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契約終了、霜村様に手放して欲しい のすべてのチャプター: チャプター 1521 - チャプター 1530

1552 チャプター

第1521話

リビングに足を踏み入れた霜村冷司は、霜村壮馬の泣き声を聞き、ネクタイを緩めていた指を少し止めた。冷たい視線は、キッチン入口で面白そうに眺めている小さな影に向けられた。「冬夜」霜村冷司の声に、霜村冬夜は体をこわばらせた。そして、目尻の笑みを消し、スーツの上着を脱いで使用人に渡している男の方を向いた。「来い」男の声は静かだったが、威圧感があった。生意気な霜村冬夜でさえ、その威圧感には逆らえず、素直に近づいていった。霜村冷司はネクタイを外し、使用人に渡すと、濃い睫毛を伏せて、目の前で黙っている霜村冬夜を見つめた。「壮馬くんに謝れ」自分が悪いと思っていない霜村冬夜は、口を尖らせた。心の中では不服だったので、霜村冷司の言葉に反応することもなく、その場にじっと立って抵抗の意思を示した。「そこに立って門番でもしたいのなら、ずっと立っていればいい。だが、もし一歩でも動いたら、壮馬くんに謝るんだ」霜村冷司のこの冷たい言葉は、明らかに霜村冬夜を板挟みにした。彼は濃い小さな眉をひそめ、霜村冷司を睨みつけた。長身で美しい立ち姿の男は、彼には一瞥もくれずに、靴を履き替え、階段を上がっていった。これに霜村冬夜は腹を立て、小さな拳を握りしめ、憤慨した表情をした。泣きながら母を探そうとしていた霜村壮馬は、霜村冬夜が罰として立たされているのを見て、急に泣き止んだ。袖でチーズだらけの顔を拭いてから、霜村冬夜の前に走り寄り、舌を出して言った。「あっかんべー......」霜村冬夜は、バカという言葉では霜村壮馬を表すのに十分ではないと感じた。なので、この頭の悪そうなのとは議論しないとばかりに目を閉じ、無視をすることにした。白石沙耶香がきていることを知っていたので、霜村冷司は裏庭に和泉夕子を探しに行かなかった。なので、風呂から上がると、スマホを取り、和泉夕子から送られてきた知能テストの結果を眺めていた。じっくりと見ているうちに、自分の子供の頃を思い出した。5歳の時、霜村東邦に連れられて知能テストを受けた。最初は霜村冬夜と同じくらいだったが、だんだん高くなっていった。霜村冬夜もきっとそうなるだろう。ただ、霜村冬夜が将来、自分と同じようになるのか、それとも自分の知能よりも高くなるのかは分からない。知能が高いことは悪いことではない。問題は霜村冬夜の性格
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第1522話

こんなバカに謝るなんて、自分の知能を侮辱するようなものだ。だが、永久的支配権のため、霜村冬夜は口を開いた。「すまない――」霜村鉄男は一瞬唖然とした。こっそり目を開けて、指の隙間から、言い終わり立ち去る後ろ姿を見つめた。「兄貴、もしかして何かに憑依されたの?」霜村冬夜は呆れたように白目を剥くと、霜村冷司の前に歩いて行った。「さあ、謝ってきたよ。問題は?」霜村冷司はカップを持ち上げ、優雅に一口飲んでから、それを置いて立ち上がった。「書斎へ来い」霜村冬夜が後について行くと、霜村冷司は彼を少しも労わることなく、書斎の机の前に座り、顎を上げて、椅子を持ってくるように促した。霜村冬夜は少しむっとしていたが、真っ白な袖をまくり上げ、渾身の力を込めて椅子の背をつかみ、ヒーヒー言いながら、机の前に引きずってきた。彼が座ると、霜村冷司はパソコンを開き、いくつかの問題を表示させ、画面を彼に向けた。「全部で6問だ。数学、プログラミング、天文学、反重力、哲学、人工知能、それぞれ1問ずつだ」霜村冷司の言葉を聞いて、霜村冬夜は自分が子供扱いされているように感じた。「反重力って何なのか、まだよく分かんないんだけど......」霜村冷司は彼が理解しているかどうかなど気にしなかった。「君は自分がすごいと思ってるんじゃないのか?反重力も知らないとは」追い詰められた霜村冬夜は、歯軋りするほど悔しがった。そして、霜村冷司は彼に顎をしゃる。「1時間だ。解けなければ、素直に負けを認めることだな」霜村冬夜は小さな顔をしかめたが、自分のメンツもあるため、父からの勝負を受けることに決めた。彼は小さな手を伸ばしてパソコンを受け取ると、小さな頭を上げて画面上の問題をじっと見つめ、考え込んだ。霜村冷司は1問解かないと次の問題に進めないようにプログラムを設定していた。最初の問題から詰まってしまった霜村冬夜は、焦りからかイラつき始めた。向かい側で読書をしていた霜村冷司は、霜村冬夜の異変に気づき、ゆっくりと口角を上げた。「解けないなら、負けを認めたっていいんだぞ」霜村冬夜は負けず嫌いだった。眉をひそめて公式を探し、解決策を考える。天才と言われるだけあって、学んだばかりの知識であっても、その場ですぐに応用することができた。しかし、これは世界的な難問であり、霜村冬夜がどんな
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第1523話

