All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1751 - Chapter 1760

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第1751話

海沿いの高級住宅地。浩司と咲がビジネスの話をする時には、必ず碧浜にある家で行う。ここの使用人は全て浩司が咲のために選んだ人間ばかりだ。柴尾家は、現時点では咲が主人となっているが、執事や使用人たちは母親である加奈子が雇ってきた者たちばかりで、加奈子と長い付き合いだから彼らは彼女のほうに肩入れしている。咲は柴尾家で働く全ての人員を一掃して変えてしまおうとも考えたが、自分はまだ目が治っていないので、彼ら全てを変えて新しい人を雇うと、初めて会う人たちでよくわからないから、安全面で不安になる。今雇われている者たちは表向きは咲に対して礼儀正しくしている。しかし、実際は弟の流星のほうに気持ちを傾けているのだ。特に執事は、加奈子夫妻に代わってこの柴尾家を守っているような感覚でいるので、流星に無事に柴尾家を継がせようというある種の使命感を持っているのだった。書斎で、咲は管理職たちとオンライン会議をしており、浩司が傍らに座り手助けをしていた。咲は目が見えないが、記憶力は非常に良い。秘書と浩司が彼女に伝えた話はそれが重要な事でも、些細な事だったとしても、全て覚えている。秘書は浩司が咲のために雇った人で、元社長である伯父についていたあの秘書ではない。咲はすでに伯父の秘書はクビにしてしまった。その女秘書は彼に少し気を持っていたらしく、浩司が言うには彼女が一方的に片思いしているだけで、柴尾社長のほうは全く浮気などする気がなかったということだ。彼は加奈子に一途だった。会議が終わって、浩司は咲のコップが空になっているのに気づくと、コップをとって立ち上がり、彼女のためにお茶を入れに行った。「疲れた?」浩司は心配そうに言った。「流星君はもう子供じゃないから、彼を呼んできて柴尾グループのビジネスについて教えていけばいいと思うぞ。咲の負担を軽減できるだろう」咲は流星からまだ距離を置かれたままだ。みんな咲が柴尾家のビジネスを独占しようとしていると思い込んでいる。浩司は咲がそんなひどい人間ではないことは知っている。彼女は全てを取り戻すと言っていたが、実際に弟の取り分はもちろん彼に渡すつもりでいる。柴尾社長夫妻は柴尾家の財産と、個人的な恋愛感情のために咲の父親を殺害した。咲はこの夫婦二人に復讐を誓い、彼らには法の裁きを受けてもらったのだ。それだけでなく
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第1752話

「だけど、副社長もあなたのことを信用しているみたい。じゃなかったら、私が浩司さんの車に乗るのを黙って見ているはずがないもの」浩司は言葉に詰まった。電話は辰巳がかけてきたものではなく、唯一咲に優しくしてくれるあのおばからだった。彼女は遠くにお嫁に行き、実家にはほとんど帰ってきていなかった。柴尾家の親世代の中で三女だ。「朋子(ともこ)おばさん」咲はおばの声を聞くと、今までとは全く違う表情を見せた。浩司は咲の表情から、彼女のおばに対する信頼の大きさを読み取った。おばと姪の仲はとても良い。咲のこの命も、朋子がいたおかげで助かったのだ。この十年来、咲の目を治療するために、朋子も至る所に名医の事を聞きまわっていた。そして、よく咲を連れて様々な医者に尋ねに行き、有名な神社に赴いて神様にお願いしに行くこともあった。「咲、今どこにいるの?花屋に行ったけど、出かけてるって言われたのよ。家に行ってもあなたの姿はないし」朋子は咲の父親が亡くなってから危うく咲まで命を落としそうになった事で、一番上の兄である正一と妻の加奈子と大喧嘩して仲違いした。そして今星城に戻ってきても、柴尾家の門もくぐろうとせず、ホテルに滞在していた。彼女は実家に戻ってきたが、ただ門の前でインターフォン越しに聞いて、咲が家にいないことを知り、すぐにそこを離れた。それから咲に電話をかけてきたのだ。咲は驚きと喜びに満ちた声で尋ねた。「おばさんが星城に?いつ来たんですか?どうして先に電話して教えてくれなかったんですか。空港まで迎えに行ったのに」「私も知らない土地に来たわけじゃないし、迎えに来てもらう必要なんてないわよ。今はホテルに向かってるの。今どこにいるのか教えてくれればいいよ、おばさん、ちょっとしたらあなたに会いに行くから。もしかして、結城グループにいるの?」辰巳が咲を好きなことを、朋子が知ってから咲と同じように彼のことは拒否する態度だった。いくら結城家の年配者たちが開放的な考え方を持っていて、辰巳の母親である薫子が咲が結婚した後は特に何かをやらせるつもりはなく、気楽にお金を使う生活をするだけでいいと言っているとしても、朋子はこの二人が結婚するのには反対だった。姪の咲は生まれてからずっと不幸続きだから、おばとして姪に更なる試練を受けさせたくはないという思いがあ
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第1753話

