All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1781 - Chapter 1790

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第1781話

理仁が確認するように唯月のほうを向くと、唯月が頷いたので、退院できるのは本当だとわかり、隼翔に祝福する言葉をかけた。「隼翔、怪我が治って退院できることになったんだな、良かったな。じゃあ、タイミングよかったよ、ちょうどお前を連れて帰れるから」隼翔は言った。「横になっているだけならどこででもできるだろう。今は点滴もする必要はないんだから、家に帰って横になっていたほうが気分が少しはマシだ」できることなら一生、入院したくないと彼は思った。「あずまおじたん、良くなった?」陽は隼翔のそばに近寄り、心配そうに尋ねた。「おじさんは今日退院できるよ」隼翔は陽の手を引いて抱き上げ、膝の上に座らせようと思ったが、陽は状況をよく理解しているので下におりようともがいた。「おじたんは足がいたいでしょ、座っちゃダメだよ」母親からおじさんは足を怪我して、暫くしないと良くならないから、膝に乗ってはいけないと言われていたのだ。陽はそのことをしっかりと覚えていた。隼翔は笑って言った。「陽君がじっと座っているなら、大丈夫なんだよ」確かに痛いのは痛いが、事故にあった直後のあの激痛と比べれば、かなりマシになっている。そして隼翔は再び陽を抱き上げて、膝の上に座らせた。陽は膝の上でおとなしくじっとしていて、頻繁に尋ねた。「おじたん、足痛くない?痛いなら、ぼく下におりるよ」「わかった」状況をよく理解している陽を見て、隼翔はかなり心が癒され、笑顔を取り戻していた。理仁は傍でその二人がおしゃべりしている様子を見守っていた。唯月は隼翔の荷物を片付ける手伝いをしていた。たまに隼翔はそんな彼女の様子を見て、瞳の奥に彼女への愛しさを漂わせたが、すぐに視線を彼女からそらした。「理仁、俺の会社は今どうなってる?」東グループは今隼翔の兄が臨時で社長代理を務めている。恐らく仕事を引き継いであまり慣れないせいか、息つく暇もないくらい、かなり忙しそうにしていた。しかしまだ要領を完全に掴んでいないようだ。隼翔はたまにそんな兄に会社の状況を尋ねていた。兄からの返事に隼翔はいつも言葉を失っていた。だから、理仁に聞いたほうがもっとはっきりわかるはずだ。結城グループと東グループは互いに重要な取引相手だからだ。「通常どおりにやってるよ、隼翔の兄さんも今は少し慣れて
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第1782話

「きっと良くなるよ」理仁は隼翔を励ました。「隼翔、お前は強くて自信に溢れた男だ。自分を信じるんだ。お前が諦めずにリハビリを続ければ絶対に歩けるようになるよ。医者もリハビリすれば治る確率は高いって言ってたしな」隼翔は黙っていた。医者はただ彼が元通り歩けるようになる可能性はあるとだけ言い、確実に歩けるようになるとは言っていない。「あずまおじたん、がんばって!」陽は大人の会話を理解できるので、すかさず隼翔に向かって大きく手を振り、隼翔を励ましていた。隼翔は陽の頭を優しく愛しそうに撫でてやった。理仁は言った。「義姉さんは飲食店をもう一軒作っているんだ。元は他の飲食店だったから、それをもう一度シンプルにリフォームし直して、すぐに営業開始できるくらいなんだ。隼翔、義姉さんもこんなに努力してるんだから、お前が諦めたらダメだろう」「彼女はまんぷく亭はもう閉じてしまうのか?」唯月は自分の商売について、一度も隼翔に話したことはないし、彼も聞かなかった。彼は今唯月とは今後進展はないだろうと思っていた。自分がリハビリをして歩けるまで回復しない限り、彼ももう彼女を追いかけるのは考えられなかった。もし、唯月がもっと良い男性に巡り会えたら……唯月が他の男と結婚するのを想像しただけで、隼翔は胸を締め付けられる思いだった。両足もズキズキと痛みを増したような気になる。「まんぷく亭のほうも営業しているよ。彼女は商売の方法を変えたんだ。つまり株式会社にして、元々いたあの二人の店員に株を買ってもらい、利益が出た分配当金を渡す形にしたってこと。それからまんぷく亭のほうはその二人の株主に管理してもらうって感じだな。彼女が八割の株を所有するという契約も交わしてある。それからまた新たに二人の店員を雇って、彼女は毎日その日の売り上げを確認するだけでよくなった。それでまた新しい店に使う時間ができたってわけだ」唯月が新たに開いた飲食店にはまんぷく亭よりも多い額を投資している。彼女はまんぷく亭の稼ぎと、貯金を新店舗に注いでいるのだ。隼翔はそれを聞いて、ただ「そうか」と返事しただけで、その後は何も言わなかった。彼は唯月が努力してお金を稼ぐ人だということはわかっていた。しかし、その必死さは決して隼翔のためではなく、陽にもっと良い生活をさせるためだ。もちろん、隼翔も
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第1783話

