All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1711 - Chapter 1720

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第1711話

美乃里が病室に入ろうとした。健一郎が彼女を引き止め、「唯月さんを入れた以上、彼女に任せよう」と言った。二人のボディガードのほうが困り果てた顔で言った。「旦那様、私たちが入らないと、隼翔様に後でものすごく怒られますよ」健一郎と美乃里は隼翔の両親だ。両親には何もできないが、ただのボディガードである彼らであれば、話は少し変わってくる。「お前たち二人で様子を見てきてくれ」健一郎はボディガードが入っても、唯月に乱暴な真似はできないだろうと考えていた。隼翔は今すぐ唯月を追い出したいと顔に書いているような感じだが、もし本当に誰かが彼女に手を出したら、誰よりも焦るだろう。きっとそんなことなどできないはずだ。二人のボディガードが部屋に入った。唯月は椅子を持ってきて、ベッドの隣に座り、静かに隼翔がベッドを叩く様子を見ていた。そして隼翔のほうはそんな彼女をどうすることもできない様子だった。「あいつを追い出せ。今後、絶対に入れるな!」隼翔は二人のボディガードが入ってきたのを見て、ベッドを叩くのをやめ、唯月を指さして追い出すよう命じた。唯月が振り向き、二人を見つめた。「私を殴って気絶させて、担いで出ていけるなら手を出してみてください。気絶させられない以上、あなたたちの方が出ていってもらえませんか」二人のボディガードは言葉を失ってしまった。彼らは互いに顔を見合わせた。そして、お互いに押し合いをし、誰も率先して唯月を殴って気絶させようとしなかった。冗談じゃない、この方は隼翔様の愛する人だ。そんな彼女を殴って気絶させる勇気などあるわけないだろうと二人は思っていた。「さあ、どちらがかかってきます?」「彼です」「こいつです」二人のボディガードは互いに相手を指さした。唯月はおかしそうに言った。「なら、二人でじゃんけんでもして決めたらどうですか?」隼翔の顔が一気に暗くなった。二人のボディガードは本当にじゃんけんで勝負を決め、最後に負けたボディガードはやむを得ず前に出て、まるで容赦なく唯月を殴りつけて気絶させるかのような構えを見せた。「お前たち二人で彼女の腕を掴んで、引きずり出せばいいだろう」そのボディガードが手を出すより早く、隼翔が口を開いた。「隼翔様、内海さんは結城家の若奥様のお姉様です。わ、私たちは
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第1712話

隼翔は険しい顔で命令した。「分かりました」唯月は快く応じた。彼女は立ち上がり、食事のトレイをベッドサイドテーブルに置いておくと、隼翔を抱き起こして座らせようとした。隼翔は大柄で、痩せたとはいえ相変わらず重い。彼はわざと力を入れず、すべて唯月に頼ろうとした。唯月は前に怪我をして、数ヶ月かけてやっと全快したばかりだった。療養中は重労働を避けていたので、以前ほどの力はなかった。彼女はかなり苦労して、ようやく隼翔を起こした。隼翔のほうも苦しかった。彼女の力が足りず、彼の足の痛みもあって力が入りにくい。最初は確かにわざと力を抜いていたが、その後、早く座りたくなり、彼女に抱きかかえられたり支えられたりするのが煩わしくなってきた。それに彼女だけではなかなか起こせないので、結局、自分も協力することにした。一番重要な理由は、彼女との近距離での接触に耐えられなかったからだ。この人は今、最も愛する女性なのだ。「東社長、この姿勢では足が痛いですか?」隼翔は苦い顔をした。「痛くないわけないだろう?少し動かすだけで痛むんだ」「すみません。私の力が足りなくて、社長をさっと……あ、すぐに支え起こすことができなくて」唯月は少し息を整えると、ベッドの足元からサイドレールを立て、患者用の食事テーブルをセットしてから、トレイをその上に置いた。「社長、このスープ、熱いうちに召し上がってください。冷めたら美味しくなくなりますよ」隼翔は淡々と言った。「スプーンがあるはずだ。スプーンを出してくれ」唯月は「はい」と返事をした。さっき引き出しにものを探した時、スプーンも見かけた。スプーンを見つけ、きれいに洗ってから彼に手渡した。隼翔もこんなにあれこれ対応していて、すでに空腹を感じていた。それでも冷たい口調で言った。「俺の食事が終わったら、すぐに出て行ってくれ」「ええ、出て行きますから」と答えながら、唯月はちょっとの間だけだと心の中で密かに呟いた。「社長、温かいうちに早く召し上がってください。冷めると美味しくなくなるし、お腹を壊すかもしれませんよ」唯月は彼に早く食べるよう促した。あれほど痩せてしまったのだから、しっかり栄養をつけなければ。隼翔が食べ始めると、唯月は優しい口調で言った。「東社長、私たちみんなあな
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第1713話

