんを連れて神崎家に行ってきます」晴は車のドアを開けておばあさんを乗せると、二人に振り返って言った。二人は本屋の入り口に立って、あの二人が去っていくのを見送っていた。晴の車が遠ざかってから明凛が口を開いた。「晴君ってとっても控えめな子ね」晴の乗る車は一般的な車で新車でも二百万少しだ。理仁たちの乗る高級車と比べるとかなり庶民派だった。唯花が返事した。「晴君はこれから働きに出るんだから、まだ何も成果をあげていないでしょ。日々の生活でもあまり楽になんでも与えてもらっていないから、かなり控えめな姿勢なのよ。他のお兄さんたちと同様、仕事で成功を収めた日には、結城グループでも管理職クラスになって、好きな車に乗り換えられるわ」明凛は感嘆の声を漏らした。「唯花、あんたって本当に幸運の持ち主よ。こんなに良い家と結婚できてさ、結城家の家風は本当に文句のつけようがないわ」「私はおばあちゃんに気に入られてるだけ。あなたのほうだって似たようなものじゃないの」唯花は当初、おばあさんから一番上の孫を紹介すると言われた時のことを思い出していた。恋愛、結婚するなら、自分の一番優れた孫を紹介するから、絶対にガッカリさせることはないと言っていた。そしておばあさんは有言実行したのだ。しかも唯花が結婚した相手は、結城家で最も優秀な男だった。「そうよ、九条家だってとっても素晴らしいわ。だけど、九条家には悟の同世代は結城家ほどたくさんいないわね」明凛は自分が結婚した九条家のことも非常に良く思っていた。二人は店に戻ると、明凛が笑って言った。「唯花、結城さんの従弟はみんなイケメンよね。あなた達の結婚式には、他の子たちも会場に来るんでしょ。まるで絵画のように美しいでしょうね」唯花は笑って言った。「結城家の遺伝子だもの、みんな容姿が整ってるわね。それに、奥様方も綺麗な人たちばかりだから、美男美女の夫婦から生まれてきた子供なら、みんな端正な顔をしてるに決まって
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第1513話

唯花は明凛の話を聞いて楽しくなっていた。「あなた、子供にヤキモチを焼くつもり?」明凛は当然のように言ってのけた。「悟は私のものよ。誰かが彼の関心を持って行っちゃったら、ヤキモチを焼いて当たり前でしょ。その誰かがたとえ私の子供であったとしてもよ。大きくなったら好きな人を見つけて、その人に愛されたらいいのよ、悟の愛を奪っていかれたら困るわ」「九条さんのほうが子供たちとあなたを巡って嫉妬争いを始めるかもよ」唯花は笑って言った。「うちの理仁さんは百パー子供と嫉妬合戦を始めるわよ。あの人の性格を考えると、表面は大らかに見えて、実際はケチが身にしみついているからね」「唯花ったら、それってただの惚気?」「あなたの前でそんなことする必要ないでしょ。あなた達だってラブラブなくせに。明凛、今日はずっと店にいるつもり?」「うん」明凛は頷き、また尋ねた。「何か用があるの?それなら行っておいでよ、私が店番してるからさ」「ちょっと咲さんのお店に行ってくる。十一時半前には帰ってくるから」「いいわよ。何か気に入った花があったら、二つほど買ってきて、店の前に鉢でも置きましょ」唯花はすぐに返事した。「うちには二つも植物があるから、これ以上は必要ないわ」「じゃ、可愛いサボテンでも買ってきてよ」「わかった、探してみるね」唯花は車の鍵を取って、本屋を出た。そして外で見張りをしているボディーガードの中野に言った。「ちょっとブルームインスプリングまで行ってきます。ついてこなくて大丈夫ですから」「かしこまりました」中野は他にも同僚が隠れて唯花を守っているので、自分がついて行かなくても、彼女の安全は保証されるとわかっている。それに、唯花もなかなか強い。今、唯花に少しでも手を出そうものなら、あまたの名家を敵に回すことになる。下手にそんな事をするバカもそうそういないだろう。唯花はブルームインスプリングに行ったが、咲の姿はなかった。「店長さんはまだ戻っていないんですか?」唯花は薔薇の枝を落としている店員に尋ねた。「店長なら、仕入れに行った後、常連さんから電話がかかってきて、花束を注文されたので、それを届けに行ってしまいました」「どのくらいで戻られます?」「それは、はっきりとは言えません。内海様、先にお帰りになられて、店長が戻っ
