All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1671 - Chapter 1680

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第1671話

美乃里が前方の車にぶつかったのではなく、隼翔のほうがトラックの後ろに追突してしまったのだ。隼翔の車の後ろに続いていた車は急ブレーキを踏んだが、それでも間に合わず玉突き事故を起こしてしまった。美乃里はブレーキが間に合ったので、その後ろからぶつかることはなかった。美乃里は車を止めた後、すぐにシートベルトを外してドアを開けて降りてきた。健一郎はさっきからずっと妻に息子を追いかけるのはやめるように説得していて、事故が起こった今何が起きたのかわからず呆然としていた。「美乃里」「隼翔が前の車に追突したみたい」美乃里はそう夫に伝えると、前方に駆けだしていった。彼女は隼翔の車にぶつかった前方のセダンを通り過ぎた。車の前方部分は破損しており、運転手はまだ中にいた。恐らく急な事故に驚いてまだ呆然としているのだろう。隼翔の車のほうはかなりひどい有り様になっていた。車のボンネットの半分はほぼトラックの下敷きになっていて、後ろ半分だけが見えていた。隼翔は怪我をして気を失っている。「は、隼翔……」かなりひどい事故で、美乃里は天地がひっくり返ってしまったかのように、しっかりと立っていられなくなっていた。真っ青な顔をした健一郎は急いで美乃里の体を支えた。彼は男だから、妻よりも気をしっかりと保ち、すぐに救急車を呼んで、また警察に電話をかけた。「隼翔、隼翔」美乃里は夫の手を振りほどき、息子を助けに行こうとした。健一郎もその後に続いて行ったが、二人にできることは何もなかった。そして警察と救急車がすぐに現場に駆けつけてきた。「助けて、息子を助けてください……」美乃里は救急隊員を見ると、すぐに泣いて助けを求めた。救急隊員は彼女を落ち着かせるように言った。「すぐに負傷者を運んで治療します」健一郎は妻を引っ張って、息子の救助の邪魔にならないようにした。美乃里は夫の胸に泣き崩れてしまった。今彼女は後悔してやまなかった。もし、息子に何かあれば……どうして息子が好きな女性のところに行くのを阻止しようとしてしまったのか。息子のやりたいようにさせておけばよかったのに。彼はもう三十六歳で、自分が何を求めているのかよくわかっている。美乃里の年齢なら息子のことなど構わずに、家でおとなしく孫の世話でもしていればよかったのだ。隼翔の事は昔から母
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第1672話

隼翔は毎日唯月が借りている部屋に彼女に会いに行っていた。理仁は隼翔が昼目覚めた後、唯月に会いに行き、引っ越してしまったことに気づく時間を計算し予想していた。しかし結果、理仁が受け取った知らせは隼翔が交通事故を起こしたというものだった。「あいつ、どこで事故ったんだ?ぶつけたのか?ぶつけられたのか?怪我の具合は?」理仁は悟から電話を受け取った時、ちょうど唯花と一緒に昼食を取るために、本屋に向かっているところだった。明凛はこの日本屋に来ることはできなかった。昨日午後ずっと店番をしていたので、悟が彼女が疲れるのを心配していた。実際は全く疲れてはいなかったが、妻を溺愛する悟が彼女は疲れていると言ったら疲れているのだ。それで今日は何があっても明凛を外出させようとはしない。九条家で国宝級の扱いを受けている明凛はおとなしく家で待機するしかなかった。暇だから常に親友たちにテレビ電話をかけては妊娠したら多くの制限を受けてしまい、出産までの数カ月どう過ごせばいいのかと嘆いていた。「夕陽丘住宅地付近の道で、隼翔がトラックに追突したらしい。重傷だって、特に両足がひどいんだとか……もしかしたらダメになるかもって」悟は弦からこの知らせを聞いた時、あまりの衝撃で携帯を床に落としてしまった。自分の親友がまさかこのような事態になるとは信じられず、すぐに病院に向かうと同時に理仁に連絡をしたのだった。「隼翔は今どの病院にいるんだ?すぐに向かう」悟は理仁に伝えた。すると理仁はすぐに運転手に指示を出した。「本屋ではなく、星城市民病院へ向かってくれ、早く」「若旦那様、前方の信号でしかUターンができません」いくら焦っていたとしても交通ルールはきちんと守る必要があるので、理仁は黙ってそれを受け入れた。十数分後、理仁は病院に到着した。この時、隼翔はまだ手術室で救命措置を受けていた。隼翔の両親と兄、その嫁、それから東家の親族たちが手術室の前で待っていた。みんな緊張した面持ちで、心配そうにしていた。美乃里は泣いて目を腫らしており、自分をかなり責めていた。彼女は祈るように手を合わせて、息子を助けてくださいと神に祈っていた。生きていればそれでいい。彼女はもう二度と隼翔の恋愛には口を挟まないと決めた。たとえ男と結婚すると言ってきたとしても、それも受け入
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第1673話