理仁はため息をついて言った。「隼翔、義姉さんのために、頑張ってリハビリして一日も早く回復しようって気にならないか?お前は本気で義姉さんが他の男にとられるのを黙って見ているつもりなのか?もし、本当にそのつもりなら、俺からばあちゃんに、義姉さんに相応しい男性を探してくれと伝えるぞ。何人か探してもらって会ってみたら、恋愛感情が芽生えるかもしれない。俺と唯花は義姉さんの家族だから、彼女には幸せな結婚生活を送ってもらいたいと思ってるからな」それを聞いた隼翔の表情が変わった。隼翔は今でも唯月のことが気になって仕方がないのだ。俊介が大怪我をし、恐らく命を落とすことになるだろう。唯月が俊介の様子を見に行っただけで、隼翔は嫉妬してしまい、今すぐに退院すると駄々をこねた。唯月が元夫に毎日会いに行くのを見たくないからだ。結城おばあさんも何人か唯月に相応しい良い男性を見つけたと言っていた。もし、隼翔が諦めると言えば、おばあさんが彼女に紹介するに決まっている。「隼翔、まだやってみてもないのに諦めるのか。それじゃあ初めから終わってるじゃないか」隼翔は暫くの間沈黙していて、やっと口を開いた。「理仁、わかったよ。退院したらリハビリする。足にはまだ感覚が残っているから、きっと立てるようになるはずだ」一年、二年頑張っても駄目なら、三年、五年、十年かかってもいい、いつの日かきっと立ち上がれる日が来るはずだ。もちろん、唯月のことを考えると十年も待ってはいられない。彼らはもう二十歳前後の若者ではない。隼翔も唯月もすでに三十を過ぎているし、彼は彼女よりも何年か年上なのだ。「頑張れよ、絶対良くなるって信じてるからな」「佐々木家の事情について、お前は何か知ってるのか?」隼翔は親友に励まされて、また自信を取り戻した後、佐々木家に起きた事を尋ねた。俊介が一命を取り留めたら、隼翔にとっては一番の恋のライバルになる。それは俊介が陽の実の父親であるからだ。それを利用して、俊介は唯月に近づくことができる。「悟にちょっと聞いたんだ。悟は奥さんが興味津々だったからさっさと調べに行ったよ。きっとすぐにわかるはずだ」莉奈はすでに警察に捕まって事情聴取を受けているから、どうして俊介をナイフで襲ったのかその理由がはっきりするだろう。佐々木家で傷害事件が起きたことで、彼ら
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第1784話