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第1514話

唯花は辰巳に電話をかけて、彼が出るとこう言った。「辰巳君、咲さんは携帯番号を変えたらしいわ。午前中に二回お店に行ったけど、彼女いなかったの。あなたは彼女に会えた?」辰巳は答えた。「今、ルナカルドで花の配達に来てもらうのを待ってるんです」辰巳も咲の新しい番号を知らないし、店員も教えようとしなかった。それでブルームインスプリングの固定電話の番号を覚えておいて、ルナカルドの店長から店に電話をしてもらい、咲に花束を届けてもらっているのだ。こうすることでしか、彼は彼女に会えない。「咲さんが一人で?」「もう一人いる店員がバイクで彼女を送ってくれるそうです。唯花さん、ありがとうございました」唯花も咲に会うことができず、二人の仲を取り持つような話を咲にできなかった。それでも、辰巳のために午前中に二回もブルームインスプリングまで行ってくれたことを辰巳はとても感謝していた。きちんと自分のことを考えてくれているのだと感じたのだ。「家族なんだし、そんなお礼なんていらないわ。咲さんに会えたら、彼女を驚かせるようなことしちゃだめよ」「今すっごく後悔しているんです。もう二度とあんな過ちは犯しません」まだ咲の心を攻略できていないというのに、彼はキスをしてしまったのだから、間違いであり、彼女を驚かせてしまった。辰巳はカッとなってしまった自分を何度も罵っていた。唯花は安心して、通話を終わらせそのまま車を運転して本屋に戻った。そして一方おばあさん達はというと。彼女は晴と共に小松家に行き、招待状を渡した後、そのまま小松家から近い神崎家へ向かった。おばあさんが神崎家に到着した時、ちょうど善も隣人訪問という形で神崎家にお邪魔していて、食事まで居座ろうとしているようだった。結城おばあさんと晴が来たと聞き、詩乃夫妻は自ら出迎えにいった。「いらっしゃるのなら、事前にひとことおっしゃってくれればよかったです。先にお迎えにそちらへ行きますのに」おばあさんが車を降りた後、詩乃が前に進み出ておばあさんの体を支え、笑いながらそう文句をこぼした。それを聞いておばあさんは笑って言った。「うちの晴が付き添っているから、あなた達に迷惑かけることもないのよ」「迷惑だなんてそんな。おばあ様をお出迎えできてとても嬉しいのに。晴君ね、とってもカッコよく成長しちゃって。お
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第1515話

姫華と善はとても仲良くしているので、詩乃は心の中で葛藤していた。理仁から善に伝えてもらった言葉は、全く効果がないらしい。善はやはり、毎日のように隣人ということで神崎家にやって来る。それによく食事時を狙って来るのだ。家の中に入ると、姫華自らおばあさんにお茶を入れてきた。善は果物やお菓子を持ってきた。この時、善が神崎家のことを熟知しているとおばあさんは気づいた。この男、なかなかやるではないか。しかも詩乃はどうすることもできない様子だ。なにせ、彼は姫華に告白しているわけでもなく、ただ隣人という立場で来るのだ。何度も来ているうちに、神崎家の内部を全て把握するのは当然のこと。それに、善の面の皮もかなり厚いほうである。詩乃が姫華が気づかないところで善に対して白い目を向けているというのに、それを完全に無視している。つまり、姫華が好意的に善と仲良くする限り、彼もずうずうしくやって来るのだった。神崎家では、理紗だけが善の姫華への気持ちを応援していた。彼女は善が義妹にはお似合いだと思っている。二人は気が合い、共通の話題があるからだ。以前、姫華が理仁に恋焦がれていた頃、姫華はよく鬱々としていた。理仁から一切構ってもらえなかったからだ。それに諦めることもできず、勇気を出して告白し、堂々と追いかけることに決めたのだ。そして結局その恋は実らなかった。そして姫華が善といる時、理紗はよく彼女の笑い声を聞き、いつもキラキラと輝く笑顔でいるのを見ていた。それで理紗は玲凰に、善が姫華を追いかける邪魔をするなと釘を刺しておいた。姫華が善と一緒にいる時、自然と楽しそうにしているからだ。義姉として、絶対に義妹を遠くの町に嫁がせようと思っているわけではない。ただいつも姫華の幸せだけを願っていた。姫華自身がこんなに幸せそうにしているのに、どうして結婚してはいけないというのだ?善はわざわざ隣の大邸宅を購入し、今はその内装工事を行っている。それに、その内装は姫華が好きなスタイルなのだ。庭のレイアウトも、アドバイスをもらうという名目で姫華に意見を出してもらった。実はそれは姫華の好みにするためだったのだ。「おばあ様が今日いらっしゃったのは、唯花ちゃんの結婚式の件でしょうか?」詩乃はおばあさんがお茶を飲むのを待って、探るようにここへ来た目的