理仁は一瞬躊躇ってから、やはり妻に何が起きたのか正直に話した。「唯花、ちょっと行けなくなったんだ。ホテルから届いた料理なら君は食べてて、俺は……今病院にいるんだよ。隼翔がちょっと事故ってしまって」それを聞いて唯花は驚きすぐに尋ねた。「どうして事故なんかに?あなた、彼と一緒の時に事故に遭ったの?あなた達またお酒を飲みに行って、まさか飲酒運転でもしたんじゃ?」理仁は急いで説明した。「違うよ、今日は酒を飲んではないさ。昨日飲みに行って車は運転しなかったんだからね。何があったのかは、俺もまだよくわからないんだ。悟から連絡が来てすぐに病院に向かったんだよ。隼翔は今手術中で、両足がかなりひどいらしい。もしかしたら両足がダメになってしまうかもって」その言葉の最後はかなり消沈した様子で、しどろもどろに話してとても辛そうだった。「本屋のほうも落ち着いたから店を閉めて病院に行くわ」理仁は妻が来るのを止めることはなく、注意した。「運転には気をつけてね」「ボディガードに運転してもらうから、あまり心配しないで。東社長みたいに良い人は神様だって守ってくれるから、きっと大丈夫よ」唯花はただそのように夫に慰めの言葉をかけるしかなった。理仁は「うん」と返事した。「きっと大丈夫なはずさ」彼も隼翔はきっと問題がないと信じている。「唯花、何か食べてからおいで」親友のことを心配していても、愛妻に食事をしっかり取ってから来るように伝えた。病院まで来たら、食欲もなくなってしまうはずだ。彼は空腹でも気にはしないが、唯花も同じように空腹でいさせるわけにはいかない。「わかったわ、今病院に何人来ているの?みんなの分、お弁当を持って行こうか」「いや、いいよ。君は自分の分を食べてね。こっちはこっちで買ってきてもらうからさ」唯花はそれを聞いて安心した。電話を終わらせると、彼女は素早く食事を済ませて、すぐに店の前に並べてあるラックを店の中へなおしていった。ボディガードは彼女が店を閉め始めたので、入ってきてそれを手伝った。数分経って、唯花はボディガードの運転する車に乗って星城市民病院まで急いだ。その途中、彼女は暫くの間考えてから、やはり姉の携帯に電話をかけた。「おばたん」電話を取ったのは陽だった。「陽ちゃん、ママは?ママに電話を変わってくれな
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第1674話

