【本当にそんなに怖いの?じゃあ、私も読んでみようかな!】【信じてくれ、あれを読んだらもう二度と豆腐なんて食べられなくなるぞ】【どうして?】【答えは全部、本の中にある】二日後、「読書ブタ」がまた一つ投稿を上げた。今回は父親の姿はなく、『七日談』の表紙だけがぽつんとアップされていた。そこに添えられていたのは、こんな一言だった。【ふと気づいたけど、年配の人たちって、本当にいいもの読んでたんだな】この一連の流れに乗って、『七日談』はまるで彗星のごとく若者たちの読書界に現れた。そして、若者たちは――どっぷりハマった。半月も経たないうちに、スレッド、掲示板、果ては応援サイトまで立ち上がり、にわかに熱気を帯び始める。それを見た昔からの読者たちは、声を揃えてこう叫んだ。もう無理だ、この宝物みたいな作家、隠しきれない!この時になってようやく、『七日談』のファンたちは気がついた。そういえば、作者はどこに?これだけ話題になっているというのに、作者に関する情報が一切出てこない。以前なら、少しでも売れた本がトレンド入りすれば、すぐさま作者が名乗り出て、ここぞとばかりに注目を集めようとするものだった。『七日談』なんて、もう何度もトレンドに上がっているというのに、作者はというと、ひっそりといなくなった――いや、まるで……スマホを持ってないかのように沈黙している。敏子は本当に知らなかった。ずいぶん前にネットの世界から身を引いていて、SNSアカウントも持っておらず、使っているのはただのガラケー。べつに使えないわけじゃない。ただ敏子は、昔のような情報が少なく、穏やかな世界が、好きだっただけだ。世の中の声に流されることなく、ただ自分の書きたい物語を書き続けていたい。だからこそ、彼女は自ら外界との接点を断ったのだ。誹謗中傷もあれば、称賛や拍手もある。良いも悪いも、すべてを閉ざしたまま、静かに筆を執り続けていた。……凛は話を聞くと、すぐにスマホを取り出し、書名を検索した――『七日談』すると、画面いっぱいに情報が溢れかえった。素人の熱狂的な書き込みもあれば、有名人による推薦コメントもある。もちろん、批判や皮肉も少なからずあったが――それでも、ひとつだけは疑いようがなかった。『七日談』は、間違いなく当たったの
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