佐々木母は陽の頭を自分の懐に埋めさせ、嗚咽をもらして言った。「そうね、パパはきっと良くなるね。絶対に良くなるんだから。陽ちゃん、パパはあなたのことを愛してるから、あなたが会いに来てくれたと知って、きっと目を覚ましてくれるわ」陽は祖母の懐に抱かれ、幼いながらも父親から愛されていることを理解していた。しかし、母親からの愛のほうがずっと大きいことも知っていた。父親は成瀬莉奈という女性がお腹が痛いと言い出すと、すぐに自分を突き放したので、父親に対する信用を失っていた。しかし、今父親は病床で横になりピクリとも動かない。陽は物分かりの良い子供だから、自分の心にある言葉を口にすることはなかった。「プルプルプル……」唯月の携帯が鳴り響いた。唯花からだ。彼女は隅の方へ移動し、電話に出た。「お姉ちゃん、今もまだ病院?」「ええ、陽を連れて父親の様子を見に来ているの。東社長はもうすぐ退院よ、もう少ししたら病院を離れるわ」隼翔が退院して家に戻れば、唯月はもう彼の世話をしに家にまで行く必要はないと思っていた。隼翔はこれからリハビリを開始する。唯月の新店舗は、まだまだ彼女が処理しなければならないことが山積みなので、隼翔の世話をし続ける時間はとれない。「佐々木俊介の状態は?」「まだ生きてるけど、命の危険はまだあるらしいの。今はICUに入ってる。先生は出来る限りのことはしたって、後は彼自身の生命力次第だって」唯花は俊介の状況を知り、この昔姉の夫だった男には同情のひとかけらも持っていないが、甥の父親であることを思い、いくつか尋ねた。しかし、陽の存在がなかったとしても、唯花は今回の件は興味があった。俊介と莉奈がやってきたことを思うと、これは因果応報だと思っている。「明凛から詳しいことを聞いたの。理仁さんが九条さんにお願いして警察から成瀬莉奈があの男を刺した理由を聞いたんですって。警察もメディアに伝えるところみたいよ。成瀬莉奈は佐々木俊介が昼寝している隙に、家に隠していたナイフを使って彼を何度も刺したんだって」寝ている隙を狙われたことで、大人の男が成瀬莉奈に簡単に刺されて重体になったのだ。「成瀬は流産してから、体の調子が戻ったらまた刑務所に戻ることになる。彼女は佐々木俊介とまた子供を作りたかったけど、成瀬が流産したばかりで体が回復して
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第1785話

「お姉ちゃん、東社長は今日退院するの?」唯花は電話越しに姉に尋ねた。「まだ退院までには時間がかかるんじゃなかったっけ?」「彼が退院するって騒いだからよ。前からずっと退院したいって言っていたけど、お医者さんが説得し続けていたの。今日はどうしても言うことを聞かなくて、お医者さんに尋ねたら、退院してもいいって言われたの。家に帰って暫くの間は静養して、それからリハビリを始めなさいだって」唯月はどうしようもないといった様子で言った。「東社長はまるで秋の空みたいよ。コロコロ変わるんだもの」しかし、そうは言いながらも、彼の気持ちが理解できないわけではない。もし自分が毎日ベッドに横になっていたら、きっと発狂してしまうはずだ。「今は点滴をする必要もなくなったから、家で静養したって大した問題じゃないでしょ。やっぱり家に帰ったほうがいいと思う。毎日車椅子で外に出て気晴らしに新鮮な空気を吸っていたほうが、気分もよくなるし、回復だって早いはずだよ」唯月は頷いた。「もう荷物の整理は終わってるの。陽が東おじさんに会いたいって言ったらしくて結城さんが陽を連れて病院に来たんだよ。せっかく病院まで来たから、父親の様子を見に行かないわけにはいかないじゃない?それで今は陽と一緒に俊介のところに来てるの。ただ外から窓越しにちょっとうかがう程度だけどね」唯花は姉がそうしたことに特に意見はなく、言った。「お姉ちゃん、今から帰るわね。また後で話しましょう、電話切るね」「わかった、運転には気をつけるのよ」唯月はいくつか妹に注意しておいた。妹との電話の後、唯月は振り返って、遠くにいる俊介の両親と息子を見つめた。二人は交代で陽を抱いていた。彼らは今までずっと孫に対する愛情など持ち合わせていなかった。数分ほど黙ってその様子を見つめていてから、唯月は彼らのほうへ向かって歩いていった。「おじさん、おばさん、今俊介もICUからは出てこられないし、先に少し何か食べて休憩したらどうですか」唯月は佐々木母から息子を抱き上げ、陽を連れて隼翔のところに戻り病院を離れようと思った。唯月は彼らを説得したが、佐々木母はどうしても病院から離れようとしなかった。彼女は自分たちが帰ってしまってから、息子の死を知らされたらどうしようと思っていた。確かに今の状況では彼らにできることはないが
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第1786話

