All Chapters of 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん: Chapter 281 - Chapter 290

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第281話

悟は心ではっきり理解している。彼女は広輝に借りを作りたくないと思っているに違いない。だから自分から口を開いて、直接彼女に代わって決断を下した。彼の言い方は間違ってもいなかった。ただ聞いてみただけで、成功する承諾するかどうかはまだわからない。「じゃあ凛さん、早く休んでね。切るよ~」悟は電話を切った。「ふん、お前はどういうことだ。雨宮からどんな恩恵を受けたんだ?『凛さん』『凛さん』って、気持ち悪い」広輝は思わず口を尖らせた。「お前にはわからないだろう?俺は友達には誠実さを第一にしているんだ。気に入らなければ構うな」「友達だと?」広輝は眉を上げた。「彼女はもう海斗と別れたんだぞ?お前たちはどこからそんな深い付き合いがあったのか?」この言葉に、海斗も思わず悟を見た。ところが彼はそれを聞くと、突然姿勢を正し、表情も厳しくなった。「そういう言い方は良くない。凛さんは以前俺を助けてくれた。今は海斗さんと分かれたとしても、俺と彼女の付き合いに影響はない」「助けられた?」広輝の目がかすかに光って、追及した。「何を助けられた?」悟は軽く咳払いをした。「これを話すと長いから、今日はやめておこう。飲もう飲もう。そうだ、広輝、お前に頼みたいことがあって——」「あ、トイレが我慢できない。先にトイレに行ってくる」言い終わると、広輝はウサギよりも速く逃げた。悟は首を傾げて、なんだかわざとやっているような気がしない?広輝はまさにわざとやったのだ。彼は個室を出ると、トイレには行かず、テラスに出てタバコに火をつけた。眉をひそめながら、何か難しい問題に悩んでいるようで、時々歩き回っている。目に見えるくらいイライラしている。一本吸い終わると、また次のタバコに火をつけ、たまに一口吸うだけで、大体は燃やしただけ。急に、彼はタバコを消し、何かを決意したかのようにスマホを取り出し、ある番号に電話を掛けた。一方、凛は悟との通話を切ると、スマホをテーブルに置いて、バスルームに入った。シャワーを浴び、髪を乾かしてから、着信が2件あったと気づいた。見知らぬ番号。発信地は帝都。彼女は少し考えてから、折り返し電話をかけた。向こうはすぐに出た。「もしもし、どちら様でしょうか?」広輝は呆れた。軽く笑いながら言った。「雨宮、俺たちも長
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第282話

「あの時、ホテルで助けてくれた。俺は恩返しをするタイプなんだから、海斗とは別れたけど、借りは返す」さっきここで2本もタバコを吸って、10分か20分くらいはいただろうに、雨宮は自分に電話する気はなかったのか?悟もさっき言っただろう、自分は投資したって!しかもかなり良いとこに投資した!雨宮はどうして気づかないんだ?なめてるのか?広輝は思わず口を尖らせた。「信頼できる編集者を探してるんだろう?あとで紹介するぞ」凛も恩知らずなタイプじゃないし、清廉ぶる必要もない。しかも自ら訪れてくるチャンスに、逆に拒絶する人は馬鹿だ!「ありがとう」「借りを返すだけだ」電話を切ったあと、広輝はすぐその編集者のLINEを探し出し、凛に紹介しようとした。その時、ふと気づいた——。自分は凛のLINEアカウントを追加してない!彼はもう一度電話をした。「あの……LINEの友達を追加して。安心しろ。俺は時也みたいな偽善者じゃない。兄弟の元カノに邪念なんてこれっぽっちもないから。気になるなら、名刺を送ったらブロックしてもいいぞ」「追加した」「うん」名刺を送ると、広輝はスマホをしまい、個室に戻った。「長すぎない?トイレに落ちたんじゃないか?」「あっちいけ!」連れの女が彼の帰りを見ると、すぐ笑顔で寄ってきた。「桐生さん、置いていかないでよ」「置いていかないと、まさか男子トイレに連れてくのか?」広輝は彼女の頬を軽く叩いた。女はすぐ甘えるような目で彼を睨んだ。「桐生さん、今夜私を指名してくれないかな?」広輝はニヤッと彼女を見下ろし、はっきりとは答えなかった。女の笑みが一瞬固まり、思わず落ち込んだ色が浮かんだ。こういう金持ちのお坊さんたちは、気前がいいときは本当に気前がいいし、女を口説くのも上手いが、冷酷なときも本当に冷酷なものだ。心が冷たい!……飲み会が終わった時は、もう夜中近くの頃だった。三人がバーの入り口まで来ると、広輝が聞いた。「お前たちどう帰る?」「運転代行を呼んだ」「今日は車で来てないから、タクシーで帰る。お前は?」「ホテルに一泊する」「らしくないな、女連れずにホテルか?」「俺様が欲しければ、電話一本で済む話だろ?」悟は口元をひきつらせた。「ほどほどにしろよ、病
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第283話

