All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1741 - Chapter 1750

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第1741話

唯花は理仁に握られた手をサッと戻した。それには理仁は不満そうだった。彼女は小声で彼に注意した。「今は、奏汰さんと陽ちゃんがいるでしょ」理仁はその二人のほうへ視線を向けた。奏汰は陽におかずを取ってあげていて、陽のほうは箸で皿の上のおかずをつかもうと必死になっていたので、理仁と唯花には全く意識が向いていなかった。「陽君、つかめる?おじさんが食べさせてあげようか?」奏汰は全く向かい側にいる理仁と唯花のほうは見ず、平然とした様子で、隣にいる陽に尋ねていた。自分がお邪魔虫であることがわかっているのだ。理仁のほうは彼に邪魔だと文句を言うが、奏汰のほうは理仁に目の前で惚気られて羨ましくなるので、不満を持っていた。「ぼく、自分でやるよ」陽は奏汰に食べさせてもらうのは断わった。唯花は陽にスープをついであげて、彼の目の前に置いた。「陽ちゃん、スープも飲んでね」「ありがとう、おばたん」唯花は笑って言った。「食べたいものがあるなら、隣にいるおじさんに取ってもらいなさい」そして、彼女は隣にいる夫に尋ねた。「あなた、まだお腹いっぱいにはなってないでしょ」彼女が来た時、テーブルの上にある料理はあまり減っていなかった。三人はきっと商談ばかりで、箸を動かしてはいなかったのだろう。「うん、さっきはスープを少し飲んだくらいだよ」と理仁は言い、唯花におかずを取ってあげていた。唯花はそんなことだろうと思った。四人は食事を楽しみ、満腹になると、理仁はホテルで休息を取ることはなく、そのまま会社に戻っていった。陽はすでに熱が下がっていたので、唯花も彼を連れて理仁と一緒に行った。一方、夕菜の父親である辻豊(つじ ゆたか)は自分の家に戻ると、すぐに使用人に尋ねた。「娘はどこにいる?」使用人は答えた。「お嬢様でしたら、プールで泳いでいらっしゃいます」豊はあの花束と服が入った袋をソファの上に置くと、室内プールのほうへ向かった。夕菜はまるで魚のようにスイスイとプールで泳いでいて、父親が来たのに気づくとプールの端のほうへ泳いできた。「お父さん、こんなに早く帰ってきたの?」夕菜は笑いながら尋ねた。「商談はどうだった?」両家の会社が提携すれば、彼女には正当な理由ができて、堂々と結城グループに出入りできるようになる。会う回数
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第1742話

豊は娘にタオルを渡し、見せたいものがあることを伝えると、背中を向けて行ってしまった。夕菜はタオルを受け取り、背を向けて去っていった父親を見つめていた。何かあったのだろうと心の中で思った。まさか去り際の握手で理仁の手の平にわざと触れたことで、契約が白紙になってしまったとか?彼ら辻グループのこのプロジェクトは、辻グループと結城グループの大企業にとって、双方に大きな利益をもたらすことができる。つまりこれはウィンウィンの関係になれるプロジェクトなのだ。それで他にも多くの企業がこぞって彼ら辻グループと提携を結びたがっていた。理仁はビジネスマンであるから利益を重視するに決まっている。そんな彼がこんなうまい話をそう簡単に切り捨てられるだろうか?夕菜はプールから出てくると、更衣室に入り服を着替えて出てきた。そしてリビングに戻ると、父親がソファに座って怒りを抑えた表情をしているのに気づいた。父親の前には、あの花束と袋が置いてあった。「お父さん、誰からもらったの?それとも、私のために買ってきてくれたわけ?」夕菜は父親のほうへ歩いていきながら尋ねた。「もし誰かにもらったんなら、お母さんに報告しちゃうもんね」夕菜は父親の傍で会社を継ぐためにいろいろと学びながら、それと同時に父親が外で浮気しないか、母親に代わって監視する役目も担っていた。夕菜の母親は夫が息子が欲しいと思い、他の女との間に息子を作ろうと考えるのではないかと心配していた。母親はもう年だから子供は生めない。娘一人しか生むことができなかったことを申し訳なく思っているのだ。父親のほうが子供ができにくい体をしていたことで、長年不妊治療をしていて子供ができるまでに時間がかかってしまった。それで自分がもっと若ければ第二子ができていたかもしれないと母親から聞いたことがある。父親が若い女性と一緒になっていれば、息子が生まれた可能性は全くないとは言えない。夕菜の母親である辻沙織(つじ さおり)は夕菜という子供しかおらず、女の子であることもあり、夫が誰かにそそのかされて他の女との間に辻グループの跡取りとさせるために息子を作るのではないかと恐れていた。それで娘がないがしろにされないようにするためにも、夫が外で浮気して婚外子など作らせないように目を光らせている。「ここにある花束と、服について何も知らな
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第1743話

