当時の池内思奈ちょうど初めて恋心を知ったばかり。柴田空が自分と同じ学校に進むと聞いて、思わず顔がほころばせた。「教科書、本当に私じゃないの。たぶん私の友達たちが持ってったんだと思う。だから明日学校で返させるから、それでいいでしょ?」池内思奈は霜村冬夜と同じく、学校では姉御的存在だった。といっても同級生をいじめたりはしない。あまりにも人気者すぎて、女の子たちは彼女を姉御として慕い、男の子たちはまるで犬のように一日中まとわりついているのだった。ただ一人、柴田空だけは真面目に勉強していて、時々は池内思奈に振り回されると、彼女を絞め殺したくなる衝動に駆られることもあったのだ。池内思奈は小さい頃から甘やかされて育ってきたため、かなりわがままだった。なので、柴田空は絞め殺したくなるぐらい彼女に腹が立つ反面、甘やかしているのも事実だった。その結果、池内思奈は学校でやりたい放題だった。しかし、この頃の柴田空はまだ少し幼く、自分の気持ちに気づいていなかったため、池内思奈に対してなんだイラついていた。霜村冬夜は一人ずつ親戚に別れを告げ、車に乗りこみ、ドアを閉めようとしたその時、いつもクールな彼がふと動きを止めた。2秒間の沈黙の後、霜村冬夜は車から降りると、和泉夕子に抱きついた。「お母さん、体に気をつけて」子供に抱きつかれた和泉夕子は、目を潤ませ、手を霜村冬夜の頭に置いた。名残惜しそうに優しく撫でながら、「冬夜。お母さんとお父さんは、いつでも家であなたの帰りを待ってるからね」と言った。霜村冬夜は彼女の胸に顔をうずめ、大きく頷いた。もう一度強く抱きしめた後、ゆっくりと彼女から離れ、霜村冷司の方を向いた。「お父さん。僕が帰ってくる時には、お父さんじゃもう僕に勝てなくなってると思うよ」霜村冷司は唇の端を上げ、何も言わずに大きな掌を彼の肩に置いた。「いいか、うぬぼれた奴は簡単に刺される。周りに合わせることを学べ」霜村冷司の忠告を、霜村冬夜は心に刻んだ。「分かってる」霜村冷司は手を引っ込め、腰から「S」の刻印が入った金色の小さなナイフを取り出し、彼に渡した。「名前選びの時、このナイフを掴んだな。今から、これはお前のものだ」霜村冬夜は相川泰から、父の武勇伝を聞いていたので、数え切れないほどの部下を率いる「夜さん」が、金色の小さなナイフで多くの人を制圧してき
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