悟は何の躊躇いもなく頷いた。「あるよ、よく凛さんと連絡取ってるけど、それがどうした?」広輝は目を細め、全てを見透かしたように言った。「お前が何を聞きたいか、わかってる」「悟が雨宮と連絡を取っているのも、今日俺がアイツを助けようとしたのも、俺たちがお前のメンツを見てアイツに接しているか、それとも雨宮本人に好意があるか、お前には疑問があんだろう」広輝はここまで言うと、少し間を置いてから、はっきりと言った。「明確に答えるよ。雨宮本人にだ。お前とは関係ない。悟もおそらく同じだろう」海斗は眉をひそめた。「なんで?」広輝は鼻で笑った。「人と人の付き合いって、ギブアンドテイクじゃないか?そうすると、自然と絆が深まる」「お前から見ると、この6年間、雨宮はただお前の後ろに隠れている影だったと思ってるのか?少なくとも月に2、3回は集まってただろ?俺たちも彼女と接する機会は多かった」「例えば悟、俺の記憶が正しければ、雨宮はお前のパソコンを直したこともあったし、プログラムも書いてあげたはずだ」「うんうん!」悟が激しく頷いて言った。「凛さんのプログラミングはすごかったぞ。あの時はあるプロジェクトの追加投資で、財務上の不正に遭いそうになったんだけど、凛さんが自動計算プログラムを書いてくれて、それでめちゃくちゃだった帳簿を整理できたんだ」「あの時も……」悟が次々と語り、海斗はますます混乱していった。彼らの口にする「雨宮凛」と、彼の記憶にある、毎日家で彼の帰りを待ち、細かいことまで全てを整えてくれた「凛」は、本当に同じ人物なのか?「俺だけじゃないよ、凛さんはお前も助けたことあるじゃん……」「ゴホン!」広輝が悟の話を遮った。「もういいだろう。俺は帰るから、お前たちも早く帰れ」そう言うと、広輝は素早くタクシーに乗り込んだ。「すみません、急いでくれ」……凛は広輝から送られてきた名刺をタップして、友達追加の申請を送った。向こうは即承認し、自動メッセージが表示された——。【はじめまして。作者の方は、投稿作品と連絡先をご記載の上、返信ください。協力者の方で緊急の場合は直接1372324……までにお電話ください】。凛は考えた末、指示通り昨年敏子が書いたサスペンス作品を選び、データを送信し、自分の携帯番号を送った。時間が遅すぎ
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第284話

