All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1651 - Chapter 1660

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第1651話

「僕も会社のことがあるから、どのみち帰らないといけないので」姫華の話を聞いて善は安心できたが、それでもやはり午後星城に帰ることに決めた。会社のことというのは理由の一つであり、最も重要なのは星城に戻って姫華の周りの守りを固めるためである。「じゃ、何時頃到着する?空港まで迎えに行こうか?」善は普段A市に戻る時にはほとんどの場合、プライベートジェットを使っている。ただ、それは今ちょうど兄弟が使用しているので、彼は飛行機に乗って帰るしかない。姫華が空港まで迎えに来ると聞いて、彼はすぐにプライベートジェットで帰る考えを捨ててしまった。そして「チケットを取ったら写メをそっちに送りますね」と姫華に伝えた。「わかったわ、夜一緒にご飯食べよ」善は喜びにあふれ「もちろんです」と返事した。「じゃ、電話切るわね」善は名残惜しそうに言った。「はい、体には気をつけてくださいね。あまり無理をしないように。何か手伝えることがあれば、いつでも何でも言ってください」「わかったわ、今のところ事業は順調に進んでるのよ」唯花から販売先は星城だけに限らず、他にも販路拡大をしなければならないと聞いた。それで二人は相談し合い、隣の市まで市場調査に行ってみる計画を立てた。他所の町で商売になる話がないか探ってみようというのだ。善は笑って言った。「あなた達にはビジネスの才能があるみたいですね。では、お仕事頑張ってください。夜またお会いしましょう」通話を終えると、善は携帯をズボンのポケットになおし、ニヤニヤと笑って振り返り入院病棟に戻ろうとしたところ、両親が中から出てきたのに気づき、二人のもとへ歩いていった。「父さん、母さん、これから帰るの?」「私たちは先に帰るわ。あなたはまだここでお兄さんたちに付き添っていてもいいよ。遥さんのお世話は必要ないからね。お兄さんが全部やっているから」善の母親である伊集院愛美(いじゅういん あいみ)はずっとニコニコと嬉しそうにしていた。長男夫婦は運良く双子で、しかもそれぞれ男の子と女の子を授かった。遥が双子を妊娠していると知った時から、遥の義理の母親である愛美は嬉しくていつもニコニコしていた。やっと孫娘ができた。毎日夫婦は病院まで長男の嫁と双子を見に来ていた。篠崎家の当主夫妻と雨宮家も毎日病院に何度も様子を見
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第1652話

善が好きな女性ができて追いかけていることを知った愛美は、結婚を催促することはなくなった。しかし、善はあまり両親に恋愛のことを話さず、普通兄である蒼真に話している。そして愛美は長男からこの情報を手に入れたのだった。愛美は姫華の写真を見たことがあり、長男の嫁から姫華がどのような人なのかを聞いて、神崎家の令嬢にはとても満足していた。しかし、善がまだ姫華から告白を受け入れてもらっていないので、愛美も姫華の前に姿を現して驚かせるわけにもいかなかった。この時、善はその端正な顔を少し恥ずかしそうに赤らめて、正直に話した。「帰ってからここ数日の間、家にはいたけど、心はずっと星城のほうにあったんだよ」常に姫華のことを考えてしまう。一日しか会っていなくても、気が遠くなるくらい時間が経ったように感じてしまう。愛美は大きく笑って、まるで男たちのように力強く息子の肩をバシバシと叩いた。「善、頑張るのよ!お母さんはあなたを応援しているからね。もし、何かお母さんの助けが必要であれば、なんでも話すのよ。電話一本ですぐに飛行機に乗って、姫華ちゃんをゲットする手助けをするわ」「母さん、息子がそんなに頼りなく見える?好きな人を追いかけるのはやっぱり自分で努力してこそ誠意を見せられるものでしょ」「確かに、その通りね。自分でどうにかしなくっちゃ。恋愛に関しては誰も手伝ってあげられないものね。経験がないなら、遥さんにちょっと聞いてみなさいよ。彼女は前小説を書いていたから。その中の男主人公は奥さんをおだてるのがとっても上手なキャラなの、彼女のためにいろんな手を使っていたわ、絶対あなたの役に立つはずよ」善は笑って言った。「兄さんのほうにいろいろ聞けって言われると思ってたよ」「蒼真の恋愛物語はあなた達にはコピーできないわよ。あの子ったら腹黒くてたまらないもの。遥さんが十三歳の時に、すでに彼女に狙いを定めていたのよ。そして裏では何人もの恋敵を潰してやっと彼女のほうから蒼真の恋の罠にはまっていったの。だから、あの子には好きな人を追いかけるための良い方法はないから。それなら、久保さんのほうを参考にしたほうがいいわ」久保洸は優奈を追いかけていた。蒼真と遥は直接結婚手続きをしたから、蒼真が遥を追いかける過程は省かれているので、それなら洸がどうやって好きな女性を手に入れたのか聞い
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第1653話