「それに彼女が子供を生めないだのなんだの言うもんじゃないぞ。あの二人は結婚してまだ一年も経っていないんだ。二人っきりの世界を過ごしたいから、今は生む予定がないだけの話で、それは普通のことだろう。それならお前はどうやって生まれてきた?父さんが何度も医者に診てもらって何度も薬を飲んでいなかったら、お前はここにいたか?夕菜、話をする時はもう少し道徳的なことを考えてから口にしなさい。私と母さんが子供が欲しいと思っても、それはなかなか困難だったんだぞ」夕菜はそれを聞くと黙ってしまった。「それから、結城さんがお前のほうを向いてくれることなど有り得ない。結婚しているからという理由だけじゃないぞ、彼が結婚していなくても、彼はお前にそのようなチャンスを与えてはくれないよ。そんなに簡単に彼の心が掴めるというのであれば、そのチャンスはお前には回ってこなかっただろうな。以前、神崎家のお嬢さんが彼にぞっこんだったろう。彼女はお前とは変わらない身分だし、お前よりも上かもしれん」夕菜は口を尖らせて、小声でぶつくさと呟いた。「神崎さんは私より上じゃないよ。だって、あの人ってわがままで、野蛮でしょ。星城での彼女の評判は最悪よ。家柄が私とそう変わらないくらいで、他は全然私に敵わないじゃない」これには豊は言葉を失ってしまった。彼は深呼吸し、さらにまた深く呼吸をして、自分にこの娘は自分の子だ、自分の子供なのだから落ち着けと言い聞かせていた。暫くして、彼はどうしようもなくなり座ると、娘をまた少しの間睨みつけてから言った。「プロジェクトは父さんがどうしても契約を結びたいと言ったんだ。結城社長に契約を破棄されたりしないように、我々は結城グループに利益を多めに渡さなければならない。これは裏切られないようにするためにこちらが一歩引いた結果なんだよ。これも辻グループと結城グループ初の提携だが、同時に最後になるかもしれない。両社が契約関係にある期間、お前は私と一緒に結城グループに行くことは禁止する。私から結城社長と約束したんだ。今後、お前が彼の前に現れて、邪魔をし、しつこく付き纏わないようにするためにな。夕菜、父さんは先にお前には厳しいことを言っておくからな。両社の契約期間中にお前が言うことを聞かず、勝手に彼に迷惑をかけに行き、しつこく付き纏うようなことがあれば、辻グループの株は全て
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第1744話

