ホーム / 恋愛 / 離婚協議の後、妻は電撃再婚した / チャプター 451 - チャプター 460

離婚協議の後、妻は電撃再婚した のすべてのチャプター: チャプター 451 - チャプター 460

479 チャプター

第451話

一見、真奈のためを思っての白井の発言。だが、それは天城をさらに追い詰め、狂気に駆り立てるものだった。それに気づいた冬城は怒って言った。「黙れ!」白井は冬城の迫力に圧倒され、瞬時に口を閉ざした。出雲も眉をひそめ、鋭い声で問いかけた。「天城だな、何がしたいんだ?」「何もしたくない、ただ彼女を壊したいだけ!この番組をぶち壊したいんだ!」天城の手は震えながら、叫ぶように答えた。「私はこの番組にこれほど尽くしてきたのに!なのに本番直前になって佐藤プロは私を追い出した!高額の違約金まで払わされる!生きる道がない、こうするしかなかった!」緊張に満ちた空気の中、真奈はわずかに微笑むと、二人だけに聞こえる声で静かにささやいた。「白井があなたにやらせたんでしょう?」「他の誰とも関係ない!あんたの命が欲しいんだ!」「私を殺しても、八雲はあなたを好きにならない。それに、番組にも出られなくなる。違約金は?誰が払うの?白井でしょうね」真奈の言葉に、天城の手に力が入りきらなくなった。ナイフを握る指がわずかに緩む。真奈は続けた。「もう望み通り番組は壊れた。白井があなたに頼んだのは、私を殺すこと。そうすれば違約金も肩代わりし、大金を渡して遠くへ逃がしてくれる。たとえ私を殺しても、彼女が専門のチームを用意して精神異常を訴えさせ、無罪にしてくれるって話でしょう?間違ってないよね?」すべてを言い当てられ、天城の顔から血の気が引いた。「あなた…」「彼女はこう言ったはず。私を殺せば、八雲はあなたのものになる。番組は放送できず、あなたの怒りも晴れる。そして違約金も払ってもらえ、大金も手に入り、罪にも問われない……完璧な取引だって、そう教えられたのでしょう?」真奈は軽く笑い、静かに言った。「天城、以前はあなたに少しは分別があると思ってたけど、今見ると本当に馬鹿ね」「これは、どういうこと?」「彼女があなたを放っておいたら、どうするつもり?」「そんなわけがない!白井は私と契約書にサインして約束したんだ!」天城は思わず叫んだが、その瞬間、自分が真奈の仕掛けた罠にはまったことに気づいた。少し離れた場所にいた冬城も異変を察知し、すぐに白井へと目を向けた。白井の顔色も見るからに悪かった。真奈は眉を軽く上げ、さらに追い詰めるように言った。「あなたは自分を何
続きを読む

第452話

白井はなおも緊張した面持ちで天城を見つめ、天城が鋭いナイフを真奈の首に突き立てる瞬間を待っていた。しかし天城の手にあったナイフは下がった。天城が脅迫をやめたのを見て、警備員たちはすかさず駆け寄り、彼女を引き離した。真奈は二歩、後ずさる。冬城はすぐに彼女の元に駆け寄り、全身に怪我がないかを確認した。だが、その時――真奈の鎖骨にくっきりと赤い痕を見つけて、冬城の手が止まった。真奈はそっと服を整え、静かに言った。「大丈夫よ。冬城総裁、ありがとう」そう言って、真奈は自然と冬城との間に安全な距離を取った。だが一方で、白井の顔色は見るからに悪かった。彼女は捕らえられた天城をじっと睨みつける。なぜ、天城は真奈を刺さなかったのか!?天城は冷たい視線を白井に向け、彼女の裏に隠された汚い思惑をすべて見透かしているかのようだった。白井の顔に、かすかな動揺が走る。彼女はこれまで、真奈が死ななかった場合に天城が自分を告発する可能性など、考えたこともなかった。結局、天城は真奈に傷を負わせなかった。今となっては、彼女が何を言おうと、かえって周囲に疑念を抱かせ、真奈に真実を悟らせるだけだった。その時、警備員が尋ねた。「冬城総裁、この人はどう処理しますか?」冬城は冷たく命じた。「逮捕して、警察に引き渡せ」「待って」真奈は一歩前に出て、静かに続けた。「この人は残して。後で私が直接、話を聞くわ」そう言うと、真奈の視線は、意識的か無意識か、白井の上にそっと留まった。白井の心臓がドクンと跳ねた。その目に見つめられた瞬間、真奈がすでに天城の背後に自分がいることを知っていると確信したかのようだった。「お前の言う通りにしろ」冬城はそう命じ、天城を舞台裏へと連れて行かせた。白井は落ち着きを失い、慌てたように近寄ってきた。「冬城夫人、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」彼女は心配そうに真奈の手を握ったが、真奈はただ冷ややかに一瞥すると、そっと手を引き抜き、淡々と言った。「白井さん、ありがとう」「ちょっと来て」冬城が真奈の手を引いて歩き出した。出雲は少し離れた場所からこの光景を見つめ、思わず眉をひそめた。彼の隣にいた秘書が静かに尋ねた。「出雲総裁、撮影は中断しています。先に戻りましょうか?」こんな大騒ぎが起きて、今日の撮影は続けられ
続きを読む