隼翔の退院手続きは済み、彼は車椅子に座ってボディーガードに押され下におりてきた。隼翔の兄やその嫁達が彼の退院を知ると、他のことは放り出して急いで病院にやって来た。多くの人が隼翔に関心を寄せ、ボディーガードもついているので、唯月は自分の仕事に戻りたいと思い、美乃里に言った。「おば様、社長は退院するし、そちらにはたくさん彼のお世話ができる方がいらっしゃるので、私はここで失礼しようと思います。新しくオープンする店舗がリフォーム途中なので、その状況を確認しに行きたいんです」実は美乃里は唯月に一緒に家まで来てもらいたいと思っていた。唯月がいれば、息子がまた機嫌を悪くしても、そこまで身勝手に暴れることはないからだ。しかし、唯月の表情からかなり疲労が溜まっているのを見て取り、美乃里は心配になって言った。「唯月さん、隼翔は私たちで世話をするから、あなたは自分の事に集中してちょうだいね。だけど、あまり疲れないようにするのよ。ここ暫くの間かなり疲労が溜まっているはずだから」彼女は唯月の手を握り、何度も何度も感謝の言葉を言っていた。「おば様、私たちはみんな社長に良くなってほしいと思ってやっているんです。彼が回復できるなら、ちょっとくらいの疲れだってどうということもないですよ。おば様、それでは、私はこれで失礼しますね」美乃里は唯月の手を離した。唯月は陽の手をとり、美乃里に別れの挨拶をして、彼と一緒に病院を離れた。……唯花が田舎から市内に戻ってきた頃にはすでに夕暮れ時だった。彼女はまず姉が住んでいるマンションに向かった。姉からもらった鍵を使って中に入ると、陽がリビングでアニメを見ていて、唯花は玄関のドアを閉めながら彼に呼びかけた。「陽ちゃん」陽は叔母が来たのを見ると、リモコンを放り投げて立ち上がり、彼女のほうへ駆け寄った。唯花は甥を抱き上げるとクルクルと何回転かして互いに楽しそうに笑い合った。唯月はさっきできたばかりの料理をキッチンから持って出てきて、笑って言った。「唯花、ちょうどいいところに来たわね。今ちょうどご飯ができたのよ。早く手を洗っていらっしゃい、食事にしましょう」「私は食べ物に関しては運が良い人間だからね。玄関の外からも美味しい匂いがしてたのよ。お姉ちゃん、今日は何を作ったの?」唯花は陽を下におろし、彼の手を繋いでキ
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第1787話

「東社長が退院したから、お姉ちゃんはきっと家に帰ってると思って、ご飯をご馳走になる気でここに来たのよ。家に帰って一人で食べたって、美味しい物でも味気なく感じちゃうでしょ」唯花は陽を抱いて食卓につくと、お椀をとって先にスープをついだ。彼女たちは昔から食事する時にスープを飲む習慣があって、それがないとどうも食事した気にならない。唯月は妹が食事に来ると思い、作っていた家庭料理は四品と味噌汁だ。「陽ちゃん、これ、あなたの分だよ、先にお味噌汁飲んでね」唯花は陽に味噌汁を一杯ついであげてから、その次に姉の分、最後に自分の分をついだ。一口飲んで、唯花はため息を漏らし、満足した様子で言った。「お姉ちゃんが作る味噌汁の味ってやっぱり違うんだよな。家にいる専属のシェフが作ってくれるのも美味しいんだけど、やっぱりお姉ちゃんの味噌汁がおふくろの味って感じ」唯月は笑って返事した。「そんなに私が作ったのが好きなら、いつでも飲みに来ればいいわ」ステーキやら、豪華な魚料理やらは飽きてしまった。普通の一般的な家庭料理が恋しくなっている唯花だった。「お姉ちゃん、社長が退院したなら、これからも世話をしに行く必要があるの?」唯花はそれが気になって尋ねた。「きっと必要ないわよ、だって彼の家には使用人もたくさんいるんだし、よくお世話をしてくれる人がいるでしょう。私は店舗のほうが忙しいもの。だけど、明日は一日休んで、陽を公園に連れていって遊ぶつもりなの。この子ももうすぐ幼稚園に通い始めるからね」「ちょうど良かった、私も明日はちょっと休もうと思ってたんだ。公園じゃなくて、琴ヶ丘に一緒に行こうよ、琴ヶ丘の山のほうが公園より楽しいからさ」妹の提案を唯月は拒否しなかった。琴ヶ丘は公園よりも立派な建物や美しい景色が楽しめる。山の中には子供用の遊園地もあって、陽は毎回琴ヶ丘に行くと、帰りたくなくなるほど楽しそうに遊んでいた。「お姉ちゃん、後でちょっとショッピングしに行こうよ。みんなにちょっといろいろ買って行きたいの」「わかったわ」唯月は快くそれに応えた。姉妹は今どちらもそれぞれ忙しく、かなり長い間一緒にショッピングをしていない。夕食を終えると、街に買い物に出かけて、夜の九時になって唯花は車いっぱいお土産をつめこんで、瑞雲山邸に戻ってきた。理仁は
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第1788話

