All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 2051 - Chapter 2060

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第2051話

豊は何も言わなかった。つまり黙認したということだ。響はわざと驚いた様子を見せて、低い声で言った。「夕菜は一体何を考えているんですか?どうして結城社長を好きになれます?彼はかなり前に結婚していますよ。それに、最近になってやっと既婚者であることを公表したのではなく、報告してからずいぶんと時間が経っています。それなのに彼女は……確かに結城社長は優秀な方ですが、でも既婚者ですよ。夕菜が彼を好きになったって、他人の家庭を壊す浮気相手になれるわけないでしょう。それに、結城社長の結婚生活をそう簡単に壊せると思っているんですかね?」響は心の中で、伯父が突然電話をかけてきたのは、絶対に理仁から連絡があったからだとわかっていた。そして夕菜の全ての行動を伯父に伝えた。夕菜の傍にいる男はただの代役だ。顔は理仁とは似ても似つかない。ただ理仁と背格好が似ているだけだ。理仁がこの事実を知っても、それで夕菜にどうこうできるわけではない。しかし、理仁が豊に訴えてしまえば、話は別だ。豊は心の中でよくわかっている。それに、夕菜が見つけてきたその代役の男は、ただのデリバリー配達員だ。ちなみにもっと的確に表現するなら、彼は配達員ではなく、ただの無職のニートだ。あの日、夕菜にデリバリーしたのも、響の手配だ。「響、私は今すぐそちらに戻るチケットを買う。この件はまだ夕菜には伝えないでくれ。私が帰ってから様子を見る」豊はやはり、自分の目で娘の傍には背格好が理仁に似ている男がいるのか確かめたかった。「おじさん、すぐに戻られますか?夕菜の件は、だったらおじさんの奥さんに頼んだらどうでしょう?夕菜にはもうあの男と一緒にいるなと注意すればいいです。あの男、見ればすぐただ金のために、辻家の財産のために、夕菜に近づいているとわかりますよ」相手が夕菜に近づいたのも、そもそも金が目的だった。今回の件は響の策略だから、手元にはあの男に関する全ての資料がある。あの男が夕菜から大金をもらったことも、響は全部知っている。「今回のような事は妻では対処できない。私の妻が彼女を甘やかしすぎたせいだからな。こちらの仕事ももう最終段階に入っている。そろそろそっちに戻る予定でいたんだ。このような事が起きた今、私はここでじっとしていられん。結城社長は我が社との提携関係を考慮して、まずはこちらで
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第2052話

唯花が口を開いた。「辰巳君はいまだに咲さんに花を届けさせてるんですか。えっと、薔薇の花束をお願いします」「かしこまりました」店員が薔薇の花束を用意している間、唯花はブルームインスプリングの商売がどうか尋ねた。「好調ですよ」店員は微笑んで言った。「店長が私たちのお給料を上げてくれたんです。でも、店長は近頃お店にいる時間は多くないんです。彼女は他の事業のことで忙しく、よく会議をしています」咲が会議を開く時には、目が見えないから、いつも浩司が付き添っている。浩司はすでに咲の右腕であり、代弁者でもある。彼の言う事は全て咲の意思だ。二人は呼吸が合っている。柴尾グループのビジネスは、新たな社長である咲が来てから少しの間だけ不安定だったが、今では軌道に乗り、少しずつ会社の利益が増えている。それで柴尾グループ社員はみんな安堵していた。尾崎家と黒川家から、柴尾グループを混乱させ、文句を言ってくる人間もいるが、柴尾グループの経営は全く影響を受けていない。浩司は毎回警察に通報して、尾崎家と黒川家を追い払っている。たまに、警察に連れて行かれることもある。しかし、彼らがやる事など、多くて数日勾留されるか何万円かの罰金を払うかの程度だから、彼らにとって痛くも痒くもなかった。尾崎家と黒川家は咲のせいで悔しい思いをしたので、彼らも咲に同じような目に遭わせてやりたいのだ。しかし、彼らも星城では咲にちょっかいを出すことはできずにいる。辰巳の存在があるからだ。「唯花さん、店長の目は治るでしょうか?」店員は心配そうに咲の目について尋ねた。「それは、私にもまだわかりませんが、でも、酒見先生が産後のケア期間を終えたら、咲さんの目の治療に来ると約束してくれています。だから希望はありますよ。酒見先生は医学にも毒や危険物の取り扱いにも精通している方です。彼女が治せると言えば必ず治せるはずです」あの酒見医師でも望みがないと言えば、それは絶望的だ。唯花はその言葉は出さないでおいた。「店長の目が早く良くなってくれたらいいなって思ってるんです。悪い人が彼女の目が見えないからって嫌がらせをしてこないように」「あの人たち、まだお店に騒ぎに来るんですか?」「いいえ、だけど、彼らがよくこの付近をうろうろしているのを見かけるんです。何か企んでるんじゃ
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第2053話