隼翔は何回も深呼吸をし、自分に怒ってはいけないと言い聞かせた。この女は、彼が怒ろうが何だろうが、まるで気にかけていない。さっき彼が激怒してベッドを激しく叩き、彼女に出て行けと命じた時でさえ、彼女は落ち着き払ってベッドの前の椅子に座り、彼がベッドを叩きつける様子をじっと見つめていたのだ。彼は理性が爆発しそうなほど怒っていたのに、彼女は動じず、まるで何か面白い番組を見るかのように彼を見ていた。東隼翔はメンツというものを気にする男だった。もう二度と、さっきのように唯月の前で恥をかきたくはない。「内海さん」隼翔は真っ黒な瞳にひそかに炎が燃え上がり、唯月を凝視した。瞳の奥には彼女への想いが押し込められ、冷たい口調で彼は言った。「俺の今の姿はもう見ただろう。君の世話も必要ない。出て行っていい」唯月は近づき、相変わらずベッド前の椅子に腰を下ろして、微笑みながら彼を見つめた。彼女は痩せて、結婚前の綺麗なスタイルを取り戻していた。その微笑みは美しく、彼を宥めるような感情も見える。隼翔の心に満ちていた怒りは思わず収まっていった。「東社長、耳と頭のほうは怪我をしていませんよね?」唯月が尋ねた。隼翔は冷たい顔で言った。「体中傷だらけだが、耳と頭に影響はない」体の他の傷もよくなってきたが、重傷を負った両足だけは今もまだ激しい痛みが続いている。「それはよかったです。もし社長の耳と頭にも問題があるなら、夫人にお給料の値上げをお願いしないといけなかったところです。私が入ってきた時、社長にはっきりお伝えしました。私はお母様が大金を払ってお雇いになり、あなたのお世話をさせていただく者です。私をヘルパーだと思ってください。夫人からいただく日当は二十万円、勤務時間は八時間で、夜勤はありませんから、時間になれば自然に退勤して帰ります。社長が追い出さなくてもね。もし今私が帰ってしまったら、夫人に給料を引かれるかもしれません。ですから、給料のために、ここで社長をお守りするしかないんです。一日二十万円ですよ。私のお店の二、三日分の売り上げに匹敵します。結構儲かる仕事ですよ」隼翔「……」彼女は一円も受け取るつもりはないだろうと隼翔は確信できる。しかし、母親が実際に一日二十万円で彼の世話を頼んだと言った可能性は十分にある。「社長が私の顔を
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第1714話