田中さんは振り返り、晴香はすぐに笑顔を浮かべた。「じゃあ、海斗のお世話は田中さんにお願いするわ。私は眠いから、先に部屋に戻って寝るね」そう言うと、彼女は優雅に背を向けて、キッチンを後にした。田中さんは首を傾げた。一体どういうこと?前までは自分が酔い覚ましのスープを持っていくとぎゃあぎゃあ騒いだじゃないか?なんで急に人が変わったんだ?田中さんは鍋のスープを半分ほど碗によそい、トレイに載せて主寝室へと運んでいった。海斗は今日酒をあまり飲んでいなかったが、夕食を抜いたせいで、胃がまたじんわりと痛み始めていた。ちょうど田中さんが熱いスープを運んできたから、彼は拒まずそれを一気に飲み干した。田中さんは空になった碗とトレイを持って部屋を出て、忘れずにそっとドアを閉めた。海斗はベッドに横たわり、目を閉じて、胃の不快感が徐々に和らぐのを待った。どれくらい時間が経っただろう。胃の調子はだいぶ良くなったが、体はますます熱くなっていく。エアコンの温度を下げようと起き上がろうとした時、主寝室のドアが外から開かれた。晴香は裸足でベッドの縁まで歩いて、ベッドで酔いつぶれた男を見下ろすと、口元が自然と緩んだ。彼は暑かったらしく、シャツは上からボタン二つが外れていて、頬にも薄らと紅色が浮かんでいた。ベッドの縁から垂れた腕は筋肉質で力強く、手の骨もくっきりと浮き出ている。特に今日は濃い色のシャツを着ていたおかげで、より一層冷たい雰囲気があって、近寄りがたい威圧感があった。晴香は二人が初めて寝た夜のことを思い出した。あの日の海斗も今のように酔っ払っていて、口では雨宮凛の名前を呼んでいた。少し開いたシャツの隙間から、男の突き出た喉仏を眺めていると、彼女の胸は思わず高鳴り、体が自然に寄っていった。指先で男の胸元に触れ、円を描くように滑らせ、徐々に下へと向かわせる。その時、海斗が急に動いて、背を向けて寝返りを打った。晴香は驚いてすぐに立ち上がり、背中に冷や汗がにじんだ。自分が着ているパジャマを見下ろして、あの時は凛の服を着ていたから、男をその気にさせたのだと思い出すと、彼女は目をきらりとさせて、クローゼットへ向かった。今度はレースのネグリジェを選んだ。胸元は控えめなデザインだが、背中は大きく開けている。男の手が簡
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第285話

「答えろ、そうなのか——」晴香は首を振った。「違うの……やって……いないの……海斗さん、痛いよ……」海斗は彼女のネグリジェを引っ張り、軽蔑的な笑みを浮かべた。「じゃ、これをどう説明するつもり?したことがなければ、なぜ慣れてるんだ?」あの時、二人が関係を持った時も、彼は違和感を覚えていた。前の晩に抱きしめ、キスしたのは凛だったのに、どうしてなんで翌朝、目覚めたら晴香に変わっていたのか?酔って幻覚を見て、人を間違えただけだと思い込んだが、まさか騙されていたとは思わなかった!ここまで思うと、海斗は歯ぎしりするほど悔しかった。「お前、俺の限界を試してるのか!」彼は怒りで晴香を床から引きずり上げた。「クソ女、今すぐ出て行け!この家から出て行け!」激しい怒りで、海斗はさらに熱く感じられた。全身が火に焼かれるようだった……彼はふらついて、喉仏が苦しそうに上下した。違う!海斗の表情が急に険しくなった。今の自分の反応は、まるで……「お前、俺に薬を盛ったのか?!」晴香は目をそらし、まるで顔に「やましい」と書き込んでいるようだった。「くそ!お前、どんなつもりだ?!よくこんなことやれるんだ?!」彼は荒い息を吐き、体に秘めた炎はますます燃え盛り、目もだんだん赤くなっていく。晴香は唾を飲み込み、恐怖を押し殺して床から起き上がり、涙を浮かべながら彼に近づいた。「海斗さん、今すごく苦しいんでしょ……」海斗は冷たく彼女を見た。晴香は唇を噛んだ。「私が助けてあげたいから。本当に……」そう言って、彼女はパジャマを脱ぎ始めた。「分かってるでしょ、あなたを愛してる。何だって喜んでするくらいだわ。他の女の代わりにされても、凛の名前を呼ばれても、気にしない」感情が高ぶり、彼女は自分自身を感動させられたみたいに続けた。「海斗さん、私に助けさせて?今のあなたには私が必要、女が必要なの。凛にできないこと、私にはできる。彼女がしたくないことも、私はできる」彼女は自分の立場を塵より低い場所に置っていた。残念ながら、塵は花を咲かせない。唯一の末路は人に踏みつけられることだ。「ふん……」海斗は笑った。「お前が凛の代役?できるもんか?お前の頭からつま先まで、彼女のどこに及ぶ?ちっとも似ていない」「お前が盛った薬なのに、今更助ける
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第286話