店員は薔薇の花束を作り終えると、それを唯花に渡した。唯花は支払いをして花束を受け取り、お礼を言った。「それじゃあ、私は夫にこの花束を届けに行きます。彼を怒らせちゃったから、ご機嫌を取らないと」店員は笑って言った。「唯花さん、またのお越しをお待ちしております」結城家の男はみんなご機嫌取りをしなければならないようだ。彼女たち店の店長も、よく辰巳の機嫌を取っている。店長が裏でこっそり悪態をついているのを彼女たちはよく聞いている。大の男が、まるで女の子のようにうじうじと懐が狭いことをする。唯花はブルームインスプリングを離れると結城グループへと向かった。もうすぐ到着するという時、唯花は咲を見かけた。一台の車が咲の傍に停車し、サングラスをかけ黒のマスクをした男が彼女の近くで何かを話していた。そしてすぐに咲は笑顔を見せ、相手に支えられてその車のほうへ誘導された。見るからに彼女を支えて車に乗せようとしている。その次の瞬間、咲は男の手を払いのけて、体の向きを変えて走ろうとした。しかし、その男は咲の首めがけて手刀を入れ、咲は気を失ってしまった。その光景を目撃した唯花はアクセルを踏み込み、サッとその車の前方へ車を回し、急ブレーキをかけた。タイヤが地面と摩擦する高い音がその場に響いた。その車に乗っている人物と、咲を車に担いで乗せようとしている男は反射的に唯花のほうへ目をやった。唯花は車を停めると、すぐに降りて急ぎ足でその車に近づいた。そして、あの黒いマスクをつけた男に蹴りを入れた。男は唯花に蹴り飛ばされて道端に倒れ込んだ。すると唯花は急いで咲を車から降ろした。車に乗っていた男は同じように黒いマスクにサングラス姿で、素早くアクセルを踏んで逃げようとした。しかし、唯花の車に前方を塞がれているので、すぐに動くことはできなかった。動作が少し遅れたことで、唯花は咲を無事車から降ろすことに成功した。さっき唯花に蹴り飛ばされた男は起き上がり、唯花に向かって拳をふりかざした。しかし、また唯花から強烈な蹴りを喰らってしまい、再び道端に倒れ込んだ。そして唯花であることに気づくと、その男は起き上がり急いで逃げようとした。まさか結城社長の妻が空手の使い手だとは彼も思っていなかった。柴尾鈴は唯花をなめてかかったせいで返り討ちにあって
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第2054話