隼翔が冷淡に唯月に接し、横暴で理不尽な態度を取り、もっと短気で、気まぐれに振る舞えば、きっと彼女を遠ざけることができるし、彼女の心の中での自分のイメージも変えられるだろう。そうすれば、彼女は将来好きな人に出会った時、何も気にせずに、好きな人と結婚することができるはずだ。そう考えながら、隼翔は心の中で誓った。たとえ唯月が毎日世話に来ても、唯月に二十万円の給料すら諦めさせ、自分から遠ざける態度をとると。病室に物音がしなくなったので、美乃里はそっとドアを押して開け、様子を窺った。目に入ったのは、首を傾けて、付添いのベッドに眠る唯月を静かに見つめる息子の姿だった。美乃里は、唯月を呼んで息子の世話をさせたことが正しかったと感じた。息子がまだ唯月を愛している限り、唯月が助けてくれれば、隼翔はちゃんと食べ眠り、積極的にリハビリに参加するようになるだろう。誰か来たことに気づくと、隼翔はすぐに頭を向けた。母親だとわかると、彼は一瞬黙り込み、ようやく尋ねた。「母さん、内海さんは、母さんが一日二十万円で彼女を雇って俺の世話をさせているって言ってたけど、本当か?」「ええ。あなたが今の状態は彼女のせいだって言ったでしょう? 彼女のせいなら、彼女にあなたが元通りに回復するまで世話をさせればいいの。月に六百万の給料でも、母さんには支払うことができるわ」隼翔は言葉に詰まり、言った。「父さんも母さんも年を取ったんだから、無理して頑張らなくていい。家で休んで、他の人に俺の世話をさせればいい。父さんと母さんは数日おきに様子を見に来てくれればいいんだ。毎日来なくていい」頭に白髪の混じった両親を見ると、彼も胸が痛んだ。「隼翔、お父さんもお母さんもあなたの世話をしたくないわけじゃないの。お母さんはただ……この件は内海さんに責任を取らせるべきだと思ってるのよ」美乃里は良心に反する言葉を口にした。「この件は内海さんとは関係ない。俺の過ちだ」隼翔自身は、唯月を追い払い、自分の無様で弱々しい姿を見せないために、辛辣な言葉を吐き、事故の原因を唯月のせいにしていた。しかし、母親までもが過失を唯月に転嫁するのを聞くと、彼は思わず唯月の肩を持ってしまった。「あなたが、内海さんのせいで事故に遭ったって言ったでしょう? それはあなた自身が何度も繰り返し言ったことよ」
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第1715話

一方、神崎家の邸宅では、姫華と唯花がそれぞれ車を運転して敷地内に入っていった。二人の車が外の小さな駐車スペースに止まったのを見ると、隣からずっと張り込み、待ち構えていた善が近づいてきた。善は、目を奪われるような色鮮やかなバラの花束と、セットのジュエリーアクセサリーを持っている。姫華が車から降りると、見覚えのない車が少し離れた場所に止まっているのに気づいた。どこかで見た覚えはあるが、誰の車かは思い出せない。振り返ってドアを開けてくれた使用人に尋ねようとした時、善が花束を抱え、赤い袋を手に、彼女の方へ歩いてくるのを見て、彼女は思わず笑みをこぼした。足は自然と動き、善に向かっていった。神崎家の使用人は、本来なら邸宅のゲートを閉めるところだった。姫華の両親から、彼女が桐生家の善を見かけないうちに、さっさとゲートを閉めて、簡単に彼を中に入れないようにと命じられていた。しかし今、姫華がすでに彼を目にしてしまった以上、もうゲートを閉めるわけにはいかない。「善君、まだ家にいたのね」善がA市から戻ってきた後、二人は一緒に食事をしたが、彼はしばらく忙しくなるというので、姫華は気を利かせて仕事の邪魔はしなかったし、何より自分も唯花と一緒にてんてこ舞いで忙しかった。仕事に追われていると、確かに恋愛のことなど深く考えている余裕はない。「今、帰ったところですよ」善は姫華の面まで歩み寄ると、その色鮮やかで目を奪うほどきれいなバラの花束を差し出し、言った。「会社から帰る途中、花屋の前を通りかかったら、店のバラが特別きれいで、あなたに買ってきたんです」「もし綺麗じゃなかったら、買ってくれなかったってこと?」姫華は花束を受け取りながら、からかうように言った。善は笑った。「そうでもないですよ。僕が星城にいる限り、毎日あなたに花を贈るつもりです。仮に僕がここにいなくても、花屋に電話して花束を注文し、配達させれますから」彼がA市に戻っていた時も、実際そうしていた。星城にいなかったが、彼女へのアプローチは絶やさなかったのだ。善は続けてアクセサリーを姫華に手渡し、説明した。「これは、僕のお義姉さんが望鷹で経営するアクセサリー店の新作デザインです。まだ市販はされていないんですけど、お義姉さんから直接一セット分けてもらって、持ってきたんです
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第1716話

