陽一が去ると、珠里も残る気をなくした。「帰るわ」そう言い捨て、珠里は博文を置き去りにして背を向けた。博文は訳が分からずぽかんと口を開け、追いかけて理由を聞いて、ついでに家まで送ろうかと思った。だが研究員代表として今夜は別の任務があり、抜け出せないことを思い出した。珠里は思うままに立ち去れるが、自分にはできない。博文は思わずため息をついた。二人はすでに恋人同士のはずなのに、珠里がなぜか遠く感じられる……遠すぎて、その心を一度も理解できたことがないようだ。まして付き合ってから今まで、手をつなぐ以外にキスすらしたことがなかった。彼は落胆してうつむいた。突然、人影がぶつかってきた。「ごめんなさい!ごめんなさい!痛くなかった?」早苗は片手に四、五個の菓子を載せた皿を、もう片手に飲み物を持っていたが、ぶつかった拍子に少しこぼしてしまった。彼女は慌てて謝った。博文はすぐに手を振った。「大丈夫」そう言って、ティッシュを取り出して差し出した。「拭いて、飲み物がこぼれているよ」「あ!ありがとう!」早苗は思わず受け取ろうとしたが、両手が塞がっていることに気づき、気まずそうになった。博文はその様子に気づいた。「じゃあ、皿を持とうか?」「えっ、本当に?迷惑じゃない?」「構わないよ」博文は皿を受け取った。早苗は手を拭きながら言った。「さっきは本当にすみません、私っておっちょこちょいで……」「いいや、俺のせいだ。考え事に夢中で下を向いていて、前を見ていなかった」「じゃあ、お詫びにお菓子を一つどうぞ」そこで博文は初めて皿の上にある四、五種類のスイーツに気づいた。マンゴームース、ドリアンクレープ、ナポレオン……「ありがとう」博文は遠慮せず笑顔でドリアンミルクレープを取った。早苗の目に惜しそうな色が浮かんだ。「どうしたの?」博文は、このぽっちゃりした女の子をなかなか面白いと思った。表情がとても豊かで、しかも正直だから、何を考えているのか一目でわかる。早苗は首を振った。「なんでもない。そのドリアンミルクレープ、すごく美味しいよ」「もう食べたの?」「はい!三つも」「……」「さっきの顔、『なんでもない』じゃなくて、俺にあげるのが惜しかったんじゃない?」早苗は気まずそうに笑った。
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