All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1691 - Chapter 1700

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第1691話

咲は少し考えてから言った。「うちの店員に電話していつ帰ってくるか聞いてみます。誰かが店番をしてくれたら私も店を離れられますから」東家と親交を持ちたいと思えば、やはり自分でお見舞いに行ったほうが誠意を見せられる。彼女は店の固定電話から店員に電話をかけた。するとすぐに電話が繋がった。「店長、もう店の前にいますよ」店員は笑って言うと、すぐに電話を切って、バイクを止めて店に入ってきた。唯月親子がいるのを見て、微笑んで挨拶をし、陽を抱き上げた。陽は誰に会っても好かれると自分でも感じた。咲は店員に店のことを頼んでから、買って来た物を持って、唯月親子と一緒に病院まで隼翔のお見舞いに行った。病院に到着すると、隼翔は相変わらず唯月に会うのは拒否した。隼翔が唯月に会いたくないという言葉を聞いて、咲はとても驚いた。唯月に会わないだけでなく、彼が最も好きだと言っていた陽にも隼翔は会いたがらなかった。東家のボディガードは隼翔の言うことを忠実に聞いて、唯月親子を病室には入れなかった。すると陽は理解できず、病室の前で「あずまおじたん」と大きな声で呼んでみた。しかし、彼が何度も呼んでもおじさんは中に入れてくれない。咲だけ美乃里に連れられて病室に入っていった。咲は隼翔とは関わったことがないので、少しだけ会ってから病室でお見舞いの言葉だけ言い、買って来た物を渡して出てきた。美乃里はベッドの上にいる息子を見つめ、辛そうにしながら話しかけた。「隼翔、唯月さんに会いたくなくても、陽ちゃんはどうなの?あなた、彼のことを一番気に入っていたでしょ?陽ちゃんは子供だから、何もわからないのよ。あなたがそんな様子じゃ、彼はきっとあなたに嫌われたって誤解するわ」隼翔は目を閉じて何も言わなかった。結城おばあさんからしっかりしろと言われてから、隼翔はやはり心が揺らいでいた。これから、どうすればいいのか彼にもわからない。息子が黙って話そうとしないので、美乃里は悲しくなって目を真っ赤にさせた。これは彼女のせいなのだ。全て彼女が間違っていたのだ。美乃里はこっそりと医者に、隼翔の足はリハビリをして元通りの状態まで回復できるのか、それにはどれくらい時間がかかるのか尋ねていた。医者は希望があると言った。やはり患者自身がどれだけ治療に前向きか、リハビリ
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第1692話

依茉は笑いながら夫の弘毅の顔をつねった。彼女は今お腹が大きいので、二人の結婚式は先送りにしてまずは結婚手続きをした。遥と優奈の二人もすでに出産し、依茉のお腹にいる子供ももうすぐこの世に誕生する。遥のほうは双子だったため、予定日よりも早く生まれただけで、そうでなければ依茉の子供とは同じ時期に生まれてくるはずだった。今は遥は出産してしまい、依茉のほうはまるでスイカがお腹に詰まっているかのように、毎日大きなお腹で耐えなければならない。お腹の中にいる子供はとてもやんちゃなようで、常に動き胎動を感じられた。たまにその小さな足か手で彼女のお腹の中から叩いてくるので、お腹がポコっと浮き出ることもあった。弘毅はそんなお腹の中の子供をからかうのが好きだった。毎晩お腹の子供がよく動くと、父親である彼は依茉のお腹を隔てて子供と遊んでいた。依茉はお腹の中にいる子供が男の子であることをすでに知っていた。エコー検査をした時に、医者に直接尋ねていて知っているのだ。弘毅は妻からいつも顔をつねられるのが嫌で、不機嫌そうに顔を暗くさせていた。しかし、彼も自由にする彼女のその手を叩き落とすことなどしなかった。当初依茉が彼を助けた時、弘毅がハンサムで気に入り、子供が生まれたら彼のその優良な遺伝子を継ぐことができるだろうと考えていた。弘毅は依茉に付き添って、音濱岳を散歩した。以前依茉は休むことなく病人を診るためにあちこち飛び回っていた。そして音濱岳邸の弘毅の妻となった後、家族からはまるで国宝級の扱いを受けるようになっている。彼女はそれがとても暇で暇で仕方がなかったが、今は大きなお腹だからどこかへ走り回ることなどできない。ただ弘毅を捕まえて一緒にここで散歩するくらいしかできないのだった。幸い、音濱岳は非常に広く、景色も美しい。彼女が毎日この周辺を散歩していてもずっとこの風景の美しさに魅了されている。そこへ執事がやって来た。「弘毅様、奥様、結城辰巳様がお見えです」辰巳はここ数日ずっと音濱岳に来ていた。それも一日に何度も顔を出してくる。それを聞いて弘毅は不愉快そうにして言った。「彼にはきちんと伝えたはずだろう?もう何回も説明したじゃないか。依茉は今病人の診察はできないから他を当たってもらうか、出産を終えるまで待つかしてくれって」今妻の
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第1693話