第453話

「うん」真奈は冬城に何も隠すつもりはなかった。そして静かに続けた。「私たちは、できるだけ早く離婚したい」突然、冬城の胸が締め付けられ、無数の針で刺されたように、息もできないほどの痛みを感じた。「……本当に、それしか選択肢はないのか?」冬城の問いかけにも、真奈は立ち止まっただけだった。振り返ることもなく、彼に背を向けたまま、冷たく現実を突きつける。「冬城、私はもうあなたを愛していない」冬城、私はもうあなたを愛していない。その簡潔な一言が、鋭く彼の心臓を貫いた。冬城は無意識に胸に手を当てた。冬城家の当主として、多くを失い続けた人生。幼い頃から、何度も何度も痛みを味わい、いつしか心の痛みすら忘れかけていた。しかし、先ほどの言葉だけは、まるで心臓を刺し貫かれたような感覚を覚えた。呼吸が苦しい。胸が焼けるように痛む。真奈は前を向いて歩き出した。その顔には、すでに穏やかな静けさが宿っていた。あの言葉を口にする直前、ふと彼女の脳裏に浮かんだのは、初めて冬城に出会ったあの日のこと。冬城が、優しく彼女の手を引いて歩いてくれた、あの光景だった。確かに、彼女は認める。前世の彼女は、心から冬城を愛していた。だが、それはもう過去の話。天が彼女に与えたもう一度の人生。それは、同じ過ちを二度と繰り返さないための新たな機会だった。過去の後悔と共に、冬城への愛情もまた――すでに跡形もなく消え去っていた。冬城に胸をときめかせていたあの少女は、もう存在しない。「総裁……どうかなさいましたか?」中井が近づいてきた時、冬城は廊下に立ち尽くし、視線をその先に向けたままだった。中井が冬城の目線を辿ると、そこにはもう、誰の姿もなかった。「総裁?」「失ったものは、永遠に失ったままなのか?」冬城は静かに呟いた。真奈の首筋に刻まれていた赤い痕を見た瞬間、冬城の脳裏には無数の情景が浮かび上がった。黒澤が彼女の首に口づけ、二人がベッドの上で絡み合い、愛を囁き合う姿。その光景がよぎるたびに、冬城の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。「総裁……」「車を出して」冬城は淡々と言った。「俺は大丈夫だ」彼は冬城家の当主。冬城家の当主たる者、人前で取り乱すなど、あってはならない。常に完璧で、冷徹でなければならない。かつては、ただ一人、真
続きを読む

