All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1481 - Chapter 1490

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第1481話

「プルプルプル……」隼翔の電話が鳴った。理仁からだ。隼翔は急いでその電話に出た。「悟から夜食事に誘われたぞ」理仁から暇があるか聞かれる電話かと思い、何か言われる前に隼翔がそう言った。彼ら三人は親友で、その友情は鉄のようにかたい。悟が結婚して彼らを食事に誘ったのだから、いくら忙しかったとしても、必ずその誘いに乗るに決まっている。「知ってる。悟からもう連絡が来た」理仁は片手で携帯を持ち、もう片方の手でコーヒーを持っていた。コーヒーブレイクの仕事の合間に隼翔に電話をしているのだ。「唯花さんが、お前の気持ちを打ち明けてしまった」「打ち明けた?」隼翔は聞いた瞬間、その意味が理解できていなかった。そしてすぐ、わかった。「打ち明けてしまったのか?それもいい。ちょうどどう話せばいいのか迷っていたところだ」本来、隼翔は自分の気持ちがはっきりした後、すぐに行動に移すつもりだった。しかし理仁から今はやめておけと説得されたのだ。唯月は怪我をしていて、身体が弱っているし、そのような恋だの愛だの話すには適していない。だから、少し待てと。それに母親が唯月のことを嫌っているし、一度結婚に失敗していることを考えて、隼翔は何年でも待つ気でいた。彼は静かに彼女の近くで守っていればいい。唯月が成功し、その名をあげた時に告白するのだ。その時に告白すれば、二人が一緒になれる確率は一気に上がる。それに、時間とともに相手のことがもっとわかってくる。彼が黙って守ってくれて、傍にいることを唯月はきっと気づくはずだ。傍にいる時間が長ければ長いほど、その愛の深さは証明しやすい。それが唯花がすでに彼の気持ちを唯月に伝えてしまったというのだ。隼翔は母親のほうを見て、きっと彼女が唯月を探しに行くだろうと予想した。唯月に嫌がらせをすることはないだろうが、きっと変な話をするに決まっている。唯月は何かあればすぐに妹に話すような人だから、きっとそのせいで唯花も隼翔の気持ちを姉に打ち明けてしまったのだろう。「ああ、わかった」唯月が彼の気持ちを知ってしまったからには、もう遠慮する必要もない。理仁は何か言おうとしてそれを止め、最後にため息をついた。「失敗しても、あまりしつこく付き纏うなよ」理仁は今板挟み状態だ。片方は親友で、彼
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第1482話

そして理仁は再び仕事に没頭した。午後、唯花が会社まで彼を迎えに来て、一緒に悟と明凛の結婚祝いをしに行く予定だ。理仁のほうは再び仕事に集中できたが、隼翔のほうはそうはいかなかった。美乃里は隼翔が理仁との通話を終わらせると尋ねてきた。「隼翔、理仁君はなんだって?」「母さん、俺が電話した内容を全て教えないといけないのか?俺が小さい頃、ここまで真剣に構ってこなかったくせに、三十過ぎた今、俺の世話をしたいってか?遅すぎると思わんのか」美乃里は言葉を詰まらせた。「母さん、話したいことはそれだけだろ。俺は仕事が忙しいんだよ」つまりさっさと帰れと言っている。美乃里は少し黙ってから言った。「悟君が今夜食事に誘ってきたなら、琴音ちゃんも連れて行くのよ。彼女にあなた達の交友関係の輪に少しずつなじんでもらうの」「連れて行くかよ!」隼翔はすぐに拒否した。美乃里「……どうしてここまで琴音ちゃんのことを嫌うのよ。琴音ちゃんは唯月さんに少しも引けを取っていないでしょ。家柄も、その美貌も年だって唯月さんよりも勝っているじゃないの。それに能力だってはるかに上だっていうのに」「樋口さんが唯月さんよりも優秀なわけではない。彼女はただ名家に生まれただけだ。もし唯月さんも同じような家柄に生まれていれば、すでに大企業の社長になっているかもしれぞ。俺にその理由を聞くな。俺だってわからん。だが、好きになったもんはしょうがないだろう。だからどうしてなのか聞いたって無駄だぞ。いつから好きになったのか、なんて考える必要もないぞ、ただ前に進むしかできないんだからな」美乃里の怒りは頂点に達した。「母さん、自分で帰るのか。それとも秘書に送らせようか?」美乃里は立ち上がり、顔をこわばらせて言った。「自分で帰るわ」「じゃ、気をつけてな」隼翔は母親を怒らせたというのに、まだニヤニヤと笑っていた。美乃里は東グループから出るとすぐに琴音に電話をかけて言った。「琴音ちゃん、九条さんが今日結婚手続きを済ませて、隼翔たちを誘って今夜食事するんですって。あなたも一緒に行ってらっしゃいよ。彼らは隼翔の親友たちよ。まずはその輪に入って、ゆっくりと彼の心を掴んでいけばいいわ」琴音は美乃里からの電話を受け取った時、ちょうどある社長との契約にこぎつけたところで、非常に気分
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第1483話

