「すみませんけど、私と彼はもう離婚しています。あなたに説明すべきことなんて、何もありません。それに、西也からは一銭ももらっていません。もしそれだけでしたら―」「ご心配なく」弥生が言葉を遮った。帰る気配はない。「前に個室であった件、あんたも巻き込まれてたのは分かってるのよ。あれ、本気で追及されたら、あんたも無関係じゃ済まないわよね?」若子の眉がぴくりと動く。「追及......するつもりなんですか?」「するかしないかは、あんた次第。ねえ、あの男のこと、ずいぶん気にしてたみたいだし?あんたに手を出せないなら、彼に向けるだけよ。どうする?狙われたいのは、あんた?それとも彼?」若子はゆっくりと椅子に腰を下ろした。「......一体、何が目的なんですか?」「言ったでしょ。ただ、あんたのことを知りたいだけ。素直に質問に答えてくれるなら、前の件はなかったことにしてもいい。でももしごまかすなら......あんたに手出しできなくても、彼にはできるわよ」若子の目が鋭くなる。「何を知りたいって言うんです?」「あんたのこと、ちょっとだけ調べさせてもらったわ。両親はすでに亡くなってて、あとから藤沢家に引き取られて、修と結婚。でももう離婚してる。つまり―この子は彼の子よね?」若子が黙ったままだと、弥生はふっと息をついた。「まだ本人には知らせてないの?」「まさか、知らせるつもりですか?」若子の声が低くなる。「どうして私が?あの人と別に仲良くないし。あんたが黙ってるのはそれなりの理由があるんでしょ」「......西片さんは、私に何を求めてるんですか?どうしてそんなに、私のことを気にされるんです?」若子は、目の前の人物が理屈で動く人間じゃないことをよく分かっていた。それなのに、今の弥生は、まるで別人のようだった。「あんた、両親との仲はどうだった?大事にされてた?」その問いは、何気ないふうに聞こえたけれど―視線だけは鋭かった。真正面からぶつけられるような、逃れられない重さがあった。「とてもよくしてくれました。実の子のように、大事に育ててもらいました」弥生の口元が、かすかに動いた。「つまり、あんたは......彼らの実の娘ではないのね?」若子は声を抑えながら言葉を返した。「西片さん、私のことを知って何か得でもあるんですか?
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