第454話

天城の返答に、真奈はふっと笑った。「デビュー、ね」「私は練習生になるためにこんなに長い間努力してきた。私の才能はもともと最高なのに、デビューできるはずだった。あなたさえいなければ!私は戻る、必ず――私は舞台に生きるべき人間だから!」天城の目には狂気が宿っていた。すでに彼女は、完全に追い詰められていた。激情を露わに叫ぶ天城を、真奈は冷静に見つめ、静かに問いかけた。「あなたがここまで頑張ったのは、本当に練習生になるため?それとも――八雲のため?」「もちろん私は…」「私が八雲とたった数言交わしただけで、後先も考えずに私を中傷した。あなた、本当に夢のために努力してきたの?」外見は冷静で、本心を語ろうとしない天城。だがその実、彼女の中には誇りと執着が渦巻いていた。できることと言えば、ただひたすらに八雲へと近づき、自分の存在を気づかせようとすることだけだった。真奈の問いに、天城は押し黙った。真奈は淡々と畳みかける。「あなたの『夢』なんて、結局は彼に一目置かれたいだけ。彼と並び立ちたいだけ。こんなにも努力しておきながら、『好き』のひと言すら、あなたには言えなかった」「……黙れ!」天城は激昂した。「あなたに、私の何がわかるのよ!」だが、真奈は一切動じず、むしろ静かに告げた。「いいわ。承知した」そのあまりにもあっさりとした承諾に、天城は逆に戸惑った。「本当に……承知したの?」「ええ、間違いなく」「でも……どうやって?佐藤プロの上層部の決定を、あなたに覆せるはずがない」「私には私のやり方がある。あなたは、それを気にしなくていい」真奈はもはや、天城とこれ以上話し続ける気はなかった。「出て行っていいわ」追い出しの言葉に、天城も無理に留まろうとはしなかった。ドアが閉まる音を聞いた後、真奈はふっと笑い、扉の方を見ながら言った。「隠れているのは疲れない?入ってきなさい」会議室の角に身を潜めていた八雲が、静かに姿を現した。八雲は低い声で問う。「……彼女をデビューさせるつもりか?」「私はただ、彼女が佐藤プロに留まることを許しただけ。デビューできるかどうかは――彼女次第よ」八雲は眉をひそめ、黙り込んだ。真奈は小さく眉を上げると、問い返した。「彼女がデビューできると思う?」「……彼女の実力なら、できる」「でも彼女はデ
続きを読む

第455話

真奈は一瞬、呆然とした。まさか、相手からそんな言葉を聞くことになるとは思っていなかった。八雲の耳は赤く染まっていた。人を気遣うような言葉を自ら口にしたことがないのだろう。だからこそ、口にした直後から、ひどく落ち着かない様子だった。「私を、気にしてくれたの?」「どうやら大丈夫そうだな。なら、俺は行く」八雲が背を向け、歩き出そうとしたその時――「待ちなさい!」真奈は即座に呼び止めた。足を止めた八雲は、眉をひそめながら振り返る。「まだ用か?」「今日は絶好の機会よ。全員、契約解除させましょう」そう言うと、真奈は20枚の銀行カードを八雲に渡した。目の前にずらりと並んだカードを見た八雲は、完全に固まった。一体どんな人間が20枚ものカードを持っているんだ?「どうした?行かないのか?」「この金額で足りる?」「ピッタリよ。契約解除のサインさえ取れば、その後は私が行き先を手配する」「……はい」八雲はわずかに頷き、真奈の指示通り、外へと出ていった。その後ろ姿を見送りながら、真奈はふっと笑みを浮かべた。初めて会った時の白石に少し似ている。ただし、白石の腹の中の黒さは、この澄んだ大学生とは比べものにならないけれど。一方、清水会長は――目の前に並べられた男子練習生たちの解約書を見て、頭を抱えるしかなかった。「会長、またもや……契約解除の申し出です」秘書が今度は、女性練習生たちの解約書の束を清水会長の前に積み上げた。清水会長は完全に崩壊した。「全員辞めるってのか?!どうしてくれたんだ!高橋は?!」高額の違約金さえ設定しておけば、誰も逃げられない――そう高を括っていた。だが、まるで何かに取り憑かれたかのように、練習生たちは今日一斉に解約を申し出てきたのだ。しかも、制作会社とは既に契約を交わしている。自社の練習生を番組に出演させる約束だった。今や男女問わず、全員がいなくなろうとしている。――代わりをどこから集めろというのか?もし間に合わなければ、番組チームに対して、莫大な賠償金を支払う羽目になる。トントン——高橋はドアをノックした。その姿を目にした瞬間、清水会長は溺れる者が藁をも掴むように駆け寄った。「高橋!急いで女子たちの様子を確認してくれ!全員辞めるって言い出してるんだ、これは一体……」
続きを読む