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第1516話

「理紗さんはまだ吐き気に悩まされているの?もう三か月でしょう?」結城おばあさんは心配して尋ねた。近くに座っていた理紗がそれに答えた。「もう妊娠三か月ですが、まだ気持ち悪くなるんです。今じゃ食事の後、三十分くらいしたら吐き気に襲われてしまって、吐いてしまったらスッキリするんですけど。母から子供を出産するまでこの状況が続くかもと言われました」つわりがひどく、理紗は吐くたびに辛い思いをしているが、お腹の子供への愛は一切変わらなかった。そしてもう少し経てば、胎動が感じられるようになるだろう。妊娠三か月の検査では、エコー検査をして医者から胎動は問題ないと言われている。ただ、今はそれが微かで、彼女には感じられないのだった。妊婦用の雑誌によれば、十六週目から胎動がはっきりと感じられるらしい。子供の成長に合わせて、それがどんどん顕著になるのだ。夫の玲凰は以前、彼女に子供を堕ろさせようとまでしたのだ。それが妊娠三ケ月検査のエコー写真を見て、彼はそれの見方はわからないが、どうしても手から放せなくなってしまった。理紗は玲凰が心の底から子供を期待していることはわかっていた。ただ、彼女のつわりがひどすぎたので、彼はそんな彼女を見ていられなくなり、馬鹿のように子供を堕ろそうと言い出しただけだ。それが周りから説得されて、もう二度とあのようなことは口に出さなくなった。毎回、理紗がおかしくなってしまいそうなほど吐くのを見ていると、お腹の中にいる子供にまで文句を言うようになってしまった。「おい、生まれてきたら、絶対にお尻ぺんぺんだからな。ママをこんなに苦しめやがって」と言うのだ。理紗はこの時、自分のお腹をさすった。おばあさんが口を開いた。「つわりはどうすることもできないわね。人によっては本当に出産するまでつわりが続くらしいわよ。確か、麗華さんが三男を妊娠している時もつわりがひどかったわ。生むまで続いたのよ。理仁たち他の子を妊娠中は吐かなかったのに、彼の時には吐き気がひどかったわね。つわりがひどすぎるから、麗華さんはもしかしたら娘なのかもと思っていたけど、生まれたらそうじゃなかったのよね」それを聞いて理紗は笑って言った。「じゃあ、私も同じかもしれませんね」「母親になるのは、本当に大変だわ」おばあさんはため息をついた。「だけどね、
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第1517話

「今後時間がある時にはおばあ様とチェスを楽しみたいですわ」詩乃はおばあさんの話ももっともだと思っていた。結城家と神崎家が以前どのような関係だったとしても、今では親戚同士なのだ。親戚も頻繁に交流することで、仲を深めていける。詩乃は唯花と唯月とは血の繋がる家族だ。彼女たちを支えるためにも、結城家とはもっと親しくしておく必要がある。そうしないと世間から、両家が不仲だと言われてしまうだろう。「いいわね」おばあさんは嬉しそうにその誘いを受け取った。「おばあ様、それではお食事にしましょう」詩乃はまた食事を勧めた。おばあさんはひとこと「ええ」と返事し、詩乃が立ち上がると、彼女も続いて立ち上がった。姫華がおばあさんの近くにいたので、すぐに近寄りおばあさんの体を支えた。おばあさんは少し彼女に支えてもらって、すぐに笑って言った。「ステッキがなくたって、飛ぶように素早く動けるのよ」彼女はステッキを持っているが、それは誰かにおしおきするために持っているのだ。恐らくおばあさんも武道を嗜んだ人間だし、若い頃は特殊な身分だったため、足腰がまだまだ衰えていないのだろう。