小さな霜村冬夜は、その瞬間、霜村冷司の放つまるで聖人のようなそのオーラに、思わず自分の父は意外とすごいのかも、とふと思った。完敗した霜村冬夜は、小さな頭を垂れて、霜村冷司の腕の中で負けを認めた。「知ってること、全部教えてよ。そしたら、文句なしで負けを認めるから」しかし霜村冷司は見抜いていた。霜村冬夜が「年下の特権」を使い、自分の技を盗んで、いずれ自分を打ち負かそうとしていることを。しかし、霜村冷司ごめんねとしか言いようがなかった。なぜならば、彼が息子を押さえ込もうと決めた時から、霜村冬夜が逆転することなどあり得ないのだから。男は霜村冬夜を降ろし、彼の目の前でパソコンを軽く叩いた。「このアプリの中には、世界で最も難しいと言われているIQテストが詰まっている。君がこれらの問題を全て解けたら、他のことも教えてあげよう」霜村冷司がそう言い終え、立ち去ろうとすると、霜村冬夜は急いで追いかけた。「じゃあ、お父さんは問題を解く以外にも何かできるの?」霜村冷司は足を止め、小さな頭を上げて自分を見つめている霜村冬夜を見下ろした。「いずれ分かるさ」当時の霜村冬夜は、確かにまだ分かっていなかった。霜村冷司は他に何ができるというのだろうか?しかし将来、霜村冷司の賭博、射撃、ナイフ、プログラミング、AI開発、そして経営能力を目の当たりにした霜村冬夜は、自分の父がどれほどすごいのかを真に理解するのだった。だが今の彼は、プログラムの中の難問を全て解き終えた後、父を打ち負かし、支配権を取り戻すことだけを考えていた。霜村冬夜がご飯も食べずに問題を解いている間、霜村冷司は浴室の入口に寄りかかって和泉夕子が風呂から出てくるのを待っていた。そして、彼女が風呂から上がると彼女の手首を掴み、自分の懐に引き寄せた。和泉夕子はびっくりして、「食事もとらずに、こんなところで立って何してるの?」と聞いた。霜村冷司は、彼女の腰を片手でぎゅっと掴んで、自分の胸元に引き寄せながら、「私が満たしたいのは、腹ではない」と囁いた。濡れた髪の和泉夕子は、彼を横目で見て、「やめとこうよ。また冬夜が私を見つけられなくて、ドアをノックしに来るよ」と言った。毎晩、霜村冷司は彼女を求めた。しかし、多くの場合は突然現れる霜村冬夜のノックによって中断されるのだった。そうなると、和泉夕子は霜
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第1524話

