Semua Bab 契約終了、霜村様に手放して欲しい: Bab 1231 - Bab 1240

1552 Bab

第1231話

独特な足音を聞いた途端、ソファに寝転んでいた柴田南は、すぐに姿勢を正して言った。「夕子、あの、ちょっと頭がクラクラするから、先に帰るぞ」頼りになる人が帰ってきたので、当然のことに、和泉夕子は彼を引き留めた。「柴田さん、今日中に全ての設計図を描き終えなければ、うちに泊まるって言ってたんじゃない?」柴田南は手を振りながら立ち上がった。「いや、家があるのに、お前の家に泊まってどうすんの。また明日来るよ。じゃあな......」しかし、立ち上がった途端、すらっとした白い手が突然肩に置かれ、軽く押し付けられたため、元の場所に座り直させられた。「柴田先生、誰の足を折るって?」柴田南はちらっと無表情な霜村冷司を見て、慌てて引きつった口元を持ち上げ、見事に左右対称な作り笑いを浮かべた。「もちろん、自分の足ですよ!」霜村冷司の冷たい瞳に、面白がるような笑みが浮かんだ。「今、私の足を折るって聞こえたんだけど」「へへ」柴田南は間抜けな笑みを浮かべた。「冗談、冗談ですよ」霜村冷司の足を折るなんて、命知らずな真似をする奴はいないだろう?柴田南は霜村涼平と同じで、状況に合わせてうまく立ち回れるタイプだ。自分から進んでウェットティッシュを取り、霜村冷司に差し出した。「俺に触ったから、手汚れたでしょう、ほら霜村さん、手を拭いてください」和泉夕子は、こんなに気の利く柴田先生を初めて見た。思わず手を上げて頬杖をつきながら、彼の媚びへつらう様子を眺めてしまった。霜村冷司は目の前の奇妙な顔を何秒か見つめてから、やっとウェットティッシュを受け取って手を拭いて、視線を外した。「次に陰口を叩いたら、足をノコギリで切るぞ」柴田南はその言葉に一瞬ぽかんとし、その後間の抜けた様子で霜村冷司に尋ねた。「足が『3本』あるんですけど、どの足を切るつもりですか?」霜村冷司はまつげを伏せて、柴田南の股間を見下ろした。彼の視線の動きに合わせて、柴田南も無意識に自分の股間を見た。そして、素早く足を閉じた。「だめです、まだ結婚してないので、この『足』は切っちゃだめです」呆れ果てた霜村冷司は、手に持ったウェットティッシュを柴田南に投げ返し、そのままくるりと背を向けて和泉夕子の方へ歩き出した。霜村冷司は妻をしばらく見つめた後、机を回って彼女
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第1232話

霜村冷司は愛し合う時、力強さの中にも彼女の気持ちを思いやる優しさがあった。すぐに和泉夕子は溶けるように、彼の腕の中で甘えていた。一度で終わると思っていたのに、霜村冷司はまるで我を忘れたかのように何度も何度も求めてくれて、彼女がもう耐えられないほどになったところで、ようやく浴室へと連れて行った。以前の霜村冷司は冷淡だったが、結婚してからは、氷のように冷たい彼が、お風呂に入れることさえ、自ら進んでしてくれるほど優しくなった。髪を丁寧に洗ってくれる霜村冷司を見つめながら、和泉夕子の心は愛情でいっぱいになった。「あなた、終わったら教えてくれるって言ったでしょう、なんで何も言わないの?」霜村冷司は指の動きをゆっくりと止め、何かをためらうように黙り込んだ後、ようやく口を開いた。「涼平から2つのお知らせが届いた。どちらを先に聞きたい?」やっぱり、出発する前に話そう。今彼女に話したら、不安にさせてしまうだけだ。夫のサービスを満喫しながら、和泉夕子は心地よく目を閉じた。「どっちでもいいよ」霜村冷司は和泉夕子の額にキスを落としてから、優しい声で言った。「1つ目は、彼は白石さんを取り戻し、入籍まで済ませた」その知らせに驚き、和泉夕子はぱっと目を開いた。「涼平と沙耶香が入籍したって、いつのことなの?!」こんなビッグニュース、白石沙耶香は教えてくれなかったなんて、もう親友失格じゃない。ムカついている和泉夕子を見て、霜村冷司は口角を上げ、甘い笑みを浮かべた。「昨日のことだ」昨日入籍したばかりなら、まだ連絡する暇がなかったのだろう。そう考えた和泉夕子はすぐに立ち上がろうとした。「沙耶香に聞いてみる」しかし、霜村冷司は長い指を伸ばし、彼女を元の場所へ押し戻した。「まだ2つ目のお知らせがある」和泉夕子は浴槽に戻り、目で早く話すように促した。「10ヶ月後、涼平は父親になる」状況を理解できていない和泉夕子は、数回まばたきをした。「彼が父親になるのと、沙耶香と結婚したことに何の関係があるの?彼は......」そう言いかけて、和泉夕子は信じられないというように目を大きく見開いた。「まさか、沙耶香が妊娠したっていうの?」微笑みを浮かべた霜村冷司は、小さく頷いた。しばらくして我に返った和泉夕子は、深呼
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第1233話