夕菜は顔を曇らせて、何も答えなかった。初めて誰かを好きになったというのに、まだ始まる前に諦めろというのか?こんなの納得できるわけない!どうしてあの女がこんなに優秀な男を手に入れることができるというのか?……結城グループの社長オフィス。部屋の中で唯花は寝てしまった甥にブランケットをかけてあげると、夫に尋ねた。「辻社長は帰ってちゃんと娘さんを説得させることができるかな?彼には一人しかお子さんがいないんでしょう?きっと娘さんのことを可愛がっているはずよ」理仁はすぐに陽を通り過ぎて彼女の隣につめて横になると、片手を枕替わりに頭の後ろにあて、もう片方の手で唯花の顔を優しくつねった。「唯花、ヤキモチ焼いてる?」彼女が嫉妬することは滅多にない。恐らく、結婚してから今に至るまで、彼女は一度もヤキモチを焼いたことはない。理仁を恋い慕っている女性は聞いたところによると、かなりの数いるらしい。彼も悟から、どれだけの女性から好意を寄せられているのか聞いただけだ。しかし、実際に公に彼にアプローチしてきたのは神崎姫華ただ一人で、そんな彼女もいつまでもしつこく付き纏わず、スッパリと諦めてしまう性格だった。彼が唯花と夫婦関係にあることを知ると、スッと身を引いたのだ。それで唯花も嫉妬したことはなかった。ただ、姫華に対して申し訳ない気持ちを抱いただけだった。それもそのはず、いくら唯花が知らなかったとはいえ、いつの間にか姫華の想い人を自分が奪っていたのだから。今の姫華には善がいるので、唯花の心苦しさはようやく消えてくれた。それでも理仁がヤキモチを焼くのはしょっちゅうの話で、彼も唯花にヤキモチを焼いてほしいと思っているのだった。「嫉妬まではしてないけど、夫が他の女性から目をつけられたのは、やっぱり心の中では気に食わないわね」唯花は彼の懐に埋まり、片手を彼の腰に回して、大胆な言葉を口にした。「理仁、あなたは私のものよ!あなたが言ってたでしょ、私はあなたのものだって。それならあなただって私のものなんだから!」それを聞いた理仁は愛しそうに言った。「そうそう、俺は君のものだ、永遠にな。俺だって生涯君しかいないよ!」彼女の言った言葉からはそこまでの嫉妬心は感じ取れなかったが、それでも彼女が面白く思っていないようなので、少しはヤキモチを焼かれ
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第1745話

理仁は唯花の頬にキスをして、優しい声で言った。「唯花、心配しないで、俺は一生君を愛しているから。陽君の世話をして疲れているだろうし、ちょっと休んで」理仁は午後忙しいだろうから、唯花は彼と一緒に少し休むことにした。彼女が寝てから三十分で、理仁は起きて仕事にとりかかった。愛する妻が寝ていても、ただ傍にいるだけで理仁はとても心が穏やかになり、仕事のやる気も増してきた。社長室のほうは静かだったが、副社長室のほうでは辰巳が奏汰とおしゃべりしていた。奏汰は理仁と一緒に商談を終わらせると、一緒に本社のほうへ来ていた。かなり長い時間本社のほうへ顔を出していなかったので、この日行っておかないと、みんながこの結城家の三番目の御曹司である結城奏汰のことを忘れるだろうと彼は理由をつけていた。「奏汰、もう一時間ここにいるけど、何か用かな?何かあるなら気兼ねなく何でも話してくれよ。俺たちの仲なんだから、別に話せないことなんてないじゃないか」辰巳は頻繁に時間を確認し、目の前に一時間も座っている従弟を見て言った。少し前に、辰巳はブルームインスプリングに電話をかけて花を注文していた。もちろん咲を指名してだ。それから電話に出た店員に、自分は昼食欲がなくて何も口にできなかったので、今とてもお腹が減っているということまで伝えた。店員がそれを咲に伝えてくれることを期待してやったのだ。辰巳は咲が花と、何か食べ物を持って来てくれるのを心待ちにしていた。咲は明らかに辰巳のことが気になっている。辰巳がA市に行った後、咲が彼がどこに行ったのか尋ねて来たと唯花から聞いていた。つまり、咲は彼のことが恋しくなっているし、好きな気持ちがあるということだろう。しかし、辰巳が星城に戻ってから咲に会いに行っても、忙しいと言って会おうとしないし、会えたとしても彼には全く構おうとしなかった。本当に頑固な娘さんだ。たまに辰巳は咲を抱きしめて、意地でも自分の気持ちを吐き出そうとしないあの可愛らしい唇に、おしおきのキスをしてやりたいという衝動に駆られていた。奏汰がオフィスに一時間も滞在しているので、咲が来たら、この男が邪魔になると辰巳は考えていた。「別に何もないさ。ただ暫く辰巳兄さんとは話してなかったなって思って、ちょっとおしゃべりしたいと思っただけだよ。ちょうど俺は午後何も用
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第1746話

