All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1771 - Chapter 1780

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第1771話

唯月は他の階に移動するのにはエレベーターが使えるので、ボディーガードたちが一緒に来なくても一人で隼翔の車椅子を押して上の階に行けると思った。隼翔は今まだ自力で歩くことはできない。唯月もただ彼を気晴らしに連れ出したいと思っているのだ。毎日毎日ベッドの上で横になっている生活では、イライラが溜まってしまう。もう一カ月近くも入院している隼翔は、自分で立って歩けないことに日に日に苛立ちをつのらせていて、もう二度と歩けるようにならないのではないかと思っている。それに、余計に唯月に彼の世話をさせたくないから、彼女を追い払おうとした。彼は今の自分の姿を唯月に見られないようにするためなら、毎月彼女に千二百万円でもよろこんで差し出したいくらいだ。それに唯月が疲れるのではないかと隼翔は心配だった。彼女が世話をしてくれるようになってから、まだ一カ月余りなのに、彼女はひとまわり痩せてしまった。隼翔は自分が一体いつになったら回復するのかわからないこの状況で、このままずっと唯月に世話してもらえば、彼女が骨と皮だけになるほど瘦せ細るのではないかと心配していた。それは自分が傷つくよりも、彼にとって辛いことだ。この二日、唯月は隼翔が座る車椅子を押して下まで行き、入院病棟の外で気晴らしに散歩してくれて、彼の苛立ちはだんだんと落ち着いてきた。唯月は車椅子を押してエレベーターの前まで歩いていった。エレベーターの前に来ると、ちょうどドアが開き、美乃里と健一郎の二人が中から出てきた。二人は唯月が息子を連れているのを見ると、美乃里は素早く傍に近寄った。「唯月さん、隼翔はこれから検査?」美乃里は手に保温ボトルの入った袋を二つ提げていて、健一郎のほうも両手にいろいろと袋を提げている。美乃里は医者から許可を得て、保温ボトルの中には栄養満点のスープを入れてきた。一つは隼翔に、もう一つは唯月のために持ってきたものだ。美乃里も一目で唯月がひとまわり痩せたのに気づき、心を締め付けられると同時に後悔もあった。一カ月過ぎてから彼女は唯月に六百万円渡そうとしたが、唯月はその給料を受け取ろうとしない。唯月は過去、隼翔に助けられた時の恩返しをしているだけだと言って断わったのだ。しかし、隼翔に唯月はここで世話をして給料をもらっていると思わせるために、唯月と美乃里は口裏合わせをして演技をしている。
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第1772話

美乃里は夫と息子が喧嘩する前に、急いで息子の車椅子を押しながら右側の車椅子専用レーンを歩いていった。唯月と美乃里は車椅子を押しながら一緒に下におりていった。一階に到着すると、看護師が病人を連れてエレベーターに乗り込むのを見た。そこには唯月の知り合いもいた。元小姑である英子の夫、輝夫だ。相手も唯月に気づき、無意識に足を止めた。「唯月さんじゃないか」輝夫のほうから唯月に声をかけてきた。唯月は知り合いではないふりをして、そのまま通り過ぎてしまおうと考えていたのだが、相手から声をかけられてしまったので、立ち止まるしかなかった。美乃里は輝夫のほうを見て、唯月に尋ねた。「どちら様?」「元夫の姉の旦那さんです」美乃里は「あら」とひとこと声を出し、車椅子を押す役目を引き受けて唯月に言った。「じゃあ、私たちは外で待っているからね」輝夫は唯月に何か話がある様子だったので、美乃里は他人の事情に干渉するべきではないと思った。美乃里が隼翔の車椅子を押して去ってから、唯月は輝夫に尋ねた。「柏木さんはどうしてここに?ご家族の誰かが入院されているんですか?」輝夫は辛そうな顔をして言った。「英子だよ」「英子さんはどうしたんですか?」英子のような血気盛んな人間が、一体いつ入院したというのだろうか。唯月の印象では、元小姑の英子は毎日猛獣のようにいつでも勢いがあり、この世の何者も恐れない、エネルギッシュな人間だ。普段風邪すらもあまり引くことはなく、入院するなどありえないのだ。輝夫は答えた。「病気じゃなくて、怪我をしたんだよ。あの成瀬莉奈っていう最低女に刺されたんだ。幸い急所は外れていたから、命の危険はない。手術を受けて、今は一般病棟に入院しているだけなんだ。だけど、俊介君のほうは今も手術室で救命措置を受けているよ。彼の傷が一番ひどくて、生死の境を彷徨ってる。何度も刺されたみたいだからね。俊介君のご両親は今手術室の外で待っているから、私は英子の様子を見に行くところなんだよ」それを聞いて唯月はかなり驚き動揺を隠せなかった。「柏木さん、これって、一体どういうことなんですか?成瀬さんがどうしてあの人たちを刺したりするんですか?」莉奈が佐々木母と英子を刺したと聞いてもそこまで驚きはしないが、俊介が何度も刺されたと聞くと、それはかなり意外だった。
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第1773話

