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第1516話

Author: 心温まるお言葉
間違っていたのは母で、無実なのは唐沢白夜だったのに。そして、償うべきだったのは自分なのに、過去の出来事のせいで唐沢白夜にもう一度チャンスを与えようとはしなかった。結局、自分が冷酷すぎたのだ......

火葬場の入口に座っていた霜村凛音は、後悔の念に押しつぶされそうだった。だが、生涯愛してくれた男はもう現れない。抱きしめながら、長い髪を撫で、「凛音、これはただの悪夢だよ。目が覚めても、俺はまだここにいるから......」そう言ってくれることもない。

霜村凛音はそこまで考えて、さらに泣き叫び、ついには狂ったように火葬場で唐沢白夜の名前を叫び続け、戻ってきてほしいと懇願した。だが、誰も答えない。ただ、しとしとと降り続く雨だけが、全てがもう不可能になったことを告げているのだった。

彼女は泣き疲れて気を失ってしまった。目が覚めると、柳愛子の心配そうな顔が見えた。霜村凛音はぼうっとあたりを見回したが、唐沢白夜の姿は見えず、再び目を赤くした......

「お母さん、また白夜を私から引き離したの?だから彼はいなくなっちゃったの?」

柳愛子は霜村凛音の泣き腫らした目を見て、もらい泣きをした。「凛音、白夜はもういないのよ......」

霜村凛音は急に大雨が降っている窓の外へ顔を向け、涙を流した。「お母さんのせいだ。私と彼を引き離したのも、彼を殺したのも......」

責めるべきは自分自身だと分かっていた。結局、後で改心した柳愛子は自分に立ち直るように説得したが、自分自身が戻ろうとしなかったことで、唐沢白夜の体を蝕んでしまったのだ。

元凶は柳愛子ではなく、自分自身であることをよく理解していた。ただ、全て自分が引き起こしたことだと認めたくなくて、責任を柳愛子に押し付けたのだ。

柳愛子も罪を認め、「そうよ、全部私のせいよ。私が彼を殺してしまったの。でも凛音、白夜を見送る人が誰もいないのよ。だからあなたはしっかりして、火葬場に行って、彼を見送ってあげて......」と繰り返し言った。

霜村凛音は必死に首を振った。火葬しなければ唐沢白夜はまだいるような気がした。火葬してしまえば、唐沢白夜は本当にいなくなってしまう。彼女は彼の火葬も、彼を見送ることも全て拒否した。だが、唐沢白夜は冷凍庫の中で凍りつき、皮膚と肉がくっついてしまったので、火葬するしかなくなっていた......

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