結城おばあさんと似た性格の東おばあさんが健在だったら、隼翔のことを止めることはない。隼翔が言うには、おばあさんは、彼が喜ぶならなんだって受け入れるらしい。彼が本当に唯月のことが好きなら、おばあさんは絶対にそれを応援してくれるのだ。「樋口さん、俺に期待しているわけはないですよね?」琴音「……そんなことないです。隼翔さんがどのような人か、今ではよくわかっていますから。あなたは私のことを何とも思っていない。私がそんなあなたに期待をしたところでどうなるっていうんですか?世界には隼翔さんよりも素敵な男性は他にもいるんですから。なのに、自分に振り向いてくれない人にいつまでも執着してどうなるっていうんですか?他に優秀な人を発掘しに行ったっていいでしょう?それか、世界中を探しまわったっていいんです。わかりました。それならもう演技をするのはやめます。帰っておば様と夜ごはんを食べる時に、はっきりと言っておきます。おうちにお邪魔するのはやめてスカイロイヤルに泊まることにしますね。将来、夫婦になれなくても友人として関係を続けましょうよ」琴音は良かれと思ってやっていたのだ。しかし、隼翔が言うにも一理ある。やはり早めに美乃里にはっきりと言っておいたほうがいい。それから、東邸から出て、美乃里がこれ以上琴音に期待しないようにさせよう。琴音が隼翔を嫌いなわけではなく、彼のほうが受け入れてくれないのだ。星城には他にも優秀な男性は少なくない。もしかしたら、彼女の運命の相手に出会えるかもしれない。星城で見つからなくても、自分の故郷に帰ってからゆっくり探す手もある。自分に合う相手が見つからなければ、一人で自由に生きていくのもいいだろう。「じゃあ、隼翔さん仕事の邪魔はここまでにします。私も車を運転しないと」そして琴音から電話を切った。このことを唯花は知らなかった。午後、ネット商品の作成を任せている数人のバイトに材料を取りに来てもらった。夕方に近くなり、下校、退勤時間になると、店の周りには若者たちが増えてきた。特に学生たちのキラキラと希望に満ちた顔を見ていると、唯花は彼らの青春が羨ましく思えた。それから暫くは忙しく働き、客が少なくなると、店の前にあるラックを中へ移動させ始めた。その時、隣の高橋が店にまた顔を出した。「内海さん、今日は早め
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第1484話