輝夫が莉奈を罵るのを聞きながら、唯月は心の中で、もし、佐々木家が成瀬莉奈という何の力も持たない女性をあそこまでいじめていなければ、彼女もナイフで人を刺すまで追いつめられなかっただろうにと思った。窮鼠猫を噛むとはまさにこのことだろう。逃げ場を失った弱い者が、奮起して抵抗しようと思えば、血を見る争いに発展すると思わなかったのか?英子が刺されたと聞いても、唯月はまったく驚かなかった。英子は人の粗捜しをして何かと嫌味を言う人間だし、常に実家のほうに首を突っ込んでくるのだから、弟の嫁から恨まれないほうがおかしい。唯月と俊介がまだ離婚する前、唯月でさえ、小姑の英子のことが憎くて憎くてたまらなかった。しかし、幸いあの頃の英子は今ほどひどくはなかった。弟の家によく居座ってはいたものの、唯月にはまだ息をつける時間があった。それで殺人を考えるほど追いつめられることはなかったのだ。莉奈が余所者と結託して恭弥をさらおうとしたことを、英子はかなり恨んでいた。それで、何かにつけて莉奈にあたっていて、英子が帰ってくるたびに、弟夫妻の仲を引き裂いて、両親と莉奈を衝突させようと画策し、佐々木家は常に心落ち着く暇などないくらい混乱していた。誰だって忍耐の限界というものがある。英子の行動に、莉奈が耐えられなくなり、英子を刺して病院送りにしてしまったのだ。結婚して家を出た女が、頻繁に実家に帰って来れば、家族はもちろん喜んで迎え入れてくれる。しかし、他の兄弟の家庭事情にいちいち口出ししてきたり、両親の前で嫁の悪口を言ったりしていれば、それはもちろん煙たがられて当然だ。だから、結局いつかは、英子のような目に遭ってしまうはずだ。唯月が意外に思っているのは、莉奈が俊介を刺したことだった。しかも、命まで奪いかねない深い傷を与えるほどにだ。俊介は莉奈に対して、結婚する前であろうが、結婚後であろうが、いつも彼女の言うことを聞いて甘やかしていた。両親や姉がいつも彼の目の前で莉奈の悪口を言い、離婚しろと騒ぎ立てても、彼は常に莉奈の味方になっていたというのに。それに俊介は家族と莉奈の間を取り持とうと努力していた。ただ、両親と姉がかなり頑固な人間で、彼がいくら頑張っても、両方の仲を近づけることはできなかったのだ。そして少し前に莉奈は流産して第一子を失ってしまった。だから彼女が
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第1774話