朋子の姉である朱美と樹里の二人は今、柴尾家の財産を奪おうとしている。朋子と二人の姉はすでに姉妹の情など消えている。「それでもいいですよ。なら、ここでおばさんが来るのを待っていますね」「わかったわ、じゃ、今からタクシーでそっちに向かうね」朋子はそう言うと、姪との通話を切った。おばが来たことを知り、咲は浩司に向かって言った。「浩司さん、魚とかいろいろ買いに行こう。おばさんは海鮮が大好きだから」「ああ」浩司は咲と一緒に魚介類を大量に買って帰ってきた。咲は買って来た魚介類の下処理をして、おばが来たらすぐに作れるようにしたかったが、目が見えないのでどうしようもなく、結局は浩司に手伝ってもらった。「私って本当に何もできない人間ね」咲は自分を卑下して言った。「普通の人と同じような生活を想像して必死になってみるけど、結局は私には何もできない」浩司は慰める言葉をかけた。「咲、そんなふうに考えるな。おばさんが来たんだから、きっと良いお医者さんが見つかったんだよ。彼女が来たら良い知らせも持って来てくれるさ。そして君を医者のところに連れていって、治療してくれるはずだ」彼とおばが諦めずに咲の目の治療をしようとしてくれている。しかし、浩司は仕事が忙しいので、多くはおばが一人であちこち走り回っていた。彼は経済的な援助をしている。朋子は結婚して遠くに住んでいる。もともと夫の家は条件がよく裕福だったのだが、商売に失敗してしまい、危うく破産するところまで追いつめられてしまった。そこからなんとか立ち上がって持ちこたえることはできたが、以前と同じような生活はできなくなった。咲の目の治療をするため、朋子もかなりのお金を費やした。浩司が柴尾グループで正一から信頼を得た後、その収入は毎年上がっており、彼自ら経済的な援助を朋子に申し出たのだ。朋子は咲にとって一番親しい家族なので、浩司はそんな彼女がお金に困るような状況にさせたくなかった。「そんなにすごい医者なんて簡単に見つからないでしょ?もうあとは天に任せるしかないわ。今はもう昔ほど意地になって目を治したいとも思っていないし」失望する回数が多すぎたのだ。暗闇の中での生活を十年も続け、咲はこのような日々にはもう慣れてしまった。もちろん失明から治るのが一番良いが、それが無理なら、この闇の中
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第1754話