レースのカーテンが揺れ、月明かりが静かに部屋に差し込む。その景色を見つめながら、和泉夕子は無意識に唾を飲み込んだ。そして、どれだけ戸惑っていても、なんとか声を出した。「冷司、大野さんのボディガードの南から聞いたんだけど、大野さんは望遠鏡で私たちを観察するのが好きみたい。だから、ここで変なことはしないでね」いつも感情を表に出さない霜村冷司が、ほんのわずかに眉を動かした。向かいの別荘を冷ややかに見やってから、まるで何もなかったかのようにリモコンを手に取り、部屋の明かりを消した。「大丈夫、これで見えないから」「でも......」言葉も終わらないうちに、椅子の肘掛けに両手を置いた男は、既に腰をかがめ、彼女の唇を口に含んだ。そして狼のように舌先で彼女の息を奪い、彼女が言おうとした言葉すらをも飲み込んだ。和泉夕子は最初こそ抵抗していたが、霜村冷司が片膝をついた瞬間、全身が震えて何も言えなくなった。ただ爪で椅子の背もたれを必死に引っ掻くしかなかった......以前、霜村冷司がするときは、ほとんど彼自身の力任せだった。しかし今夜はなぜか、道具を使うなんて。しかも、その道具たちを、和泉夕子は一つも見たことがなかった......彼女は霜村冷司に道具は使わないでと叫んだ。しかし、男は聞かず、彼女の耳元で囁きながら、魅惑的な声でそそのかす。「夕子、我慢しなくていい。声を出し立っていいんだ」それでも和泉夕子が声を出せるはずもなく、唇を噛み締めて我慢していた。霜村冷司は彼女がそんな様子なのを見て、道具と自分の体を使いさらに力を込めた。「夕子、私はお前の声を聞くのが好きなんだ......」寝室の防音効果が良く、レースカーテンが床から天井まである窓を覆っているのがまだ救いだった。そうでなければ、うめき声を抑えられない和泉夕子は、今にも恥ずかしさのあまり舌を噛み切っていただろう......さらにどうしようもないのが、動けないことだった。だから、霜村冷司の「いじわる」に身を任せるしかなかった。それも、一度だけではなく、二度、三度と......疲れ果てた和泉夕子は、振り返って、固く閉ざされたドアを見た。今、霜村冬夜がドアをノックして、弱々しい声で「お母さん、お腹が痛いよ。病院に連れていってくれない?」と言ってくれることをどんなに願ったことか。しかし残念
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第1525話

霜村涼平は慌てて手を振り、「いやいや、そんなつもりはありません。ただ、この施設に寄付をしたいだけなんですから」と言った。だが、当然専門家がこんな金を受け取るわけがないし、金に目がくらむようなこともない。この融通の利かなさに、霜村涼平は腹を立て、机を叩いて立ち上がった。「賢いだけで、全然融通が効かないなんて!いくら頭がよくても、何にもいいことなんかありませんね!」専門家はそれを聞いて、面白くなさそうに、同じく机を叩いて立ち上がった。「私のことはどうだっていいじゃないですか!」「融通の効かない、頭でっかち!」二人が今にも殴り合いを始めそうになったその時、霜村壮馬と霜村歌音は腹を押さえながら叫んだ。「パパ、もう一日何も食べてない。お腹すいたよ......」霜村涼平は怒りの矛先を双子の子供たち向けた。「一日中食べることばかり考えて。金太郎を見習え!お菓子ばっか食べてるんじゃなく、もっと本を読め!」双子の兄妹は同時に首を横に振った。「パパ、まだ字が全然読めないんだから、本なんか読めないよ。それに興味もないし。お菓子にしか興味がないよ......」そばにいた専門家は、二人の子供を見て、形勢逆転の策を思いついた。「自分で見てくださいよ。この二人のIQ、130と148に見えますか?」返す言葉もない霜村涼平は、頭に血が上り、子供たちを一人ずつ抱え上げた。「この頭でっかち!こんなポンコツ施設、さっさと潰れちまえ!」今までたくさんの知能検査をやってきたが、こんなバカは初めてだ、と専門家は心の中で呟いた。霜村涼平はA市に戻る前に、テスト結果を元に、パソコンで新しいのを作って印刷し、二人の子供を連れて霜村冷司の前に現れ、自慢げに見せた。「兄さん、見てくれよ。僕の子供たちも、なかなかのIQだろ?特に息子の方は148もあるんだ。将来はMENSAに入れるかもな!」書斎に座ってキーボードを叩いていた男は、顔も上げずに霜村壮馬に尋ねた。「鉄男、68掛ける42はいくつだ?」ポテトチップスを抱えて夢中で食べていた霜村壮馬は、汚れた指を伸ばして計算を始め、3分後にやっと答えた。「110」霜村涼平は素早い蹴りを霜村壮馬に食らわせた。「それは足し算だ、掛け算じゃない!普段教えていることを、全部犬ドブにでも捨ててきたのか?!」霜村壮馬は唇を尖らせた。霜村
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第1526話