唯月が初めて隼翔を気晴らしに外に連れ出した時、彼は病院に出入りしている人たちは、全く彼が歩けないことなど気にしていない様子だと思った。だからもちろん彼に同情の目を向ける人間など一人もいなかった。病院では、人が亡くなることは日常的だ。それと比べれば、車椅子生活などどうということもないだろう?「唯月さん、こっちよ」美乃里は唯月が出てきたのを見ると、足を止めて彼女に手招きした。すると隼翔は顔をこわばらせた。さっき、唯月が輝夫が誰なのか美乃里に紹介しているのを聞いて、唯月の元夫家族なのだとわかった。だから隼翔はかなり面白くなかった。あの佐々木家は本当にいつまでも付き纏い、唯月がどこへ行っても彼らに遭遇してしまう。そうじゃなくても、佐々木家の人間のほうがまんぷく亭にまで来て唯月の周りをうろうろするのだ。離婚してからもう半年過ぎているというのに、あの佐々木家の人間は一体何を考えているのか。唯月には佐々木俊介という男しかいないとでも思っているのか?佐々木家は俊介という家族のことを持ち上げ過ぎだと思うが。唯月がまだ太っていた頃でも、隼翔はそれが原因で唯月を疎ましく思うことなどなかった。ただ、彼女は少し痩せたほうがいいだろうということしか考えなかった。あれ以上太り続けては、健康のためにもよくないと思ったからだ。だから、唯月が東グループで働くことになった時、隼翔は余計なお世話だが、唯月に毎日会社の回りを何週か走ってダイエットをするように言いつけたのだった。別に太っている彼女が気持ち悪くてそう言ったわけではなかった。そして痩せた唯月なら、もちろん彼が嫌うことなどなかった。彼自身、一体いつから唯月のことを好きになったのかわからないくらいだ。彼女が太っていても、痩せていても、彼は一度も彼女のことを嫌いになったことはない。すると唯月がやって来た。「元夫のお姉さんの旦那さんが、あなたを呼び止めて何の用だったの?」隼翔は顔をこわばらせて、唇をきつく結んでいて、彼から唯月に尋ねることはなかった。美乃里のほうが尋ねたのだ。「佐々木家でちょっとトラブルがあったらしくて」唯月は答えた。「成瀬さんに佐々木俊介姉弟の二人が刺されたらしいです。彼は傷が深く、今も手術室で救命の手術が行われているそうです。お姉さんのほうは傷が深くなくて、も
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第1775話

唯月は言った。「おば様、ちょっと行ってきたいです。陽は彼の子供だから、もし助からないようであれば、最期を看取るくらいはさせないと。社長、それからおば様、すみません」「私が隼翔に付き添っていればいいから、早く行ってらっしゃい。何かあったら私たちに言ってちょうだいね」唯月は頷いた。そしてすぐにその場を離れた。唯月の姿が見えなくなってから、美乃里は車椅子を押しながら、ゆっくりと歩き言った。「不倫男の結末は、今の佐々木俊介を見ればその代償だとわかるものね。隼翔、将来結婚したら、絶対に浮気なんてしたら駄目よ。結婚に責任を持ってしっかり守らなくちゃ。もし、自信がないのであれば、お母さんもあなたが一生独身であることを許してあげる。他所の家の娘さんを不幸にしたらいけないから。私には娘はいないけど、私だって女だもの。夫が他の女と一緒にいるところを見たいと思う人なんていないでしょ?もし、愛が冷めてしまったのであれば、離婚を申し出て、離婚した後また独身に戻ってから他の人を好きになって追い求めればいいのよ。それは彼らの自由だもの」隼翔は冷淡な声で答えた。「母さん、俺は一生独身を貫くつもりだ。だから、息子があの男と同じような最期を迎えるのではないかと心配する必要はないぞ」「なにバカなことを言ってるのよ。あなたはきっと元通りの生活が送れるようになるわ。リハビリを無事終えたら、唯月さんを追いかけて結婚したらいいじゃないの。陽君の継父になるの。お母さんはもう反対したりしないから。初めにあなたが言っていたように、誰と結婚して、どんな生活を送ってもあなた自身が幸せを感じられるのなら、もう何も言わないから。陽ちゃんはとっても可愛い子じゃないの。お母さんも彼がとても好きだわ。あの子を孫として迎え入れるのは、今なら問題ないわよ」すると隼翔の声はさっき以上に冷たくなった。「母さん、自分は身勝手すぎると思わないか?俺がピンピンしてた頃は俺と唯月さんが結婚するのには反対していた。俺が諦めないなら、親子関係を切ってやるとも言ってたろ。それが今俺の体がこんなことになって、自分で立つことすらできなくなってから、唯月さんを好きになってもいい、彼女を追いかけて結婚してもいいと言うのか。つまり、彼女に無給のヘルパーをさせたいだけだろうが、俺は絶対に彼女とは結婚しない!彼女がずっと俺
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第1776話

