All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 2081 - Chapter 2090

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第2081話

奏汰は玲に追いついて、彼女の腕を掴んだ。「白山社長、どうせ顧客は碧君に任せてしまったし、寝るにはまだ早いんだから、一緒に街に出かけましょうよ。ボディーガードが一緒だと目立って周りに注目されるから、彼らには休んでいてもらって」男二人が一緒に街をぶらついていてもおかしくはない。しかし、玲がボディーガードたちを一緒に連れていると、周りに正体が容易にばれてしまう。玲は力を込めて奏汰の手を引き離し、冷ややかな声で言った。「あのな、俺は暇人じゃない。街にも行かない、もうつきまとわないでくれ!」「それなら、一緒に夜食を食べましょうよ。俺一人で食べても美味しくないし、あなたが一緒なら美味しく感じられるんです」玲はギロリと奏汰を睨みつけ、その場を去ろうとしたが、また奏汰に手を掴まれてしまった。奏汰が小声で彼女に何か言うと、玲は今まで以上に機嫌の悪い顔をした。暫くの間奏汰を鬼の形相で睨みつけてから、怒りをこらえてこう言った。「うちのホテルのレストランで食べましょう」「俺に付き合ってくれるなら、どこでもいいですよ」どうせ互いのホテルはこんなに近い。夜中まで食べていても問題ない。こうして奏汰は再び玲につきまとうのに成功したのだった。しかし、この夜食はありえないほど高くついた。玲は奏汰の財布の中身をきれいにしてやったのだ。奏汰は食事代を支払い、特に気にしていない様子でこう言った。「毎日食事にこれだけ使っても、破産することはないです。玲さんの懐が潤って喜んでいただけるなら、毎日のようにこちらで高級夜食を食べてもいいですよ」玲は黙ってしまった。「玲さん、お腹いっぱいになりました。一緒に軽く散歩でもしませんか。今はもう夜遅いので、歩いている人も少ないでしょう。手を繋いで歩いたって、誰も見ていませんよ」この時、確かに夜中だった。外に待ち構えている芸能記者たちも頻繁にあくびをしていた。しかし、奏汰がまだ出てきていないので、彼らはまだ満足できず、彼が出てくるのをとらえるまでは粘るつもりだ。「結城さん、調子に乗らないでくださいよ」奏汰はケラケラ笑った。「俺はお調子者ですからね。今イイ感じなので、このままの勢いで調子に乗っておかないといけないでしょ」すると奏汰はまた玲の手を引こうとした。玲はその手を避けて、冷たい声で言った。「触
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第2082話

「幽霊はいます。ただ、誰でも見えるわけじゃないんです。あちらとは時間の流れが違っていて、すごく短い時間しか現れません。たった一秒なら、こちらが瞬きしていたら見えないでしょう」玲は口を閉じて黙っていた。本当にでたらめな話ばかりだ。二人は玲が作った秘密の裏口からホテルを出た。外は確かにほとんど人はおらず、車の行き来もほぼなかった。二時間前までは、まだ賑やかだった街もこの時は徐々に静かになっていっていた。「もうこんな時間だから、あなたを連れて買い物には行けませんね。店も閉まっているし」奏汰はぶつくさと言った。玲は低く冷たい声で彼に警告した。「もう二度とスカートとか、ヒールに宝石も、オフィスに持ってこないでくださいよ!」「ただ女性の姿のあなたを見たいと思っただけですよ。どれだけ美人なんでしょうね」玲は顔を暗くさせた。「男の服しか着ない」玲のクローゼットの中は全て紳士服ばかりだ。彼女は小さい頃からスカートなどはいたことはなかった。ヒールの靴などもってのほかだ。彼女のように大股で颯爽と歩く人がヒールを履いたら歩けないだろう。女性は宝石が好きだが、玲は興味がない。スキンケアなら使っている。メイク道具は使ったことはない。「玲さん、男じゃないくせに」奏汰はとても小さな声でそう呟いた。彼女はまだ女性の格好をするのを拒んでいる。奏汰もみんなの前で玲が女性だとばらす気はない。どのみち彼はすでに玲にアプローチしていて、周りは同性愛者だと思い込んでいる。奏汰はどう思われようが気にしない。もし玲が気にするのであれば、さっさと女性の姿に戻るがいい。彼女のこの顔面偏差値なら、スカートに着替えれば、絶対に傾城の美女間違いなしだ。玲は少し黙っていてから、冷たい声で言った。「俺は男の姿でいるのに慣れてしまってますので」奏汰は横を向いて彼女を見ると、笑った。「でも、あなたが男の格好をしていようが、女性の格好をしていようが、どちらも好きです。あなた自身を好きになったので、性別なんて気にしません。将来結婚式を挙げる時には、一緒にスーツを着ることにしませんか。きっと二人のイケメンに会場は大騒ぎですよ」「俺はあんたとは結婚しない!」玲は低く唸った。「結城さん、何度も言いましたが、俺はあんたとはどうこうなる気はありません。俺はあんたの
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第2083話

