浩二も大学を出ているのだから、このような基本的な常識を知らないはずがない。特に契約書のような極めて重要なものは。「最近忙しすぎて、これは新しいプロジェクトで参考にできる契約書のテンプレートもなくて……契約書を作成する時に違約条項を入れ忘れてしまったんだ……」そして相手にだまされた後も、まだ気づかなかった。最初に考えたのが相手に契約精神がないや、他人の労働成果を尊重していないということで、これは本当に……間抜け。あるいは、正直者。とにかく凛が最初に考えたのは、いくら賠償できるかだった。でも……「契約書を作るようなことも自分でやるの?」浩二はますます気まずそうな顔をした。「本来はしなくていいんだけど……これまでは全部パートナーが担当していて、俺は工事現場のことだけ見ていた。でも半月前に、彼が解散したいと言い出して……」浩二この間抜けは、引き留めても無駄で、会社の元々厳しいキャッシュフローの大半を削って、当初投資した金をパートナーに返すしかなかった。凛は問いかけた。「経営状況に合わせて、損失を計算しなかったの?」「……え?損失も計算するものなの?」「当たり前でしょ?」凛は思わず苦笑した。「最初に一緒に会社を始めたとき、儲かったら一緒に分け合ってたんでしょ?」「それはもちろん!」「だったら同じように、赤字が出たら一緒に負担するのが筋じゃない?」今の会社の経営は明らかに悪化していて、損失は避けられない。それなのに解散を言い出したあとで、元本をそっくりそのまま返すなんて話があるだろうか。株を一度ぐるっと回しただけでも、たとえ二秒の間でも、損するものは損するのだ。すぐに売却しても、損する分はそのまま損する。元本を丸ごと取り戻せるなんて話はない。「お兄ちゃん、そういうことなら私もあなたと組みたいわ。どうせ損しないんだから」「……」浩二は目を丸くした。凛はため息をついた。「計算ができないわけじゃなくて、お金のことで人間関係を壊したくなかっただけなんでしょ?」浩二の目がまた赤くなった。「凛……俺ってやっぱりダメだよな。違約されても賠償を請求せず、解散しても元本をそのまま返すなんて……」「違うわ」凛は真剣に言った。「お兄ちゃんはただ義理堅くて、お金に執着していないだけよ」「あいつは
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