唯月は他の階に移動するのにはエレベーターが使えるので、ボディーガードたちが一緒に来なくても一人で隼翔の車椅子を押して上の階に行けると思った。隼翔は今まだ自力で歩くことはできない。唯月もただ彼を気晴らしに連れ出したいと思っているのだ。毎日毎日ベッドの上で横になっている生活では、イライラが溜まってしまう。もう一カ月近くも入院している隼翔は、自分で立って歩けないことに日に日に苛立ちをつのらせていて、もう二度と歩けるようにならないのではないかと思っている。それに、余計に唯月に彼の世話をさせたくないから、彼女を追い払おうとした。彼は今の自分の姿を唯月に見られないようにするためなら、毎月彼女に千二百万円でもよろこんで差し出したいくらいだ。それに唯月が疲れるのではないかと隼翔は心配だった。彼女が世話をしてくれるようになってから、まだ一カ月余りなのに、彼女はひとまわり痩せてしまった。隼翔は自分が一体いつになったら回復するのかわからないこの状況で、このままずっと唯月に世話してもらえば、彼女が骨と皮だけになるほど瘦せ細るのではないかと心配していた。それは自分が傷つくよりも、彼にとって辛いことだ。この二日、唯月は隼翔が座る車椅子を押して下まで行き、入院病棟の外で気晴らしに散歩してくれて、彼の苛立ちはだんだんと落ち着いてきた。唯月は車椅子を押してエレベーターの前まで歩いていった。エレベーターの前に来ると、ちょうどドアが開き、美乃里と健一郎の二人が中から出てきた。二人は唯月が息子を連れているのを見ると、美乃里は素早く傍に近寄った。「唯月さん、隼翔はこれから検査?」美乃里は手に保温ボトルの入った袋を二つ提げていて、健一郎のほうも両手にいろいろと袋を提げている。美乃里は医者から許可を得て、保温ボトルの中には栄養満点のスープを入れてきた。一つは隼翔に、もう一つは唯月のために持ってきたものだ。美乃里も一目で唯月がひとまわり痩せたのに気づき、心を締め付けられると同時に後悔もあった。一カ月過ぎてから彼女は唯月に六百万円渡そうとしたが、唯月はその給料を受け取ろうとしない。唯月は過去、隼翔に助けられた時の恩返しをしているだけだと言って断わったのだ。しかし、隼翔に唯月はここで世話をして給料をもらっていると思わせるために、唯月と美乃里は口裏合わせをして演技をしている。
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