一方、白石沙耶香のほうは、和泉夕子にメッセージを送るか、電話をするか悩んでいたが、どちらもあまり正式ではないと感じていた。霜村涼平が戻ってきて、自分の外出許可が出れば、和泉夕子の家を訪ねて自ら伝えようと考えていた。そう考えていると、窓の外に車のライトが差し込んできて、タイヤが地面を踏む音が聞こえてきたほどなくして、すらりとした長身でハンサムな霜村涼平が車のドアを開けて、ゆっくりと降りてきた。初めて夫の帰りを待つ彼女は、少し緊張していたが、顔には出さず、ソファから立ち上がり、霜村涼平の方へ歩み寄った。霜村涼平はコートを脱ぎ、ネクタイを外し、使用人に渡そうとしたが、白石沙耶香がそれを受け取った。その動作はまるで長年連れ添った妻のように慣れたものだった。霜村冷司のことで頭がいっぱいだった彼だが、こんな心温まる白石沙耶香の姿を見て、心の曇りが徐々に晴れていった。「こんなこと、しなくていいんだ」彼は白石沙耶香の手からコートとネクタイを取り、そばにいた使用人に投げると、彼女の手を取ってダイニングルームへ向かった。テーブルの上の料理が手つかずなのを見て、霜村涼平は白石沙耶香が自分の帰りをずっと待っていたのだと分かり、心が温かくなった。「今後、僕が遅くなるときは先に食べてくれ、待たなくていい」彼女は自分の子供を身ごもっているのだ。お腹を空かせてはいけない。実は白石沙耶香はわざと待っていたわけではなく、ただ食欲がなかっただけだった。しかし、霜村涼平が感動しているのを見て、自分の本音を口にしなかった。彼に座らせられると、白石沙耶香は肉じゃがを一つ箸でつまみ、彼の茶碗に入れた。何も言わない彼女だが、その行動は霜村涼平をひどく感動させた。「沙耶香、お前は本当に優しいな」実は、使用人が肉じゃがを作っているとき、うっかり塩を入れすぎたので、白石沙耶香は彼に先に味見してもらおうと思ったのだ。全く知らない霜村涼平は、まるで馬鹿みたいに喜んで、しょっぱい肉じゃがをかじりながら、キラキラ輝く目で白石沙耶香を見つめて笑った。「しょっぱいけど、お前がくれたものだから、全部食べきる......」この言葉を聞いて、白石沙耶香は少し恥ずかしくなり、うつむいてお粥をすすった。二人は夕食を終え、それぞれお風呂に入った後、パジャマを着
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第1234話

