その時、隼人の携帯が鳴った。井上からだ。「社長!段取りできました!今夜七時、ゴールデンです。全部のニュース局で、高原逮捕の報道が流れます。秦は絶対に見るはずです!」「そうか」隼人は口元をわずかに上げた。「それが出たあとだ。秦の動き、そして拘置所の様子。少しでも変化があったら、すぐに俺と――若奥様に連絡しろ」「了解です、社長!」井上は一拍ためらい、早口でまくしたてた。「それと......ご復縁おめでとうございます!もう桜子様を怒らせないでくださいね。絶対大事に、大事に。心のいちばん真ん中に!この三年分の埋め合わせ、全部――」「お前......」隼人が言い返す前に、井上は素早く通話を切った。男は眉をわずかに跳ねさせる。......あの小僧、腕を上げたな。俺の電話を切るとは。それに、さっきの口上はなんだ。俺に説教か?「こほん......」桜子は頬を染め、もじもじと目をそらす。「わざと盗み聞きしたんじゃないわよ。あなたの秘書、声が大きいの。ガラガラで、よく通るんだもの」「俺は、君に隠し事はしない。聞きたいなら、何でもいい」隼人は低く笑う。喉の奥で甘い響きが揺れた。「次はスピーカーモードにして、若奥様の君にご挨拶させようか」「やめてよ。お互い、ちょっとはプライベート残しとこ?」桜子は流し目で睨み、ふっと笑った。「それと『若奥様』って誰のこと?私の手元にあるのは離婚届だけ。結婚届はないけど?」「高城家の桜子以外に、誰がいる?」隼人は彼女の手を取り、手の甲に口づける。視線は深く、痛いほどまっすぐだ。「お前さえ望むなら、いつでも。手を取り合って、白頭まで」「ふん、いらないってば」桜子の細い手は、彼の指に優しく包まれる。胸の奥まで、きゅっと掴まれたみたいに熱い。耳まで赤くなる。隼人の瞳に濃い熱が満ちる。抱くだけでは足りない。熱い口づけが重なり、深く、長く。桜子は決して欲に溺れる女ではないのに、この男に触れられると、身体が先に反応してしまう。霞んだ琥珀の瞳。鼻先に小さな汗。力が抜けて、感覚がきゅっと閉じていく。......が、隼人の手がワンピースの裾へ滑り込もうとした瞬間、桜子はぱしっとその手を押さえた。焼けた鉄みたいに熱い。「井上にメディアを回して、高原逮捕のニュースを流させた――秦を『刺す』ため、でしょ
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