第456話

真奈の緻密な策にはまったく隙がなかった。佐藤茂は薄く笑みを浮かべながら言った。「出雲があなたにこうも巧妙にやられて、投資資金を丸ごと巻き上げられたと知ったら――簡単には許してくれないでしょうね」「たかが数十億円を巻き上げただけですよ。出雲家の総裁ともあろう方が、こんな小銭で私を恨むわけないでしょう?」そう口では言いながら、心の中では――出雲がいずれこの罠に気づくことを、すでに覚悟していた。確かに佐藤プロとMグループにはビジネス上の繋がりはある。だが、彼女がMグループの実権を握っていることは、出雲すら知らない。ましてや、自分が仕掛けたこの「練習生引き抜き」と「プロジェクト骨抜き」の計画など。それでも、いずれはバレる。あの日、出雲の前で高らかに言い放った言葉――あれが彼に警戒心と疑念を抱かせるのは、時間の問題だった。だが、それでいい。彼女は、正面から出雲に挑む覚悟を決めている。佐藤茂が言った。「あの練習生たちの育成には、相当な費用をかけたのですが」「数十億円じゃ、その訓練費の穴埋めにもならないと?」彼女は落ち着いた仕草で佐藤茂の正面に腰を下ろすと、真っ直ぐに言った。「約束します。この練習生たちがMグループでデビューしたら、佐藤プロにふさわしい報酬を支払います」「私は商人ですから、数字にしか興味がありません」佐藤茂は片手を差し出しながら言った。「この数字でお願いします」「……200億!?」「2年以内に、2000億」2000億?それを聞いて真奈は眉をひそめた。「佐藤さん、それは法外な要求です」確かに、練習生ビジネスは大きな金になる。だが、純利益で2000億――それを達成するには、トップレベルの超人気グループを作り上げなければならない。「あなたならできると信じているよ。何しろ、私が佐藤プロで厳選した精鋭たちを引き抜いていったのですからね」「わかりました。約束します。2000億」彼女も手を差し出し、佐藤茂とハイタッチを交わした。一方その頃、別荘では。出雲は、秘書が届けた書類に目を落としながら、冷えきった光をその目に宿していた。「……練習生プロジェクトが、潰れた?」「はい…佐藤プロからの連絡では、番組のトラブルで練習生が集団で移籍し、全員が辞めてしまったとのことです!しかも、中心となったのは八雲真翔。
続きを読む

第457話

冬城は出資を撤回したこと以外、真奈を助けたことはなかった。つまり、他にも裏でこの瀬川家のお嬢様を支援している者がいるということだ。これまでずっと、彼は真奈を軽く見ていたが、この女こそ本当に恐ろしい存在だった。ドアの外からメイドが入ってきて言った。「出雲総裁、田沼会長が浅井さんをお連れになって来られました」田沼会長の来訪を知り、出雲の眉がほころんだが、浅井も一緒だと聞くと、唇に冷笑が浮かんだ。この女、冬城おばあさんに密かに頼み込んだのか。従順に従う気はないらしい。そろそろ浅井に教訓を与える時が来たようだ。出雲は立ち上がり、「田沼会長と夕夏には応接間で待ってもらえ」と告げた。「かしこまりました」メイドは部屋を後にした。出雲は袖口を整えながら、この婚約者としっかり会い、話し合う時が来たと悟った。一方、浅井はテーブルに座り、出雲の寝室を不安げに見回した後、田沼会長に訴えた。「お父さん、家で食事すればいいじゃない。どうしてわざわざ来なきゃいけないの?」「いい子だ、蒼星との間に最近誤解があったのは知っている。蒼星も良い子で、長年ずっとあなたを探し続けてくれた。冬城家の息子とは比べ物にならないほどだ。父さんの言うことを聞いて、蒼星と仲直りしなさい」そう言われ、浅井は突然、胸騒ぎを覚えた。「お父さん、私と蒼星は喧嘩してないよ。どうして急にそんなことを言うの?」「馬鹿な子だね。まだ父さんに隠そうとしているのか。あなたが冬城に会いに行ったことなんて、もうみんな知ってるんだよ。だけど蒼星はあなたを愛してる。だからそんなこと、気にしないさ」「何だって……」浅井の顔がこわばった。冬城に会いに行ったことを、どうして出雲と田沼会長が知っているの……?!「夕夏」低く笑みを含んだ声がすぐ近くで響いた。その瞬間、浅井の体がびくりと強張った。振り返ると、出雲が笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。浅井は緊張のあまり、拳をぎゅっと握りしめた。出雲は浅井の前まで歩み寄ると、優しい口調で言った。「今日はずいぶん薄着だな。外は寒いんだ、もう少し暖かい格好をしなきゃ」「ありがとう……」浅井は必死に震えを抑え込んだ。冬城に会いに行ったことを知られてしまった……出雲は、いったい自分に何をするつもりなのか。「お父さん、
続きを読む