霜村冷司は唇に笑顔を浮かべると、霜村冬夜の髪を撫でた。「ナイフ、射撃、レーシングカー、船、飛行機、最初にどれを学びたい?」霜村冬夜はキラキラと輝く瞳を上げ、霜村冷司を見つめた。「お父さん、僕に教えてくれるの?」ソファに背を預けていた男は、静かに答えた。「理論的な知識はもう十分学んだんだ。あとは君に護身術を教えるから、将来は私の代わりに、君のお母さんを守るんだよ」霜村冬夜は首を少し傾げ、不思議そうな顔で彼を見つめた。「お父さんがお母さんのそばにいるのに、どうして僕がお母さんを守らなきゃいけないの?」既に頭痛の兆候が現れていた霜村冷司だったが、子供に頭の中のチップのことを話すことはなく、ただ優しく言った。「最近はロボットの開発に多くの時間を取られているから、私がいない時に、君に守ってほしいんだ」最近ロボットの開発をしていると知っていた霜村冬夜は、特に疑うこともなく、頷いた。「安心して。ちゃんと勉強して、必ずお母さんを守るよ」子供と約束すると、霜村冷司は体を起こし、ソファから立ち上がった。「じゃあ、まずは射撃を教えてやろう」一緒に立ち上がった霜村冬夜は、歩きながら言った。「3歳の時、銃で遊んで怒られたから、もう銃を触らせてくれないと思ってた」そんな小さなことまで霜村冬夜が覚えているとは思わなかった。「あの時はまだ小さすぎたんだ。そんな君に、銃なんか触らせるわけにはいかないだろ?」霜村冬夜は言った。「まだ10歳だし、そんなに大きくなったわけじゃないのに、どうして銃を触らせてくれるの?」霜村冷司の足取りは徐々に止まり、振り返って腰の高さまで成長した子供を見つめた。「もうすぐ留学に行くんだろ?そうなると、帰ってきてからじゃ遅いからな」霜村冬夜は天才の名に恥じず、世界最高峰の大学から合格通知を勝ち取った。だから、まだ幼い身でありながら荷物を背負い、異国の地へ旅立ち、ほかの天才たちと競い合うことになったのだ。霜村冷司は書斎に戻り、10年ぶりに銃を取り出し、霜村冬夜を連れて裏庭へと行った。相川涼介は霜村冷司が子供に射撃を教えることを既に知って他ので、芝生の上に的を準備していた。相川泰は距離を測り、安全ラインを引くと、耳の保護用のヘッドフォンを取り出して霜村冬夜に装着させた。「最初の発砲の時は適当に撃たずに、ちゃんと狙いを定めてから引
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第1527話

和泉夕子が会社から戻ったのは、もう夕方だった。夕陽に照らされた裏庭では、まっすぐな姿勢でナイフを握る男が、霜村冬夜に刀の使い方を教えていた。声をかけようと思ったが、この美しい時間に水を差したくなく、足を止めた。そして、ドアにもたれかかり夕暮れの光の中、芝生の上の二人の姿を見つめていた。彼は、本当は子どものことなんて放っておきたかったはずなのだ。しかし、息子を正しい道へと導くために、全力を注いでくれた。そしてその努力があったからこそ、子どもは父を崇拝し、後を追いかけるようになった。霜村冷司は良き夫であり、良き父親だった。彼がいるからこそ、この家は温かくとても意味のあるものになっている。和泉夕子は、自分と子供のそばに、この素晴らしい男性が一生一緒にいてくれるようにと願った。彼女の熱い視線に気づいたのか、霜村冷司は光の中ゆっくりと振り返った。以前は鋭かった視線も、年齢を重ねるにつれて柔らかみを増していた。しかし、彫りの深い顔立ちは少しも変わっていない。まるで時の流れが彼の顔だけを避けているかのように、初めて出会ったときのままだ。黒いシャツに長ズボン、そして白いベルトを締め、そのすらっとした身体をまっすぐに陽射しの下に立たせている。骨ばった指先は腰の両脇に差し込まれ、背筋は揺るぎなく伸びていた。漆黒の髪はきちんと後ろへ撫でつけられ、ほんの少し頭を傾けると、その動きに合わせて毛先がはらりと揺れる。そして男は片眉を上げ、和泉夕子に「来い」と合図を送った。和泉夕子は軽く微笑むと、彼に向かって歩き出した。そばにいた相川泰からハンカチを受け取り、霜村冷司の前に来ると、「あなた、少し屈んで」と言った。霜村冷司が素直に少し腰を曲げると、和泉夕子はつま先立ちになりハンカチで彼の汗を拭った。「夕飯は何が食べたい?」男は和泉夕子の腰に手を回し、小柄な彼女を自分の胸に引き寄せた。「和泉社長が手料理を振る舞ってくれるのか?」からかわれても、和泉夕子は怒らず、むしろ顔を上げて幸せそうな笑顔を見せた。「そんな風に呼ばないでよ」この5年間、和泉夕子は何もしていなかったわけではなく、自分の建築設計会社を設立していた。だが、仕事はあまり受けずに、ほとんどの時間を家で夫と子供と過ごしていた。しかし、霜村冷司からしてみれば和泉夕子は忙しすぎると感じていた。なの
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第1528話