辰巳の婚約者に手を出すとは、どうやら死にたいらしい!辰巳は迅速に会社から飛び出し、すぐに唯花の停めている車を見つけた。唯花の傍にはこの時四人のボディーガードがいた。二人は理仁が唯花を守るために裏でつけているボディーガードで、別の二人は咲を守るためにつけられたボディーガードだ。咲がさらわれそうになっている時、彼女を守っているボディーガードが来る前に唯花が先にさっきの男たちを蹴散らしてしまった。辰巳は急いで駆け寄った。「唯花さん咲は、咲の様子は?」辰巳は急いで走ってきたせいで息を切らしていた。彼は近寄って屈むと、唯花から咲を受け取った。「咲さんはあいつらに気絶させられてしまって、少ししたら目を覚ますと思うわ。ちょうど理仁に花を持って来たところで咲さんを見かけたの。近寄って挨拶しようと思っていたところで、まさかこんなことになるなんて思わなかったわ。咲さんはその男と話していて、なんだか知り合いみたいだった。だけど、咲さんが車に乗ろうとした時、相手の手を振り払って逃げようとしたの。そこを気絶させられちゃったのよ」辰巳は咲を抱き上げて言った。「唯花さん、ちょっと車を貸していただけませんか?まずは咲を家まで送り届けます。彼女が目を覚ましたら何があったのか聞いてみます。この近くには監視カメラが設置されているので、理仁兄さんにその映像を確認し犯人を見つけだしてって伝えてください」「わかったわ。あなたは咲さんを家まで送り届けてきて。さっき私も理仁に電話をしたの。きっとすぐに出てくるわ。あ、私の花」唯花は車から花束を取り出してから、辰巳に車を貸して咲を送らせることにした。辰巳は咲を抱き上げたまま車に乗せた。理仁が人を引き連れて出てきたのを確認し、彼は安心して咲を連れてその場を離れた。理仁はボディーガードたちを連れて出てきた。「唯花、何があったんだ?」「私もなにがなんだかわからないよ。咲さんが目を覚ましたら聞いてみないと。辰巳君が今彼女を家まで送ってるわ」この時、唯花もどういうことなのか知らなかった。さっきの男たちが咲の知り合いでないのであれば、咲が微笑みながら話すわけはない。それに車に乗ろうとしていたのだ。知り合いであるとしても、相手は黒いマスクにサングラス姿で、明らかに自分たちの顔を周りに知られたくない様子
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第2055話

理仁は片手で唯花が持って来た花束を受け取り、もう片方の手で彼女の顔をつねった。「俺を怒らせてしまったってわかってるんだな」唯花は気まずそうに笑った。「私だってそれくらいわかってるわよ」唯花はボディーガードたちのほうを向いて言った。「もう大丈夫だから、みんな持ち場に戻ってちょうだい」四人のボディーガードは理仁のほうを見た。理仁が彼らを責めるのではないかと思い、唯花が彼らに代わって言った。「突然の事だったし、咲さんがあいつらと話す時は笑顔も見せてたから、知り合いなんだって思っちゃったの。まさか急にあんな状況になるなんて誰も思わないよ。だから彼らをクビにできないわよ。あなた、責めないであげてね」理仁は低く沈んだ声で言った。「彼女がそう言っている。それぞれ持ち場に戻れ」「ありがとうございます。若奥様」彼らは非常に感激して唯花にお礼を言った。そして、唯花は咲のボディーガード二人に言った。「咲さんのところに戻って。何があったのかは詳しく辰巳君に話すから。あなた達のせいにならないようにね」二人のボディーガードはもう一度唯花に感謝した。二人も責任を問われるのではないかと心配していたのだ。あの時、彼らは車から降りてきて咲に話しかける男に気づいていた。咲が相手と笑いながら話していたので、知り合いなのだと思い、すぐにそばに駆け寄ることはなかったのだ。しかし、事態がまさかこのように変わるとは思ってもいなかった。ちょうどそこへ空手ができる唯花が来たおかげで事なきを得た。彼女の反応は早く、あっという間に咲を車から降ろした。もし間に合わなければ、どうなっていたことか想像もできない。ボディーガードが近くに隠れて守っていて、万が一本当に何かあったとしても、絶対命懸けで咲を救い出すだろうが、やはり大きなトラブルになっていたはずだ。唯花が彼らに代わって弁解してくれたし、証人となって彼らが辰巳から叱責されるのを防いでくれた。咲は目が不自由だ。実際、彼らは彼女の傍に離れず護衛するべきだ。しかし、咲はそれを嫌がる。辰巳も咲にボディーガードの存在に気づかれないように、彼らに裏で咲とは一定の距離を保って守るように指示を出すしかなかった。もし、すぐ傍で守っていれば、誰かが咲に手を出そうと思っても、そう簡単に行動に移すことはできない。そう
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第2056話