晴香は言葉に詰まった。「あなた……あなたは当てられていない……」「なに?がっかりした?」とっさに体の異変に気づいた瞬間、海斗はバスルームに駆け込み、嘔吐を促した。体が熱くなったのは、残った薬が効いたに過ぎない。「平気なら、さっき……なんであんなふりをしていたの?」海斗は口元を上げて笑った。「もちろん、希望から失望、そして絶望する人間の顔が見たいからさ。面白いだろう?」晴香は全身が震えた。「確かに大胆だな、俺に薬を盛るとは。残念ながら、その度胸に適合そうな頭脳はないようだ」「愚か者め!」「田中さん——」「坊っちゃん、何かご用でしょうか?」指示を受けた田中はすぐにドアを開けて入ってきた。晴香は慌ててパジャマを着ようとしたが、うまく着られず、惨めな姿を晒せるしかなかった。「30分以内に、彼女の荷物をまとめて、すべて外に捨てろ!あとはこの家のすべてのパスワードを変更しろ。今日から、この家では彼女に関わるものは一切見たくない」「承知いたしました」晴香は引きずり出されたのだ。無表情で、田中に引っ張られるままだった。そして、彼女は急に夢から覚めたように、激しく振りほどいた。「触らないで!」田中は一瞬動きを止まった。「私の腹には入江家の子がいるのよ。ただの家政婦のあなたが私に手を出すなんて?!自分の身の程をよく考えなさい。私や子供に傷でもつけたら、あなたの命がいくつあっても足りないわよ?!」「息子を産んで、海斗と結婚したら、真っ先に始末するのはあなたよ!」田中は笑った。まるで馬鹿を見る目で彼女を見た。「時見さん、ドラマの見過ぎじゃないですか?妊娠すれば名門に嫁げると思われていますの?私は入江家で何十年も働いてきましたが、旦那様も奥様も、坊っちゃんも簡単に脅されるような方々ではありません」「名門の子供なら、どんな女でも産めるのですが、それでこの家の主人になれると思うなら、甘すぎますね」美琴でさえ、晴香への態度は明確だった――子供は産んでもいいが、産んだ後は入江家とは一切関係ない。とこかで大人しくしていろ、と。入江家で働いている人たちにはっきりわかっているが、晴香だけはまだ夢を見ているようだ。田中の目に、思わず惜しい色が浮かんできた。晴香は普通の女の子で、大学生でもあるんだから、
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第287話

「承知いたしました。坊っちゃん」いきなり、晴香の顔色は青白くなって、お腹を押さえて叫んだ。「痛い……お腹がすごく痛い……」海斗は、無表情のまま黙っていた。彼は行動しないから、田中も動けなかった。その時、晴香は床に座り込み、額に冷や汗が浮かんでいた。男のズボンの裾を掴み、彼女は懇願するような目で訴えた。「海斗、助けて、私たちの子供を助けて、本当にお腹が痛いの……」田中は見てられなくて、急いで言った。「坊っちゃん、時見さんは演技じゃなさそうです……」冷や汗で薄いネグリジェが濡れ、晴香の顔は苦痛で歪んでいた。海斗は「好きにしろ」と言い捨てて、そのまま去った。田中は自分がなんとついてないだと感心した。働く者は本当に苦労する者だ!……午前4時、救急車が晴香を迎えに別荘に来た。運ばれた病院は偶然にも、美琴が現在入院している病院と同じだった。美琴は朝起きて、すぐ田中から電話を受け、晴香と海斗が家で揉めたことと、海斗が追い出そうとしたが彼女が断ったことを知った。今回の状況は本当にまずいらしい。美琴はそれを聞いたあとも油断せず、子供になにかあるのを恐れ、すぐに晴香の病室へ向かった。ドアの前まで来た時、絶望の色に満ちた叫び声が聞こえた——。「医者さん、お願いです!お願いします!どうか子供を助けてください!」「この子がいなければ生きていけないわ、この子は私の命なのです!」医師は必死に落ち着かせようとした。「落ち着いてください!深呼吸して、まず気持ちを調整してください。今は興奮しすぎて、ご自身にも胎児にも良くありません。まず安静にしてから、治療方法を話し合いましょう……」晴香は聞く耳を持たず、医師の手を掴んで言った。「先生、正直に言ってください、子供はまだ大丈夫ですか?まだ無事ですか?私の子はきっと助かりますよね?なんで答えないのですか?!黙っていないでください!この病院は本当に患者を救えるのですか?」「私の夫はお金持ちですよ!結構ありますわ!早く子供を助けて、いくらでも払えますから!本当よ……お願いですから……」医者が何度か口を開こうとしたが、すべて晴香に遮られて言葉が出せなかった。美琴は彼女の狂った様子を始終見ていた。このままでは、元気だった子供でも彼女のせいで亡くなってしまう!そう思う
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第288話

