「山田さんはどうしたの?修のそばにいないの?あのふたり、結婚するんじゃなかったの?」若子の問いに、執事は一瞬固まった。「......結婚、ですか?私は何も聞いていません。若旦那様もそのようなことは一言も」若子は、修が言っていたことがその場の勢いだったのだろうと察した。そしてさらに訊ねた。「それじゃ、山田さんは本当に修の子を......?」「ええ、それは本当です。若旦那様が病院に連れて行って、検査も済ませています」若子は数秒間、沈黙した。「じゃあ―なんで山田さんに言わないの?私に電話して何になるの?」「松本さん......あなたの言葉のほうが、あの方には響くんです」しばらくの沈黙のあと、若子は小さく息をついた。「......分かった。彼に代わって。私が話す」「はいっ!」執事はすぐさまスマホを持って修の元へ駆けていった。修はちょうどワインの栓を開け、グラスも使わずにそのまま飲もうとしていたところだった。「若旦那様、若奥様からです。話したいそうです」「......今、何て言った?」修は手を止めた。「若奥様です」執事はスマホを差し出し、スピーカーモードに切り替えた。スマホからは、若子の声が静かに響いてきた。「修、またお酒飲んでるの?」修は執事を一瞥した。「お前がかけたのか?」執事はスマホを置き、「若旦那様、どうかお話を。私は失礼します」と言って部屋を後にした。修はスマホを掴み、吐き捨てるように言った。「若子......お前に俺の何が分かる?消えろって言ったのはお前だろ。俺、ちゃんと消えたじゃないか。今さら何で俺の酒に口出しする?」「修、あんたの胃のこと忘れたの?何度も約束してくれたじゃない。もう飲まないって。なのに、今のこれは何なの?」「俺のことに口を出すな!」修の怒鳴り声が響く。「お前は冴島のことでも心配してろよ!消えろって言ったから、俺は消えたんだよ。それなのに、なんでまだ俺に関わるんだ!」修の声は、どこか泣き声混じりだった。幼ささえ感じさせるその言い方に、若子は怒っていたはずなのに、なぜだかその怒りがすっと引いていく。思い返せば、修の想いはいつだってまっすぐだった。ただ、それと同時に、彼はその気持ちを抱えたまま、別の女性とも縺れていた。そんな矛盾を抱
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