「陽も一緒に連れて行くわ」今から陽を見てくれる人を探すくらいなら、いっそ一緒に病院に連れて行ったほうがいい。唯月はすぐ電話を切って、息子を抱きかかえ、歩きながら陽に言った。「陽、今から病院に行かないといけないわ。東おじさんが事故で入院しているみたい。一緒にお見舞いに行きましょうね」「あずまおじたんどうしたの?だいじょうぶなの?」陽は隼翔が事故に遭ったと聞き、あのたくさんの血を思いだしてしまい、顔を真っ青にさせていた。以前、唯月がトラブルに巻き込まれた時、全身が血まみれになっていた。それが陽にとってトラウマとなり、たくさんの血を見ると気を失ってしまうようになっている。「東おじさんは大丈夫よ」その言葉は息子を慰めるために言ったのだが、同時に自分にも言い聞かせていた。陽はぎゅっと唯月の首回りに抱きついた。彼は母親と同じように血をたくさん流すことなく、東おじさんが無事であることを祈っていた。病院の手術室の前には続々と人が集まってきていた。唯花姉妹が病院に到着した時、理仁もボディガードに弁当を買って来てもらって、みんなに食事を取らせているところだった。美乃里は食欲がなく、何も喉を通らないようだった。いくら誰が彼女に食事を勧めても、彼女は食べる気力がなかった。箸を手に取ると、彼女はポタポタと涙を流し続け、それが弁当の容器に落ちていった。そして喉には何かが詰まってしまったかのように、どうしても何かを食べることなどできなくなっていた。そして結局、彼女は弁当を下に置いた。「まだ手術室から出てきてないの?」唯花が理仁の元へやってきて、小声で尋ねた。手術時間が長くなればなるほど、傷がかなりひどかった証拠だ。そして常に命の危険もあるはずだ。理仁は沈んだ様子で、首を横に振った。「きっと大丈夫よ」唯花は夫の手をぎゅっと握りしめた。そして心の中で隼翔の無事を祈った。美乃里は唯月が来たのを見ると、複雑な表情を浮かべ、何かを言おうとしていたが、一つも言葉が出てこなかった。彼女は突然唯月の手を取り、きつく握りしめた。唯月はそれに少し驚き、すぐに彼女に慰めの言葉をかけた。「夫人、東社長は良い方ですから、神様が守ってくれるはずです。きっと大丈夫ですよ」美乃里は涙を瞳に浮かべながら、頷き続けていた。息子が
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第1675話

美乃里はふらつき、二人の嫁が慌てて彼女の体を支えた。「お義母さん」嫁二人は心配して彼女に話しかけた。「隼翔さんは命の危険はなくなったのだから、良かったじゃないですか。ゆっくりリハビリすれば大丈夫ですよ」美乃里は後悔して、自分の胸元を叩きながら、苦しそうに言った。「全部私のせい、私があの子をこんなふうにしてしまったんだわ。どうして事故を起こしたのが私じゃなかったのよ。あの子じゃなく私だったらよかったのに」もし息子に障害が残ってしまったら……美乃里はひどい結果を考える勇気がなかった。「母さん、隼翔はきっと大丈夫だよ。先生だって、リハビリしたら治るって言ってたじゃないか」長男が母親を慰めた。そして健一郎が沈んだ表情で息子と嫁たちに言った。「お母さんを連れて帰って休みなさい。隼翔は私が見ているから」「私はここに残るわ。隼翔が出てきて病室に移ってからも待っているわ」美乃里はそこから離れようとしなかった。息子の手術が終わっても、まだ中から出てきていないので、安心できなかった。息子が事故に遭ったのも、この母親である彼女の行動が行き過ぎていたせいだ。それなのに帰るようなことはできない。美乃里が自分を責める言葉を聞いていた理仁たちは一体今回の事故はどうして起こったのかを聞きたかった。しかし、東家のみんなの辛そうな様子を見て、理仁たちは尋ねるのを我慢していた。隼翔が手術室から出てきて、病室に移ってから、理仁と悟は健一郎にその原因を尋ねた。すると健一郎は、ベッドの前で涙を流している妻を見つめ、ため息をついて、小声で理仁と悟に言った。「外で話そう」そしてくるりと体の向きを変えると、ちょうど息子を抱きかかえた唯月と唯花が一緒に病室に入ってきた。健一郎は少し考え、唯月にお願いするように言った。「内海さん、隼翔が目を覚ますまでここにいてもらえないだろうか?」彼は息子が目を覚ました時に唯月がいれば、きっと喜ぶだろうと思った。唯月は優しく言った。「おじ様、わかりました」健一郎は唯月にお礼を言った。すると唯月は慌てて「おじ様、お礼なんて必要ありませんよ。彼は私の友人ですから」と言った。健一郎は唯月を少しの間見つめてから、もう何も言わずに病室を出て行った。理仁と悟はその後ろに続いた。健一郎が廊下の突き当りで待
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第1676話

