陽一が洗面所から出てきた。洗面所のドアは、ちょうどコート掛けの真正面。だからこそ――二人は避ける間もなく、ばっちり目が合ってしまった。陽一は脱いだ服を腕に抱えたまま、髪はまだ濡れていて、雫がぽたぽたと垂れている。Tシャツの肩口はすでに濡れ始め、首筋や頬もうっすら湿っていた。水なのか汗なのか、見分けがつかない。そして、その視線が凛に向いた瞬間――頭の中が、真っ白になった。凛は黒いキャミソール姿。ぴったりした生地が、豊かな胸元やなめらかな上半身のラインをはっきりと映し出している。丈はやや短く、しなやかな腰が覗き、小さなへそまではっきりと――細くしなやかな腕、際立つ鎖骨、黒に映えるその肌は、まるで発光しているかのように白かった。夢で見た彼女と、寸分違わぬ姿だった――凛はその場に立ち尽くし、呆然と見つめたまま、手に持ったTシャツを着ることさえ忘れていた。「せ、先生……」陽一がようやく我に返り、慌てて背を向ける。深く息を吸い、どうにか声を落ち着かせようとするが――「すみません、やっぱり洗面所、借りたけど……」それだけの言葉が、喉をひどく締めつける。口の中は乾ききり、息を吸うことさえままならなかった。ドクン──ドクン──胸の奥で何かが狂ったように脈打ち、今にも胸を突き破って飛び出しそうな勢いだった。陽一はたしかに、自宅でシャワーを浴びるつもりだった。清潔な着替えを手に洗面所へ向かったところ、そこには作業員たちが数人、所狭しと集まっていた。古い造りのアパートで、設計当初にはエアコンの設置場所など考慮されていない。そのため、室外機は決まって外壁に取り付けられている。ちょうど陽一の部屋もそうで、洗面所の外壁に室外機が設置されていた。作業員たちはすでに安全ベルトを身につけ、洗面所の窓から身を乗り出し、壁の外で修理を進めているところだった。これでは、シャワーどころかトイレを使うことさえままならない。結局、陽一は凛の家へと向かった。ひと言声をかけようと、寝室の前まで来たものの、そこでふと足を止める。今、話しかけたら邪魔になるだろうか?もしかしたら、もう休んでいるかもしれない――とにかく、自分は手早く済ませるつもりだった。数分もあれば終わる。まさか、そんな偶然に鉢合わせする
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