「沙耶香、もう我慢できない」霜村涼平は熱烈に、そして切実に白石沙耶香の唇を奪い、大きな手は、ためらいもなく沙耶香の体をたどっていく。「子供がいるからダメだって言ったでしょ?」キスで窒息しそうになった白石沙耶香は、身体の奥が熱を持ち始めていた。でも、まだ気持ちを抑えることはできた。「できないのはわかってるけど、昔みたいに......」言葉を最後まで言い終える前に、白石沙耶香は彼を突き放した。「またそんなことしたら、もう一緒に寝ないよ」霜村涼平は途端におとなしくなった。「やだ、もうしないから、一緒に寝てくれ」一言で押さえ込まれた霜村涼平は、白石沙耶香の上から降り、再び彼女を腕の中に抱き寄せた。「沙耶香、子供が生まれて、体が回復したら、我慢してた分、取り返すぞ!」彼の腕の中にいた白石沙耶香は、顔を上げて彼を見つめた。「子供が生まれたら、一年の約束も終わる。その時、私が残るかどうかは、私次第よ」彼女を抱いていた両腕は、わずかに硬直した後、すぐに緩んだ。霜村涼平は少し不機嫌そうに体を横向きにし、卓上ランプをぼんやりと見つめていた。その凛々しくも寂しげな背中を見つめ、白石沙耶香は数秒ためらった後、前に出て彼を後ろから抱きしめた。「約束するよ、それでいいでしょ?」彼女は遠回しに残ることを伝えたつもりだったのに、霜村涼平にはその真意が理解できなかった。「約束したって、結局出ていくんだろう?」白石沙耶香は彼が本当に鈍感だと思った。言い争う気にもなれず、ただ顔を彼の背中に寄せた。「明日は仕事でしょ、早く寝よう......」霜村涼平はしばらく黙り込んだ後、体を横向きにして、彼女を見下ろした。「沙耶香、盛大な結婚式を挙げよう、二人で」そして、結婚式で世界中に、白石沙耶香が自分の妻であることを、皆に堂々と示すつもりだった。そうすれば、彼女は一生自分のものだ。逃げられるはずがない。白石沙耶香は霜村涼平をしばらく見つめた後、静かに頷いた。「わかった。あなたの思うようにして」もう二人の間には何の障害もないはずだ。だから彼が結婚式を挙げたいなら、挙げればいい。同意を得た霜村涼平は、再び白石沙耶香を強く抱きしめた。「沙耶香、寝よう」白石沙耶香は彼から漂う懐かしい香りを嗅ぎながら、ゆっくりと目
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第1235話

和泉夕子は穂果ちゃんの手を引いて、白石沙耶香に会いに行こうとしていた。ところが、白石沙耶香の方から訪ねてきて、一か月以上ぶりの再会を玄関先で果たした二人は、思わず顔を見合わせて微笑み合った。城館に戻り、新井に妊婦が食べられるものを用意してもらうように頼んだ後、和泉夕子は白石沙耶香を引っ張って隅々まで眺め回し、手を伸ばして彼女の平らなお腹を撫でた。「沙耶香、前に私に約束してくれたこと、覚えてる?」「もちろん覚えてるよ」立っていた白石沙耶香は、優しく和泉夕子の髪を撫でた。「子供が生まれたら、あなたに名付け親になってもらうって約束」和泉夕子は顔を上げて、白石沙耶香に向かってにっこりと微笑んだ。「楽しみだよ」彼女の瞳に映っていたのは、白石沙耶香を心から喜ぶ気持ちだけで、自分が妊娠できない悩みは、そこに影すら見せていなかった。彼女はうまく演じていた。いつもさりげなく、心の内を隠していたけれど、白石沙耶香には彼女の気持ちがよく伝わっていた。「夕子、あなたにもきっとすぐ赤ちゃんがやってくるよ」白石沙耶香は座って、和泉夕子の手を握り、優しく手の甲を叩いた。「あなたの子供が生まれたら、私も名付け親になるわね」白石沙耶香にからかわれて、和泉夕子は笑った。胸の奥に沈んでいた憂鬱も、すぐに消え去った。「じゃあ、その言葉を信じて、 早くうちの子の名前、つけてもらわなきゃね」白石沙耶香は白い指を伸ばして、和泉夕子の鼻をちょんと触った。「ご利益、ご利益」和泉夕子は高い鼻を近づけた。「もっとたくさん触って。たくさん子供ができるように」白石沙耶香はたまらなくなって、笑いながら10回も和泉夕子の鼻に触った。「10人なんて、本当に生めるかしらね」「10人?」夫はすごいけど、自分は母豚じゃないんだから、10人なんて産めるわけない。「2人で十分よ。男の子と女の子一人ずつだったら、人生、最高に幸せだね!」これは仲の良い夫婦がよく望むことだ。白石沙耶香も同じ気持ちだったけれど、無理強いはしなかった。和泉夕子と白石沙耶香はしばらく話をしていたが、白石沙耶香が眠くなったので、和泉夕子はすぐに彼女を客間に案内した。白石沙耶香にゆっくり休んでもらおうと思っていたのに、まさか霜村涼平が妻探して、ブルーベイに押しかけてき
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第1236話