先週、池内思奈は家でディベート大会に出ることを宣言した。しかもポジションは四番手だっ。霜村冬夜は池内思奈には無理だと嘲笑し、池内思奈は怒り心頭で霜村冬夜と賭けをした。まさか勝つとは思わなかったが。霜村冬夜は目の前に突き出された手を一瞥し、冷ややかに言った。「確かに口達者で、揚げ足取りがうまいもんな。優勝できたのは、まっ、実力なんじゃない?おめでとう」池内思奈は彼の言葉から「おめでとう」の意味なんてこれっぽっちも感じなかった。ただ馬鹿にされているようにしか思えなかった。「何言ってもいいけど、とにかく今回はあなたが負けたんだから、さっさとお金振り込んでよね!」霜村冬夜はゆっくりとナプキンを広げ、きちんと敷いてから、静かに言った。「食事が終わったら送金するよ。だけど......」霜村冬夜は眉をひそめ、勝ち誇ったような池内思奈を見た。「もう17歳だろ?それなのに、推薦入学の資格すら取れてない。大学受験に受かるかどうかも怪しいんじゃないの?」池内思奈の心臓はドキッと大きく鳴った。「せ......世界一の大学に合格したからって、自分がすごいとでも思ってるの?別にそんなことないし!もしかしたら来年、私があなたの大学にいるかもしれないんだからね!」霜村冬夜はナイフとフォークを上手に使い、ステーキを切って口に入れた。「じゃあ、僕の後輩になるってこと?」池内思奈は再び心臓がドキッとした。そして、言い返す間もなく、霜村冬夜はまた嘲笑を浮かべる。「じゃあ来年学校で会ったら、僕のこと『先輩』って呼ぶんだよ!」「あああああ、もう!ムカつく!」池内思奈は地団駄を踏んだ後、隣の椅子を勢いよく引いて座り、和泉夕子の腕に抱きついて甘えた。「おばさん。冬夜ちゃん、本当に嫌!いつ追い出してくれるの!もう顔も見たくないよ!」和泉夕子は手を伸ばし、池内思奈の頭を撫でた。「いなくなったら、きっとまた会いたくなるわよ」「そんなことないわ」池内思奈は強がりながらも、視線は霜村冬夜の憎たらしい顔に向いていた。確かに、この生意気なやつとは10年も言い争ってきたんだから、正直情はある。でもやっぱり嫌いなものは嫌いだ。「さっさと出て行ってほしいわ」和泉夕子は微笑んでフォークでフルーツを刺し、池内思奈の口に入れた。池内思奈は口を開けて受け取りながら、霜村冬夜を挑
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第1529話