あの死も恐れず、咲に手刀を入れて気絶させた男を見つけ出した後、辰巳は彼に同じ思いを味わわせてやろうと思っていた。誰かに気絶させられてどれだけ痛い思いをするか。咲は手を伸ばして辰巳を掴もうとした。辰巳は急いで手を伸ばし彼女の手をとった。咲は彼の手を掴んだ後、自分のほうへ引き寄せて、彼の香りを嗅いだ。よく知っているあの香りがして、彼女はやっと落ち着き、彼の手を離した。「咲?」辰巳はこの時、どういう状況なのか理解できていなかった。咲が言った。「車に戻りましょう。もうすぐ家に着く?帰ったらまた話すから」「もうすぐ着くよ。わかった、帰ってから聞かせてくれ。首は痛くない?」「痛いわ」「帰ったら、薬を塗ってあげるから」咲は何も言わず、手探りで車に乗り込んだ。そしてすぐに車のエンジンがかかった。それから少しして、柴尾邸に到着した。辰巳は咲を抱き上げて家の中に入ろうとしたが、彼女はそれを拒否した。自分の家では誰かに連れていってもらわなくても、二十年以上も生活した場所だから、どんな場所よりも熟知しているからだ。「咲お嬢様、辰巳様」執事が家から出てきて、二人を見ると恭しく挨拶をした。咲は執事の挨拶には返事をせず、淡々とした様子で執事の横を通り過ぎていった。こんな咲の態度に、執事はもう慣れてしまっている。使用人たちは咲に対してもとから私利私欲を持っている。彼女に対して忠実なわけではない。咲は使用人たちを全員刷新することはなかった。彼女たちは流星のほうに傾倒しているのだと咲もわかっている。流星のほうに傾倒しているから咲は使用人たちを変えていなかった。もしそうでなければ、咲は早々に全員変えてしまっていたはずだ。それに、この家は現在結城家の使用人も働いている。辰巳がそう手配したのだ。咲は辰巳が手配してくれた使用人のほうを信頼していて、執事の存在は薄くなっている。咲は屋敷に入ると、そのまま二階へ上がった。辰巳は黙って彼女の後についていった。彼女の部屋は後から防音壁にしたので、外に音が漏れることはない。何か重要な話をする時には、咲はいつも自分の新しい部屋に連れて行く。以前、柴尾家の長女で令嬢という身分の咲でも、二階に部屋をあてがわれることはなく、一階にある家政婦と同じ部屋を使っていた。彼女の伯父と母親
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第2057話

咲は目が見えない。だから、彼女が相手を判断する基準は、相手の匂いや声、それから足音だ。しかし、それらの特徴は容易に誰かに模倣されてしまう。彼女が少しでも気を緩めていたら、すぐにそれに引っかかってしまうだろう。そして今回、彼女はまんまとそれに引っかかってしまいそうになった。相手と車に乗り込む瞬間、車からタバコの匂いがして、話しかけてきたのが辰巳ではないと気づいたのだ。辰巳はほとんどタバコを吸わない。彼の車にはタバコの匂いは一切ない。「そう、彼はあなたのふりをしていたの。声も足音も、匂いさえも全部そっくりだった。きっと相手は裏で私たちの振舞いを全部観察してたのよ。そしてわざとあなたのふりをして、匂いまで周到に用意してきた。あなたはたまにメンズの香水を使うでしょ、どのブランドのものなのか探れば、香りの問題も見事クリアだわ」辰巳は言った。「絶対に君の二人のおばが裏で企んだ事だ。尾崎家と黒川家の人間はよく花屋の付近をうろついているから」そう言いながら、彼は咲の背中のほうに回り、後ろから彼女を抱きしめて、低い声で言った。「咲、今後は俺の言うことを聞いてくれないか?君の目が回復するまではボディーガードを傍につけてくれ。今日みたいな事を二度と起こしたくないんだ。君がなにかおかしいと気づいて逃げようと思っても、目が見えないからそれは難しい。今日は唯花さんがちょうど会社に来て、たまたま現場に出くわしたし、彼女は空手ができるから君を助け出すことができた。もしそうじゃなかったら、あいつらに車に乗せられていたよ。ボディーガードが様子がおかしいことに気づいても、反応が遅く君を助けるのは困難だ」彼女から手を離すと、辰巳はマッサージをしてあげた。それで首の痛みを少し緩和させてあげようとしたのだ。「そうだ、薬は?俺が塗ってあげるから」「ううん、少ししたら痛みが引いてきたから。確かに今日はすごく危なかった。もし車のタバコの匂いがなかったら、本当に連れ去られていたはず。あなたがつけてくれたボディーガードは私が自分で車に乗ろうとしたから、おかしいことに気づかなかったの。もしさらわれていたらどうなっていたか」咲はその後どうなっていたか、想像できた。彼女は目が見えない。それに女だ。悪い人間の手に落ちれば、恐らく辱めを受けていたことだろう。そし
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第2058話