白石沙耶香が「うん」と返事をすると、霜村涼平は白石沙耶香にもキスをせがんだ。白石沙耶香は乗り気ではなかった。「人がいるんだから」以前は親友と呼んでいたのに、今は他人呼ばわり。温厚な和泉夕子でも、思わず呆れたようになった。「彼女のことは気にしないで」霜村涼平の言葉が終わるか終わらないかのうちに、長身で立派な体格の影が城館の外から入ってきた。彼は慌てて腰をかがめ、ハンサムな顔を白石沙耶香の前に突き出した。「ねぇ、早く、キスして」霜村冷司が入ってきたことに気づいていない白石沙耶香は、仕方なく顔を上げて、彼の顔に軽くキスをした。霜村涼平は満面の笑みを浮かべ、白石沙耶香を抱きしめ、無表情な霜村冷司の方を向いた。「冷司兄さん、戻ったのか?」霜村冷司は以前、自分の前で和泉夕子を抱きしめたり、ベタベタしたり、キスしたりと、事あるごとにいちゃついていやがった。今こそ、霜村冷司の前でこっちの幸せを見せつける番だ。心の中でそう息巻く霜村涼平をよそに、霜村冷司は二人を一瞥しただけで、和泉夕子の前に歩み寄り、「今後、頭がおかしい奴は入れるな」と言った。和泉夕子は一瞬呆気に取られた後、白石沙耶香のために声を上げた。「沙耶香の頭は正常だよ」ソファに座った霜村冷司は、霜村涼平を流し目で見て、「白石さんのことではない」と言った。「......つまり僕のことか?」と霜村涼平は言った。霜村冷司は眉を上げた。「自分で認めたのなら、そのとおりだ」「......」霜村涼平は唖然とした。まあいい。霜村冷司と言い争っても勝ったためしがないし、もう言うのはよそう。霜村涼平は白石沙耶香の手を引いて玄関まで行くと、何かを思い出したように、すでに抱き合っている冷司夫妻の方を振り返った。男が女を膝の上に抱き上げる姿は、何度か見てきた霜村涼平でも、思わず照れてしまう。霜村冷司の男のフェロモンが強すぎるんだ。それに和泉夕子はか弱いタイプだし、あんなにたくましい男に抱きしめられたら、妄想したくなくてもしてしまう。霜村涼平は自分の目隠しできないので、白石沙耶香の目を手で覆った。目を覆われた白石沙耶香は、指の下でため息混じりに、霜村涼平に軽く睨み返した。自分はどんな場面も見てきたよ。何を隠してるの?それを気づかずに、霜村涼平は霜村冷司と和泉夕子に
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第1237話

黒服のボディガードたちに囲まれた藤原優子は、まるで偶然埠頭を通りかかったかのように、遠くで足を止め、客船の方へちらりと目をやった後、振り返って霜村冷司の車に視線を向けた。分厚いカーフィルム越しに、霜村冷司は、十字の傷跡のある顔を見た。強い日差しの下、生々しい傷跡が赤く光っていた。藤原優子はわざと隠そうとも、避けようともせず、むしろその顔を上げて、彼にはっきりと見せた。まるで、その傷跡がかつて彼によってつけられたものだと、思い出させているようだった。彼女は本と藤原晴成を連れて、公然と姿を現した。それは霜村冷司に告げるためだ。「冷司、いつか必ず、この傷跡の復讐をする」と。霜村冷司の深い瞳の色は、急に黒く沈んだ。彼が何か反応する間もなく、藤原優子は振り返り、客船に向かって歩き出した。霜村冷司は特殊な立場にあるため、和泉夕子が妻であることを公表したことは一度もない。メディアがいるような公の場では、いつも別々に移動する。今、和泉夕子はすでに船に乗っていた。藤原優子がこんなに多くの人間を連れて船に乗り込むのを見て、霜村冷司は彼女の狙いが和泉夕子にあると理解した。そう思った瞬間、彼はすぐにドアを開けて車から降りた。しかし、藤原優子はくるりと向きを変え、方向を変えた......霜村冷司が急に歩みを止めた時、藤原優子は不意に振り返り、彼に不気味な笑みを向けた。この笑みは、今日の彼女の目的が和泉夕子ではなく、彼を試すことにあることを意味していた。霜村冷司の鋭い目には、殺意がにじみ出た。考える間もなく、彼は背後のボディガードたちを連れて、藤原優子の後を追った。前回、藤原優子の処理を沢田に任せ、沢田はまた別の用事のために本に任せた。その結果、本は裏切り、闇の場に逃げ込んだ。今回は、霜村冷司は必ず自分の手でケリをつけなければならない。船に乗っていた和泉夕子は、藤原優子が振り返った時に彼女だと気づいた。ただ、距離が離れていたため、顔の傷まではっきりと見えなかったが、その輪郭は紛れもなく、和泉夕子の記憶を呼び覚ました。藤原グループが霜村グループに買収されてから、藤原優子と藤原晴成は姿を消した。二人は海外に逃げたのだとばかり思っていた和泉夕子は、彼らを見た瞬間、息が詰まった。自分の本当の身分を知らなければ、彼らを見ても何も感じなかっただろう。だが、今
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第1238話