「冷司、冷司......」和泉夕子は狂ったようにスマホを探しまわった。しかし、全身の力が抜け、何度立ちあがろうとしても足に力が入らなかった。軽いパニック状態に陥り、医者を呼ぶ方法も分からずにいると、霜村冷司がゆっくりと目を開けた。十数年間、変わらぬ深い愛情を湛えた瞳が開かれたのを見ると、和泉夕子は張り詰めていた神経が一気に緩み、床についていた手にさえも力が入らなくなった......涙は止めどなくポロポロとこぼれ落ちた。とても怖くて、唇が震え、言葉もままならない。「あ......あなたは、ど、どうしたの?」十年近く、霜村冷司の愛情に包まれていたおかげで、和泉夕子は泣いたことがなかった。しかし今、ほんの少し自分が意識を失っただけで、こんなにも彼女を泣かせてしまい、霜村冷司は胸を痛めた。彼は激しい頭痛をこらえ、ソファから上体を起こし、片手で彼女の腰を抱え、一気に床から抱き上げた。霜村冷司は彼女を腕で抱き寄せ、再びソファに倒れ込んだ。豊かな髪に覆われた後頭部をソファのクッションに預け、時の流れを感じさせない端正な顔がわずかに上を向く。「ちょっと眠ってしまっていただけだよ。何をそんな怯えていることがあるんだ?」そう言いながら、すらりとした指先で、優しく、涙で濡れた和泉夕子の頬を撫で、何食わぬ顔で軽くつねった。「最近、また少し丸くなったな」彼は彼女の気を逸らそうとしたが、和泉夕子は涙でぼやけた目で、霜村冷司の青白い顔を見つめていた。「ただ寝ていただけだったら、何度か呼べば起きるでしょ?」和泉夕子の目はあまりにも澄んでいて、霜村冷司は見つめることができず、腰に回していた手を彼女の背中に回し、ぐっと下に押して、彼女の頭を自分の肩に押し付けた。「馬鹿だな。疲れて悪夢を見ている時は、そう簡単には起きられないものなんだよ」そんな言葉、和泉夕子は信じなかった。彼の首元に顔をうずめている今、彼の表情は見えないけれど、なぜ彼が突然意識を失ってしまったのかは察しがついた。逞しい胸元に置いていた手をゆっくりと上に持っていき、彼の頭に触れる。「冷司、チップを取り除けるお医者さんがまだ見つからないの。本当にごめんなさい」そして、とても怖い。彼女は霜村冷司を失うことがとても怖かった。命懸けで自分を愛してくれるこの人が、ある日突然
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第1530話

和泉夕子は仕方なく、医者を見送った。ドアの外で待っていた相川泰は、医師が帰るのを見送ると、慌てて言った。「今さっき、思奈様と冬夜様が様子を見に来られましたよ?」和泉夕子が返事をする前に、奥から霜村冷司の冷たく淡々とした声が聞こえてきた。「風邪を引いたとでも言って、心配させないでやってくれ」相川泰は返事をして下へ行った。寝室の前に一人残された和泉夕子は、手足が冷たくなっているのを感じた。背後の男が、あとどれくらいそばにいてくれるのか分からなかった......分かっているのは、今夜から、霜村冷司を失うかもしれないという恐怖に突然陥ったこと。たとえ彼がまだここにいても、自分は夜も眠れないだろう......霜村冬夜が留学に出発する日、霜村家と如月家の人々が見送りに来た。お宮参りの時と同じように、庭には人が溢れかえっていた。ただ10年の時が過ぎ、大人たちの顔つきは変わり、子供たちはすっかり大きくなっていた。霜村冬夜は和泉夕子と霜村冷司の優れた遺伝子をしっかりと受け継いでいた。まだ10歳という若さながら、整った顔立ちとすらりとした立ち姿は、すでに将来のイケメンぶりを予感させた。さらにIQは180まで上がっており、誰もが賢いなと感嘆せずにはいられなかった。特に霜村涼平は、白いセーターを着て、片手をポケットに突っ込み、もう片方の手でショルダーバッグを持ち、らせん階段から降りてくる霜村冬夜のクールな様子を見て、思わず息を呑んだ。そして小学生の制服を着てケーキを取り合っている霜村鉄男と霜村鉄子に視線を移し、さらに息を呑んだ。「同じ10歳だっていうのに、冬夜くんが世界の名門校に行く中、この馬鹿二人はまだ小学生なんて。なんてことなんだ!」白石沙耶香は彼を睨みつけた。「この親にしてこの子ありって、何回も言ってるでしょ?何回言わせれば気が済むわけ?」霜村涼平は歯ぎしりをした後、霜村鉄男と霜村鉄子の前に歩み寄り、二人で奪い合っていたケーキをひったくって口に詰め込んだ。「中学二年生になっても、高校に飛び級できなかったら、その足折ってやるからな!」霜村壮馬と霜村歌音は、空気が抜けた風船のように、同時にしょんぼりした。「パパ、その要求、ちょっと高すぎない?」霜村涼平がちょうど怒鳴ろうとしたその時、リビングから花瓶の倒れる音が響いた。ベスがうっかりぶつかっ
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