まさか彼女が逆に責任を転嫁してくると、美琴は思わなかった。「あんたが勝手に騒ぎ立てておいて、なんで私のせいになるの?でたらめを言わないで?その口を引き裂いてやるわよ!」「やってみなよ。今日私を殴り殺せなかったら、あんたの負けよ——」「田中さん——」美琴は全身を震わせながら怒り狂った。「海斗に電話して、今すぐここに来いと言いなさい!早く!今すぐ!」「はい、奥様!」電話は2回切られ、ようやく3回目で通じた。「何があった?」「坊っちゃん、奥様が病院に来るようにとおっしゃっていました」「そんな暇はない」「でも……奥様と時見さんが喧嘩しています」「そうか」田中は首を傾げた。「母さんに伝えてくれ。あの日晴香のお腹の子を守ると言ったのは彼女だ。今こんな騒ぎになったのも、後始末は彼女が責任を持つべきだ。俺に聞くな!」そう言い捨てると、海斗は一方的に電話を切った。田中がかけ直すと、電源が切れていた。「奥様、坊っちゃんは……」「何を言ったの?」田中は覚悟を決めて言った。「坊っちゃんは、奥様が引き起こした問題は奥様が責任を取るべきで、自分とは関係ない、彼に聞かないでくれと」美琴は不思議に思った。急に、晴香が悲鳴を上げた。先ほど平手打ちを受けた時よりも、数倍も痛々しい声だった。次の瞬間、病室はカオス状態になった。医師が慌てて人払いをした。「妊婦は非常に危険な状態です。緊急救命処置が必要です。家族の方はすぐに出て行ってください!」美琴は少し不安になった。もしかして本当に子供が亡くなってしまうじゃないか?さっきあんなに頭に来るじゃなければよかった……30分後、病室のドアが中から開いて、医師と看護師が次々と出てきた。美琴はすぐに駆け寄った。「先生、私の孫は大丈夫ですか?」医師はこの嫁姑の喧嘩にうんざりしていたため、ぶっきらぼうに言った。「胎児はひとまず安全でしたが、妊婦をこれ以上刺激してはいけません。次同じことが、無事ではすまないかもしれませんよ!」美琴は安堵のため息をついた。「先生、ありがとうございます。必ず気を付けておきますわ」那月は15分前に駆けついてきた。田中から事情の経緯を大まかに聞いていた。医者の言葉を聞いて、彼女は思わず呟いた。「本当に丈夫だね。何度も病院に通ってるのに、お腹
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第289話