霜村冷司は「ああ」と返事をして、頭を下げ、和泉夕子の髪に優しく愛情を込めてキスをした。「心配をかけて悪かった」和泉夕子は彼の腕の中から顔を出し、顎のラインがすらりと整った男を見上げた。「今、優子を見た気がする。何か用があって会いに行ったの?」霜村冷司の体はこわばり、彼女が見ていたとは思っていなかったようだ。少し迷った後、淡々とこう言った。「彼女の手にはSのメンバーリストがある。彼女を処理しようと思ったんだ」本当は殺しに行くつもりだったが、失敗した。藤原優子の周りにいるのは闇の場の連中ばかりだ。霜村冷司の立場として殺しに行けば、闇の場の連中は自分を疑うだろう。一度疑われれば、後々闇の場に行くのは難しくなり、黒幕を突き止めるどころか、命の危険さえある。幸い、飛び出す直前に相手の纹章を見て計画を中止した。さもなくば、藤原優子という邪魔者のせいで、全てが水の泡になるところだった。だが、疑問は残る。藤原優子と本は自分の正体を知っているのに、なぜ闇の場の連中に教えなかった?それとも、闇の場の連中は既に知っていて、一歩一歩自分を罠に誘い込んでいるのか?だが、闇の場の黒幕の目的はSのリーダーを倒すことだろう。Sのリーダーが誰だか分かっているなら、なぜ捕まえようとしない?霜村冷司は、藤原優子と本が自分の正体を誰にも、いや、藤原晴成にすら明かしていない事を、どうしても理解できなかった。あれほどの弱みを握りながら、一体何を企んでいるというのか?霜村冷司が「処理する」と言った時、和泉夕子は「軽く懲らしめる」くらいに解釈し、「殺す」とは全く考えていなかった。だからすぐに彼の言葉を信じた。「じゃあ、リストは取り戻せたの?」霜村冷司は軽く首を横に振った。「彼女のそばにいる本という男が、リストを暗記している。彼が死なない限り、リストは取り戻せない」和泉夕子は本という人物について尋ねようとしたが、霜村冷司の表情が深刻で、何か難しい問題に直面しているようで、悩んでいるのが見て取れた。こんな時、和泉夕子は邪魔をせず、霜村冷司も少し考えた後、軽く腰をかがめて彼女を抱き上げた。「私のことは私が解決する。心配するな。涼平の結婚式に行こう」霜村冷司は和泉夕子に安心感しか与えず、悩ませることはなかった。今も、悩みを抱えていても、彼女に余計な心配をかけさせたくないのだ
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第1239話