ボディーガードは丁寧に見ず知らずの女に尋ねた。女はそう言われても車によりかかって、バッグの中からタバコを取り出すと、二人のボディーガードに一本ずつ差し出した。ボディーガードはそれを断わった。女は気にしていない様子で、自分のタバコに火をつけると、バッグを車の座席に戻して再び車体によりかかり、タバコをぷかぷかと吸い始めた。そしてボディーガードに向かって言った。「お宅のその若奥様とやらに用があるの。あの唯花って人に伝えてよ、今夜は私が夜食を奢るから、ちょっとお話したいって」「どちら様でしょうか?」その女は若く美しいし、直接唯花を指名してきたので、ボディーガードは彼女が理仁に恋焦がれた女だと推測した。そうでなければ、理仁の妻に会いにきて、話がしたいとは言わないはずだ。「辻って言うの」この赤いワンピースの女は他でもなく、あの辻夕菜だ。夕菜は理仁に一目惚れしたが、父親から厳しく叱りつけられて諦めたようだったし、暫くの間理仁の前に姿を現していなかった。しかし、家に帰ると、彼女はどうしても理仁のことが頭から離れなかったのだ。理仁と知り合ってしまったら、もう他の男など眼中に入らなくなってしまった。父親から、辻グループと結城グループが提携している間、理仁夫妻に迷惑をかけにいくのを禁止されていた。もし、会いにいけば彼女は会社の跡取りから除外され、彼女の従兄に引き継がせると言われている。それで、父親から脅されて、夕菜はここ暫くの間は何か行動を起こす気になれなかった。そして最近、父親が出張で海外に行ってしまい、数カ月後にしか戻ってこないので、会社は彼女と従兄の二人で責任を持つことになった。父親からの圧力がなくなったことで、夕菜は理仁への想いが膨らみ抑えきれず、一人で星城までやって来た。しかし、彼女も結城グループに直接理仁に会いに行くことはできなかった。行ったところで理仁に会うことはできないとわかっていたから、唯花のほうに来たのだ。夕菜は直接唯花と話し合おうと考えた。自分と比べて唯花が一体どれほどの人物で、理仁からの愛を受け取る資格があるのか確かめようとしているのだ。琴ヶ丘全体の管理はかなり厳しく、本来であれば夕菜は入って来られないはずだ。琴ヶ丘の中に住んでいる他の住人が、夕菜が結城家の若奥様に会いに来たことを知り、よかれと思って彼女
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第1789話