「でも、どうやってもあなたが女性だという証拠を見つけだすことができなかった。それから、辰巳兄さんと唯花さんにアドバイスを求めて、二人からそのままあなたにアプローチしろって言われたんです。時間ももう迫っているし、二人のアドバイス通りにすることに決めました。ほら、あの花を敷き詰めた日に早速行動に移したんです。それからのあなたの反応がとても面白くって。そして、これにはまっちゃったんですよね。今あなたのことを好きなのかといわれると自分でもはっきりと答えられませんが、諦めずに結婚までしたいと思っている気持ちは、間違いはないです」玲は黙っていた。この男が直接アピールしてきたのは、その二人の助言があったからなのか。あの二人のせいで、ひどい目に遭ってしまった。平穏だった日々が、見事壊されたのだ。もし、奏汰の計画通り、まずは玲が女である綻びを見つけてから行動するつもりだったのであれば、奏汰は数年かけても見つけられなかったかもしれない。玲は二十年以上の長きにわたって、男を演じてきた。だから、もはや完璧としか言えない。「玲さん、俺は生まれて初めて女性に興味を持ちました。だから、あなたのことを諦めるつもりはありません。それが嫌なら、俺に他の女性を好きにさせてみせてくださいよ。じゃないと、一生あなたにつきまといますからね」初めは、結城おばあさんが玲を結婚相手として選んだ。そして今、彼は結婚相手として玲がいいと思っている。玲は暫くの間、静かに彼を見つめていた。しかし、ひとことも何も言わずに、大きな歩幅で前方に歩いていった。奏汰は彼女が大股で歩いていく後ろ姿を見つめ、少ししてから低い声で笑って、その後に続いた。彼がまた玲に何か言っても、彼女は奏汰に構おうとしなかった。玲はこの時、この状況を突破する方法を模索していた。さっき奏汰は、他の女性を好きになれば、諦めてくれるという話をしていた。それなら、多くの美女たちを彼に接近させて、本物の女性というものがいかに優しく美しいのかを教えてやればいい。そうすれば、女らしさの欠片もない偽の男には二度とつきまとってこないだろう。奏汰も自ら、玲のことが好きなのかどうかわからず、ただ面白い人だと思っているだけだと言っていた。それに、彼は祖母から勝手に結婚相手を選ばれて、仕方なく行動を開始しただけだ。
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第2084話

