優希は皆と別れると、火がついたように家へと車を飛ばした。この数日、彼はずっと我慢していた。人前では「女ごとき興味なし」の大男を演じ、誰もいない夜には布団にもぐって、初露とのツーショットを何度も見返す。見ているだけで目が熱くなり、今にも泣きそうになる。妻に会えない優希は、食事も睡眠もボロボロ。もう限界だ。さっき、隼人と桜子がじゃれ合うのを見て、体の中の火に油が注がれた。――耐えられない。......夜が落ち、星がびっしりと瞬く。優希が不在のあいだに、盛京は一気に暖かくなっていた。中庭の草花も、春に誘われてそっと芽吹く。ここ五日、優希様からは何の連絡もない。千奈は勝手に連絡することもできず、食も細く、心ここにあらず。彼女が毎日することは、二つだけ。――可愛い若奥様の世話。――そして、優希様の帰りを待つこと。今夜も、千奈はきちんと身支度を整え、門の外に立っている。胸のどこかで、確信があった。優希様は、すぐ帰ってくる。もしかしたら今日。だめでも明日には。そこへ、白いスポーツカーが夜を裂く稲妻のように近づいてきた。甲高いブレーキ音。車は彼女の前でぴたりと止まる。無事な優希の姿。大股でこちらへ向かってくる。千奈は込み上げる涙をこらえきれず、震える手をぎゅっと握った。「優希様......やっと、お帰りになられましたね」「こんな時間に、どうして外に?」優希は千奈を見て、目を丸くした。「まさか......毎晩ここで俺を待ってたのか?」「いえ、今夜は眠れなくて。少し風に当たっていたら......ちょうどお戻りになられただけです」千奈は微笑む。真実は言わない。彼のことが、骨の髄まで好き。でも、それを表に出すつもりはない。「若奥様は?まさか、もう寝てる?」優希の声が急にそわそわした。「はい。少し前にお休みになりました」優希の肩ががっくり落ちる。「なんてこった......アクセル、火花が出るくらい踏んできたのに、間に合わなかった......」初露はよく眠る。まさに眠り姫。以前なら、毎晩のように彼が甘やかして起こしていたけれど、そうでもしなければ、二人で『何かする』のは昼間までお預けだ。千奈は苦笑した。「でも、もう写真だけを見て我慢なさらなくて済みます。相思の苦し
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