山登りするのも、彼女の嫁たちもおばあさんには敵わない。「十年経っても、おばあ様ならステッキなんて必要ないかもですね」姫華は笑って言った。「唯花たちに子供ができて、やんちゃに駆け回るようになったら、おばあ様のステッキの出番かもしれません。言うことを聞かない生意気なガキを追い回すんです」おばあさんは、自分がステッキを持ってひ孫たちを追いかけ回す光景を想像し、思わずニヤリと口元が緩んでしまった。そして彼女は姫華の手を軽く叩いた。姫華はおばあさんのほうを見つめた。「良い男はたくさんいるわよ。気遣いのある優しい子で、あなたにぴったりな殿方は意外と近くにいたんだと、いつか気づくわ」おばあさんはこっそりと姫華だけに聞こえるようにそう言った。そして言い終わると、善のほうへちらりと視線を向けた。詩乃はこの時、善を食事に誘う言葉を言わなかったが、みんなは善が一緒に食事をとることに慣れてしまっているから、わざわざ声をかけるまでもない。食事の時間になると、善は勝手にみんなの後についてダイニングに入っていった。使用人たちも善の食器はいつも準備している。姫華が一緒にいるため、詩
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第1518話

神崎家で食事を済ませた後、おばあさんは詩乃と少し世間話をして、晴を連れて帰っていった。全員で二人を見送り、晴がおばあさんを乗せて車を走らせ去っていくと、詩乃は振り返って善を見つめた。彼女は口を結び、結局は何も言わずに部屋の中へと戻っていった。理紗は食後休憩する必要がある。航は詩乃に付き合ってどこかへ行ってしまった。そしてすぐ、姫華と善の二人だけが庭に残される形となった。「ちょっと一緒にお散歩しない?」姫華のほうから善を誘った。善は優しく微笑んだ。「食後の運動をすれば健康でいられますしね」姫華は彼の微笑みを見つめた。彼の印象はいつだって穏やかで優しい。彼女と話す時はいつでも、微笑みを浮かべている。その笑みはまるで優しく温かい春風のように気持ちがいい。二人は一緒に神崎邸から出ていった。そして二階にある部屋では、詩乃が窓辺に立ち、可愛い娘と善が一緒に出かけていく様子を見ていた。彼女は厳しい顔つきで航に言った。「桐生家のあの坊ちゃんったら、また姫華を言いくるめで散歩に行ったわ」航が近づいてきて、窓の外を眺めた。本当に娘と善が肩を並べて外に出かけていっている。二人が何を話しているのかわからないが、楽しそうに笑って歩いていた。そして航は視線を戻すと、妻の恐ろしい顔つきをみて、おかしくなりこう言った。「そんなにあの二人が仲良くするのが嫌いなら、はっきり言えばいいだろう。ここでそんな険しい顔をしていたって、姫華には気づかれないぞ。その桐生家の坊ちゃんにだって見られないんだから」「あのお坊ちゃんは何も見えていないのよ。いつもいつもうちに食事に来て、私は不機嫌な顔であの子に視線を送っているっていうのに、全く理解しないみたいなの。姫華が彼とは友達なんだって言うのよ。二人はいつも楽しそうに話しているし、姫華の前であまり失礼な態度なんて取れないじゃないの」詩乃は若い頃、夫と一緒にビジネス界では、はっきりと物を言いその名を轟かせていた。しかし、善が姫華に近づいていくのを阻止することができなかった。姫華はたしかに善のことを友人と思っている。しかし善の姫華を見つめる優しい瞳の中には燃えるような情熱が隠れている。彼女のことを愛しそうに見つめるその目からは、明らかに好意が見て取れるのだが、自分の気持ちはまだ打ち明けていない。
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第1519話