子供たちは皆、妻の味方だ。優位に立てなくなった篠崎家の当主は、もうかつての絶対的な地位に立っていなかった。姫華は善からあの老夫婦の話を聞いており、篠崎家の当主夫妻の物語には強い興味を抱いていた。ただし、それは当主自身の物語だ。彼が自ら語らない限り、誰も深く掘り下げることはできない。二人は並んで屋敷の中へと歩いていった。善は、少し離れた場所で陽の手を引いて待っている唯花を見つけ、姫華に笑いながら尋ねた。「彼女とまた商談に行きましたか」「うん、投資を拡大したんだから、販売ルートも広げなきゃ。数日したら、私たち二人は出張に行くことになるわ。星城の人たちからだけお金を稼いでいるわけにはいかないからね」従姉妹は二人とも野心に燃えており、事業を他の都市や村にも広げる計画を立てていた。善はすぐに提案した。「A市を視察に行ってみるのもいいんじゃないんですか?僕のふるさとにも、多くの村の畑が荒れているんです。若者は出稼ぎに出て、お年寄りたちは家で特にすることもなく、自分たちで食べる野菜を少し作るくらいで、もうあまり田んぼを耕さなくなっていますよ」姫華は笑った。「A市は星城から少し遠いの。私たちの計画はまず隣の市から始めて、ゆっくりとより遠い都市に広げていくつもりよ」「それでも構いませんよ。僕の方でA市の市場を調査して、競争力がどれくらいあるか調べておきますから」姫華だけが畑に投資しているわけではない。多くの地域に同様の農場は存在する。「先にお礼を言っておくわね」姫華は彼に礼を言った。善は笑った。「そんなこと、大したことじゃありませんよ。遠慮はいりません。僕にも下心はあるんですからね」姫華の事業がA市に進出してくれれば、将来夫婦になった時、たとえA市にいても姫華には自分のやるべき仕事があり、退屈しすぎないことを願っているのだ。「他の事業への投資を考えることもできますよ。あなた達が設立したのは野菜や果物の販売に関する会社でしょう?野菜がもうあれば、果物も作るべきですよ。それこそ農産物の会社ですよ」姫華は答えた。「果物作りは、利益が出るまで少し時間がかかるの」それに、果物の収穫は野菜作りのように安定した保証がなく、時には天候不順で収穫がほとんどない年もある。「他の投資については、もう少し考えてみるわ」姫華はビジネスの世
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第1717話

「陽君は本当にいい子だね。僕は二人の赤ちゃんの代わりに陽君にありがとうって言っておくね」陽は嬉しそうに笑った。善が陽を下ろすと、唯花が甥の手を引き、姫華たちと一緒に中へと入っていった。詩乃は唯花と陽が来たと聞き、最初はとても喜んで、自ら玄関先まで出迎え、顔に笑みを浮かべていた。だが、善も一緒だと気づいた時、その笑みは引っ込んでしまった。この男はしばらく訪ねて来ていなかった。詩乃は彼が姫華を追いかけるのが無理だと悟って退いたのだと思っていたが、後で知ったのは、桐生家の若奥様が出産し、善は実の叔父として、生まれたばかりの姪と甥に会いに帰っただけであって、諦めたわけではなかったということだ。ほらみろ、星城に戻ると、二日も経たないうちにまた厚かましくも訪ねて来た。「おば様」「おばあたん」唯花と陽が一緒に挨拶をした。「神崎夫人、こんにちは」善も笑みを浮かべて挨拶した。詩乃は善を二度睨みつけると、陽の方に向き直り、腰をかがめて陽を抱き上げ、笑顔を見せた。「陽ちゃん、久しぶりにおばあさんの家に遊びに来たねえ。陽ちゃんに会いたかったよ。今日はおばあさんの家でご飯を食べて行ったらいいわよ」陽は幼い声で言った。「ひなたも会いたかったよ」そう言いながら、詩乃に投げキッスをしてみせ、彼女を笑わせた。彼女は陽を抱いたままくるりと向きを変え、屋内へと戻っていった。善には一言も声をかけなかった。唯花は善を一目見た。彼の表情は変わらず、整った顔には相変わらずの慣れた微笑みが浮かんでいる。理仁は言っていた。妻を追いかける時の厚かましさは、相当に分厚いものだと。やはり男は男を理解しているものだ。唯花は詩乃の後を追った。詩乃は姪に小声で愚痴をこぼした。「桐生善って男は本当に図々しいわね」唯花も小声で言った。「それは桐生さんが姫華のことが本気で好きだっていう証拠じゃないですか。姫華のためなら、厚かましさなんて大したことじゃないって言っていますよ。もしおば様が彼の来訪を嫌がるからって、本当に来なくなったら、それは姫華への気持ちが偽物だってことですよ」「あなたたちは彼の肩ばかり持つんだから。彼の良いところをいくら並べたって、私はあの二人が一緒になるのは賛成できない。遠すぎるんだもの」「おば様、あまりにも厳しく邪魔したり
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第1718話