浩司は恩をきちんと相手に返す男だ。咲が昔彼を救ってあげ、手助けしてくれた恩をずっと返そうとしてくれるのだ。今では咲の片腕とも言える、頼れる存在だ。以前、朋子は咲と浩司を恋人同士にさせたいと思っていた。彼女は浩司はとても頼りになる男だし、咲の目が見えないことも気にしない。浩司のほうも咲のことが好きなようだが、彼はその気持ちをずっと隠していて、普通の人にはそれがわからなかった。ただ、咲は浩司のことを本当の兄のようにしか思っておらず、男女間の恋愛感情は持っていなかった。朋子は何度も探りを入れてみたが、結局その考えを諦めてしまった。「世話だなんて、そんな大したことじゃないですよ。おばさん、座っててください。食事の用意ができたら、二人にまた声をかけますから」浩司はキッチンに戻ってまた引き続き忙しそうにしていた。おばと姪の二人はソファに腰掛けた。「おばさん、どうして葵ちゃんを連れて来なかったんですか?」咲の言う「葵ちゃん」とは、ちょうど二歳になった朋子の孫娘だ。葵はとても可愛らしく誰からも好かれる子だ。「あっちのおばあちゃんが迎えに来て、夏は向こうで過ごすの。私も家から来たわけじゃないからね。何度かA市に行って、名医には会えなかったけど、酒見先生には会うことができたわ」その言葉を聞いて、咲は少し緊張してきた。酒見医師は名医の唯一の腕の良い教え子だ。名医はその全ての技術を酒見医師に伝えている。彼女は毒についても詳しく、取り扱いも上手らしい。それで酒見医師を怒らせようとする人間はいないそうだ。みんな彼女に気づかれないうちに毒殺されるのを恐れているのだ。「酒見先生……私の目の治療をしてくれるっておっしゃっているんですか?」咲はスッとそう尋ねた。朋子は少し黙って、咲の手を掴んで引き寄せると尋ねた。「結城副社長は、最近どんな感じ?」「彼なら暫く出張してたみたいで、最近星城に帰ってきたんです。私に対しては相変わらず、同じように勝手なことばかり言ってますよ。いつも『俺の婚約者だ』って口を開けばそんな言葉を出すんです。そのせいで、星城の人はみんな私を彼の婚約者だって思い込んでるんですから」咲は不満を漏らすような言い方をしているが、その口調をよく聞いてみれば、怒っているようなふりをしているだけなのがわかる。「彼はあなたに本当
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第1755話

咲は何も言わずに黙っていた。すると、朋子がまた咲の手の甲をぽんぽんとたたき、口を開いた。「私は来栖さんの手伝いに行ってくるね」そう言いながら朋子は立ち上がりキッチンに行こうとした。そして何か思い出したらしく、また座って心配そうに尋ねた。「流星君はやっぱりあなたに会おうとしないの?」咲は首を横に振った。朋子はため息をつき、流星を庇うように言った。「彼も辛いところでしょうし、彼を責めないでね」咲は間違ったことをしていない。しかし、流星にしてみれば、ずっと敬ってきた姉が彼の両親ともう一人の姉である鈴の全員を牢屋送りにしてしまったわけだ。「私は彼を責めたりしません。流星はとっても良い子です。きっと時間が経ったらわかってくれると信じています」それには朋子は頷いて、咲に注意した。「あなたもずっと黙ったままいてはダメよ。毎日時間を見つけて彼に会いに行ったほうがいいわ。この隙を狙って、彼とあなたの仲を裂こうとする輩が出てくるかもしれないんだから。流星君は今どこで暮らしているの?住所を送って、私から話に行ってみるから」咲は答えた。「今は彼の同級生の家にお邪魔させてもらってるみたいです。郊外のほうで市内からはかなり離れているんです。車でも一時間ちょっとかかります。田舎だからおうちの敷地は広くて、毎回彼に会いに行って、前の門から入った時には、彼は後ろの門から出て行っちゃうんです。それで全く会えないし、出口が二つあるようなものだから、彼を家に閉じ込めることもできなくて」咲は弟が今滞在している場所をおばに教えた。「朱美おばさんと、樹里おばさんがよく流星君に会いに行ってるみたいです。それから、いとこたちも。それに頻繁に彼には電話をかけたりメッセージを送ったりしてるようです。流星の同級生から聞いた話だと、あの人たちが連絡してきた時はいつも私の悪口を言って、悪態をついているって。流星にはもっと心を強くもって、柴尾グループを奪還するんだって吹き込んでるんです。それから、流星が手助けが必要なら、彼らは無条件で会社を奪い返す手伝いをするとも言っているらしくて」咲は冷笑した。「私は目は見えないけど、心の目はしっかりと見えています。彼らが実は何を企んでいるかなんて、はっきりしていますよ。流星はまだ大学生にもなっていないし、一度柴尾グループを彼に任せたら、一
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第1756話