「おじさん、一体何があったんですか?おばさんがさっき自分のせいだって責めていましたよね?」理仁が低く沈んだ声で言った。悟も健一郎がその原因を話し始めるまでじっと見つめていた。「はあ、全部私たちのせいなんだ。隼翔が昨日酔って君たちに送ってもらった後、妻があの子に電話をかけたんだが、全然出なかったんだ。それで執事に電話をしてみたら、あの子が酔って帰ってきたことを知ってね。今朝、妻がどうしても行くと言ってきかなくて、私も一緒に息子の家に行ったんだよ。隼翔は昼まで寝ていて、起きたら私たちが来ていることに気づいた。少し話しただけで、あの二人が喧嘩をしてしまってね。隼翔は母親と喧嘩をしたくなくて、家を出て行ったんだ」この時、健一郎はその時のシーンを思い出していた。もし、息子がこのように事故を起こしてしまうとわかっていれば、絶対に妻を引き留めていたというのに。父親である彼自身も、妻と息子があそこまで激しく喧嘩し仲違いしてしまうまで、妻を説得することができずにいた。「妻が隼翔に唯月さんに会いに行くのか尋ねて、引き留めようとしたんだが、あの子は母親を無視して車で出かけてしまった。それで彼女は腹を立てて、自分で車を運転して隼翔の車を追いかけたんだよ。唯月さんのところに行かせないようにするためにね。私も一緒についていった。それに、妻には息子にいつまでも構うなと説得したんだ。あの子ももう三十六歳だから、自分のことは自分でよくわかっているだろう。親である私たちがいつまでも彼に構う必要なんてない。隼翔は昔から自立心が強い子で、家族から束縛されるのは好きじゃなかった。あの子が唯月さんを追いかけることに反対すればするほど、あの子も意地になっていったよ。だけど、妻は全く話を聞こうとしない。隼翔は私たちが追いかけてきているのを見て、スピードを出し、次々と周りの車を追い越していってしまった。そしてスピードの出し過ぎでトラックに追突してしまったんだよ。あの時は信号の手前で赤に変わったから、トラックは減速していたんだ」そこまで話すと、健一郎は自分を責めるように言った。「全部私たちのせいだ。私たちがあの子を追いかけたりしなければ、あそこまでスピードを出すことはなかった。急ブレーキをかけても間に合わず、減速していたトラックにぶつかるようなことにはならなかったんだ」理仁と悟
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第1677話

理仁と悟は隼翔の気持ちに気づいてからは彼のことを応援していた。ただ、唯月は本気で再婚を考えておらず、隼翔にも恋愛感情を抱いていない。それに美乃里が激しく拒否していることから、理仁は隼翔に諦めるよう説得しようと考えるようになったのだ。唯月が隼翔の告白を受け入れたとしても、その後美乃里という姑の存在がある限り、幸せになるのは難しいからだ。理仁にとって、隼翔は親友であり、唯月は義姉だ。だから彼もどうすればいいのかかなり悩んでいた。隼翔に諦めるよう説得しても友人としてどうかとも思うし、唯月のほうに隼翔を受け入れてほしいと言っても、彼女を不幸に陥れるようにも思ってしまう。理仁は自分が以前唯花と喧嘩した時よりも、義姉と隼翔のことのほうが厄介だと感じていた。隼翔が唯月に対する気持ちに気づいたのは、彼女が大怪我をした時だった。今、唯月はすでに回復し、あれから二、三か月経っている。隼翔が唯月を追いかけるようになってから今までの時間はそれよりも短い。そして、彼がまだ唯月の心を動かす前に、母親と喧嘩して今回の事故が起こってしまった。そして彼と唯月の今後に関して、理仁と悟はあまり楽観視していない。しかも以前よりも難しくなってしまったとさえ思っていた。隼翔がこのような怪我を負ったら、彼の性格からして高い確率で唯月から離れていくだろう。二人はきっと縁が繋がることはなく、スッキリしない終わり方をすることになるはずだ。「私たちも、内海さんが隼翔を好きではなく、ただの友達としてしか見ていないことは知っていたんだ。それに理仁君のこともあったんだろう。それで、妻は隼翔をどうにかして諦めさせようとしたんだ。すべては隼翔の問題だからな」だから、唯月に会いに行って何を言っても意味はないのだ。唯月のほうは隼翔のことを好きではない。隼翔が彼女を追いかけているのだから。健一郎はまたため息をついた。息子はとても優秀な男なのに、顔にある傷のせいでみんなが驚いてしまう。多くの女性がそのせいで彼からは距離を置いている。その傷がどうもヤクザの一味のように見せてしまうからだ。稀に彼に近づこうとする女性がいるが、それはただ彼の身分や地位、それに財力に惹かれているだけだった。琴音はきっと心から彼を気に入っていたのだろう。樋口家と東家なら家柄が釣り合う。琴音も隼翔の顔の傷な
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第1678話