「唯月さんは……」詩乃は、唯月は恋愛に関してはいつも苦労ばかりしているように思えて、言葉を半分だけ口に出して、結局最後まで言わずじまいだった。「隼翔君はまだ人に会おうとしないの?」詩乃は心配そうに尋ねた。「理仁さんと一緒に会いに行っても、彼は会おうとしないんです。理仁さんがメッセージを送っても返事をしたがらないし、電話にも出ないんです。もう心がまいって、私たちが会いに来るのは同情してるからだと思い込んでいるようです」詩乃はまたため息をついた。その時、姫華と善が手を繋いで入ってきた。詩乃がちらりと視線を向けると、善は手を離した。未来の姑はまだ自分を受け入れてくれていないから、詩乃の前では、姫華とあまり親密にならないほうがいい。姫華は善を座らせると、自分は花束を抱えたまま立ち去り、大きな花瓶に花を生けた。善が贈ってくれたあのアクセサリーのセットも、まず自分の部屋に持ち帰った。下に降りてくると、皆がなかなか賑やかに話しているのが見えた。主に陽がいるからだ。詩乃は、陽に悪い影響を与えることを恐れて、一言もきつい言葉が言えない。唯花と陽は神崎家に半日滞在し、夕食を済ませてから、唯花は甥を連れて帰った。理仁は夜に接待があり、メッセージで多分深夜の十一時か十二時頃に帰るから、先に寝ていて、待たなくていいと伝えてきた。唯花は陽を連れて公園で遊び、それから街へ買い物に行き、夜九時頃にようやく家に戻った。陽はまだ子供だから、一晩中遊んで疲れてしまい、お風呂から上がると自分でベッドに這い上がり、すぐに夢の中へと旅立った。彼が寝たのを確認すると、唯花は書斎に入って自分の仕事を始めた。理仁は待たなくていいと言ったが、彼女は自然と彼の帰りを待ってしまう。彼がまだ家に帰っていないと、彼のことが気にかかり、心配になるのだ。理仁はこの時、まだスカイロイヤルホテルにいた。彼は秘書をつれて、ボディガード達に囲まれて、顧客である辻家の親子をホテルから見送っていた。「結城社長、ここまでで結構です。私たちは先に帰りますので、明日お時間があればまたご一緒に食事をしましょう」辻社長は星城に自分の屋敷を一棟所有しており、星城に出張する度に、ホテルではなく自分の名義の屋敷に滞在していた。辻グループは非常に大きく発展して、最近特に人気のある
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第1719話