「うちは今、孫の世代はあなたと海斗の二人だけよ。何で叔父たちとかなうものか?もし遺言通りに、子供の人数で分配したら、間違いなくうちが一番損するわ。でも、もし海斗かあなたに子供ができて、分配人数に加われば、うちのも多少は取り戻せるでしょ」「あなたにはもう期待しないから。今、晴香のお腹にすでに子がいるのに、もらわない手はない」那月は納得できた。「なるほど、それが理由だったのね」「これでわかったでしょう?」「晴香のお腹の子が無事に生まれれば、少なくともこれだけのお金が多くもらえる——」美琴は片手を差し出した。「五億円?」「もっと上」「ま、まさか五十億円?」それを聞いて、美琴は笑った。那月は思わず息を飲んだ。病室の中の晴香にも、その会話をはっきりと聞こえていた。VIP病室もこんなものか、防音効果はまったくダメだった。彼女は手をまだ平らなお腹に当てた。五十億円か……それって、いったいいくらなの……?……晴香の状態では、病院にいてもあまり意味がなく、とにかく安静が第一だった。だから三日目になると、美琴は彼女の退院手続きを済ました。今回は、子供が危うく助からなかったところなんだから、美琴も慎重になって、晴香も怯えていた。晴香は最初の二日間、家でも細心の注意を払い、食事も控えめにして、感情の起伏も抑え、子供に影響がないよう気をつけていた。だが、時間が経つと、お腹の子に問題がないとわかって、美琴も彼女を姫様のように世話し、空の星を摘んであげる以外は、何でも欲しいものを与えた。その間、海斗は一度も別荘に戻らなかった。美琴が直接電話しても無駄だった。出ないか、帰らないとはっきり言うだけ。毎回一言で切ってしまい、まったくうんざりしている様子だ。彼は完全に晴香に愛想を尽かし、もう一目でも彼女を見たくないようだ。晴香ももう彼の愛などを強要しなかった。とにかく彼女には子供がいる。五十億円だよ。海斗の心を得られるかどうかは、もうさほど重要ではない。時間が経つのは早かった。晴香のお腹も次第に大きくなっていった。しかし、彼女はじっとしていられない人で、体調が少し良くなるとすぐに騒ぎを起こしてしまう。「美琴さん、これからに妊娠健診に行ってきますわ。帰ってきたら、あなたが作ってくれた鶏スープが飲
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第290話

「……なんだと?」「妊娠してないのに、なんで鶏スープを飲んでいますの?妊婦と取り合いするなんて、よくないでしょ?」「そんな大きな鍋いっぱいの量を作ったのに、全部飲めるの?」美琴は彼女の頭がおかしいんじゃないかと思った。こんな馬鹿げたことが言えるなんて。「飲めますわよ」「一体何を言いたいの?」晴香もこれ以上真意を隠さなかった。「私のために作ったスープなんだから、他の人は飲まない方がいいんじゃないですか?」「わかったわ」美琴は怒ってスープを置いといて、冷笑しながらうなずいた。「じゃあゆっくり全部飲みなさい!」そう言い終えると、その場を去っていった。晴香得意げに眉を上げ、テーブルの上にある2皿のスープを一瞥し、嫌そうに唇を尖らせ、全く手をつけずに部屋に戻った。「なんで鶏スープを飲まなかったの?!」晴香は昼寝から起きたばかりで、あくびをした。「急に飲みたくなくなりましたの。何か問題でもあります?」「あなた——」「美琴さん、これから私の部屋に入る時はノックしてください。急に現れるとお腹の赤ちゃんが驚いちゃうからです」美琴は一瞬、言葉を失った。夜になり、晴香はリビングでテレビを見ている。美琴は彼女に散歩を勧めたが、彼女は聞く耳も持たなかった。「美琴さん、そんなに暇でしたら、ワンタンを買ってきてくれないのかしら?城西にあるあのワンタンがいいのですわ。あそこの味は最高ですから。美琴は窓の外を見た。とっくに真っ暗になった。車で城西までは最短でも50分、往復は2時間近くがかかる。ワンタンなんてあるわけないじゃない。あったとしても、戻ってきた頃にはもうぐちゃぐちゃになってるわ。今から行っても、もう閉店したじゃない?ワンタンが食べたいなら、田中さんに作らせれば……」晴香はゆっくりと言った。「家で作ったのと外で食べるのと、同じ味かしら?あのお店は11時までやってるから、今から並べばまだ間に合うはずですわよ」美琴はもちろん行きたくなかった。夜中にワンタンを買うために並べるなんて。よくそんなこと思いついたわよね!「私が食べたいわけじゃないのです。お腹の赤ちゃんが食べたがってるの」「行かなければそれでもいいですけど、私が食べられなかったら、今夜はきっと眠れませんわ。私が眠れなかったら、あなたの孫が気
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