奏汰は言った。「確かに達成感はあるだろうけど、彼女に女性として接することができないんだよ」「彼女を絶世の美女だと思って見ればいいだろ」「そもそも彼女は生まれつき、かなりのべっぴんさんだぞ」辰巳は笑って言った。「ならいいじゃないか、相手は綺麗な人で、家柄も結城家と同じだし、多方面でお前にはぴったりの女性だ。それならさっさと動き出せよ。もし他の男が白山社長は実は美人さんだって気づいて先を越されたら、絶対に後悔するぞ。ばあちゃんの見立てを信じろ!いつだって俺たちのためを思ってやってくれてるんだからさ」「俺は別にばあちゃんを信じてないわけじゃない。ただ……どこからどう始めればいいのかわかんないんだよ。辰巳兄さんたちはいいよな、最初から花でも贈っておけばいいんだからさ、俺は何を贈ればいいんだ?玲さんは今男装しているんだ、俺が彼女に花束なんて贈れば、翌日はトップニュースだぞ」結城家の御曹司である結城奏汰が男にアプローチを仕掛けた、などという驚きのニュースが、一気に星城と柏浜で炎上するだろう。「コンコン」この時、ノックの音が響いた。ドアを叩くその音は弱くも強くもなかった。辰巳は自分の婚約者だと予想した。もちろん咲のほうは彼の婚約者だと認めてはいないが、辰巳があちこち咲は自分の婚約者だと言いふらしているし、咲の味方となり尾崎家と黒川家を懲らしめたりしたので、星城では、そんな彼と咲の事情を知らない人間などいないのだった。ただ咲だけが頑なに認めようとしないだけだ。「絶対、俺の婚約者だ」辰巳は立ち上がり、デスクを通り過ぎて咲のためにドアを開けにいった。奏汰は辰巳の行動を目で追っていた。辰巳の嬉しそうな様子を見て、羨ましくもあり、また理解しがたくもあった。愛というものは、本当にここまで人を喜ばせ、幸せにしてくれるものだろうか。まだ恋愛に身を置いていない奏汰には、今のところその愛の喜びというものを味わうことができない。辰巳がオフィスのドアを開けると、やはりそこには咲が片手に花束を、もう片方の手には何かの袋と白杖を持って立っていた。「咲、来てくれたんだね。早く入って」辰巳は穏やかに体を横にずらし、咲を中に入れてあげた。咲は少し戸惑っていたが、結局は辰巳のオフィスへ入った。別に初めて来たわけでもないし。
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第1747話

「咲、彼は俺の従弟の奏汰って言うんだ。俺の世代では結城家の三番目なんだ」辰巳は咲と奏汰は知り合いではなく、奏汰の声を聞いても、誰なのかわからないだろうと思い、咲に紹介してあげた。すると咲は再び奏汰のほうに微笑みかけて挨拶をした。「そうですか、はじめまして」「どっちも結城なんで、気軽に名前で呼んでくれたらいいですよ」奏汰にとって、咲は従兄である辰巳の妻になるのだし、そう改まることもないだろう。咲はやはり微笑むだけだった。彼女は辰巳のほうへ振り向いて、花束と買って来たお菓子を辰巳の前に差し出した。「辰巳さん、これ、注文いただいた花束です。お昼は食べてないって聞きましたから、三時のおやつにちょっとしたお菓子を買ってきました」奏汰は心の中で、辰巳は本当に昼何も食べていないのか、それともただ適当な言い訳をしただけじゃないのかと呟いていた。それだ。この時、奏汰は急に玲に近づく口実を思いついた。近づく理由がないのであれば、つくればいい。機会がないなら、その機会を自分でつくることだってできる。辰巳はそれを受け取り、デスクの上に置いて、咲に言った。「配達してちょっと疲れただろう。一緒にお菓子を食べようよ。食べ終わったら、俺が送っていくから」「私はお腹は空いていないので、遠慮しておきます。来栖さんが外で待ってくれてるので」咲も口にしなければよかったのだが、会社の外で来栖浩司が待っていると聞くと、辰巳は彼女と彼を二人きりにさせたくなかった。辰巳は言った。「来栖さんもなかなかこっちには来られないだろうし、二日くらい星城で気晴らしに遊んでもらったらいいじゃないか。いつも彼の世話になるのも悪いだろう。君には俺がいるんだから、俺が後で送っていくよ」咲は少し黙ってから言った。「彼は私とビジネスの話をしに来てるんです。さ、仕事に戻ってください、私はこれで失礼します」そう言いながら彼女は体の向きを変えて、奏汰にも忘れず別れの挨拶をした。「下まで送るよ」辰巳は彼女と一緒に行こうとした。「だったら、俺もちょうど帰るし、柴尾さんを下まで送ろうか?」奏汰がそう提案してきた。辰巳はそんな彼の言葉など聞こえていないふりをした。そして辰巳は引き続き咲と一緒に出ていった。本来帰ろうと思っていた奏汰はこの時その考えを変えて、辰巳のオフィ
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第1748話