「心配してくださってありがとうございます。姉はだいぶ良くなって、回復が早いんですよ」「それなら良かったよ」「内海さん、おじさんな、ちょっとアドバイスもらいたいんだけど、いいかな?女房に言ったら、怒られちゃったんだよ」唯花は笑って言った。「おじさん、何ですか?私の意見が参考になるかわかりませんけど、アドバイスくらいならできますよ」「私は人の運勢を見ることができるって前話しただろう。だけど誰かについて本格的に学んだわけじゃないんだ。ちょっと他の人と一緒に入門程度を勉強しただけで、あとは自分で本を読んで手探りで学んでいったんだよ」高橋は小声で言った。「だけど、ちょっとした占いの店でも出していいかなと思ってさ。暇なときにね。アルバイト的に少しは稼いで家計の足しになるだろう。うちの雑貨屋だけでも生きてくのは問題ないんだが。でも、子供も大きくなって、両親も年取っていくしさ、私ども中年世代のプレッシャーは大きいんだよ。一家全員がこの店の収入だけ頼りに生きていくには、どうも大変でね。だから、他のことをして小銭を稼ぎたいんだ。でも、女房からはこっぴどく叱られてしまってさ。そしてあいつは、今夜、あ、違う、明日だ。今日は水曜日で、木曜日に競馬があるんだな。それで、私に明日のその競馬の予想を教えろって言うんだ。全財産を投げだしてその番号を買うって。一等ならどれくらいの倍率になることやら、でもかなり儲けられるだろう」高橋は愚痴をこぼした。「私に馬券の当たりがあてられるというなら、とっくの昔に大金持ちになっているよ。わざわざ小さな占いの店を出す必要なんてないだろ?あいつは私がサボって外に遊びに行こうとしてると怒るんだよ」唯花は笑って言った。「高橋さん、もし明日の競馬の一等がわかったら、電話で私に教えてくださいね。私も全財産をそれにつぎ込みます」「内海さん、からかわないでおくれよ。私のレベルなら小さな占いの店を出すのに十分だと思ってるんだ。少しだけ稼げても金は金だろう」「高橋さん、お金を少しでも稼ぎたいなら、小さな店を出さないといけないってわけでもないでしょう。人によってはそういうお店を胡散臭いと思う人もいますよ。本当に能力があるすごい人ならわざわざ外に出て行かなくても、仕事が舞い込んでくるものです」高橋は少し黙ってからまた口を開いた。「私には他の
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第1485話

唯花はまず姉に会いに病院まで行った。到着した時には、姉と甥の二人はもう夕食を済ませた後だった。「おばたん」唯花が来たのを見ると陽は嬉しそうに駆け寄ってきて、抱っこをおねだりした。唯花は彼を抱き上げると、姉がコップを洗いに行こうとしているのを見て、慌てて「お姉ちゃん、私がやるよ」と言った。「いいの、今はやることがなくて暇だから。何かやっていないと」そうでなければ、清水が先に洗ってしまっていたはずだ。「こんなに早い時間にお店閉めちゃったの」唯花は甥を抱きかかえたまま洗面所の前に立って、姉がコップを洗うのを見ていた。「明凛から食事に誘われてるの。陽ちゃん、こんなに早くご飯食べ終わったのね。おばちゃん、一緒に食事に連れて行きたいわ」唯月は笑って言った。「私、今豚みたいな生活してるわ。食べて寝て、起きたらまた食べて、その繰り返しよ。こんなふうなら。退院している時にはまた太っていた頃の体重に戻ってしまうわ」唯月は太りやすい体質だった。少し多めに食べると、腰回りに肉がついてくる。「そんなことないわ。お姉ちゃん、すっごい痩せたもん」なんといっても、命も危うく失いそうな状態に一度陥ったので、痩せたのも仕方ないのだ。「後で陽を連れて行ったらいいわ。この子、一日中ここで私と一緒にいてばかりだと暇でしかたないだろうし。いっつも携帯でアニメ見たがるけど、目に悪いし見せないようにしてるの」唯月はコップを洗いながら言った。「唯花、明日来る時に、陽のレゴを持って来てくれないかしら。陽がお稽古から帰って来たら、自分で遊ばせておく。携帯でアニメを見るよりはいいでしょうし。それから仮名表も持って来て。今すごく暇だから、ちょうど平仮名を教えるのにいい機会だわ。もう少ししたら幼稚園に入れるつもりだし、幼稚園でも少しは教えてくれるけど、こっちで早めにやっておいたほうがいいと思うの」幼稚園に預ける費用も安いとは言えない。公立なら年に十五万前後、私立なら三十万以上はかかる。満六歳で小学校に上がるまではまだ三年かかる。子育てには金がかかるものだ。「わかったわ」姉の様子だけ確認し、唯花は長居せず陽を連れて病院を離れ、結城グループへと向かった。到着した時にはすでに退勤時間になっていた。「社長夫人」「社長夫人、こんばんは」唯花が中
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第1486話