朋子はさっき到着したばかりだから、料理の手伝いはせずにゆっくりしていてほしいと咲は言おうと思ったが、朋子はじっとしていられない性格の持ち主であるし、ここに来て客人扱いする間柄でもないので、朋子のしたいようにしてもらった。朋子はキッチンに行くと浩司の結婚について尋ねた。浩司が彼女と婚約したのを知り、彼女はとても喜んでいた。浩司が結婚する時には必ず出席すると伝えた。浩司は結婚する時には、朋子のことも招待するつもりでいた。咲はソファに座り、静かにおばと浩司の世間話を聞きながらも、心では辰巳のことを考えていた。辰巳はA市に行ったりして、多くのことをしてくれたのに、どうしてそれを教えずに黙っていたのだろうか。サプライズしようと思っているのか?それとも、今すぐに酒見医師が治療に来ることができないから、彼がこの件を伝えてしまったら、咲が毎日そのことばかり考えて、あまりに期待してしまい、万が一その願いが叶わなかった時に、完全に失望させてしまうかもしれないと思って黙っていたのか?それかその両方かもしれない。咲は辰巳との出会いから今に至るまでのことを思い返していた。最初、辰巳はわざと彼女に接近してきた。それは彼が結城おばあさんに言われて彼女にアプローチし、結婚しろと指示されたからだ。咲は結城おばあさんがどうして自分を選んだのか全く理由がわからなかった。しかし、おばあさんは咲をかなり大切にしているようだった。まるで咲こそが自分の孫で、辰巳を拾ってやったかのような態度だ。それから時間が経ち、辰巳が彼女にどんどん誠意を持って接し、彼の咲を好きだという気持ちも深まっていくのを感じ取った。彼と知り合って長く、彼がどんな顔をしているのかすら知らないというのに、彼の愛情をしっかりと感じていた。おばから言われた言葉を咲はしっかりと頭に記憶させていた。朋子は最初は咲と同じように、辰巳と一緒になることには反対していた。しかし、今はそれとは真逆に、辰巳の気持ちを受け入れるよう助言してきたのだ。朋子は年上で経験者であるから、咲よりも人を見る目がしっかりとしている。咲は失明しているから、その目で辰巳がどのような人物を見ることはできないが、心の目でしっかりと感じ取ることはできている。おばが自分を騙すことは絶対にないと言い切れるし、辰巳から買収され
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第1757話

咲は数日間ずっと悩んでいた。そして朋子が星城を離れて家に帰る日、浩司と一緒におばを空港まで見送り、それからまた市内に戻ってきた。「咲、店に戻るか?それとも家に直接?」高速をおりてから浩司が咲に尋ねた。咲は少し考えてから言った。「先に店に戻るわ」「わかった」浩司はそのまま咲を店に送り届けた。ブルームインスプリングに戻ってくると、店員の一人が店番をしていて、もう一人は客に花の配達に行っていた。「咲、俺ももう帰るよ。彼女から毎日いつ帰ってくるのかって連絡があったからさ」咲は笑って言った。「それなら早く帰って。会議の必要がない限りは他の時間は彼女と一緒にいてあげてね」管理職たちとの会議がある時、浩司は必ず星城にやって来て、咲の隣でオンライン会議の手伝いをしている。「そうだ、花束を持っていって」咲はそう言いながら、彼女に渡す用の花束を包み、浩司に持って帰らせようとした。浩司は笑って言った。「飛行機に乗るのに、花束を抱えてか?いいよ、あっちに帰ったらどこかで花束を買うから。それにジュエリーショップで予約してた新作を受け取ってから、彼女に化粧品でも買って帰るんだ。きっと喜んでくれるから。彼女はすごくいい子なんだ。他の女性みたいに、あれもこれもって欲しがったりしない。今まで彼女から何かを欲しいって言われたことすらないんだ」そんな彼女に心を動かされて、最終的に彼は咲とは一生本物の兄と妹のような関係でいることを選んだのだ。全身全霊で彼女を愛し、一緒にいると誓った。そして結婚して家庭を作ろうと思ったのも、彼女の人柄に惹かれてのことだ。たまにヤキモチを焼いてくるが、浩司が咲を助け可愛がっていることを寛大に許してくれている。浩司にとって、咲の存在がなければ、今の彼は存在しない。今は彼女も彼と同じように咲に感謝しており、二人の仲もだんだん良くなっている。その点に関して、浩司も嬉しく思い、とても満足していた。咲は言った。「楓さんはあなたがお金を持っているから好きになったんじゃなくて、あなた自身を好きになったからだよ。彼女にスカートとか何着か買ってあげたらどう?夏になるとスカートがあったほうが涼しいし」「だけど、彼女はあんまりスカートをはくのは好きじゃないみたいなんだ。ブランド物のバッグを買うことにするよ」咲は笑った。
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第1758話