全てを知った流星は混乱してしまい、迷っていた。彼は将来公務員試験を受けようと考えていた。それが両親と姉が大きな犯罪を犯してしまっては、それどころではなくなってしまった。最も彼が受け入れがたいのは、実の両親が異父姉である咲の父親を殺害したことだ。流星も咲も同じ母親から生まれたというのに、母親は咲にどんな態度をとっていたか?その真相を知り、流星は事態をのみ込むことができた。どうして両親が咲にあそこまで冷たい態度をとっていたのかというと、それは彼女の父親の死が関係していたわけだ。流星は姉が父親の敵討ちのために、血の繋がる家族にこのような仕打ちをするのも当然だと思った。なにせ、両親はこのような犯罪に手を染めてしまったのだから。流星にとっては実の両親であるわけだから、昔から敬っていた姉が彼の両親にしたことも、受け入れるのは難しい。真実を知ってから今に至るまで、流星はずっと咲を避け続けている。同級生の家に住まわせてもらい、咲が何度も彼を探しに来ても、会おうとしなかった。彼が同じく尾崎家と黒川家の人間とも会おうとしないのが、せめてもの救いだった。両家からそそのかさせても聞く耳を持とうとしない。流星は道理がわからないような人間ではない。彼はただ、急に家族がここまで変わってしまったことを受け入れられないだけだ。浩司は辰巳が咲を見送りに出てきたのに気づくと、鼻で笑ってぶつくさと不満をもらした。「今さら何を良い人ぶってることやら。明らかに咲の目が見えないことがわかっていて、彼女に直接花と食べ物を持って来させてるじゃないか」咲は彼の言うことは聞かず、引き続き花屋の経営を行い、昼間はずっとあの店にいる。あの花屋を閉じようとしない原因は、まずは二人の店員との関係が良いことだ。もし、店を閉めてしまえば、二人は仕事を失うことになる。それから次に、彼女は草花が好きであること。そして三つ目は、恐らく辰巳のせいだろう。咲は辰巳のことが好きだが、ただ目が不自由なことが心に引っかかっていて、その先に進むことができずにいる。彼から遠ざかりたいと思いながらも、それはできずにずっと迷い続けている。咲がもし本気で彼から離れたいと思えば、さっさと花屋を閉じてしまって、会社の経営に忙しくしていればいい。あちこち出張に走り回れば、辰巳が追いかけてくるのを待つ時間すら
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第1749話