第458話

まずは、彼女のお腹の中の子供から手をつけることだ。「浅井さん、こちらへどうぞ」メイドが自ら浅井を二階へ案内した。浅井は拒むこともできず、やむなく二階へ上がった。二階に着くと、浅井はすぐに逃げ出そうとしたが、すでにメイドがドアに鍵をかけていた。鍵は外側から差し込まれていて、内側からはどうしても開けられない。「開けて!開けて!」浅井がどれだけ必死にドアを叩いても、メイドは外から静かに言った。「総裁のご指示です。浅井さんはゆっくり休んでください。すぐに医者を呼びますので、それまでお休みになってください」遠ざかる足音を聞き、浅井みなみ心底から恐怖を感じた。医者……出雲はいったい何をしようとしているのか……?浅井は慌ててスマートフォンを取り出し、冬城に電話をかけようとした。しかし、何度かけても繋がらない。浅井の顔が真っ青になった。冬城は彼女をブロックしていた!浅井は次に中井に電話をかけた。だが、中井までもが彼女をブロックしていた。警察に助けを求めようにも、出雲の力を前にしてはどうにもならない……浅井がどうすればいいのかと頭を抱えていたそのとき、突然、部屋のドアが開いた。出雲が部屋に入ってきた。どうやら田沼会長を早々に帰らせたらしく、ゆっくりと浅井に歩み寄ってきた。「まさか……お前がまだ俺を裏切るつもりでいたとはな」出雲は浅井の髪をつかみ、そのまま床に押し倒した。「あっ!」浅井は恐怖で全身を震わせながら叫んだ。「出雲総裁、私が悪かったです!お願いです、許してください!」「冬城のところに行ったのが、お前の最大の過ちだ」出雲は浅井を床に押さえつけ、そのまま荒々しく地面に擦りつけた。浅井は無惨に押さえ込まれ、そこには一片の尊厳すら残っていなかった。「わかりました……出雲総裁……もう二度としません……」必死に懇願しながらも、浅井の体は恐怖に震えていた。出雲の手がそっと彼女の腹に触れる。瞬間、浅井は言い知れぬ恐怖にとらわれた。「この子さえいれば、瀬川真奈に代わって冬城夫人になれると思ったのか。寝言は寝て言え」「あっ!」出雲は浅井を強く床に叩きつけた。浅井は恐怖でソファの隅へと身を縮めた。出雲は冷たく言い放った。「浅井、自分の立場をよく覚えておけ。お前は田沼夕夏の名を騙ったただの
続きを読む

