彼の努力は、すべて無駄になってしまった。また隼人と、同じスタートラインに逆戻りなのか?……いや、だめだ。桜子は自分のものだ。絶対に、桜子を嫁にもらう。「そうね、隆一。恋って、やっぱり無理やりどうこうできるものじゃないの」愛子はすっと優雅に歩み寄り、万霆の腕にそっと手を絡める。声は終始やわらかく、棘なんてひとつもないように聞こえる。けれど、その一言一言が、隆一の喉元に尖った針のように刺さっていく。「万霆だって、別に意地悪で言ってるわけじゃないのよ。みんな、あなたが桜子に本気だってことはちゃんと知ってるわ。でもね、愛って、お互いが想い合ってないと続かないものじゃない?私たちは家族として、ただ桜子に幸せになってほしいだけ。もし、好きでもない人のところに嫁がされるようなことになったら……それこそ、彼女の一生を潰すようなものだと思うの」樹は黙ったまま、口の端だけを冷たく持ち上げた。その目には、隆一へのあからさまな軽蔑が隠しきれずに滲んでいる。──愛子は、一見おっとりしているようで、実は頭が切れる。万霆の性格も熟知している。あえて隼人の名前は一度も出さず、ひたすら気持ちの話だけで万霆の胸を揺さぶっている。自由恋愛を何より尊ぶ万霆が、娘の気持ちを無視できるはずがない。隆一の顔はさっと青ざめ、強引に貼りつけていた上品な仮面が、今にも剥がれ落ちそうだ。「隆一、愛子の言うとおりだぞ。無理やり結んだ縁なんか、長続きはせん」万霆は深くため息を吐いた。「そんなに落ち込むな。ただ、あまり一つのことに囚われすぎるな。縁なんてものは、自然に任せるのが一番だ」……桜子は、本当は病院なんて行きたくなかった。けれど、最後は隼人に抱きかかえられる形で、そのまま連れて行かれてしまった。応急処置をしてもらい、薬を塗られて、家に戻ってきた頃には、すっかり夜になっていた。「ほんっと、しつこいんだから。こんなの大した怪我でもないのに、なんでわざわざ病院まで――あっ、いったぁ……」車から降りた拍子に、桜子は腰をひねってしまい、顔をしかめて息を飲む。隼人があわてて腰に手を回し、ぐっと支えた。「無茶するな、桜子。さっき治療してもらってる時、君がどんな声出してたか覚えてないのか?」「そ、そんな変な声なんか出してないでしょ!」桜子の頬が一気に真っ赤に
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