弘毅は顔をこわばらせて黙っていた。依茉は東屋に入り、そこに腰掛けた。もちろん弘毅も彼女と一緒に座った。「お茶と茶菓子、それから果物を持って来させてくれ。結城さんのおもてなしをするから」弘毅は携帯を取り出して屋敷に電話をかけ、飲み物と茶菓子、果物を持って来るよう頼んだ。それから依茉が好きなお菓子も忘れなかった。妊娠してから依茉は起きている時には常に口が寂しくいつも何かお菓子をつまんでいるのだ。三食もきっちりと取っているので彼女はよく食べているが、もともと太っていないし、摂った栄養は全てお腹の中の子供に吸収されているらしく、母親である依茉は全く太らないタイプのようだ。そして十分ほど経った。辰巳が執事に案内されて東屋へやって来た。「桐生さん、奥様、お邪魔いたします」辰巳は笑顔で挨拶した。弘毅のほうは未だ顔をこわばらせて何も言わなかった。依茉が彼をちらりと見ると、すぐに穏やかな表情に変えて、礼儀正しく辰巳に挨拶を返した。「結城さん、どうぞお座りください」この時、辰巳は弘毅が自分に会うのを嫌そうにしていることに気づいていた。辰巳は一日三回から四回は訪れているものだから、弘毅はすでに辰巳のことが鬱陶しくてたまらないのだろう。しかし、弘毅は性格が良く、教養もあるので、辰巳を屋敷に入れないことはなかった。しかし、咲のために辰巳は弘毅が不機嫌そうにしているとわかりながらも、それを気にせず厚かましくも座った。依茉が彼にお茶とお菓子を勧めてきたので、辰巳も遠慮なくいただいた。「酒見さんから勧めていただいたお菓子はとても美味しいですね」辰巳はそう褒めてはいるが、実際理仁と同じく甘い物は苦手だった。音濱岳邸に一度来て、辰巳は依茉がおやつ、デザートを食べるのが大好きなことがわかり、無理やり自分も好きなふりをしていた。そうすれば彼女とはお菓子好きの話題で盛り上がることができる。依茉は笑って言った。「そうなんです、とっても美味しいでしょう。何度食べても飽きないんですから」弘毅が口を挟んだ。「俺は大の男が甘い物が好きなのはあまり見たことないですけど」辰巳は微笑んだ。「大の男と言っても、甘い物好きな人だっているんですよ」依茉も言った。「結城さんの言う通り。甘い物好きは女性と子供だけに限った話じゃないですからね。
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第1694話

