慎一は無意識にゴクリと喉を鳴らし、私のきらめく唇を噛みしめた。「続けろ!」彼は苛立ち、歯を食いしばった。私は眉をひそめ、顔をそらしてしまう。せっかくの雰囲気が壊れてしまったら、それを元に戻すのは難しい。慎一も私の気持ちの変化に気づいたのか、私の隣に立ち、カウンターに両手をついて、肩で息をし始めた。呼吸が落ち着くと、ポケットからしつこく鳴り続けるスマホを取り出して、「何だ、用があるなら言え!」と低く呟いた。慎一は外ではいつも穏やかで紳士的なイメージだった。私は知的で品のある、理想的な妻でいるつもりだったから、彼に怒りを抱えたまま電話させたくなかった。そっと背中に手を当てて、優しく呼吸を整えてあげる。彼は顔を上げて私に笑いかける。その一瞬で不機嫌な色が消え去った。電話の向こうからは何も聞こえない。慎一は私の髪を指先で弄びながら、「話さないなら切るぞ」と呟いた。数秒待っても無反応。慎一の顔には再び影が落ちる。「間違い電話か?」「たぶん」彼はスマホを耳から離し、画面を確認した。雲香からの電話だった。登録名は「最愛の妹」。慎一の冷ややかで誇り高い表情が、瞬間的に崩れた。彼は驚くほど速くスマホを耳に戻し、「雲香?どうした、雲香?」と慌てて呼びかけた。私はすぐそばにいたから、電話越しにかすかなすすり泣きが聞こえるのが分かった。電話中の人が何をされても抵抗しないという話を思い出して、私は試してみることにした。確かにその通りだった。私は彼の胸に入り込み、首筋に大きなキスマークを残した。それでも彼は全く気づかず、抵抗もしない。彼の心は泣いている妹の方にしか向いていなかった。私はカウンターから飛び降り、一人でバスルームへ向かう。今夜は私一人でここに眠ることを、なんとなく分かっていた。バスルームの床もバスタブの中も花びらでいっぱい。とても綺麗だったけれど、慎一にはもう見せてあげられない。私はシャワーのノズルを取り、無言で床に水をぶちまける。それが私なりの、静かなやり場のない感情の発散だった。唇を何度も洗い、彼に触れられた体の隅々まで必死で洗った。でも、本当に綺麗になるのだろうか?心臓を洗う先端技術とかあったらいいなあ。愛してきた何年もの心臓を取り出して、洗いたい。学生時代の恋は純粋だった。家柄も、利益も、そんな
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