朝霧が真に迫った口調で話すと、周囲の人々は一斉に驚きの表情を浮かべた。浅井は口元を押さえながら、驚いたように言った。「真奈さんがそんな人だったなんて……今までまったく知らなかったわ」すかさず朝霧が口を挟んだ。「田沼さんの知らないことなんて、まだまだたくさんありますよ。見た目は気品があっても、実際は見せかけだけで、根っこは下劣な人なんて山ほどいますから」「とにかく今夜さえ過ぎれば、田沼さんは未来の冬城夫人になるわけですし。あの瀬川真奈が外でどれだけの男に囲われていようが、冬城総裁はもう彼女に一瞥もくれないでしょうね」「そうそう、田沼さん、私は前から思ってました。あなたのほうが瀬川よりずっと綺麗です。あの女はどこか風俗じみていて、とてもいい女なんかじゃない。冬城総裁が田沼さんを選んだのは、まさに人生最大の幸運ですよ」「本当にそう。田沼さんは実力でA大学を卒業された方です。あの瀬川なんか、A大学に入るのに裏口使ってましたからね。人間性の差は歴然です」何人かに囲まれて、浅井の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。「みんな、そんなふうに言わないで。なんだかんだ言っても、真奈さんは司さんの元妻なんだから」浅井は「元妻」という言葉をわざとらしいほど強調した。ちょうどそのとき、大広間の照明がふっと暗くなり、周囲にいた令嬢や貴婦人たちは、一斉に羨望のまなざしを浮かべた。「そろそろ始まるんじゃない?」「冬城総裁、今回の婚約式のためにずいぶんと心を砕いたそうよ」「田沼さん、本当におめでとうございます」そんな声が飛び交う中で、浅井の頬もほんのりと赤く染まっていた。その時、一筋のスポットライトが2階を照らした。だが、現れたのは冬城ひとりではなかった。彼の隣には、真奈がぴたりと寄り添っていた。その光景を目にした瞬間、浅井の笑顔は凍りついたように固まった。周囲の人々も顔を見合わせ、何が起こっているのか理解できずに戸惑いを見せた。白石は眉をひそめ、隣にいた八雲は緊張のあまり手をぎゅっと握りしめた。真奈は冬城の腕にしっかりと手を回し、どこか親しげな雰囲気を漂わせていた。ふたりの表情には、自然な笑みが浮かんでいる。そして冬城がゆっくりと口を開いた。「本日は、冬城グループが主催する文芸晩餐会にご来場いただき、誠にありがとうございます。ここ
Read more