しかし、今依茉は大きなお腹をしている。検査をしに出かける時には、弘毅は数名のボディガードを引き連れて、彼女の傍に付き添っている。辰巳は慌てて言った。「桐生さん、それは俺もわかっています。今酒見先生が来てくれると言ったとしても、俺だって彼女に遠出してもらおうとは思いません」彼は依茉の顔を見つめて頼んだ。「酒見さんを教えていた先生に診ていただくことはできないでしょうか?いくらかかってもいいんです。来てもらえるならどんな要求だって聞きます」依茉は医者として素晴らしい腕を持っていて、名医は彼女の師匠であるから、彼女のさらに上をいくはずだ。それに名医の評判は数十年にも渡っていて、その実力は折り紙付きなのだ。もし、そんな名医に来てもらい、咲の目を治療してもらえるなら、成功する確率はぐんと上がるだろう。名医とその弟子である酒見依茉が咲にとって最後の希望だ。辰巳は咲に、絶対に名医を見つけ出して治療を依頼し、再び彼女の目に光を取り戻すと約束した。それに彼女の目が元に戻らなかったとしても彼は彼女を嫌いになることなどない。ただ、彼が嫌わなくても、彼女のほうが目が見えないことで卑屈になってしまう。いくら彼が咲に良くしてあげて、本気の言葉を並べたとしてもそれは意味がない。彼女は自分に自信が持てずに辰巳には相応しくないと感じてしまい、彼の告白を受けようとはしない。結城おばあさんが辰巳に与えた一年という期限の半分がすでに過ぎていて、辰巳は少し焦り始めていたのだ。期限が来て、強制的に咲を役所に連れていき、結婚の手続きをするわけにはいかない。それは一方的な行為だ。結城家の男が今までそのように女性が嫌がるようなことをしたことはない。辰巳はそれをした最初の人間になどなりたくなかった。しかし、奏汰のほうはまったく動きがない。辰巳は奏汰と自分を比較して少し心の負担が軽くなった。少なくとも、彼と咲の関係はかなり進展があるからだ。名医に治療を頼むという件に関しては、弘毅は返事はできない。彼は名医の弟子である依茉の夫になったが、それでも名医の許可なく勝手に辰巳の願いを引き受けることはできなかった。依茉は申し訳なさそうに言った。「結城さん、私の先生はかなり高齢で、もう診察はしていません。それに彼はこの二日ここにはいないし、そのお願いは聞くことはでき
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第1695話

依茉から治療の約束をもらい、辰巳は安心した。そして、弘毅がこの時、辰巳の顔も見たくないといった様子だから、これ以上音濱岳に留まることはできなかった。弘毅と依茉の恋愛物語は辰巳は理仁から全て聞いてよくわかっている。依茉は最初、子供だけ必要とし、弘毅はいらないと思っていた。弘毅がひたすら彼女のことを探していると知りながらも、依茉は自分がその女だということを隠していたのだ。それに弘毅から遠ざかろうと逃げていた。遥と蒼真の結婚式にも、依茉は現れなかった。弘毅が依茉こそが自分が探していた薬屋の女性だと気づいた時、手元の仕事を放っておいて、何も構わず飛行機に飛び乗り、彼女の元へと駆けつけた。そして彼女の傍に半年あまり付き添って、愛情を育みようやくA市に連れ帰ることができた。弘毅がその半年の間何をして、どれだけ犠牲を払ったかは外の者にはわからない。しかし、弘毅が依茉の心を掴むのは困難で、やっとの思いでようやく夫婦になれたことは想像に難くない。まだ結婚式は挙げていないが、今は新婚だから弘毅が妻とべったり一緒にいたいのは当たり前のことだ。辰巳がここ数日何度もこの新婚夫婦の邪魔をしに来たから、弘毅が辰巳の顔も見たくないと思っても責めることはできないだろう。辰巳が追い出されなかっただけでも、弘毅はやはりきちんと教育を受けてきた礼儀を重んじる人だということがわかる。辰巳は礼をすると、すぐに立ち上がって別れの挨拶をし、音濱岳邸を後にした。弘毅は執事に辰巳を見送らせた。そして辰巳が帰った後、弘毅はため息をついて言った。「やっと彼は帰ったな。この二、三か月は俺たちもゆっくり静かに過ごせるだろう」依茉はおかしくなって言った。「結城さんも、私の師匠に頼むつもりじゃなければ、一日に何回も頼みに来るほど厚かましいことはしなかったはずよ。だけど、一人の女性のためにここまで厚かましくなれる男性なのだから、誠意が感じられるわ。それは私も素晴らしいと思うけど」弘毅が言った。「俺だってできるさ」依茉は笑って言った。「わかってるって。あなたが世界中で誰よりも一番素敵な男性だわ」弘毅は彼女の体を支えて立ち上がり、東屋を出て言った。「さっきあんなに食べたんだから、ちょっと散歩して消化しよう」「つまり私が食いしん坊なのが嫌なわけ?」「まさか、
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第1696話