唐沢白夜は柳愛子の目をじっと見つめた。目は充血していたが、無理やり笑みを浮かべて言った。「彼女が元気なら、俺は邪魔しません」霜村凛音が自分を愛していないと分かっていながら、無理に近づけば、彼女を困らせるだけだ。こうして遠くから一目見ることができれば、それで十分だ。唐沢白夜の堪えようとしている気持ちを感じ取った柳愛子は、申し訳なさそうに、小さな声で謝った。「ごめんなさい。私のせいで、あなたと凛音は......」唐沢白夜は静かに微笑んだ。「涼平と白石さんの結婚を認めてくれれば、それで俺たちへの償いになる」彼の寛大さに、柳愛子はますます目を合わせることができなかった。「ごめんなさい」唐沢白夜は何も言わず、披露宴会場を見上げた。「柳さん、もうすぐ式が始まりますね。お忙しいでしょう?」人を追い払う時でさえ礼儀正しい唐沢白夜を見て、柳愛子はふと気づいた。唐沢白夜は、一度も自分にひどい言葉を言ったことがない。自分に殴られ、罵られても、彼は常に礼儀正しさを保っていた。柳愛子はそれに気づき、過去の自分が本当にひどかったと思った。でも、時間は巻き戻せない。与えてしまった傷は深く、今更謝罪したところで、何の意味もないのだ。彼女はもう謝罪をやめて、振り返り、霜村凛音の方へ歩いた。「凛音」柳愛子はもう一度唐沢白夜の為に霜村凛音を説得しようとしたが、霜村凛音は自分の声を聞いても振り向かず、そのまま立ち去ってしまった......その背中を見つめ、柳愛子は深くため息をついた。自分の娘は、まだ許してくれないようだ......霜村冷司は和泉夕子を抱きかかえて船に乗ると、優しく彼女の頭を撫でた。「夕子、ちょっと彼らに話があるから、先に入ってて」彼が言う「彼ら」とはSのメンバー、つまり後ろにボディガードとして扮している者たちのことだ。和泉夕子は彼らに一瞥をくれ、霜村冷司に頷いた。「披露宴会場の入り口で待ってるよ」霜村冷司は「ああ」と返事し、彼女が去るのを見送ると、優しい眼差しは消え、Sのメンバーの方へ向き直った。「優子はたった今、環湖ホテルに入った。お前たちはここに残って、彼女を尾行しろ。何かあればすぐに報告しろ」メンバーたちは顔を見合わせ、眉をひそめて霜村冷司に尋ねた。「では、夜さんはどうするのですか?」沢田は大野佑欣と一緒にいるし、相川涼介も
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第1240話

大野皐月が三人連れで披露宴会場の入り口まで来ると、深くて落ち着いた瞳で霜村冷司越しに隣に立つ和泉夕子を見た。ちょうど和泉夕子も彼を見上げており、視線が触れ合った瞬間、大野皐月は慌てて視線を逸らした。和泉夕子の手を引いていた霜村冷司は、大野皐月がこっそり妻のほうを見ているのが気に食わない。無意識に和泉夕子の手を離し、彼女の腰に手を回し、大野皐月を見下ろした。それに気づいた大野皐月は拳を握りしめ、隣にいる沢田を見た。合図を受け取った沢田は慌てて間に入り、「霜村さん、大野さんは、何と言おうと夕子さんは春日家の人間なので、夕子さんにとって姉同然の人の結婚式にはお祝いを贈りに来なきゃいけないと言っていました。それで、この二人を連れてきたんです」と取り繕った。説明を終えた沢田は、霜村冷司と和泉夕子に気まずそうに笑いかけた。顔の引きつりや視線の泳ぎは、今言ったことが嘘で、本当は彼が大野佑欣を結婚式に連れて行くと聞いたら、大野皐月と春日琉生が厚かましくついてきたことを物語っていた。霜村冷司は相手にするのも面倒で、和泉夕子を連れて行こうとしたが、来た者は客だし、白石沙耶香のためでもあるので、和泉夕子もあまり気まずい思いをさせるわけにはいかない。「新郎新婦は控え室にいるよ。沢田さん、みんなにお祝いを持って行かせてあげて......」沢田は心の中で和泉夕子に感謝し、大野佑欣の手を取り、少し不機嫌そうな大野皐月に向かって言った。「大野さん、行こう。先に入ろう......」大野佑欣のため、沢田は仕方なく大野皐月のご機嫌取りをし、いつも彼を持ち上げたり、おだてたりしていた。大野皐月への対応は大野佑欣よりも丁寧なくらいだった。ついに努力が報われ、大野皐月が自分を義理の弟として認めてくれた。大野皐月は愛想のいい沢田を一瞥し、足を踏み出した。披露宴会場へ向かって歩きながら、入り口に立っている霜村冷司をわざと肩で突いた。しかし、普段から鍛えている人とそうでない人では差があり、大野皐月は霜村冷司を突き飛ばすどころか、逆に自分がよろめいてしまった。霜村冷司は倒れそうになった大野皐月を支え、上から見下ろした。「大野さん、体が弱いなら、もっと栄養剤を飲んだ方がいいぞ。でないと、結婚できる前に、自分が先に逝っちまうぞ」大野皐月は怒りで顔が真っ赤になった。霜村冷司に言い返そうと
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