「兄さん、なんで携帯に出なかったの?」「マナーモードにしてたんだよ。あのクソ野郎!」玲は奏汰を罵り、すぐに弟に尋ねた。「なんで家から、ホテルの部屋に電話をかけられるんだ?」「だって俺もホテルにいるからだよ。フロントに今いるんだ。奏汰さんもいるよ、一緒に兄さんを迎えに来たんだ。それから、兄さんと奏汰さんがまたネットに上がってるぞ。もし見る気力があるなら見てみなよ。検索ランキング一位にいくかもだよ」玲はすぐに電話を切って、受話器を置くと、ベッドの上に座り携帯を取り出した。まずはマナーモードを解除して、音が鳴るようにしておいた。それからさっき弟が言っていたゴシップニュースとやらを確認した。彼の言う通り、また柏浜のネットニュースに上がっていた。写真は昨夜のもので、彼女と奏汰が散歩している様子を盗撮したものだった。あのしつこい芸能記者たちも本当に執念がすごい。二人は秘密にしてある隠し通路からホテルを出たし、あの時間帯はもう真っ暗で人通りもなかった。それなのに、二人が一緒にいるところを盗撮されてしまったのだ。そしてゴシップの内容は、白山玲と結城奏汰が人の気配がなくなった夜中に、ボディーガードもつけずにお忍びデートをしていたというものだ。それから、白山玲は結城奏汰に落ちてしまったとも書いてあった。しかし、内容が変わり、その後は二人が何かで揉めて、白山玲はずっと不機嫌で冷たい表情をしていた。結城奏汰への態度も悪く、恐らく喧嘩したのだろうと書かれている。そして、白山玲はまだ結城奏汰に落ちていないのかもしれないとも書いている。ただ、彼にしつこくつきまとわれて、仕方なく人がいなくなった夜中に話し合いをしたのだと。それで、白山玲の態度は悪く、不機嫌そうなのだというのだ。その記事を見終わると、玲はホッと胸をなでおろした。芸能記者たちは彼女と奏汰の盗撮はしたが、近寄ることはできなかった。それで、二人の会話内容が聞こえず、ただの推測でこの記事を書いているだけだった。同時に、玲はまた芸能記者は他に何か書く記事はないのかと思った。なぜいつもいつも自分と結城奏汰にだけ目をつけているのか?男同士の恋愛を初めて見たからか?それもあの男のせいだ。結城奏汰さえいなければ、玲もこんな厄介事に巻き込まれることはなかった。確かに、彼女は以前もゴシッ
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第2085話

「兄さんが来ました」碧は奏汰に兄が来たことを教えようと思ってそう一声かけたが、奏汰のほうはすでに二つの袋を提げ、立ち上がって玲のほうへ向かっていた。碧は呟いた。「ほんとよく見てるな、動きが素早い」それでこそあの姉につきまとえる。しかも姉にこれほど辛抱強く耐えさせることさえできている。周りは玲が奏汰からつきまとわれる様子を見れば、二人がいつ関係を実らせるのかと憶測している。しかし、玲の双子の弟である碧は姉が奏汰のしつこさを許しているところが気になっている。玲は一体どんな人物だ?あそこまで能力の高い人間が奏汰一人をどうにもできないわけがあるまい。明らかに玲は奏汰のことを高く評価している。だから、彼からつきまとわれてもどうしようもないふりをして、そのまま彼の好きなようにさせているのだろう。ああ、こんな話は心の中にとどめておいて、絶対に口に出してはいけない。うっかり口を滑らせでもすれば、姉から大目玉を食らってしまう。玲は奏汰がやって来たのを見て、顔をこわばらせた。奏汰は近寄り、彼女の顔を見て笑った。「毎日毎日、そんなかたい表情でいて疲れないんですか?」玲は奏汰を睨みつけた。「だいたいの人は自分を良く見せようとするものなのに、あなたはそんなふうに怖い顔をして逆のことをしていますね。お腹が空いてるんじゃないですか?さっきうちのスタッフに頼んで朝食を持ってきてもらったんで、車で食べましょうか。さ、行きましょう。茂さんと弥和さんが家で昼ご飯を一緒に食べるのを待ってますよ」すると奏汰は片手を差し出して、玲の手をとろうとしたが、避けられてしまった。玲は返事もせず朝食も受け取らないで、ボディーガードたちを従え、大股でホテルの外へ歩き出した。そこへ碧が姉に近寄っていった。「兄さん」碧はそう呼びかけながら玲の歩調に合わせてついていった。「兄さん、俺は兄さんがお腹空いてるとか全然考えてなかったけど、奏汰さんは気づいてわざわざ朝食を持って来させたんだよ。さっき届いたばっかりだ、間違いない。ラグジュリゾートのレストランのなんだぞ」玲はこの時も返事をしなかった。玲は風を切るように勢いよく歩き、あっという間にホテルを出ていった。ボディーガードたちもそれに続いた。芸能記者が付近で待ち構えていて、玲と碧が出てきても写真
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第2086話