唯花が夕菜をじろじろと観察していた時、夕菜も同じように唯花を見ていた。星城の人間は、誰もが唯花が結城家の若奥様だと知っている。しかし、唯花がどのような容姿をしているのか記憶している人間は多くない。彼女はメディアの前には姿を現さないし、理仁がしっかりと守っている。唯花がネットニュースにあがった時にはすぐに理仁によってそのニュースは消されてしまう。理仁は愛する妻が普通の生活を送るのを望んでいるとわかっている。彼のせいで、唯花は頻繁に公の場に顔を出さないといけないが、それにより影響を受けてしまわないように、出来る限りのことをしているのだ。夕菜はネットで唯花の写真を検索してみたことがあるのだが、ヒットする写真はどれもぼんやりとしてはっきり写っていないものや、正面から撮られたものではないものばかりだった。そして今、夕菜はやっと結城家の若奥様が、輝くばかりの美貌の持ち主であることがわかった。夕菜もとても美しい顔をしている。そして今唯花本人を見た瞬間、確かに唯花が決して彼女自身に負けない、息をのむ美しさだと認めるしかなかった。それに高圧的なオーラを出しても、唯花を怖気づかせることができなかった。唯花は生まれつき気品のある女性で、結城家の若奥様という立場になってからもう一年近く経つ。伯母である詩乃にみっちり教育されたし、よく夫に付き添って接待にも行き、各種パーティーに参加していたので、生まれ持った気品がさらに研ぎ澄まされているのだ。「あなたが唯花さん?」夕菜が尋ねた。唯花はそれに聞き返した。「辻さんは私に会いに来たのに、私がどんな顔をしているのか知らなかったんですか?」「写真を見たことがあるけど、それはぼんやりしててはっきり写っていなかったの。唯花さんって実際に会うと、写真なんかよりずっと綺麗なのね」なるほどあの結城理仁を落とせたはずだ。唯花は笑った。「お褒めいただき光栄です。辻さんだってとてもお綺麗ですよ。それで、私にどんな用でしょうか」この時、夕菜は黙ってしまった。恐らく、自分がこのように理仁を諦めずに追いかけ続けていいものか悩み始めたのだろう。暫く悩んで、彼女はやはり諦めたくないらしい。夕菜はこの年になるまで、多くの男たちを見てきたが、理仁だけが彼女の心を射止め、好きになったのだ。唯花が若く、美しいからといって何だと
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第1790話

今はまだ夜九時すぎだ。夕菜は普段、社長である父親の傍にいて、二人はいつも深夜過ぎになってやっと帰宅でき、週末でさえもゆっくり休めない。唯花は幸せそうな笑みを浮かべて言った。「うちの旦那さんは夫の鑑なんです。私が傍にいないなら、彼は毎晩九時半くらいに帰宅するんですよ。彼ったら、仕事がいくら大事でも、私よりも大事なものはないって言うんです。深夜遅くまで帰りを待たせるのが心苦しくて、早く仕事を終わらせて家で私と一緒に過ごしたいんですって」唯花の笑顔はそもそも夕菜は気に食わないのだが、夫婦の仲良さげな話を聞いて、夕菜の心に嫉妬の炎が燃え上がり、唯花をその炎で灰にしたい衝動に駆られていた。しかし、父親に付き添ってビジネス界を渡り歩いてきたことで、自分を落ち着かせる術を身に着けていた彼女は、その怒りの炎を表に出すことは一切なかった。「唯花さんって、結城社長と仲良しなんですね」唯花は笑って言った。「ええ、とっても。旦那からすっごく愛されてるって感じられるんです。私いつも彼に言ってるんですよ、こんなふうに私を甘やかしていたら、私がつけ上がっちゃうわよって。彼に愛されることに慣れてしまって、もし将来彼が冷めてしまったら、私はきっと耐えられないでしょうね。だけど、彼は一生変わらずに私を愛し続けると誓ってくれました。もし、来世があるなら、来世も私と一緒にいたいって言ってくれてるんですよね。こういう甘く囁くタイプの男性って、本気でとことん甘い言葉で口説く言葉が出てくるんです。女の子が甘い言葉をかけられるのが好きな気持ちがよく理解できました。それに、旦那は有言実行する人だから、私は彼の言葉を信じているんです」それを聞いた夕菜は嫉妬で狂ってしまいそうだった。夕菜はそれを聞きながら、心の中で唯花がわざと理仁との惚気話を口に出して、挑発していると悪態をついていた。それにその言葉は理仁は決して他の女に心変わりするような男じゃないから、さっさと諦めろと暗に伝えてきているのだ。この世の男というもの、特に金持ちで権力を持つ男はまるで猫のような存在だ。猫は気まぐれで忠実ではないだろう?夕菜は理仁が一生唯花を愛し続けることはないと思っている。心に燃え立つ嫉妬をなんとか抑え込み、夕菜も笑って言った。「甘い言葉は誰だって好きに決まってるわ。だけど、そういう甘い言葉って人
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