「あの時すごく怖かったんだぞ、わかってるのか?唯花さんから電話がかかってきて、君が襲われたと聞いた瞬間、驚いて心臓が飛び出しそうだったんだからな」辰巳は両手で優しく彼女を抱きしめ、顔を首元へ埋めるように近づけた。そして我慢できなくなり彼女の首にキスをした。そして頬へと移動して、そこに何度もキスをして彼女の頭を両手で支え、赤いその唇を塞いだ。二人は長く情熱的なキスを交わした。そして、辰巳は椅子に腰かけた。咲は彼に抱きしめられていた。辰巳は両手で力強く咲の腰を抱きしめた。彼女は彼の力が強く、圧迫されている感じがしたので、彼の手を引っ張って小声で言った。「そんなに強く抱きしめないで。腰を折ってしまいそうなくらいの力よ」それを聞いて辰巳はすぐに力を緩めた。「怖かったんだよ」辰巳は低くかすれた声でそう言った。「君に何かあったんじゃないかって。でも、唯花さんがちょうど会社に到着して、おかしな様子に気づいてよかった。唯花さんが強くなかったら、君はあいつらに連れ去られていたかもしれない」そうでなければ、どうなっていたか考えると、辰巳はどんどん怖くなってきた。「つまり私は運が良いってことよ」辰巳は彼女の頭を自分の胸に押し当てて言った。「酒見先生が今月産後の休暇を終える。そしたら彼女の所に行って、また俺から目の治療をしてほしいと頼むよ」咲は目が見えないから、容易にトラブルに巻き込まれてしまう。それに何かあっても、見えないせいで、悪人がどんな人間だったか説明することができない。「そんな頻繁に酒見先生を急かしたらダメよ。産後しっかり休んでもらってからお願いしましょう。女性は子供を生むと体に大きな負担がかかるわ。だからきちんと休んでケアしないとダメなの。そんなふうに彼女を急かしていたら、いくら先生の性格がよくて許してくれても、旦那さんのほうが許さないわよ」咲は唯花から、桐生家の弘毅が辰巳が依茉につきまとって目の治療を頼むのに不満を持ち、嫌っていると聞いていた。それは主に、あの時は依茉が出産間近だったし、今は産後のケアをしているところだからだ。そんな時期に辰巳がしつこく治療を頼んだら、弘毅が怒らないほうがおかしい。辰巳は咲のためにそうしている。しかし、弘毅が自分の妻を心配し、大事に思わないはずがないだろう?桐生
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第2059話