星城にて。唯月は昨夜、陽に父親のお見舞いに行くから病院に今日連れて行くと伝えていた。しかし、陽は日が高くなってからやっと起きてきて、食事をして出かける頃には太陽はすでに高い位置にのぼっていた。外はかなり暑くなっている。陽は小さなカバンを背負って、母親の後ろについて下におりていった。彼のカバンの中には父親に持って行くと言って、お菓子を入れている。「おかあさん、お花、買いに行く?」陽は歩きながら唯月に尋ねていた。唯月は立ち止まり、陽が近くに来てから手を繋いで引いて歩いた。「お父さんに花を買ってあげたいの?」「うん、ぼく、お金も持って来たよ。テレビでおみまいに行く時にはみんなお花を持って行くんだ」陽は今幼稚園に通うのは、初日から数日間のあの時ほど積極的ではなくなっている。しかし、幼稚園に通うようになってからは前よりもっと物分かりが良くなり、少し大人びたような感じだ。病院に父親のお見舞いに行くなら、花を買わないといけないと理解していた。「いくら持って来たの?」唯月は可笑しくなって彼に尋ねた。「百円じゃ花束は買えないわよ」陽は答えた。「花たばはお札じゃないと買えないでしょ。ぼく何枚か持ってきたよ。おとうさんに買うのに十分だと思う」唯花の後をくっついて回っている陽は、よく叔母と一緒に咲の家に花束を買いに行くのについて行っている。それで花束がいくらかかるのか知っているのだ。唯月は笑って言った。「ならいいわ。お父さんに花を買うなら、自分のお金で買ってね。お母さんはフルーツを買うわ」「わかった」陽は気持ちの良い返事をした。借りているマンションから出てきたところに、隼翔の姿があった。彼は車椅子に座り、後ろにはボディーガードが二人ついている。「あずまおじちゃん」隼翔がいるのを見ると、陽は母親の手をほどいて、走っていった。隼翔は笑顔で陽のほうを向いて両手を広げた。陽が車椅子の前まで来ると、前のめりになって彼を抱き上げた。まずは陽の小さな顔に何度かキスをして、自分の膝の上に座らせた。「おじちゃん、どうしてここにいるの?ぼくとおかあさんと一緒におとうさんのおみまいに行くの?」隼翔は唯月が今日陽を連れて俊介のお見舞いに行くことを知っていたから、リハビリは休んで、ボディーガードにここまで連れてきてもらっ
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第2087話

この時、唯月がやって来た。「東社長」隼翔は彼女のほうを深い眼差しで見つめた。「唯月さん、今日は俺も病院に行く予定があって、君が陽君を連れて彼の父親のお見舞いに行くって聞いたから、ここまで来たんだ。一緒に行ってもいいかな」実際、彼が病院で再検査をする日はまだなので、行く必要はない。ただ口実をつくっているだけだ。唯月と陽が病院に俊介に会いに行くのが不安なのだ。佐々木家がどうにかして唯月を説得し、俊介と復縁させようと考えているからだ。俊介は生と死の境目を経験し、きっとようやく誰が自分に相応しかったのか気づいているだろう。そんな彼が家族の話を聞いて、また唯月を追いかけ始めるかもしれない。当初、俊介は唯月が醜くなったことに嫌気がさし、浮気をし始めた。唯月を裏切ったくせに、また唯月に復縁してくれと頼める資格があると思っているのか?唯月も絶対に俊介とヨリを戻すことはないと言っているが、それでも隼翔は心配だった。唯月が自分の告白を受け入れて結婚してくれるまで、彼はどうしても安心できない。それでなにかと唯月の前に現れては、周りに彼女の傍には自分がいるのだと主張している。「再検査の日はまだ先じゃありませんでしたか?」唯月が尋ねた。それに対し、隼翔はさらりと嘘をついておいた。「昨日の夜なんだか足が痛んで、先生に話したんだよ。先生から今日一度病院に来て見せてくれないかと言われてね」唯月は視線を彼の足へ落とした。「それなのに、陽を膝の上に乗せているんですか。陽、早く降りて、おじさんは足が痛いんですって、座ってたらダメよ」「大丈夫だよ、陽君は軽いから」隼翔は手の力を緩めることはなく、そのまま陽を膝に乗せて、ボディーガードに車の前まで押していくように言った。それから陽に言った。「陽君、おじさんの車で病院まで行こうか」「でも、おじちゃん、ぼく、さきおばちゃんのお店でお花をおとうさんに買わなくちゃ」隼翔は愛しそうな眼差しで陽を見て言った。「じゃ、一緒に買いに行こう。お父さんにあげるって、自分のお金で買うのかな?」陽はまだ三歳だが、実は結構な貯金がある。毎年正月にはいつもお年玉をもらっている。その金額は大人顔負けだ。「そうだよ。おとうさんに買うんだもん、もちろんぼくが出すよ。だって、ぼくのおとうさんだからね」隼
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第2088話