唯月も慰めの言葉が出てこなかった。彼女は佐々木母の体を支えて椅子に座らせ、持っていたティッシュを取り出して、涙を拭いてあげることしかできなかった。佐々木父の目も真っ赤になっていて、時折背を向けて、涙にぬれた目を擦るのを隠していた。この夫婦には息子はこの俊介だけだ。もし、たった一人の息子に何かあったら、どうすればいいのだ。暫くしてから、佐々木母はようやく号泣するのを止めた。しかし、彼女はかなりショックを受けているらしく、やはり言葉が出せないようだった。唯月は佐々木父のほうを向いて、心配そうに尋ねた。「おじさん、俊介の様子は?」彼は嗚咽交じりに言った。「まだ救命措置がとられているよ。医者はまだ一度も手術室から出てきてない。ただ他の医者がひっきりなしに入っていくのしか見てないんだ。輸血もどんどん運ばれていっていた。あの子はとてもたくさん血を流していたから……」息子の悲惨なあの状況を思い出し、佐々木父は悲痛な様子でまた涙を流した。彼はまさか成瀬莉奈が息子を死にそうになるほどナイフで刺すとは思っていなかった。もし、彼らが何かおかしいと思い、急いでスペアの鍵を取り出して部屋の中に入っていなかったら、俊介は現場ですでにこと切れていただろう。英子が俊介を助けるために、同じく刺されてしまった。あの女は、やりすぎだ。俊介は彼女によくしてやっていたというのに。莉奈はトイレに長時間座りっぱなしで、出てきた時に足がしびれてうっかり転んでしまい、お腹にいた子供は亡くなってしまった。俊介はその事で莉奈を責めたりしていない。みんなが彼女を責め続けても、俊介だけはずっと彼女を庇い、絶対に離婚しようとはしなかった。そんな彼にどうしてここまでひどいことができるというのか!佐々木父はいくら考えても、理解できなかった。彼の考えは唯月と同じだった。莉奈が誰かを殺したいと思ったら、真っ先に殺す相手は俊介でなく、その家族ではないのか?それなのに、莉奈はどうして俊介を殺そうとしたのだろうか。俊介は大人の男なのに、どうしてそう簡単に莉奈にやられてしまったのか。悲劇が起きた時、夫婦は部屋で休んでいたのだ。どうしてそんな二人がナイフを出してきて争うほどの喧嘩にまで発展してしまったのだ?佐々木父は妻の悪いところを永遠に変えられないのを知っていて
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第1777話

夫を叱りつけた後、佐々木母は目に涙を浮かべて唯月に言った。「唯月さん、やっぱり陽ちゃんを連れてきてくれないかしら。俊介は陽ちゃんのことをとても可愛がってたから。たった一人の子供だもの、陽ちゃんが来たら息子が会いたがってるって知ってなんとかこの世に留まる力が湧いてくるかもしれないわ」そしてまた唯月が彼女を落ち着かせようと言葉をかけた。「唯花が姫華ちゃんと今日は田舎の農場を見に行っているから、陽もきっと一緒に田舎のほうに戻ってるはずです。電話していつ戻ってくるか聞いてみますから」唯月は元姑からの願いを断わることはなかった。俊介がどうなるかに関わらず、陽は俊介の子供だから、病院に来させるべきだ。二人は離婚してしまったが、唯月は今まで陽の前で俊介の悪口を言ったことはない。それに、息子に俊介を恨ませるようにも教育はしていなかった。俊介に非があったとしても陽の養育費をきちんと俊介は出しているのだから。佐々木母は泣きながら頷いていた。佐々木母は息子はもう駄目だという不吉な予感がしていた。しかし、心の中ではひたすら息子が助かってくれと祈り続けた。唯月は隅のほうに行き、妹に電話をかけた。唯花はすぐに姉からの電話に出て尋ねた。「お姉ちゃん、どうしたの?」この時間帯なら、姉は病院であの偏屈な東社長の世話をしているはずだから、突然電話が来ると、唯花は何かあったのではないかと心配になった。「陽はあなたと一緒にいるの?」「姫華と一緒に田舎のうちに帰ってるから、遠いし、陽ちゃんは連れてきてないよ。陽ちゃんなら理仁さんと一緒に会社にいるわ」「あら、わかったわ。じゃあ、結城さんに電話をかけるわね」「お姉ちゃん、東社長が陽ちゃんに会いたいって?」唯花は隼翔が陽のことを恋しく思っていると勘違いした。陽は数日おきに、母親と一緒に隼翔のお見舞いに行っていた。隼翔は大人相手になら心をかたく閉ざして冷たい態度をとることができるが、子供である陽にはそれができなかった。陽が少しでも泣くと、彼は耐えられなくなり、すぐに陽に返事をしたくなってしまう。唯月は少し黙ってから口を開いた。「唯花、佐々木俊介と英子さんの二人が怪我をしたの。どういうわけか知らないけど、成瀬さんがあの二人をナイフで刺したんだって。英子さんのほうは傷が浅くて命に別条はないらしいけ
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第1778話