「あなた、この家はちょっと寂しくない?二、三人ここに住まわせて、もう少し生活感を出したほうがいいんじゃないの」と詩乃は歩きながら娘の家が寂しいことに愚痴をこぼしていた。神崎家の執事が二日おきにここを掃除させているのだが、ここで暮らしている人はいない。姫華のほうは誰にも構われず自由自在に過ごせるので、ここで一人でいるのが好きだった。「私は今のままで、とっても良いと思うけどね」姫華は現状に満足しているようだった。詩乃は娘をちらりと見て、この話題にこだわり続けることはなかった。「お母さんは夜、慈善団体主催のパーティーに出席するのよ。あなたも付き合ってちょうだい」「お母さん、私はそういうパーティーが好きじゃないって知ってるでしょ。それなら唯花に言ってよ。それか唯月さんだっていいじゃない」詩乃は我慢できず姫華の頭を小突いた。「あなたは今自分たちでビジネスをやっているでしょ。そういう人は人との繋がりが重要なのよ。あなたが人付き合いに慣れなくてどうやって商談を成功させるつもり?星城では問題ないかもしれないけど、それは相手が玲凰の顔を立てて神崎家の立場を考えてくれているからなのよ。あなた達の農場で採れた野菜はなかなか良いみたいだから、文句言われることもないでしょうけど、星城から離れて他の所で試してみたら、神崎姫華ってどこの誰よ?って言われてしまうわよ。お母さんがあなたをパーティーに連れて行こうとするのは土台を作ってあげるためよ。唯花ちゃんだってああいう場所は好きじゃないみたいだけど、責任感と向上心があるから学ぼうって前向きに上流社会に溶け込もうとしているわ。あの子は以前と比べてかなり自信がついているわ。それに結城さんだって慈善パーティーに参加するから唯花ちゃんも付き添ってくるわよ。どうしてあなたはお母さんに付き合ってくれないわけ?娘なのに」詩乃は時々、娘にはどうしようもないほど困ってしまう。しかしそれは姫華が家族から一身に甘やかされ可愛がられてきた結果でもある。「唯月さんはどうなの。彼女と一緒に行ってもいいじゃない」「唯月さんがどんな性格か知ってる?唯花ちゃんですら彼女を連れ出すことができないのよ。それなのに伯母である私ではどうしようもないじゃない。唯月さんは夜は陽ちゃんのお世話もしないといけないしね」姫華は唇をきゅっと結
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第1654話