数日休んで、俊介の精神状態は目が覚めたばかりの頃よりも少しよくなっていた。しかし、ベッドから降りて歩くことはまだ無理だった。体には無数のナイフで切られた傷がある。莉奈にこのように刺され、彼がまだ生きているのは奇跡としか言いようがない。ベッドから降りて行動したくても、医者からはまだまだ時間がかかると言われている。生と死の境目を経験し、俊介は誰が良い人間か、悪い人間かもよくわかっている。しかし、彼は莉奈を責めてはいなかった。結局彼女をあそこまで追いつめたのは自分だからだ。彼女の言っていたとおり、当時、俊介のほうから莉奈に近づいていった。あの時、俊介が下心を持たなかったら、、莉奈も真面目に彼の秘書をしているだけだっただろう。それで、二人が一緒になることもなく、こんな事件など起きなかったのだ。そして俊介は、最高の妻を自ら手放した。莉奈と結婚した後も、彼女が望む暮らしを与えてあげられなかった。二人の生活はまったく幸せではなかった。毎日喧嘩し、揉め事が起きていた。莉奈が自分を見失い俊介を刺し殺し、一緒に地獄に落ちようと思ったことを俊介は理解できた。彼は命の危険から逃れ、なんとか話をすることができるようになっていた。両親に、自分の怪我が良くなってから、情状酌量の嘆願書を提出し、彼女の弁護士に手伝ってもらって刑を軽くできるようにしたいと伝えた。両親はそれを聞いて叱りつけたが、俊介は自分の考えを変えようとしなかった。あまりの怒りに両親は俊介を放っておいて、田舎に帰りたいとさえ思った。「お母さん、唯月さんって今日陽ちゃんを連れて俊介のお見舞いに来るんじゃなかった?もう十一時よ、どうしてまだ来ないのかな?明日にするつもりなのかしら?」英子が時間を見て母親に尋ねた。「私お腹空いちゃった。唯月さんが来たら一緒に外で食べようって思ってるのに」英子は唯月の新店舗を見に行きたいと思っていた。場所が分かれば、唯月の新店舗がオープンしてから、英子が市内に来た時には、そこで美味しいものでお腹を満たせるというわけだ。英子は自分のお金を使うのには、非常に財布の紐が堅い。両親が彼女の家から引っ越していった後、もう代わって子供の面倒を見たり、買い物して食事を作ってくれる人がいなくなってしまった。そして英子は自分で買い物する時に、豚肉は高いし、鶏
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第2089話