浩司は辰巳の言葉に反応した。「副社長が咲と結婚できることになった時には、ぜひとも招待してください」そう言いながら、浩司は咲のために車のドアを開けて、彼女が車に乗り込むと自分も車に乗った。これ以上話にならない男の相手をするのが面倒だと思っていた。相手をしていたら、きりがない。浩司はさっさと車のエンジンをかけて、咲を乗せたまま結城グループを離れた。辰巳は会社の前に立ち、その車が遠ざかり見えなくなるまで見送ってから、振り返ってビルの中に入っていった。その様子を警備員が見守っていた。「あれは婚約者の兄的存在なんだよ」辰巳は警備員たちが何を考えているのかお見通しだった。会社で婚約者が他の男と一緒に逃げてしまったなどという変な噂が広まらないように、彼はひとこと説明しておいた。浩司は咲の血の繋がった兄ではないが、二人は互いに兄妹だと言い合っている。咲は浩司のことを本当の兄のように慕っている。警備員は気まずそうに笑っていた。彼らはさっき、副社長が浩司のことを「来栖」と呼んでいるのを聞いていた。それは将来、辰巳の妻となる予定の女性と名字が違う。彼女の本物の兄ではないのだから、辰巳の言った「兄的存在」というのを黙って信じるしかない。副社長は一体何者なのかを考えると、警備員たちは副社長の婚約者を奪おうとするような輩はこの世に存在しないだろうと思った。辰巳は彼らがどう思っているかなど、構うのも億劫だった。ただ、婚約者が他の男に奪われたなどという変な噂がたたなければそれでいい。彼がオフィスに戻ると、奏汰がまだそこにいたので言った。「まだいたのか?」「もちろん、まだ死んでないし。ほら、この通りピンピンしてるだろう」辰巳は笑って言った。「理仁兄さんのところに行ってるもんだと思ってたよ」辰巳はデスクの前まで戻ると、あの花束を持ち上げてそれを暫く観賞して言った。「俺の婚約者の店の花だから、他の花屋よりも一段と綺麗だな。あの店がどんどん人気になるわけだ」「それはみんなが辰巳兄さんが咲さんのことを好きだと知ってるからだよ。辰巳兄さんか将来の若奥様と仲良くなっておこうと思って、わざわざあの店に花を買いに行ってるんだ」ブルームインスプリングの商売はもともと好調だった。良い場所に店を構えているので、普段から他の花屋よりも儲けがあった。特に、バ
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第1750話

「俺も食べてみよう」そう言うと、奏汰は手を伸ばしてお菓子を取ろうとした。しかし、手に取る前に、辰巳からパシンと手を叩かれてしまった。「これは俺の婚約者が俺のために買ってきてくれたお菓子だぞ。彼女の気遣いと愛が詰まってるんだから、俺だけがそれを堪能できるんだ。お前も食べたいなら、玲さんに頼めばいいだろう」奏汰は目を大きく見開いた。「辰巳兄さん、そんなケチ臭いこと言うなよ。お菓子一つだけだろ、それもダメだって言うのかよ。そういえば、前唯花さんが理仁兄さんに朝食を作ってくれたことがあったろ、それは全部食べきれなかったから、弁当箱に詰めて、辰巳兄さんにもおすそ分けしてくれたんだっけ?理仁兄さんを見習ったほうがいいぞ。彼のような行いこそ、家族愛に満ち溢れてるんだって」辰巳は食べながら言った。「理仁兄さんは俺らの中で一番年上だから当然だろ。俺は理仁兄さんよりも年下だから、あんな寛大な心は持ち合わせていないのさ」それには奏汰も言葉を失ってしまった。奏汰は立ち上がると、怒ったふりをして言った。「このケチ野郎、そこまでそれが欲しいとでも思うか?うちのホテルにいるシェフが作るデザートは外で売ってるやつより数倍美味いし」「だったら、ホテルで食べてくるんだな。別にここにいてくれなんて頼んでないし」奏汰はずる賢く笑っていた。「次は直接咲さんに、俺も彼女が買って来たお菓子が食べたいって頼んでみるよ。彼女は絶対何箱も買ってきてくれるに決まってる」そう言うと、彼は背を向けて出ていった。「ちょっと待て」辰巳はそんな彼を呼び止めて、すでに開けているお菓子の箱を前に押しやると、苛立ってこう言った。「食べたいなら、食べろ。ケチ扱いされちゃたまったもんじゃないからな。だけど、一つだけだぞ」奏汰は戻ってきてお菓子を一つ手に取り食べた。一口食べると彼は眉間にしわを寄せて怪訝そうに言った。「外で売ってる菓子はうちのホテルのとは比べものにならないな。全然美味しくないじゃないか、それなのにさっきはまるで珍味のような物言いだったじゃないか」「取ったのなら、責任を持って全部食べろよ。捨てるのは許さん。これは俺の婚約者の心が詰まったお菓子なんだからな」奏汰は黙ってしまった。奏汰は辰巳をむきにさせて何をしていたのだろうか?今彼の手の中にあるお菓子は、食にうる
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