「唯花、私は妊娠したばかりでしょ。まだ八、九か月経たないと出産できないのよ。その間ずっと悟からまるで豚のように飼われるかと思うと、本当に頭が痛いわ」唯花は笑って言った。「あなたったら、本当に贅沢な悩みね」明凛はそれにこう返した。「いつか同じセリフをそっくりそのままあなたにお返ししてあげるわよ」唯花は陽の手を繋ぎ戻ってくると、陽が明凛に挨拶をし、自分で椅子の上に座った。明凛は陽の小さな顔をよしよしと撫でた。「妊娠中で家に閉じ込められて鬱憤が溜まるけど、陽ちゃんみたいに可愛い子供が生まれると思ったら、それも耐えられるってものね」「あかりおばたん、おなかに男の子がいるの?」陽は無邪気にそう尋ねた。それを聞いて、明凛と唯花は交互に目を合わせた後、明凛が陽に言った。「陽ちゃん、私のお腹には女の子はいないかしら?」明凛は娘が欲しいと思っていた。陽は大きな瞳をキラキラさせて言った。「ぼく、わかんない」陽はさっき適当にそう口にしただけだった。「妊娠したばかりで、男の子なのか女の子なのかわかんないしね」唯花は明凛が女の子を欲していることは知っていて、笑って言った。「娘かもしれないわよ。それか遥さんみたいに男の子と女の子の双子かもしれない」「桐生家の遥さんね、私も羨ましいわ。私だって同時に息子と娘が欲しいよ。だけど、病院で検査した時は双子じゃないってわかったわ」唯花は言った。「じゃ、一人ずつ生むしかないわね。優奈さんも、もう出産したらしいわ。遥さんよりちょっと後にね。本当は彼女の子供のほうが遥さんの子供よりも年上になるはずだったんだけど、遥さんは双子を妊娠したから予定より早かったの。優奈さんの息子さんは遥さんの子供よりも年下になっちゃったわけ」「優奈さんにも男の子が生まれたの?」明凛は遥が出産したことだけ知っていた。唯花は「うん」とひとこと返事をした。酒見医師ももうすぐ出産だ。辰巳は酒見医師がA市に戻って、弘毅の妻として、音濱岳で暮らし始めたことを知ると、すぐに理仁に頼んで会社を数日休み、A市まで酒見医師に咲の目の治療依頼へ赴いた。今、酒見医師のお腹は大きく、もうすぐ出産を控えているから、桐生家もそんな彼女を遠く星城まで寄越して咲の診察をさせるわけないじゃないかと、どうして辰巳に忠告しなかったのか理仁に話した。
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第1655話

「これから帰ってパーティーの準備?」明凛は文句を全て吐き出した後、唯花にそう尋ねた。唯花は答えた。「先に陽ちゃんを送ってから帰るの。陽ちゃん、今日はお稽古が終わってから私に会いたくなったらしくて、七瀬さんが送ってきたのよ」唯花は夜の慈善パーティーに出席するので、陽がいるのは都合が悪い。「だったら早く行きなよ、ここは私に任せておいて。暫くの間ここで店番してないから、あのガキどもも私のことが恋しくなってることでしょ」あのガキどもとは、星城高校の高校生たちのことである。「あなたが店番するなら、九条さんにひとこと言ったほうがいいんじゃない?」明凛は言った。「いいの、彼はわかってるから。それに、外に一列に並んでるあのボディーガード軍団を見てみなさいよ。私が伝えなかったとして、あの人たちが黙ってると思う?悟も邪魔なんてしてこないよ、ただレジするだけなんだもの」唯花は笑った。「わかった、店番よろしくね。じゃあ、陽ちゃんを送ってくるわ」「じゃあね」唯花は甥の手を引いて本屋を出た。明凛は唯花が帰ってから、すぐにキッチンに入って、冷蔵庫の中からアイスクリームを食べようと探したが、見つからなかった。彼女はがっかりしてぶつくさと呟いた。「こんなに暑いのに、唯花ったらどうして冷蔵庫いっぱいにアイス買い置きしてないのよ」九条家にいて、彼女がアイスクリームを食べたいと思ってもそれは不可能だ。アイスは冷たいから、家族みんなが食べさせないようにしてくる。それに実の母親でさえも、たくさんアイスクリームを食べたり、冷たいものは避けるように注意してきた。アイスクリームは食べないのが一番だと言うのだ。母親は明凛のことを一番理解している。毎年夏になり、暑い時には、彼女は毎日何個もアイスクリームを食べている。冷蔵庫の中を全てひっくり返してみたが、果物と野菜以外、ジュースすらも入っていなかった。明凛は失望した様子で冷蔵庫を閉めた。店まで来れば美味しいものにありつけると期待していたのに、結果何も見つからなかった。彼女はキッチンから出て、レジの後ろに座ろうと思ったが、少し考えてからレジ台から出て外に向かって歩き出した。ボディーガードたちは明凛が出てくると一斉に視線を彼女のほうへ向けた。「みんなこんなところに立ってないで、暑いし太陽もすっごい照
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第1656話