この時、善が姫華を連れ去ってしまうのではないかと家族から心配されていることを、当の本人は全く知らなかった。姫華は善と一緒に神崎家を後にすると、アスファルトの道に沿ってゆっくりと歩いていた。普段、出入りはいつも車だから、今まで住宅地周辺の景色をゆっくりと見たことはなかった。「長年ここに住んでいるのに、今やっとこの辺りがとっても綺麗なんだって気づいたわ。自然も多いし、道端には休憩用のベンチがあって、道を挟んだところには東屋もあるし」住宅地の中には小さな公園がある。公園には緑が生い茂り、子供たちが遊ぶための遊具もある。神崎邸は小さな数棟の家を買い取って、自ら大きな邸宅へ改装したものだ。家にはトレーニング用の部屋も備えている。それで、姫華はあまり住宅地の中の公園に足を運ぶことはなかった。普段は車で出入りするものだから、その時ついでに周りの景色をざっと見る程度だった。「この周辺は環境がとてもいいです。だから姫華さんの家の隣にある家が売りに出された時はすぐに購入したんですよ。ここの環境も、セキュリティもとても高いですから。それにかなり広いですし、中古物件とはいえ、とてもお買い得だと思いますね」善は歩きながら、中古のあの屋敷を購入したのは、まるで宝物でも拾ったかのように話していた。確かに彼からしてみれば、宝物を手に入れたようなものだろう。隣に住む姫華にアタックできる機会がぐんとアップしたのだから。「あなたが買ったあの家は本当に宝物を拾ったも同然よ。あのおうちの敷地面積はとっても広いし、うちだってあの家を購入したいと思ってたの。だけど、あなたのほうが早くて取られちゃったわ」姫華は歩きながら笑って言った。「あの時、お兄ちゃんが誰かに先を越されたって知った後、まさか自分たちよりも手が早いやつがいるなんてって言ってたわよ。一体誰かと思ってたらまさか善君だったなんてね。ねえ、あなたの目の付け所は良いわね。あの家を買って正解だったと思うわよ。それにまた風水がわかる人に頼んで見てもらったんでしょ。引っ越して来たら、きっと仕事はますます順調に行くわよ。もしかしたら、アバンダントグループの子会社も大企業に成長しちゃうかも。それから、善君が好きな人だって、彼女のために準備したお屋敷をとっても気に入ってくれるはずだわ」善の屋敷の内装は姫華にア
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第1520話

姫華はベンチに腰をかけた。「それならよかった。今は周りのああいうラブラブした空気には本当にまいってるのよね。毎回、唯花と明凛を見ていると、すごく羨ましくなっちゃう」「姫華さん、もう彼女たちのことを羨ましがる必要なんてないですよ。これから、あなたも同じように幸せになれるんですから」「これからの事なんて、誰にもわからないでしょ。だけど、もし結婚して幸せになれなかったら、耐え続けることなんてしないの。将来の夫が私を悲しませるようなことをするなら、さっさと離婚してやるんだから。お兄ちゃん達二人に一生養ってもらうわ」結婚後、女性は実家から支えてもらう。姫華は自分の家はかなり頼りになると思っている。「そんなこと有り得ませんよ。姫華さんの夫側は絶対にあなたに良くしてくれます」善は自分の家は、年配世代に誰一人として息子の嫁を苦しめるような人間はいないと自負していた。「私のことはいいから、早く善君のことを教えてよ。あなたが好きになったのはどこのご令嬢なの?きっと星城の方でしょ。だって、ここに家まで購入したのは、その人のためなんだろうから」善は頷いて素直にそれを認めた。「そうです、彼女のために買ったんです。彼女に近づくためにね。頻繁に会って、近くにいて仲を深められるように。あの家の内装も彼女にアドバイスをしてもらって、あれでいいとお墨付きをもらったんですよ」姫華「……善君、なんだか私のことを言われてる気がするんだけど」善は姫華を見つめて、真剣な眼差しで言った。「姫華さん、気がするのではなくて、まさにあなたです。僕が好きなのは姫華さんです。あの家を買ったのは神崎家に近く、今後隣同士になって、あなたと頻繁に会うためだったんです。もし、あなたと一緒になれたら、あの家に長く住もうと思って。そうすれば、あなたはすぐに実家に帰れるでしょう」姫華「……」彼女はそれを聞いて意外でもあったし、なんとなくそうかもしれないとも思っていた。食事の時に、結城おばあさんが匂わせるような言葉を言っていたからだ。その時、かなりびっくりしたが、よく考えてみれば、おばあさんの言うことも正しいと思った。確かに善はわざとらしい行動を取っていた。ただ彼はひたすら告白してくることはなかったので、姫華もあまり考えすぎて心が乱れないようにしていたのだった。自分がまた勝手
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