結城家の理仁と辰巳が来たのを見て、東家のボディガードは非常に頭を悩ませた。「申し訳ありませんが」ボディガードは一歩前に出て、頑なに理仁たち三人の道を塞ぎ、申し訳なさそうに言った。「やはり会わないと言っていますので、お引き取り願います」彼らもどうしようもなかった。理仁は落ち着いて尋ねた。「隼翔は目を覚ましましたか?」「ええ、しかし、食欲がなく朝食も食べていません。病院食も内海さんが持って来た差し入れでも彼は何も食べようとしません。しかも彼女が持ってきてくれたものを床に叩き落としてしまう始末です。旦那様と奥様が今中で彼に少しは食べるよう説得しているところです。しかし、彼はかなり機嫌を悪くしています」ボディガードがその話をしたのは、理仁たちに帰ってもらいたかったからだ。面倒事には巻き込まれたくなかった。しかし実際は、ボディーガードたちも隼翔が友人たちに会えばいいのにと思っていた。一日中ベッドに横たわり不機嫌でいられるのは困る。しかし残念なことに、隼翔の両親ですら彼を説得することができないのだから、ボディガードならなおさら隼翔に言い聞かせることは難しいはずだ。隼翔はもう十日以上ベッドに横になったままだから、すでに精神的にまいっている。彼は今すぐ立ち上がって周りの人と同じように普通に歩きたいと思っている。そうすれば横たわって誰かに世話される必要もない。彼は今、誰とも会いたくなかった。誰かがお見舞いに来ると、いつも同情の眼差しを感じてしまう。障害が残ってしまった。自分で歩くことができない体になったのだ。ただ車椅子に座るだけでも、とても辛く感じる。医者は暫くの間はベッドに横になって両足が回復するのを待ってから、車椅子に座っても痛みを感じなくなると言っていた。しかし、普通の人と同じように歩けるようになるにはかなりの時間がかかるし、それに努力してリハビリを続けなければならない。「いらん、食欲なんかない。それを持っていけ、捨ててしまえ!」病室から隼翔の怒鳴り声が聞こえてきた。それに続いて、箸や食器が床に散乱する音が響いた。中に入らずとも、隼翔が腹を立てて母親の手から食器を叩き落としたことがわかる。美乃里は自ら息子に朝食を食べさせようとしたが、お椀と箸を床に叩き落とされてしまった。お椀は粉々に割れてしまい
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第1697話

健一郎は息子が大声で怒鳴りつける様子を見て、とても辛かった。そしてそれ以上は彼を責める言葉を出すことができなかった。隼翔は背が高く体格も良くて、見た目はとても豪快な男だ。それが病院で十日ほど横たわっていて、一回り痩せてしまっていた。彼のことを心配している人が今のそんな姿を見ればとても気の毒に感じてしまう。彼は自分で立つことができず、以前のような威風堂々とした様子は消えてしまった。そしてその眼差しも昔の輝きを失い、絶望に沈んでしまった。当初医者も彼が完全に元の身体に回復できるかは、彼が自信を持ち、足の治療に専念しリハビリに精を出せるかどうかにかかっていると話していた。それは長く厳しい道のりだ。日々努力しても全く進歩がないように感じてしまうこともあるだろう。そうなれば人はすぐに挫折してしまう。「健一郎さん、隼翔を責めないでちょうだい」美乃里は夫を諫めた。「私のせいなんだから。隼翔がお腹が空いてないっていうのに、私がどうしても食べさせようとしちゃって」美乃里は過ちを全て自分に被せていた。隼翔は母親を見て、すぐにその視線を外した。もう母親と目を合わせて向き合うことができなかった。隼翔が唯月に会いに行くと思い、母親がそんな彼を阻止しようとして事故を起こしてしまったわけだが、実際は彼が間違っていたのだ。車のスピードを出し過ぎたせいでこのようになってしまったからだ。このような状況に突然なり、慌てて急ブレーキを踏んでも前の車に追突してしまった。それで死ななかっただけでも、不幸中の幸いだ。この時、ボディガードが中に入ってきて、暫く立っていてからやっと隼翔のほうへ近寄り、小声で話した。「隼翔様、辰巳様がお見舞いにいらっしゃいました」ボディガードは理仁が来たとは言えなかった。辰巳は最近ずっと星城にはいなかった。事情を知らない人は彼が出張に行っていると思うだろう。そして今彼は帰ってきた。両家の関係からして、辰巳が隼翔の見舞いに病院に来るのは当然のことだ。隼翔は冷ややかな声で言った。「会いたくない。今は誰にも会おうとは思わない。彼には帰ってもらってくれ」ボディガードは少し沈黙してから言った。「理仁様と奥様もいらっしゃっています」「言ったはずだ、俺は会いたくない。誰にも会わない。あいつらには会いたくないんだ。あいつらが
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第1698話