ボディガードたちは、明凛は偉そうにせず近づきやすい性格だとわかっている。彼らにアイスクリームをご馳走するというのは心からの言葉で、悟が知ったとしても別に何も言わない。友永は明凛に言われた通りにそのコンビニへアイスクリームを買いに行った。明凛は友永が買いに行った後、店に戻って待っていた。そしてもうすぐアイスクリームにありつけると思いながら、ウキウキと心弾ませていた。そしてすぐに友永が戻ってきた。しかし彼は手には何も持っていなかった。おつりを明凛に返しに来ただけだ。「アイスは?」明凛はどういうことか理解できずにそう尋ねた。まさかあのコンビニにはアイスクリームを売っていないのか?いや、そんなはずはない。冬でもあの店では売っている。「買ってきましたよ。外にいるみんなで分けました。私はお釣りを渡しに来たのです。若奥様、アイスをご馳走になりました、ありがとうございました」友永はそのお金を明凛に返し、みんなに代わって礼をした。暑い日にはアイスクリームが一番だ。明凛はお釣りを受け取りながら、彼に尋ねた。「みんなの分買ったんでしょ?」「ええ、もちろんです」若奥様からの奢りだから、彼はもちろん同僚全員の分を買ってきた。もし、彼女から言われなくても、みんなの分を買うのは当然のことだ。この時、明凛はみんなの分なのに、どうして自分の分はないのかと訴えたかった。「ご馳走になりまして、ありがとうございました」友永は再び明凛に礼を述べた。明凛はかなりがっかりしていたが、それを顔には出さず笑みを作った。「みんな涼しいところを見つけて座ってちょうだい。暑くて熱中症になったらいけないからね。私も別にあちこち歩き回らないからそこまで厳重に警戒してなくて大丈夫よ」友永は「はい」とひとこと返事をした。店を出ると、彼はやはり店の入り口付近を死守していた。そして明凛はどうしようもなくため息をついた。それからぶつくさと独り言を言った。「どうして誰も私の分に気づいてくれなかったのよ。みんなの分って言ったじゃない、私は人じゃないっていうわけ?」彼女はそれから自分のまだ平らなお腹をさすった。まだ妊娠初期だから、全く彼女が妊婦だとはわからない。「それにあなたが男の子か女の子かもわからないのに、妊娠したとたんにアイスさえ食べられな
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第1657話

陽はすぐに今度は大きな声で咲に呼びかけた。するとようやく咲はハッと二人の存在に気づいた。彼女は急なことに慌てた様子で、陽の頭を撫でてから、優しく微笑みかけた。「陽ちゃん、いらっしゃい。ママと一緒に来たの?」唯月もたまにブルームインスプリングに鉢植えの植物を買いに来ていた。恐らく唯月にはあまり植物の世話をする余裕がないからだろう、いつも枯らしてしまう。するとまたここまで買いに来て、咲に育て方のコツを聞いて帰っていた。「ぼくはゆいかおばたんと一緒に来たよ。ぼくたちが入ってきたとき、気づかなかったね。さっきも呼んだんだけど、気づいてくれなかったんだ」咲は申し訳なさそうに言った。「陽ちゃん、ごめんね、おばちゃんさっきは考え事をしていて、周りの音に気づかなかったの。だから、あなた達の足音にも気づかなかったわ」そして彼女は唯花のほうへ顔を向けた。「唯花さん、いらっしゃい。今日はまたどうしてここに?」「夜、夫に付き添って慈善パーティーに出席するんです。午後店を閉めて家でその準備をしようと思って。陽ちゃんは午前中私のところに来ていたから、姉の家まで送る途中でこの店に立ち寄ったんですよ」唯花は自分で椅子を二つ引っ張って来て、甥を座らせた。そして彼女も腰掛けると、心配して咲に尋ねた。「おうちの事、まだ解決してないんですか?」咲が従兄弟たちをクビにし、彼らがこの店に騒ぎに来た時、ちょうど辰巳もここにいたので、彼らは自分たちの思ったような行動ができなかった。しかも、咲に四十万以上も弁償代を支払わされ、その後、店を壊しに来るような真似はしてこなかったが、引き下がったわけではなかった。咲の二人のおばが出てきて、ひっきりなしに咲に纏わりつき、あれやこれやとあらゆる手段を使って、尾崎家と黒川家の咲の従兄弟たちをどうにかして会社に戻させようとしてきた。「あの人達には手も足も出ないですよ」咲ははっきりと断定してそう言った。咲が許さない限り、彼らがまた柴尾グループに戻って働くことなど不可能だ。「ただ、弟の流星のことが心配なんです」明日は大学入試の模試がある。唯花は咲が弟の心配をしていると聞いて、柴尾家で起こったことは咲が完全にその情報を弟に知られないように封殺してしまっているから、きっと大丈夫だろうと思った。そして唯花は言った。
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第1658話