咲は花束を抱えて店を出た。以前、辰巳に頼まれて咲は自ら彼のいる会社まで花を送り届けていた。それを何回か繰り返し、今では誰かの助けを借りる必要なく、結城グループまで迷わず行くことができるようになっていた。結城グループへ向かう途中、咲は辰巳に行くことを伝えていなかった。到着すると、咲は会社に入らないで、外で待っていた。彼女が到着した時、あと二分で退勤時間だったので、社員たちが次々と会社の中から出てきていた。咲はこの日真っ白なワンピースを着ていた。美人な彼女が色鮮やかな花束を持ってそこに立っていると、まるで天使が舞い降りてきたかのようだった。結城グループで働く社員は、咲と辰巳の関係を知っているので、会社から出てきた社員たちは彼女に挨拶し、車で帰宅する社員は車を止めて窓を開け挨拶をした。咲はそれに対して微笑み返した。「咲さん」この時、知り合いの声が聞こえてきた。それは辰巳ではなく唯花だ。唯花はあの傲慢な夫にお願いされ、また退勤時間に彼を迎えに来ていたのだ。彼女は咲よりも早く到着していて、理仁のオフィスで三十分ほど彼の仕事が終わるのを待っていた。理仁が普段乗っているあのロールスロイスが駐車場から出てきた時、唯花は真っ白な天使のような咲に気づき、急いで運転手に頼んで止めてもらい、車を降りて咲のほうへ歩いてきた。「咲さん、いつ来たんですか?それにどうして中に入らないんですか?」唯花は心配そうに尋ねた。彼女が花束を抱えているので、また辰巳に頼まれたのかと思っていた。今はちょうど退勤時間なので咲に言った。「辰巳君に迎えに来るように電話してあげましょうか。今は人が多いから、中に入ると人にぶつかってしまうかも」唯花はこの時間帯は人が多いので誰かにぶつかってしまわないように咲はここで待っているのだと思ったのだ。「唯花、辰巳は今こちらに向かっている途中だよ」理仁は車から降りてやって来ると、唯花の言葉に続けて言った。「辰巳は午後、会社にいなかったんだ」「結城社長、こんばんは」咲は丁寧に挨拶した。理仁は「どうも」とひとこと返してからまた話し始めた。「柴尾さん、来る時、辰巳には連絡を入れていないんですね。あいつはあなたが来ることを知らないみたいですよ。ちょうどスカイロイヤルで顧客と商談があって、今こちらに向かっています
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第1759話