社員たちは理仁が子供を抱えて出勤してくる情景を想像すると、思わず身震いしてしまった。全く想像などできない!唯花と話していた数人の管理職たちは笑って言った。「奥様、社長がいらっしゃいましたので、私たちはこれで失礼いたします」お邪魔虫になってはいけない。唯花はニコニコして頷いた。彼らが去った後、笑顔で理仁と陽のもとへと近づいていった。「理仁、しっかり陽ちゃんを抱いておいてね」高い高いや、くるくる回している時に、しっかり抱いていないと、うっかり下に落としてしまって、大変なことになることもあるから彼女はそう注意しておいた。すると理仁は動きを止めた。そして陽を胸元に下ろして抱きかかえて笑った。「心配しなくていい、しっかり抱きしめてるからさ。陽君だけは絶対に落としたりしないぞ。陽君、とっても良いおじさんだろ?」「うん、おじたん大好きだよ」と陽は答えた。お邪魔虫と言わなければ、もっと好きだ。陽はそう言い終わると、理仁の首に抱きついた。そして彼の顔にキスとすると恥ずかしくなったのか、顔を理仁の肩に埋めた。理仁は陽からのキスでメロメロになりニタニタと笑っていた。そして唯花に言った。「隼翔が陽君にメロメロになってしまうはずだ。この子は本当に人から好かれる子だな」唯花も笑って言った。「誰が赤ちゃんの頃からお世話してきたと思ってるの?この私なのよ、愛らしくって当然でしょ」理仁は唯花を見つめた。「なんでそんなふうに私を見るのよ、本当よ、陽ちゃんはずっと私がお世話してたんだからね」「うんうん、そうだね。ただ、唯花が俺と一緒になってから、だいぶ図々しさが増したなと思ってさ」「つまり自分もそうだってことよね」唯花は理仁の腕に手を絡めて、一緒に外へと歩いていった。理仁は笑った。「確かに俺は図々しい奴さ。特に君を前にすると、さらに面の皮が厚くなるからな。ばあちゃんが俺をからかうのが好きだが、あまりにディスられて本当の孫じゃないと疑うくらいだぞ」そんな二人のやり取りを想像して唯花は大笑いしそうになったが、社長夫人としてのイメージを壊さないように、笑いを堪えた。「おばあちゃんも実の孫だからこそそんなことできるんでしょ。あなたを捕まえてからかうのが好きなのね。他所の人に対しては、穏やかで礼儀正しいもの。だからみんなはおば
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第1487話

「確かにまだ時間に余裕はあるけど、そろそろ準備に入らないと」理仁はすぐに続けた。「面倒なことはないよ。君はデザイナーが来たら任せておけばいいんだ。サイズを測って、君に合うデザインのドレスを考えてくれるから。そのドレスを着たら、世界で一番美しい花嫁さんになるぞ」唯花は笑って言った。「オーダーメイドのドレスじゃなくたって、一番綺麗なお嫁さんになる自信があるの」唯花は自分の顔には自信もある。理仁も笑って言った。「そうだね。君はずっと俺にとってこの世で一番綺麗なお嫁さんだよ。ただ、そんな君に一番良いドレスをプレゼントしてあげたいんだ」彼はさらに唯花への結婚プレゼントも用意している。彼の名義の財産、家に必要なものも全て結納としてあげるつもりだ。夫婦はオフィスビルを出ると、一緒に理仁のロールスロイスのほうへ歩いていった。「お前たちはついてこなくていい」理仁はボディーガードたちに指示を出した。彼らはそれにおとなしく従った。理仁が車を発進させ、会社から出ると、彼らも会社から離れた。悟は親友たちをスカイロイヤルのレストランに誘った。親友の二人の他に、辰巳と善、それから弦を誘っただけだった。実は弦の父親が裏で悟に頼んだのだ。つまり、悟と明凛の仲の良い様子を見せつけて、弦にも結婚願望を刺激させようという作戦だ。悟は弦があまり恋愛に興味を持っていないことを知っていた。しかし、弦は悟よりも何歳か年上なので、彼も従兄を少し心配していたのだ。悟の伯父が弦に頼んできた時には、すぐに快く返事をした。明凛のほうはただ唯花と姫華を誘っただけだったが、姫華は急用ができて来られなかった。それから、スカイロイヤルに来たので、悟は辰巳にも電話をして一緒に食事しようと誘った。全員揃ってから、悟と理仁の横にだけ可愛い妻がいて、残りの男たちは皆独り身だった。「九条さん、明凛、お二人ともおめでとう」唯花は新婚ほやほやの仲良い夫婦を見て、心のこもった祝いの言葉を送った。明凛は笑った。「ありがとう」そして彼女は腰をかがめて陽を抱き上げた。「陽ちゃん、こんばんは」「あかりおばたん、今日はとってもきれいだね」陽は抱き上げられた後、第一声で明凛の美しさを褒めた。明凛は別に特別に決めてきたわけではなく、ただ簡単な化粧をして、
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第1488話

