リビングに足を踏み入れた霜村冷司は、霜村壮馬の泣き声を聞き、ネクタイを緩めていた指を少し止めた。冷たい視線は、キッチン入口で面白そうに眺めている小さな影に向けられた。「冬夜」霜村冷司の声に、霜村冬夜は体をこわばらせた。そして、目尻の笑みを消し、スーツの上着を脱いで使用人に渡している男の方を向いた。「来い」男の声は静かだったが、威圧感があった。生意気な霜村冬夜でさえ、その威圧感には逆らえず、素直に近づいていった。霜村冷司はネクタイを外し、使用人に渡すと、濃い睫毛を伏せて、目の前で黙っている霜村冬夜を見つめた。「壮馬くんに謝れ」自分が悪いと思っていない霜村冬夜は、口を尖らせた。心の中では不服だったので、霜村冷司の言葉に反応することもなく、その場にじっと立って抵抗の意思を示した。「そこに立って門番でもしたいのなら、ずっと立っていればいい。だが、もし一歩でも動いたら、壮馬くんに謝るんだ」霜村冷司のこの冷たい言葉は、明らかに霜村冬夜を板挟みにした。彼は濃い小さな眉をひそめ、霜村冷司を睨みつけた。長身で美しい立ち姿の男は、彼には一瞥もくれずに、靴を履き替え、階段を上がっていった。これに霜村冬夜は腹を立て、小さな拳を握りしめ、憤慨した表情をした。泣きながら母を探そうとしていた霜村壮馬は、霜村冬夜が罰として立たされているのを見て、急に泣き止んだ。袖でチーズだらけの顔を拭いてから、霜村冬夜の前に走り寄り、舌を出して言った。「あっかんべー......」霜村冬夜は、バカという言葉では霜村壮馬を表すのに十分ではないと感じた。なので、この頭の悪そうなのとは議論しないとばかりに目を閉じ、無視をすることにした。白石沙耶香がきていることを知っていたので、霜村冷司は裏庭に和泉夕子を探しに行かなかった。なので、風呂から上がると、スマホを取り、和泉夕子から送られてきた知能テストの結果を眺めていた。じっくりと見ているうちに、自分の子供の頃を思い出した。5歳の時、霜村東邦に連れられて知能テストを受けた。最初は霜村冬夜と同じくらいだったが、だんだん高くなっていった。霜村冬夜もきっとそうなるだろう。ただ、霜村冬夜が将来、自分と同じようになるのか、それとも自分の知能よりも高くなるのかは分からない。知能が高いことは悪いことではない。問題は霜村冬夜の性格
続きを読む