「プルプルプル」咲の携帯が鳴り出した。ここぞとばかりにキスをしてきた辰巳を押しのけて、彼女は急いでその電話に出ようとした。しかし、彼は両手で咲の頭を固定させて、キスから逃れさせず低くかすれた声で言った。「ちょっとくらい待たせておけ」そう言うと、彼はしつこくまた咲に深い口づけをして、ようやく名残惜しそうに彼女を解放した。この時、執事が咲の部屋の前に立っていた。彼女は咲の部屋には防音壁が設置されているので、ドアをノックするのではなく電話をかけてきたのだ。しかし咲は電話に出ない。すると彼女は一度電話を切り、少しの間待ってから、再び電話をかけた。今回は電話が繋がった。「お嬢様、結城家の若奥様がいらっしゃっています」執事は電話越しに、丁寧な態度でそう伝えた。「唯花さんがいらっしゃったのなら、中にお通しして。すぐに一階におりるから」咲の声はとても落ち着いていて、何もおかしな様子は聞き取れなかった。執事はあの二人が部屋の中で一体何を話していたのかは、まったく想像もできない。独身の男女二人が同じ部屋にいて、しかも二人は婚約しているので、別にどう思われようが構わない。彼女は恭しく返事をした。「かしこまりました」そして、彼女は携帯を耳から離して、通話終了ボタンを押した。今度はドアにピタリと耳を当ててみたが、何も聞こえないので、諦めて下におりていった。部屋にいる咲は辰巳を押して、立ち上がった。そして平然とした様子で自分の服を整え、辰巳に尋ねた。「今の私、どこかおかしなところはない?」辰巳は咲の体を上から下までじろじろと眺めてから、低い声で笑って言った。「別に君の服をめちゃくちゃになんてしてないんだから、おかしいところなんてあるわけないだろ?」婚約者といっても、辰巳が彼女にした最も親密な行為はキスくらいで、その先はまだだ。彼女のことを愛しているから、尊重し、大事にしたいと思っている。結婚手続きと結婚式を済ませたら、飢えた狼のように狂ってしまってもそれは当然のことだろう。愛し合う人同士なのだから。それに、咲は辰巳がどんな顔をしているのか、まだ知らない。彼女が手で何度も彼の顔を触ってみたことはあるが、それは頭の中で想像するしかなく、実際とはやはり差があって当然だ。辰巳は咲の目が治って彼がどんな顔をし
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第2060話

辰巳は咲を連れて一階におりると、理仁と唯花のほうにやって来て二人に挨拶した。咲も辰巳に続いて二人に挨拶した。それから理仁と唯花の対面に彼らは座った。唯花は心配そうに尋ねた。「咲さん、大丈夫だった?」「大丈夫。ただ首の後ろが少し痛くて。唯花さん、助けてくれてありがとうございました」咲はとても感激して唯花にお礼を言った。唯花は言った。「もう家族だもの、そんなかしこまらなくていいよ。だけど、これからはやっぱりボディーガードを傍につけておきましょう。そのほうが安全だから。私たち家族も安心できるわ。今日はちょうど私があの現場にいたから助けることができたものの、もし違ったらどうなっていたことか」咲も今になってまた怖くなってきて言った。「さっき、辰巳さんも私に言ったの。これからはボディガードには近くについてもらおうって」もし、彼女が柴尾グループを継ぐのでなければ、別にボディガードをつける必要はない。今の彼女は二人のおばから邪魔だと思われている。今回の件は恐らくあの二人の仕業に違いない。それで安全面に関して、彼女はもう頑なに拒否することはできず、辰巳の言う通りにすることにした。今までのように離れたところからではなく、目に見えるところにボディガードをつけて警護に当たらせるのだ。「それならよかった。実際、ボディガードが近くにいるのは最初慣れないかもしれないけど、だんだん慣れていくと思うわ」唯花も以前、ボディガードが傍について回るのは、どうも慣れなかった。なんだか、常に彼らがいると、自分の一挙一動を全て夫に把握されているような気がしたのだ。しかし、今では慣れてしまった。これも、理仁がボディガードを傍につけるのはただ彼女の安全を守るためであって、彼女の同意がなければ何も報告はさせないと約束してくれたからだ。理仁がそのように約束してくれたおかげで、唯花もボディガードがついて回るのに慣れた。「今回の件で、誰があやしいと思う?」理仁が低い声で尋ねた。咲は答えた。「二人のおば以外にはいません」理仁はひとこと「そうか」と返事をし、辰巳に向かって言った。「辰巳、何か助けが必要な時は言ってくれ。何も言わないなら、お前一人でどうにかできると思うからな」「理仁兄さん、今回の件は俺が自分で処理するよ。何か手伝ってほしい時は声をかけ
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