唯花は美乃里を近くにあった椅子に座らせた。「あの子ったら誰にも会おうとしないし、人と交流しようとしないで一人でただモヤモヤしてるだけ。人には突っかかっていくし、こんなんでどうやって良くなるって言うのよ?」美乃里は涙を拭いながら、理仁と辰巳の二人に向かって謝った。「理仁君、辰巳君、隼翔のことを責めないでやってちょうだい。今あの子は誰にも会いたくないみたいで、お兄さんが来ても会おうとも病室に入れようともしないの。お兄さんたちのお嫁さんがいろいろお見舞いに持って来ても、それは受け取るものの彼女たちを病室に入れようとしないわ。今はね、誰が来てもみんなに同情されると思い込んでいるみたい。あの子を心配する気遣いの言葉をかけても、それは全て同情の言葉だと思うのよ」美乃里はひたすら涙を流し続けていた。美乃里は末っ子の隼翔はとても強い人間だと思っていた。そんな彼が今精神的にまいってしまい、美乃里にはどうすることもできない。東家の他の年配者たちが来ても、隼翔はどんな言葉も聞こうとしない。彼は親友である理仁と悟にも会おうとしない。二人はメッセージを送ったり電話をかけたりしたのだが、それにも返事をせず電話にも出ない。隼翔は今完全に周りを拒否し、一人悲しみの中に浸っているのだった。こんな状態では、一体いつ彼が回復できるかわかったものではない。理仁は少し黙ってから、言った。「おばさん、隼翔は今車椅子で外出することはできますか?時間がある時にあいつを連れて外に出たほうがいいでしょう。十日以上ベッドに横たわったままでは鬱憤が溜まる一方です。気晴らしも兼ねて外に出たほうが、気分が良くなるはずです。今のように殻に閉じこもったままでは、本気であいつの人生は終わってしまいます。隼翔が自分の気持ちを整理して、また生きる自信を取り戻せばきっと良くなります」美乃里はため息をついた。「今足を少し動かしただけで激痛が走るみたいでね、車椅子に座って出かけることはできるんだけど、車椅子に座らせようとする時に、彼は自分が使えない人間だと思うみたい。車椅子に座ることすらも今は自分でできないものだから。車椅子に乗るのは抵抗があるみたいなの。一生こうやって車椅子生活を送ることになるって、障害者になったと言うのよ」理仁は口を開いたが、どんな言葉をかければいいのかわからなかった。
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第1699話