第459話

佐藤プロの練習生プロジェクトが棚上げになり、真奈は当然ながら佐藤プロに通う必要がなくなった。一方、Mグループでは、最近の新規プロジェクトの多くが黒澤の承認を受けて進められており、大塚はそれらを整理したうえで真奈と一緒にオフィスへ入り、報告した。「八雲とあの練習生たちは、すでにうちのグループ傘下の芸能会社に所属しました。白石が直接指導にあたっています」「白石の能力は信頼している。あちらのことはすべて白石に任せればいい」「もう一件、ございます」そう言いながら、大塚は一通の招待状を真奈の前に差し出した。「こちらは冬城家からの招待状です」「冬城家?誰から送られてきたの?冬城司?」「いえ、大奥様からです」真奈は招待状を手に取り、表も裏もじっくり眺めた。冬城家のあの老婆とは、とうの昔に関係が切れている。今さらこんなものを送ってくるなんて、ろくな話ではないに決まっている。真奈は封を開け、中身を確かめた。そこには「ジュエリーの晩餐会」という文字が記されていた。「ジュエリーの晩餐会……」真奈は鼻先で冷たく笑った。冬城おばあさんが好意で自分を招待するはずがない。裏があるに決まっている。彼女は興味なさげに招待状を脇へ押しやり、「何か事情はわかってる?」と尋ねた。大塚は小さく首を振った。「今のところ、詳しいことは分かっておりません」「この招待状、誰に送られてるの?」「業界の名だたる顔ぶれには、ほとんど行き渡っているようです」「田沼家も?」「田沼家もです」前回、冬城おばあさんと田沼家の間であれほど大きな揉め事があったというのに、田沼家がどうして出席するつもりなのだろう。これはきっと何か裏があるに違いない。真奈は危険な気配を嗅ぎ取り、静かに言った。「招待状はここに置いておきなさい。今夜、Mグループは参加しない」「参加しないですか?」大塚は眉をひそめ、慎重に言葉を選びながら続けた。「ですが、このジュエリー企業は海城でも最大手のひとつで、以前から我々との提携を進めようとしていた相手です。この業界では、以前の伊達グループよりもずっと高級路線を歩んでいます。もし白石が今年、紀家のジュエリーのイメージキャラクターになれれば、彼の商業的価値は少なくとも三倍に跳ね上がるでしょう」大塚の話を聞いて、真奈は少し躊躇した。冬城
続きを読む

第460話

「社長」「伊藤たちはもう到着した?」「いえ、伊藤社長たちは、招待されていません」「伊藤も幸江美琴も、ましてや黒澤さえ招待せず、私だけを招待したのね」真奈は軽く笑った。自分にそこまでの面子があるとは思っていなかった。冬城おばあさんが、あの三人を差し置いて自分だけを招くなど、考えたこともなかった。「行くぞ」真奈はワインレッドのロングドレスに身を包み、腰まで流れるフレンチスタイルの緩やかなウェーブヘアをなびかせながら、歩き出した。身に着けたのは、折居家の限定ジュエリー。彼女が会場に現れた瞬間、その華やかな美しさに場の空気が一変した。「大奥様、真奈が到着しました」その頃、宴の中心では、白いドレスを纏った浅井が冬城おばあさんの腕に寄り添っていた。すでにお腹が目立ちはじめた浅井は、冬城おばあさんのそばに立つことで、いっそう注目を集めていた。冬城おばあさんは真奈に視線を向けると、唇の端に嘲るような冷笑を浮かべた。冬城おばあさんは、隣にいた四十代の折居夫人とグラスを軽く合わせ、にこやかに声をかけた。「折居夫人、どうぞごゆっくりお楽しみください」「はい、ご大奥様も末永くお元気で」折居夫婦は、誰が見ても仲睦まじい夫婦だった。真奈は以前、折居家と提携を進める過程で、すでに折居ジュエリーの事情について調べていた。折居ジュエリーの今代の後継者は、折居氏とその妻である紀夫人。二人は若い頃から愛し合い、二十年以上をともに過ごしてきた、誰もが羨むほどの夫婦だった。折居ジュエリーは高級ブランド路線を歩んでいるものの、実際のところ、そのデザインはすべて折居夫人のために作られたものだった。真奈が身に着けているジュエリーも、折居夫人が特に好んでいるデザインばかりだった。だが真奈は、この業界でうたわれる「理想の夫婦像」など、微塵も信じてはいなかった。少し調べただけで、折居氏が外に女子大生を囲っていることや、折居夫人がそれを知りながらも耐え忍んでいることが明らかになった。この経験は、彼女自身と幾分似通っていた。この点をうまく突けば、折居夫人の同情と好意を得るのは、たやすいことだった。ちょうど折居氏が別の席で話し込んでいるのを見計らい、真奈は折居夫人のもとへと歩み寄った。「折居夫人」声をかけると、振り返った折居夫人の
続きを読む
前へ
1
...
434445464748
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status