春美の顔色がさっと曇った。慎吾は言った。「そういえば、このモップ、さっきトイレ掃除に使ったばかりで、まだ洗ってないんだ。でもまあ、うちの和式トイレはそんなに汚くないし、大したことないよな。大友さんは気にしないよね?」気にするかっての!「ねえ、お父さん、もしかして忘れてない?」凛が口を挟んだ。「昨日の残り物、全部トイレに捨てたの。水は流したけど、なんか油っぽくてベタベタしてたよ……大友さん、もしかして体から残飯の匂いがしてたりして?」親子は交互に口を挟み、わざとらしく不快な言葉を並べた。春美の得意げだった顔は、瞬く間に真っ黒になった。「あ、あんたたち――」彼女は鼻をひくつかせ、本当に自分の体から凛が言ったような残飯の匂いがしてくるような気がした。「覚えてなさい!」そう言い残すと、彼女は足早に立ち去った。風呂!今すぐ風呂に入らなきゃ!その瞬間、凛は自分がモップを司る神になった気がした。娘の行動について、敏子は内心スッとしたものの、やはり手放しでは賛成できなかった。「……女の子なのに、すぐモップを振り回すなんて、みっともないわよ」「だってあの人、本当に嫌なんだもん……」凛は地面いっぱいに散らばった藤の花を見つめながら、胸を痛めた。慎吾は黙々と後片付けを始めた。「晴れたら、花棚をまた釘で打ち直して、庭の方に少し移動させよう」揉め事は少ないに越したことはない。どうせ大した問題でもないのだ。今日のような屈辱、自分はまだしも、敏子にはもう味わわせたくなかった。凛は少し黙ってから口を開いた。「お父さん、人ってさ、つけあがるものだって考えたことある?」春美が今日やったってことは、今後もまたやるってことだ。彼女自身が言ってたじゃない、一定の金額を超えなきゃ警察も動かないって。結局、誰もどうにもできない。慎吾は深くため息をついた。「でも、どうすりゃいいんだ?何十年も一緒に住んでる近所付き合いだよ。あの人がどんな性格か、一番わかってるのは俺だ。でもここに住んでる以上、顔を合わせないわけにはいかない。毎日口論してたら、周りにも悪い影響が出る」敏子もなだめるように言った。「もういいじゃない。あの人が騒ぐの、今に始まったことじゃないし、穏便に済ませようよ。こっちが大人になって、同じ土俵に立たないの」「じゃあ……」
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