辰巳が会社にはいないことを知り、咲はそのまま会社の前で待ち続けた。理仁から辰巳は今会社に戻る途中だと聞いた。この時、咲は少しだけ後悔していた。彼が会社にいないとわかっていれば、事前に彼に電話したのに。しかし、それではサプライズにならない。辰巳はスカイロイヤルホテルに行っていたので、咲をそんなに長く待たせることはない。辰巳は会社に戻る途中、突然咲が訪ねてきた理由を考えていた。理仁から咲が会社に来ているとだけ伝えられ、その目的は教えてもらっていない。咲が浩司の車で彼の前を去っていったあの日以来、辰巳は数日彼女に会っていなかった。電話で連絡はしていたが、毎回辰巳が電話をしても彼ばかりが話していて、咲はずっと聞き手に回っていた。辰巳は咲のおばである朋子が来ていると知り、会いに行きたかったのだが、誰にも邪魔されずに、おばと二人の時間を楽しみたいと言って咲がそれを断わった。咲がそう言うと、辰巳は彼女がおばといる時間を邪魔しないように会いに行くのはやめておいた。咲はこの二十数年、朋子から家族の愛を受け取っていたから、おばの前では小さな女の子のように甘えるはずだ。そんな姿を彼に見せたくないのだろう。実際、辰巳は咲のことを無意識に目に入れても痛くないほど溺愛しているが、当事者の二人はこの点には気づいていないだけだろう。車が止まると、辰巳はすぐに降りてきて、急ぎ足で咲のところへ駆けつけた。「咲」辰巳が咲の前まで走ってくると、彼女が大きな花束を抱えて立っていた。彼は大きく何度か荒い呼吸を整えた後、その花束を受け取って笑顔で尋ねた。「俺に持って来てくれたの?」今までなら、彼女が花束を持って来る時は、必ず辰巳が店に電話して注文し、咲に持って来てくれと頼んでいた。しかし、今日初めて咲のほうから花束を彼に持って来てくれた。咲は彼と向かい合い、クスッと笑った。「あなたにじゃなかったら、一体誰にあげろって言うの?」それを聞いて、辰巳は嬉しそうに口元をほころばせた。「とっても綺麗だね、すごく気に入ったよ!」結城家のお坊ちゃんは今顔をくしゃくしゃにして喜んでいる。ただの花束一つでも、彼はここまで喜んでくれる。咲は彼がこんなに嬉しそうにしているのを見て、ふいに、自分の彼に対する態度はひどいと思ってしまった。「どうして先に連
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第1760話

「君のおばさんの家の商売は良くなっていくよ」辰巳はすでに朋子の夫側の状況について調べ、その家の事業に少し手助けをしてあげていた。それで、商売もまた好調になり、家庭の経済状況もよくなると確信していた。「ありがとう、よくなるといいな」咲はおばの嫁ぎ先の家が危うく破産するところまで追い込まれたことを知っていた。いとこたちにはやる気があり、彼らが努力したおかげで、立ち直らせ、経済的なプレッシャーもかなり和らいでいた。もちろん、咲はおばの家の商売が初めの頃まで戻り、それよりも上にいくことを期待していた。おば一家はみんな良い人ばかりだ。良い人は報われるべきだ。朋子の夫は、朋子が家のことを放っておいて、咲の目の治療のためにあちこち走り回っていることに不満をこぼすことはあるが、黙って経済的にかなり彼女の手助けをしていたし、もっと良い眼科医がどこかにいないか聞きまわってくれている。朋子の夫と咲は血縁関係はもちろんないが、おばがこのように姪のために十年も奔走するのを許してくれているのは、とてもありがたいことだ。「来栖さんはいつ帰ったんだ?帰る前に食事か飲みに誘ってもくれなかったな。俺は彼とはちょっと飲みたかったんだけど」浩司をでろでろになるまで酔わせてしまえれば一番良かったのに。あの男がどれくらい酒に強いのか試す良い機会だ。「彼女が彼に会いたがっているからって、待ちきれずに帰ってしまったわ。彼女にたくさんプレゼントまで用意して帰ったよ」今まで咲と辰巳の関係では、プレゼントなど互いに送ったことはない。彼女が彼の気持ちに応えようとしなかったから、それは当然のことだ。辰巳が贈っても咲が受け取らないから、お互いに愛し合う喜びや、この世で一番大事な人として接する時のあの甘いひとときを味わうことができていない。彼女の体を支えて車に乗せ、シートベルトを締めてあげてから、辰巳は運転席に乗り込んだ。あの花束は咲にあずけた。「ちょっとこの花を持っててくれないか。後部座席に置いてたら、運転している時に観賞することができないからさ」咲は彼に代わって花束を抱きかかえ、微笑んで言った。「ただの花束なのに」彼はまるでそれを貴重な宝物のように扱う。「ただの花束ではあるけど、君が初めて自分から俺のためにくれたものだろう。だからとても大切なものなんだよ。
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