「パパ!」小さな君秋の澄んだ声が、静寂を破った。瑠璃は思わず門の外に目を向けた。——本当に、隼人だった。彼はシンプルなカジュアルウェアを身に着けていて、アイボリーのトップスが、いつもの冷たく気高い雰囲気に少し柔らかな優しさを添えていた。隼人も瑠璃の姿を見て、少し驚いたようだったが、すぐに柔らかい微笑みを浮かべ、母子のもとへ歩み寄ってきた。瑠璃の視線は、無意識に隼人の胸元へと落ちた。あの日、彼が彼女の手を握り、自分の胸に刃を突き立てた瞬間が、脳裏に鮮明に浮かんだ。その傷は、まだ癒えていないはずだった。「パパ!」君秋は小さな足をぱたぱたと動かして、隼人のもとへ駆け寄った。隼人はしゃがんで両腕を広げ、小さな体を優しく抱きしめた。「君ちゃん……」彼はその柔らかな頬に軽くキスを落とし、静かに語りかけた。「明日からママと一緒に別の場所で暮らすんだ。ママの言うことをちゃんと聞くんだよ?」穏やかに微笑む瞳の奥に、言葉にはできないほどの名残惜しさが隠されていた。君秋は純粋な目をぱちぱちと瞬かせながら、隼人を見つめた。「君ちゃんはパパとママと一緒に暮らしたい」その一言に、隼人の胸はぎゅっと締めつけられた。けれど彼は痛みに耐えるように微笑み、小さな頭をそっと撫でた。「パパは、やらなきゃいけないことがたくさんあってね。しばらく忙しいんだ。でも終わったら、必ず君ちゃんに会いに行くよ」「絶対に来てね。ぼくとママ、ずっとパパのこと待ってるから!」君秋はそう言って、かわいい小指を差し出した。隼人はその意味を理解し、小指を出して君秋と約束の指切りを交わした。その様子を、瑠璃は黙って見つめていた。穏やかで静かな表情の裏で、胸の中は波立っていた。指切りのあと、隼人は手にしていた上品なラッピングの箱を差し出した。「これはパパからのプレゼントだよ。君ちゃんが気に入ってくれると嬉しい」君秋は喜んでそれを受け取り、ぎゅっと胸に抱きしめた。「ありがとう、パパ!」「いい子だな」「パパ、ママに言いたいことがあるんでしょ? 君ちゃん、空気読んで中に行くね」君秋はそう言って、くるりと体を反転させ、家の中へと駆け込んでいった。そのあまりにも大人びた言葉に、隼人と瑠璃は思わず目を見合わせた。幼い彼の
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