「立花っ!」真奈が駆け出したとき、広場の外の通りには黒いポルシェが停まっていた。彼女の叫び声がはっきり届いていたはずなのに、立花はまるで聞こえなかったかのように、無情にも部下に車のドアを閉めさせた。車内、運転手はバックミラーに映る真奈の姿を一瞥し、ためらいがちに声をかけた。「ボス、瀬川さんをお待ちにならなくてよろしいですか?」「走れ」立花は冷ややかに一言だけ返す。「……はい」エンジンが唸りを上げ、車は加速して走り去った。広場の真ん中に、真奈ひとりがぽつんと取り残される。真奈は眉をひそめた。この立花、本当に度量が狭い。だが、立花がいなくなったのは、ある意味で都合がよかった。彼がいなければ、立花グループのカジノ内部の動きを、もっと冷静に観察できる。そう思い直し、真奈は踵を返してビルの中へと戻っていった。その頃、車内では、運転手がしきりに気にしていた。「ボス、もうこんな時間ですし、瀬川さんはひとりで外に残されて……携帯もお持ちじゃありません。危ないのでは?」「……何が言いたいんだ?」「いえ、その……やはり、迎えに戻った方がよろしいかと。もし何かあったら……」洛城は雑多な人間が行き交う街だ。広場のような人の集まる場所なら、なおさら何が起きるかわからない。今夜だって、彼女の美しさひとつで、すでに大きな騒動が起きていた。立花は眉間に皺を寄せ、鬱陶しげにネクタイを引き下ろしながら吐き捨てた。「ボスは俺か?それともお前か?……さっさと走れ」「承知しました、ボス」そのころ、真奈はすでにカジノの中へと戻っていた。マネージャーの内匠は彼女の姿を見つけるなり、駆け寄ってきた。「瀬川さん、立花社長は?」「用事があって先に帰ったわ」そう答えた真奈は、周囲をぐるりと見回してから言った。「本当は謝るつもりだったの。でも、今のあの人はきっと怒りの真っ只中。私のことなんか、気にも留めてないと思いう」「……それは、まあ……」内匠は、立花の性格をよく知っているのだろう。どこか納得したようにうなずいた。「瀬川さん、あれだけ長い時間ピアノを弾かれてお疲れでしょう。よろしければ、2階の休憩室でひと息ついてください。のちほど、こちらで車を手配いたしますので」「それじゃあ、内匠さんに甘えさせていただきます」真奈はにこやかに礼
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