「佐々木俊介さんのご家族の方はいらっしゃいますか」「先生、私たちが彼の両親です。先生、うちの息子の状況は?」佐々木父が全身の力が抜けてしまった妻を支えながら、医者のほうへと近づき焦った様子で尋ねた。医者は答えた。「患者の怪我はかなりひどく、できる限りのことはしました。今はまだ命の危険から抜け出していません。暫くはICUに入る必要があります。意識が戻るかどうかは、彼の生命力にかかっています」佐々木母は完全に力をなくし、倒れそうになってしまった。佐々木父は妻を支えきることができなくなり、唯月が手伝ってやっと支えられ、なんとか持ちこたえた。「先生、うちの子を助けてください。お願いします、うちの子を助けてください。うちには息子は一人しかいないんです。しかもあの子はまだ若くて……」佐々木母は医者の白衣をがしっと掴んで泣きながら助けを求めた。「おばさん」唯月が彼女の手を掴んで引き戻し、医者に申し訳ないと謝罪し、お礼も忘れなかった。医者は家族の心情を理解して言った。「我々は手を尽くしました。患者さんの目が覚めるかは、私たちにもわかりません。ご家族は心の準備をなさってください」医者によると、俊介の傷はかなり深く、多くの医者が救命のために努力を尽くしたが、それでも俊介はなんとか持ちこたえている状況らしい。しかし、命の危険から脱したわけではなく、ICUに入って意識が戻るかどうか、ICUから生きて戻ってこられるかは俊介自身にかかっているのだ。医者はもうあらゆる手を尽くした。「先生、どうもありがとうございます」唯月は再び、医者にお礼の言葉を述べた。佐々木父が妻を慰めた。「もう泣くな。俊介はまだ生きているんだから、泣くんじゃない」佐々木母は支えられながら椅子に戻ると、唯月からティッシュを受け取り涙を拭いて、何か思い立ったらしく、急いで唯月に向かって言った。「唯月さん、妹さんに連絡して陽ちゃんは来なくていいと伝えてちょうだい。俊介はまだ生きてるし、ICUには家族も入れないわ。陽ちゃんが来ても父親に会えないんだから、やっぱり来させないほうがいいでしょう。病院も楽しいところじゃないし、陽ちゃんはまだあんなに小さいから」息子が死の淵から戻ってこられるかどうか、佐々木母は自信がない。もし、息子がいなくなれば、彼女と夫が生きる気力を保て
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第1779話