唯花は三人分のお茶を入れて、一杯を甥に渡し、二杯を手に持ってやって来た。そして咲の前に座ると、一杯を彼女の手に渡してあげた。二人は温かいお茶を半分ほど飲んだ。「咲さん、さあ、何を聞きたいんですか?」「結城辰巳さんをここ二日お見かけてしてませんけど、彼、出張にでも行ったんでしょうか?」咲が辰巳のことを尋ねてきたことに唯花は少し驚いた。辰巳はA市まで酒見医師に咲の目の治療を依頼するため行っているのだが、それを咲には伝えていない。がっかりさせないように酒見から承諾を得られてから伝える気でいた。咲に優しくする唯一のおばである裕子も、名医の弟子に咲の目の治療をしてもらおうと探しているが、辰巳ほど人脈はないので、すぐにA市に酒見が戻ってきたと知ることはできない。名医の下で学んでいた酒見医師だけが、咲の最後の希望だ。咲は口には出さないが、辰巳は彼女が大きな期待をしていることをわかっている。もし、彼が失敗してしまえば、咲はかなり失望することだろう。辰巳も何も言わないし、数日会いに来ないので、咲は彼がどこに行っているのか考え続けていた。さっき咲は辰巳の行方を考えていたので、ぼうっとしてしまい、唯花の足音に気づけなかったというわけだ。唯花に尋ねた後、咲は自嘲して言った。「普段、べったりとくっついて来られるとすごく煩わしく感じて、無視してしまいたいのに、二日会わないだけで、どこに行ったのか尋ねるくらい気になるなんて」咲は辰巳のことを嫌っているわけではない。ただ自分が目の見えない女だから彼には相応しくないと思っているだけだ。辰巳に迷惑をかけたくないので、彼から熱烈にアピールされても、それをいつも拒否している。「辰巳君は、咲さんに教えてないんですか?」唯花が尋ねた。それに対して咲は頭を横に振った。「何も言ってません。急にここ二日は来なくなって、電話もかけてこないし、出張に行ってるんでしょうか?」「そうですね、星城にはいないんです。なんだか、用があるらしくて、数日したら戻ってくるそうです」辰巳が咲に伝えていないから、唯花も咲には本当のことを言わずに隠しておくことにした。そのことは辰巳本人の口から伝えたほうがいいだろう。そのほうが咲が喜ぶはずだ。「あ、そうなんですね」出張に行っているから、それで二日も姿を現さなかった
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第1659話