食事会に集まった皆は悟と明凛が今月末に挙式することを知っていて、悟をからかう言葉をかけた。悟は祝福と一緒にそれを寛大に受け入れた。「ここにいる皆は理仁以外はまだ独身貴族だな」悟は自分のグラスに酒を注いで、周りに向けて笑って言った。「独身貴族の皆さんに乾杯しよう。今日から、俺は正式に仲間から外させてもらうぞ。今後は独り身の男が参加するようなイベントにはいかないから、君たちだけで楽しんでくれな」善は笑って言った。「九条さんが羨ましいですね」隼翔も口を開いた。「今日から、悟も理仁と同じく、奥さんの尻に敷かれるのか」理仁は低い声で答えた。「俺はそれができるが、貴様はそうしたくてもできないよな」隼翔「……理仁、それはさすがに傷つくぞ。内海さん、しっかりとお宅の旦那を管理しておいてくれ」唯花は甥におかずを取ってあげているところだった。陽は夕食を済ませて来たので、もうお腹いっぱいだったから、少し好きな物だけを食べていた。「まあ、彼の言うことも間違ってはいないし、管理するまでは必要なさそうです」「ほらな、これこそ夫婦。心は繋がってるな」隼翔は笑った。「お前たちはここにいる中で一番羨ましがられる夫婦だよ」この時、辰巳が言った。「隼翔さん、羨ましいならすぐにでも彼女を見つけて結婚しましょう。そしたら、俺らも隼翔さんを羨ましがりますよ。小松家のパーティーで、樋口グループの副社長と仲が良さげにしていませんでした?一曲踊ってるのを見ましたけど、とてもお似合いでしたよ」すると隼翔はサッと唯花のほうへ視線を向けた。唯花がこのことを唯月に教えていないか気になったのだ。しかし、あの夜は唯花もパーティーに参加していて、見ていたのだから、姉に教えるならとっくにそうしているはずだ。だから彼は落ち着いた様子で、正直に話した。「あれは母さんが気に入った嫁候補なだけで、俺は好きなわけじゃない。俺には他に好きな女性ができたから、今彼女にアプローチをかけているところだ。それが成功して、無事に夫婦になれたなら、悟のようにお前たちにご馳走をふるまってやるよ」二組の夫婦を除いて、他の独身の男たちは隼翔が唯月を好きだということを知らない。それで善は興味津々な様子で尋ねた。「東社長は、好きな女性ができたんですか?社長が誰かを追いかけているという噂は聞いたことがないよ
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第1489話