莉奈はすでに警察に捕まっている。彼女は本来であれば刑務所にいるはずだったが、妊娠したことでその刑から一時期だけ逃れることができた。そして今、お腹の子供は亡くなり、ナイフで人を刺すという殺人未遂の罪まで加わっている。もし、俊介が最終的に命を落としてしまったらどうなるか。彼女はナイフで人を刺し、殺人を犯したことになり、再び裁判となった時には死刑の可能性も十分にある。唯月が入院病棟の外にいる隼翔と美乃里の二人に会いに行こうと思っていた時、ちょうど美乃里から電話がかかってきて、二人は病室に戻ったと伝えられた。それで唯月はそのまま隼翔の病室に戻った。「内海さん、やっと戻ってきてくださったんですね。うちの坊ちゃんがまた苛立って物を壊し始めたのです。手に届く物ならなんでも掴んで投げるんですよ」唯月が現れると、東家のボディーガードたちは隼翔がまた暴れていると唯月に訴えた。「どうしてまた機嫌を悪くしたんですか?」唯月は聞きながら病室のドアを開けて中に入ろうとした。ボディーガードが答えた。「我々もよくわからないのです。奥様が隼翔様を連れて帰ってきたと思えば、二分も経たずに彼が大声で怒鳴り散らし始めたのです。退院して家に帰ると騒ぎ出して、奥様が慰めようとしたものの、彼はまったく聞く耳を持たずに物を壊し始めました。唯月はすでに中に入っていた。「退院して、家に帰るぞ。俺はここには一分たりとも長居したくない!」この時隼翔はベッドに横にならずに、まだ車椅子に座ったままの状態だった。それで、彼は自分で車椅子を動かして移動し、手に取った物をなんでも投げ飛ばしていて、病室の中は悲惨な状態だった。医者や看護師も彼を落ち着かせようと、言葉をかけていた。美乃里はというと、この状況に焦り、怒りも感じていた。それに息子に心を痛めてもいた。健一郎はもうこれに慣れてしまった様子で、黙ってめちゃくちゃになった床を片付けていた。「東さん、まだ退院は許可できません。もう暫くすれば退院することができますから。今はだいぶ回復されているじゃないですか、これ以上は……」「回復したって?俺の一体どこが良くなったというんだ?言ってみろ、一体どこが変わった?自分の足で歩くこともできんぞ。車椅子に座れるようになったことが回復したとでもいうのか?ここにいてもずっと横になってい
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第1780話

隼翔は医者から話を聞くと、すぐに唯月に退院手続きをしに行くように催促した。この時、医者は心の中で、毎日こんなふうに騒がれて、我々ももううんざりだ、少しくらい早めに退院してもそんなに問題ないから、そうしたいなら勝手にしろ、と悪態をついていた。東家には金がある。専属の訪問医もいる。隼翔が退院した後、東家も専門の医者に診てもらうことができるのだ。「先生、うちの子は本当に退院してもいいのでしょうか?」美乃里は息子が退院して、何かあったらどうしようかと心配していた。「彼がどうしても退院したいと言うのであれば、それでも問題ありません。家に帰ったらしっかり休んでください。そうすれば気持ちもここにいるより良くなるでしょうし、気分が良ければ体の治りも早くなりますから」医者がそのように言うので、美乃里はボディーガードを呼んで病室を片付けさせ、彼女と夫が退院の手続きに行った。そして不機嫌な息子がもうこれ以上騒がないように、彼を唯月に任せた。ようやく退院できると思い、隼翔の心はすぐに良くなって落ち着いてきた。彼は部屋の中でおとなしくテレビを見て、両親が退院手続きを終わらせて家に帰れるのを待っていた。唯月は彼の隣に座っていて、一体何を考えているのかは読み取れなかった。隼翔は彼女の表情を気にしていた。そして突然彼女に尋ねた。「元旦那はまだ生きているのか?」「ええ」隼翔は唇を尖らせて言った。「しぶとい野郎だ」唯月は少し黙ってから言った。「先生は、彼の傷はかなり深く、今も危険な状態からは抜け出せていないと言っていました。ICUに移って暫く様子を見るそうです。先生たちはできることは全てしたと、彼が目を覚ますかどうかは彼自身にかかっていると言っていましたよ」「一体どういうことなんだ?クズ男とクソ女がまさか刺し合う日が来るとはな」隼翔の最後に放った言葉には皮肉が混ざっていた。隼翔は俊介と唯月が離婚する前と後を詳しく知っている。俊介の成瀬莉奈に対する態度はずっと良かったのだ。唯月が怪我をして入院すると、俊介は毎回唯月のお見舞いに来るたびに、莉奈の代わりに許しをもらおうと思っていた。息子の陽も危険にさらされたというのに、俊介はそんな中でも莉奈を庇おうとしていたのだから、明らかに彼女のことを本気で愛していたのだろう。「わかりません。突然の
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