張本人の夕菜は真面目な表情でこう言った。「結城社長、お疲れ様です。ではまた今度」理仁は口を閉ざしたまま何の返事もしなかった。夕菜は彼の冷たく厳しい様子が特に気に入っていた。父親のそばで多くの社長やお金持ちの御曹司を見てきたが、理仁ほど優れた男性は初めてだった。彼の経営の腕ではなく、純粋に外見に惹かれていた。ハンサムで冷徹なイケメン。その姿を見た瞬間、彼女の中に征服欲が込みあがってきた。この男を手に入れたい。理仁が口を利かなくても気にしない。父親が理仁に別れを告げると、彼女も父親について車へと歩き出した。運転手がドアを開け、親子二人は車に乗り込んだ。辻社長は窓を下ろし、再び理仁に向かって手を振って別れを告げた。理仁も手を振り返した。辻社長の高級車はすぐにスカイロイヤルホテルを離れていった。「夕菜、さっき社長に何をしたんだ?彼の顔が急に険しくなったぞ」窓を閉めると、辻社長は娘の方を向いて尋ねた。彼は結婚して数十年、身体的な原因で子供は夕菜一人だけだった。この娘さえも、数多くの医者にかかり、山ほどの薬を飲んで体調を整えた末、妻がようやく妊娠して生まれてくれた大切な一人娘なのだ。娘は父親似で、幼い頃から何でもそつなくこなす優秀な存在だ。辻社長は娘をこの上なく溺愛し、信頼もしている。巨大な辻グループは将来、娘に引き継がせるつもりだ。だから商談や客との面会には毎回娘を同行させ、手取り足取り教え込んでいたのである。「お父さん、私、結城社長に一目ぼれしちゃった」夕菜の言葉に、辻社長はもし今お茶を飲んでいたなら吹き出しそうなほど驚いた。思わず指で娘の額を小突きながら言った。「結城社長には妻がいるだろう。誰を好きになってもいいのに、彼を好きになるなんて。彼の噂は聞いたことがないのか? 見た目がいいからって夢中になるんじゃない。彼は女性に淡白で、今の奥様以外には誰も彼の心を動かせなかったんだ。今は結婚して、誠実な方だ。奥様を心から溺愛している。彼を好きになっても、自分を苦しめるだけだぞ」辻社長は娘に警告した。「結城社長のことは諦めろ。お前にふさわしくないし、お前にも彼は手に負えない。結城家の男性がいいなら、別の者にしなさい。結城副社長や……いや、だめだ。彼には婚約者がいる。結城社長と副社長を除けば、結城家の他
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第1720話

「七瀬、さっき何を見た?」沈黙を破り、理仁が突然口を開いた。七瀬は一瞬も考えずに正直に答えた。「辻さんが、若旦那様の手の平をこそっと撫でました」言い終わって、自分が何を口にしたか気づき、慌てて言い直した。「いえ、違います!私は何も見ていません。本当に、何も」主人は優秀すぎて、若い女性の心をすぐに奪ってしまう。面倒を避けるため、理仁は長年、ボディガードを常に側に置いていた。七瀬たちの主な任務は、若い女性を主人に近づけさせないことだった。まさか今夜、予想もしない事態が起こるとは。夕菜が理仁を見る目からは、その意図が丸見えだった。「今後、身内以外の若い女は、俺の三メートル以内に近づけるな!」理仁は、以前のように、身内以外の若い女性を三メートルは遠ざけるべきだと思った。自分と唯花の結婚は誰にも知られている事実だから、もう誰も自分に目を付けたりしないだろうと思っていた。しかし、その考えは甘かった。彼の既婚者という立場を無視し、彼を誘惑しよう、引き込もうとする者がまだいるのだ。結城理仁はそんな誘惑に乗るような男ではない。彼の心を揺さぶれる女性は、唯花だけだ。「はい」七瀬は急いで答え、すぐに理仁に誓った。「若旦那様、絶対若奥様の前で余計なことは申しません」理仁は冷たい目で彼を睨んだ。「お前が口の利けない人間になりたくないのは分かっている」七瀬は緊張で体を凍らせた。彼は確かに口が利けなくなるのはごめんだ。だから絶対に、若奥様の前で余計な口は利かないと心に誓った。と言うか、彼が言うまでもないだろう。理仁は今、妻に何一つ隠し事をできなくなっているのだ。きっと帰ったら、真っ先に唯花に誰かが自分に思いを寄せていると報告するに違いない。そして「自分の男は自分でしっかり見張っておけ」と訴えるだろう。二十分後。理仁の専用車は屋敷の庭に入った。二階の明かりがまだついているのを見て、理仁は妻がまだ寝ていないと悟った。迎え出た吉田に、理仁は尋ねた。「唯花はまだ寝ていないのか?」「若奥様はまだお休みになっておりません。書斎にいらっしゃいます。大事でない用件なら邪魔をしないようにおっしゃっています」理仁は部屋の中へ向かった。吉田はいつものように七瀬に尋ねた。「若旦那様は、何か不愉快な出来事はなか
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