悟は心配そうに尋ねた。「弦さん、なんで俺らとは違うって言うんだよ?」弦は唇をぎゅっと結んで口を開いた。「私は君たちとはある程度の仲だし、二組は恋愛経験者だから、別に笑われるのも怖くないから言おうか。私は女性を見ても何も感じないんだよ」皆黙ってしまった。唯花と明凛はさすがは親友といったところか、挟んでいたエビを二人同時に皿の上に落としてしまった。「弦さん、そ、それってただ誤魔化してるだけでしょ?俺らも別に結婚しろって急かしてるわけじゃないから、そんな話して驚かさなくたっていいんだ」悟は伯父と伯母の期待に満ちた顔を思い出し、さっきは聞いてはいけないことを聞いてしまったと思った。従兄からまさかこんな話をされるとは思っていなかった。さっきの言葉に悟はかなり驚いている。「弦さんは、男性のほうが……」善は探るように尋ねた。彼は弦の隣に座っている。そしてこの時すでに少しずつ距離をとっていた。弦が男が好きだと言ったら、場所を換えるつもりでいた。弦をなめてはいけない。善のこのちょっとした動作を彼は見逃さなかった。弦は可笑しそうに善の腕を掴んだので、善は危うく驚いて飛びあがってしまうところだった。「桐生君、そんな弓矢に狙われた小鳥みたいな反応なんてしなくていいですよ。私は男性にも興味はありません。ただ、ちょっとした病気なだけです。心療内科にも行ったし、男性の病気の専門医にも診てもらったことはあります。医師たちは私のこの状態は医者ではどうにもできないと、自然に任せるしかないと言っていました」「弦さん、驚かさないでよ」「悟、私は嘘をつくような人間かな?本当のことだよ。自分の健康状態を冗談に使ったりしないさ」弦は真面目な表情でそう言った。唯花は箸を置いて、探るように尋ねた。「九条さん、その病気って感情が乏しくなるような統合失調症に近いものですか?」弦は唯花のほうを向いた。「そのような病気があると聞いたことが?」「雑誌でちょっと見たことがあります。軽度なら、確かにお医者さんにはどうすることもできなくて、自然に任せるしかないって。もし、九条さんの興味を引き起こせる女性が現れたら、きっと恋愛して結婚するはずです。その女性と出会えなかったら、ずっと独身のままでしょうけど」他の人たちは黙った。弦は頷いた。「医師もそのよ
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第1490話

兄のために、嫁候補のオーディションまで開けってわけにもいかないだろうし。理仁は唯花の皿いっぱいにエビの殻を剥き終わると、使い捨て手袋を外して低い声で言った。「その病気は俺も聞いたことがあります。弦さん、今まで通りに過ごしていったらいいです。うちのおばあさんに一番信頼できる先生を紹介してもらいましょう。占い師に弦さんは一生独身を貫くのか、結婚して子供や孫たちに囲まれる運命なのか見てもらったらいいと思います」弦「……おばあ様が最も信頼している先生ですか?それなら、きっとかなりの腕の方なのでしょうね」弦は結城おばあさんのことをとても尊敬している。彼女が言う事であれば、彼も十分信用できるのだ。「弦さん、その方に運勢を見てもらったらいいよ。誰か心を動かされるような女性が現れるか占ってもらうんだ」悟は焦った様子で理仁に言った。「理仁、後でおばあ様に電話して、その人を紹介してもらってくれ」それを聞いて唯花は笑い出したくなったが、必死にそれを堪えていた。理仁は真面目な様子で返した。「わかった。帰ってから、ばあちゃんに電話しよう」弦は理仁をなんとも言えない微妙な顔で見ていた。理仁はその視線を素直に受け取っていた。「おばたん、ぼくお水飲みたい」その短い静寂を、陽の幼い声が打ち破った。「うん」唯花が陽に水を入れようと思った時、理仁がすぐに動き、陽に水を入れてくれた。「おじたん、ありがとう」陽はお利口にきちんとお礼を言った。弦は陽を見つめながら唯花に尋ねた。「内海さん、この子は君の甥っ子さんなんだよね。とても可愛くて、お利口さんなんですね」唯花は甥の頭を撫でた。「そうです、陽って名前なんです」「おじたんも、とっても可愛いよ」陽は同じく弦を褒めた。その瞬間、和やかな雰囲気になった。弦は笑って言った。「陽君、おじさんは大人だから、『可愛い』を使うのはちょっとおかしいかな」「おじたんはとってもカッコいいよ。りひとおじたんと同じくらい」陽は表現を変えてみた。弦はわざとからかうようにこう言った。「じゃ、私とそこにいるおじさんは、どっちがカッコいい?」陽は悩むことなく即答した。「もちろん、ぼくのおじたんのほうがカッコいいんだよ」すると皆は笑い出した。陽は親戚、家族に肩入れする派らしい。理仁も笑っ
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