唯月は陽を下におろした。陽はベッドの前まで行き、隼翔に言った。「あずまおじたん、だいじょうぶだよ、良くなるからね。ママとおんなじで良くなるんだ」隼翔は弱った様子で何も言わずに笑っていた。医者と看護師が病室に来て隼翔の状態を確認し、患者は休息が必要なのであまり多くの人が病室にいないほうがいいとだけ伝え、患者がもう目を覚ましたから、みんな帰って休むように勧めた。大勢が病室に押しかけてくると、患者が十分休むことができなくなる。そして最終的に、隼翔の両親がどうしても病室に残ると言い、他は隼翔に少し声をかけて次々と帰っていった。やがて夜がだんだん更けていった。隼翔の交通事故の件で、みんなかなり落ち込んだ様子だった。唯月は妹から何度も説得されて、息子を連れて妹夫妻と一緒に瑞雲山の邸宅へ帰った。帰る途中、唯花は黙って姉の手を握りしめていた。姉妹はどちらも何も語ろうとしなかったが、お互いに気持ちを理解していた。その翌日、東グループの社長が事故に遭ったというニュースが星城全体に伝わった。ゴシップの性質なのか、隼翔が唯月のことを好きだという情報が芸能記者たちに知れ渡っていたせいなのか、今回の事故が起こった時に隼翔の両親がいたことで、どうして今回のようなことが発生したのか、ニュースではその原因の憶測まで混ざっていた。隼翔と両親が喧嘩し、そのせいで彼がスピードを出し過ぎて事故を起こしてしまった。そして、隼翔と両親が喧嘩をしたその原因はただ一つ、結城家の若奥様の姉を東社長が追いかけるのを東家が反対したせいだという内容だった。その隼翔の事故のニュースは、当時理仁が既婚であるというニュースほど、そこまで爆発的に報道されなかったが、星城ではトップニュースに上がっていた。それでもちろん唯月のこともニュースでは多少触れられていた。唯月はニュースは見ていなかった。彼女は朝早く起き、何かしようと思ったが妹の家にいるので、何もやることが見つからなかった。使用人がいるから、特別やらないといけないことはない。だから、彼女はただ庭を何度も歩き回り、空が明るくなってきてから、七瀬が息子を稽古に連れて行くのを見送り、執事にひとこと伝えて瑞雲山の邸宅を出ていった。妹夫婦はこの時まだ起きていなかった。唯月は星城市民病院に行った。隼翔の病室の前まで来る
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第1679話

