運転手が車を降りて、相手側と話をつけに行った。その車からも男が一人降りてきて、弥生はふとその顔を見て既視感を覚えた。しばらくすると、相手の車からさらに女が一人、赤ん坊を抱いて降りてきた。弥生は眉をひそめる。彼女は思い出した。光莉を誘拐する前、レストランで光莉と一緒にいた女性―それが今目の前にいるこの二人だった。弥生はすぐにドアを開け、車を降りて二人の前へ歩み寄った。「ちょっと、あんたたち何のつもり?」若子は、弥生の姿を見て少し驚いた。「あなた......?」たしかこの人は、あの日レストランで光莉と一緒にいた女性。光莉は彼女を「銀行のお得意様」だと言っていたけれど、それ以来光莉は姿を消した。「奥様、車にお戻りください。こちらは私が対処します。すぐに済みますから」運転手が慌てて言った。だが弥生は冷たい目で若子と千景をにらみつけた。「うちの車にわざとぶつけてきたわけ?何が目的なのよ?」なにせ自分は以前、光莉を誘拐した。その場にいた若子もそのことを知っているかもしれない。だから今回の衝突も、わざと仕組まれたものじゃないかと弥生は疑っていた。千景が一歩前に出て、若子をかばうように後ろに下げながら言った。「俺たちの車は直進してたんだ。そっちはカーブで突っ込んできた。どう考えてもそっちが悪いだろ?逆に聞きたい、何が目的なんだ?」冷たく落ち着いた声音の中に、強い圧が滲む。人を見る目がある弥生には分かった。この男、ただ者ではない。その時、弥生の護衛も前に出てきて、互いの陣営が相手を守るような形に。空気が一瞬で張り詰める。そこへ、紀子が車を降りてきた。「お母さん......」若子は紀子の姿を見て、目を見開いた。―この人、西也のお母さんじゃない?まさか、あの迫力満点の女性が紀子の母親?ということは―西也の祖母?しかもレストランでは、光莉と親しげに食事をしていた。若子はふいに思った―なんて複雑な関係なんだろう、と。紀子は若子のことを以前一度見かけていたが、特に言葉を交わすこともなく、母親の腕に手を添えた。「お母さん、もういいじゃないですか。行きましょう」弥生はなおも険しい表情を浮かべながら、「今日のところは見逃してあげるわよ」と吐き捨てるように言った。それから運転
Read more