立花家の寝室。楠木は白い脚をゆっくりと踏み出して浴室から現れた。身にまとっているのは薄手の黒いレースのネグリジェだけで、濡れた髪にはまだ水滴が残っていた。眉を寄せる仕草も、微笑む表情も、どれも男心を誘う艶やかさだった。立花がドアを開けると、楠木はすぐに駆け寄って首に腕を回した。甘えるような声でそっと尋ねる。「孝則、最近……私のこと、恋しくなかった?」立花は楠木の手を冷たく振りほどいた。その態度に、楠木の笑顔は徐々に薄れていった。立花は向かいのソファに腰を下ろし、淡々と口を開いた。「俺に何の用だ?」「会いたくて来たの。ダメだった?」楠木は立花の隣に寄り添いながら言った。「新しくピアニストを雇ったって聞いたけど?」それを聞いた立花は楠木の髪を指で弄びながら、気のない声で答えた。「ただのピアニストだ。嫉妬か?」「ピアノならもう壊させたわよ」楠木は不満げに口を尖らせた。「私が、自分のものに他人が触れるのを嫌うの、あなたも知ってるでしょう?」「別に大したことじゃない。明日、忠司に新しいのを買わせればいい」「本当?」「本当だ」「そのピアニスト、どうするつもり?」「どうしてほしい?」「追い出して」楠木は言った。「あなたのそばに私以外の女がいるなんて許せない。あなたのピアニストになれるのは、私だけよ」「わかった。明日、忠司に辞めさせるよう言っておく」「それならよかった」楠木は身を寄せて、立花の頬に軽くキスをした。立花は避けることなく、そのまま立ち上がり、こう言った。「もう遅い。そろそろ寝ろ」「一緒に寝てくれないの?」「まだ仕事がある。ここはお前が使え」「私と寝たくないの?」楠木は立花にしがみつき、目には不満と寂しさが浮かんでいた。「まさか……私が汚れてると思ってるの?」「そんなわけないだろ」立花の瞳には穏やかな優しさが宿っていた。彼はそっと身を寄せて、楠木の頬にキスを落とすと、静かに言った。「本当に仕事があるんだ。ここでゆっくり休め。何か必要なことがあったら忠司に言えばいい」そう言い残して、立花は部屋を後にした。その姿を見送った楠木は、怒りに任せてソファから立ち上がり、クッションを手に取って勢いよくドアへと叩きつけた。そのとき、外から馬場が扉を開け、尋ねた。「楠木さん、何かご用でしょうか?」
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