美乃里は昨日と同じくベッドの前で息子を見守っていて、唯月が来たのを知ると立ち上がり、小声で話しかけた。「内海さん、来てくれたのね」「おば様、社長のお見舞いに来ました」唯月のほうも隼翔を起こさないように、小さな声で話した。美乃里は唯月から花束を受け取り、それを息子の横に置いておいた。隼翔が目を覚まして唯月からもらった花束を見れば、きっと気分が良くなって前向きに両足のリハビリを考えてくれるだろうと考えたのだ。美乃里がその花束を息子の横に置いた時、ちょうど隼翔が目を覚ました。彼は目を開けた瞬間、ベッドの前にいる唯月が視界に入り、何も言わず次の瞬間に冷たい態度に変わった。そして口を開いて出てきた言葉もかなり冷酷なものだった。「母さん、彼女を追い出してくれないか。もう彼女の顔も見たくないんだ!」それを聞いた三人は驚いていた。美乃里は息子を見て、また唯月を見た。息子はまだ起きたばかりでここにいるのが唯月であることがよくわかっていないのではないかと疑った。美乃里は恐る恐る優しい声で息子に注意した。「隼翔、ここにいるのは内海さんよ。唯月さんなの、彼女がお見舞いに来てくれたのよ」隼翔は唯月から顔を背け、相変わらず冷ややかな声で言った。「彼女が誰なのかわかっている。内海さんだろ、だから俺は彼女に会いたくないんだ。彼女のせいじゃなければ、俺は事故に遭うことはなかったんだ。だからもう顔も見たくない」「隼翔!」美乃里は低く息子の名前を叫ぶと、自分を責める言葉を出した。「私のせいだわ。全部この母親である私のせいなの。唯月さんとは関係ないことよ。それなのに、どうしてそんなふうに彼女のせいみたいに言うのよ」「彼女のことがなければ、母さんだって俺を止めようとしなかっただろ。だから事故に遭ったのは全部彼女のせいだ!」隼翔はかなり興奮した様子で、大きな声で叫んだ。「母さん、彼女に帰ってもらってくれ。今後、見舞いに来させるな、俺は会いたくないんだ!早く帰ってもらってくれよ。そうじゃないなら、俺がここから出て行く」彼はもがいて起き上がろうとしたが、どうしても動くことができなかった。少しでも動けば傷口が開いてしまう。「隼翔、そんなことしないで、お願いだから」美乃里は泣きながら息子が起き上がらないように体を押さえていた。健一郎も一緒に息子の体を
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第1680話

今はまだ美乃里は唯月に隼翔の世話をしてもらいたいと口に出してはいない。彼が退院してリハビリしても回復しないとわかった時には、母親は必ず唯月に頼みに行くはずだ。だから隼翔はそうなる前に阻止しようとさっきのような態度を取ったのである。病室の扉を閉めた後、美乃里は唯月の手を離し、彼女に背を向けて顔を覆い、壁に向かって泣き始めてしまった。唯月は黙って、美乃里に近寄り、ポンと彼女の肩を軽く叩いて慰めの言葉をかけた。「おば様、社長はきっと良くなります。だからあまり心配なさらないでください」彼女はティッシュを取り出して、美乃里に差し出した。美乃里はそれを受け取り、唯月のほうへふりかえって、涙を拭きながら謝り始めた。「唯月さん、これはあなたとは関係ないことよ。おばさんのせいなの。隼翔があなたのところに行くのを私が邪魔したものだから、あの子が事故を起こしてしまった。だから全部私のせいなのよ。隼翔は昨夜、自分の怪我の具合を知ってから、かなり落ち込んでいたのよ。きっとかなりのショックで現実を受け入れられないんだわ、それであなたに対してさっきみたいな態度を取ったのよ。だから、唯月さん、さっきのことは気にしないでちょうだい」「おば様、彼のことをどうこう思ったりしませんから安心してください」隼翔は自信に溢れた優秀な人間だ。そんな人がこのような怪我を負ってしまい、かなりのショックを受けて、心の状態が大きく変わってしまうのはどうしようもないことなのだ。「唯月さん、ごめんなさい」美乃里はまた唯月に謝罪の言葉を述べた。「全部私が悪かったわ、私のせいよ。もし、私があんなことをしなければ、隼翔は事故を起こすことなんてなかった。全部私が間違っていたわ。唯月さん、だからあの子のことを責めないでちょうだい」それを聞いて唯月は頷いた。隼翔はさっき確かにひどい言葉を吐き出したので、それを聞いて彼女もショックを受けていたのだが、それでも彼を責めるつもりはなかった。「社長は今私に会いたくないとおっしゃていました。今後はお見舞いに来たら外から様子を伺うだけにして直接彼に会って感情を刺激するようなことはしません。おば様、私はこれで失礼しますね」隼翔は今唯月に会いたくないと言うので、ここに残っていてもどうしようもない。もし、隼翔が唯月がまだ帰っていないのを知ったら、また
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