理仁たちはまた少しの間美乃里に慰めの言葉をかけて、お見舞いに持って来た物をボディガードに頼んで持って入ってもらい、隼翔には会えないまま病院を離れるしかなかった。美乃里は三人をエレベーターの前まで見送り、彼らがエレベーターで降りていってから病室に戻った。病室の前まで来ると、彼女は暫くの間そこに立っていてから中に入った。隼翔はベッドに横になっていて、一体何を考えているのか、呆然と天井を見つめていた。「理仁君たちはもう帰った?」健一郎が小さな声で尋ねた。「隼翔が会いたくないって言うから、来てもらっても帰るしかないもの」美乃里はため息をついて、ベッドの前まで行って腰を下ろし、息子を見つめていた。暫く経ってから優しい声で言った。「隼翔、みんなあなたの心配をして、お見舞いに来てくれているのよ。同情しているわけじゃないのに、一方的に自分が同情ばかりされているって思うのはやめてちょうだい」隼翔は目を閉じた。つまり母親の話を聞きたくないという意思表示だ。美乃里はその瞬間、心がズキズキと痛んだ。東家のおばあさんが亡くなってから、息子は表の世界へまた戻ってきて、裏社会に戻ると騒ぐことはなかった。そして彼は理仁に資金を貸してもらい、自分の手で会社を設立した。最初はとても苦労していたが、その辛さも彼は耐えてやってきたのだ。それから十数年経って、今日の東グループができていった。息子の個人資産も一千億を超え、彼は成功を収め周りを圧倒させるほどに威風堂々と生きていた。もし愛に目覚めていなければ……彼はこの瞬間もあの風格ある東家の御曹司として過ごしていたはずだ。全て母親である美乃里のせいだ。彼女が親子関係を切ると脅して息子に唯月を追いかけるのをやめさせようとしたせいで、事故が起き、このような状況になってしまったからだ。隼翔は母親のことを無視しようと思って目を閉じ、話を聞かないようにしているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。彼は今毎日ベッドに横たわっているが、不眠でいつも寝られなかった。目を閉じて考え事をしていることもあり、朝が来てやっと眠りにつくこともある。事故が彼に与えたショックはかなり大きかった。それに、障害が残ってしまうかもしれないという現実を受け入れることがどうしてもできない。「健一郎さん、隼翔のことをお
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第1700話

「東夫人、いらっしゃいませ」美乃里が店に入ってきたのを見て、さっき座ったばかりの唯月は急いで立ち上がり、彼女に声をかけた。それに対して美乃里は優しい声で返事をし、店には客がいないのを確認して、穏やかに話し始めた。「唯月さん、近くのカフェでコーヒーでもいかがかしら?」唯月は笑った。「いいですよ」彼女はエプロンを外し、それを置いてから二人の店員に言った。「片付けをし始めて下さい。私はちょっと出かけてきます。七瀬さんが陽を送って来たら、代わりにちょっと見ていてもらえますか」この日は店を一日中開けておくつもりはなかった。彼女は西通りにあるレストランの様子を見に行こうと思っていた。そのレストランはあまり儲かっておらず、毎月赤字を出してしまうので、店長がその店を誰かに譲るつもりだった。西通りも位置的には悪くない。食事に来る人も結構な数になるはずだ。あまり儲からなかったのはただその店長の経営が上手ではなかったか、それとも料理の味が悪かったからだろう。それで唯月は自分で状況を確認しに行こうと思っていた。それから周りの環境も見てみて、もし問題なければ、その店を譲り受けようと考えていた。妹の唯花の経営する農場は今安定して作物を流通できるようになってきた。それに会社を立ち上げて、多くのホテルや学校、それから工場とも契約をし、毎日多くの野菜を提供している。自分の会社の経営もあるし、結城家の細かな事業を管理する必要もあり、唯花は最近とても忙しくしていた。唯月は妹のようになりたいと考えてはいない。彼女はただ飲食業界で成功できれば十分だと思っていた。「店長、わかりました」店のことを任せると、唯月は美乃里と一緒に出かけた。唯月は美乃里の車には乗らず、自分で運転して美乃里の車の後に続いてカフェへとやって来た。カフェの客入りはまあまあで、そこまで賑やかではなかった。二人はコーヒーを頼んだ。「東夫人、しっかり休まれてください。体が大事なんですから」唯月は心配そうにそう言った。美乃里は以前と比べるとかなり老けて憔悴していた。この時化粧もせず、以前のような貴婦人の輝かしい風格というものが見られなかった。美乃里は苦しそうに笑ってみせた。「私もそうしたいのだけれど、今はただ隼翔のあの様子を見ていると何も食べられなくて。それに眠れないのよ、と
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