唯花はこの時、どう返事をすればいいかわからず黙っていた。唯花が当初理仁には相応しくないと思ったのは、家柄の問題があるからだと咲は言った。それとは違い、咲は体が不自由なことが問題であって、状況が違うというのだ。少し沈黙した後、唯花は咲に慰めの言葉をかけた。「咲さん、あなたの目はきっと良くなります。辰巳君が最高のお医者さんを見つけ出して、治療をしてくれますから」そんな辰巳は今A市に行っているが、収穫はどうだったのかはまだわからない。すると咲はすぐに心の憂いを振り払い、いつもの微笑みを作って唯花に言った。「唯花さん、今はこの話はもうやめましょう。結城さんは長めに出張に行っているなら、そのほうがいいです。少しの間互いに離れて冷静に考えられますから。もしかしたら、彼も諦めてくれるかもしれないし」咲は辰巳のことが好きじゃないと言えばそれは嘘になってしまう。しかし、彼の告白を受け入れるのは、どうしても心に何か引っかかってスッキリできないのだった。やはり自分は目が見えないから、あのハイスぺ御曹司には相応しくないと感じてしまう。彼はもっと優秀で素敵な女性を奥さんにするべきだから。唯花は言った。「辰巳君が本気で好きだと言っていないのだったら、諦める可能性はあるでしょうけど、そうじゃないから」「おばたん、いつかえるの?」この時、陽が突然話を遮るように入ってきた。子供はおもちゃも、遊べる場所もなければすぐに飽きてしまう。それは陽も同じだ。ここにある花はもう観賞してしまった。それで少しだけ座ってからもう帰りたくなってしまったのだ。咲は笑って言った。「陽ちゃん、おばちゃんのお店は楽しくないかな?」「うん」陽は正直に返した。唯花も笑って言った。「おもちゃを持って来なかったから、もう耐えられないみたい。咲さん、それじゃ、この子を連れて帰りますね」「ええ」咲は立ち上がり、二人を店の外まで見送ろうとした。「咲さん、お見送りはいいですから、店に入ってくださいね。それじゃあ」「おばたん、またね」陽は咲にさようならの挨拶をして、自分で車の後部座席に乗って座ると、また自分でシートベルトをつけた。咲は笑顔で手を振っていた。唯花は陽を姉のところに送り届けて、少しおしゃべりしてから離れた。そして唯花が帰ってか
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第1660話

隼翔は陽を抱きかかえたまま部屋に入ると、玄関のドアを閉めて笑って陽の質問に答えた。「東おじさんは社長だから、仕事がしたくないならしなくていいのさ。誰もおじさんに指図できないんだよ。それに休んで給料が減らされる心配もしなくていいしね」陽はひとこと「そっか」と返した後すぐにまた話し始めた。「だけど、りひとおじたんだってしゃちょうだよ。どうして毎日お仕事に行くの?」隼翔は言った。「……彼の会社はおじさんのよりもちょっと大きいから、彼がやらないといけないことが多くて、それで毎日行かないといけないんだよ」陽はその言葉を信じた。そして隼翔は陽を下におろした。子供にはたくさんの「どうして」があって、すぐにそれに対処しなければ質問攻めを喰らってしまう。「内海さん、お邪魔するよ」隼翔は花束を抱きかかえたまま唯月の前までやって来て、熱のこもった瞳で見つめて花束を差し出した。「東社長、私は花束はあまり好きじゃないので、次からは買って来ないでもらえますか?」唯月はどうしようもなくてそう言った。彼女は何度も断わっているのに、隼翔は相変わらず毎回買ってくるのだった。隼翔は彼女が受け取ってくれなかったので、自分で花瓶を探してその中に挿して言った。「手ぶらで来るのはなんだかよくないと思って、花束を買ったんだよ。そんなに値段はしない、すごく安いものだから、負担に感じなくていいよ」「あずまおじたん、どうしてママにお花をあげるのに、ぼくにはくれないの?ぼくはお花大好きだよ」陽が隣でそう主張した。「陽」唯月が息子を呼んだ。それを聞いた隼翔は笑って言った。「これはおじさんの失態だったな。次は必ず陽君に花束を持って来るからね」陽は視線を隼翔と母親の間を行ったり来たりさせて、なんだかわかったようなわからないよな顔をしていた。父親が言うには、東おじさんは母親を横取りしたいと思っているらしい。もし、それが本当になったら、今後自分を可愛がって大切にしてくれる人がいなくなってしまう。陽は父親が言った言葉を信じなかった。東おじさんはとっても優しくしてくれるのに、どうして母親を奪うようなことをするだろうか?彼はただこの小さな家庭の仲間入りをしたいと言っただけで、自分を愛してくれている母親を奪うなどとは言ってはいないのだから。父親はま
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