英子も母親と一緒になって弟にきつく言った。「俊介、今回はなにがなんでも離婚しなさい。これ以上あんなふざけた女と一緒にいちゃだめよ。あんたがこんな目に遭ってから、みんなどんな生活してたかあんたわかったんの?あんたね、あのクソ女と自分のことだけじゃなくて、うちらのことも考えてよね。私はあんたを助けるために怪我して数日入院してたんだから。私たちは姉弟だから、治療費の請求をあんたにはしないんだよ。だけど、私たちの言うことは聞いてもらうからね。さっさとあんな女とは離婚しなさい。それから嘆願書は出すんじゃないよ。あの女はあんたを刺して殺そうとしたのよ。それなのにどうして許せるの。絶対に一ミリたりとも許しちゃだめ!最初はあんたから近づいたかもしれないけど、あっちにも下心がなけりゃ、あんた達が一緒になれるわけないでしょ。責任は両方にあるんだからね。あんたが彼女にちょっかい出してきた時、あの女はどうしてさっさと辞めてしまわなかったんだろうね?あんたから離れていきゃよかったじゃない。それなのに、つかず離れずあんたにくっついて回って、曖昧な空気を出してたんでしょ。プレゼントをすれば全部素直に受け取っちゃって。あの女がそれを嫌がっていたわけじゃないでしょ。完全に下心があったくせに、被害者面しちゃってさ。あんたはあいつを許そうって?じゃ、どうしてお父さんやお母さん、それに私のことは理解してくれないのよ。見なさい、あんたの事で二人とも髪が真っ白になってるわ。さっさとあの女とは離れるのが一番よ。重刑を受けさせないと。あんたは無事だったから、死刑は免れるわよね。でもあの女がやった事を考えれば、無期懲役はいけるはず。一生刑務所で過ごせばいいの。あんたは離婚して、早く元の奥さんと子供を取り戻しなさい」英子は自分が代わりに唯月を取り戻したくてたまらなかった。ここまでずっと口を閉じていた父親が、この時話し始めた。「唯月さんはきっと戻ってこないだろう。だが、成瀬とは離婚したほうがいい。危うく命を奪われるところだったんだ。私たちは誰もあの女を許しはしないよ。俊介、私も母さんも、もう結構な年だ。もうこれ以上ごたごたに付き合わされるのはたえられない。もし、またこんな事が起きたら、その瞬間心臓が止まってあの世行きだ。親のことを考えるなら、成瀬とは離婚してくれ。それから、その嘆願書とや
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第2090話

ただ一人、恭弥だけがまだ何もわかっていない。彼は末っ子でまだ幼く、家族からは非常に可愛がられている。以前はよく陽をいじめて、陽の物を奪っていた。そして最後には、俊介の家に行っても陽に会うことはなくなり、恭弥もいじめる対象がいなくなって、何か奪うことはできなくなってしまった。しばらくぶりに会ったので、恭弥の他人の物を奪いたい衝動がふつふつと込み上げてきた。彼は陽の着ている服はとてもカッコいいと思い、それも欲しいと思った。「子供たちったら、すっかりこんなふうに呼ぶのに慣れちゃってて」英子は唯月の手からりんごの入った袋を受け取って、こう言った。「ここに来てくれるだけで、別に何も買ってこなくていいんですよ。本当にすみません」ちらりと中身を確認すると、りんごしか入っていなかった。今はりんごも少し値上がりしていて、受け取った袋に入っている量だと二千円くらいだろう。英子は唯月が前回来た時よりもケチになったと感じた。しかし、手ぶらで来るよりはマシなので。笑顔は消さなかった。しかしその笑顔も、主に昼食を奢ってもらおうという魂胆があるからだ。唯月は俊介の両親と姉に会釈した。それを挨拶代わりにして、陽に言った。「陽、買って来たお花をあなたのお父さんにあげて」佐々木家全員は唯月が約束通りに陽を連れて俊介のお見舞いに来てくれたので、とても喜んでいた。彼女が俊介と離婚してもう長い時間経っているのに、彼が重傷で入院している今お見舞いに来てくれたので、唯月は情に厚い人間だと彼らは感心していた。しかし、彼らはボディーガードに車椅子を押されて入ってきた隼翔を見た瞬間、全員笑えなくなった。東家のボディーガード一人が、手に二つ袋を提げていて、隼翔の合図でそれをベッドサイドテーブルの上に置いた。隼翔は丁寧な口調で佐々木家に挨拶をした。「佐々木さんのお見舞いに来ました」佐々木家は全員互いに顔を見合って、最後に俊介の父親が絞り出した笑顔で、隼翔にお礼を言った。自分の息子には唯月を取り戻すチャンスはないとわかっていながらも、実際に唯月と隼翔が一緒にいるのを見ると、彼も心の中に形容し難い苦しみが込み上げてきた。家庭をしっかり守り、世話をしてくれていた良い嫁を、彼ら一家は失ってしまったのだ。今、それを取り戻したいと思っても、困難だ。元嫁の傍にはす
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