「そんなことがあるはずがない。きっと部下の怠慢だろう」立花は福本陽子にちらりと視線を送り、わざと白井の手を取って言った。「綾香と福本さんは親しい友人だ。婚約式に福本さんを招かないなんてあり得ないだろう?なあ、綾香?」その一言で、白井の顔はさっと青ざめた。まさか立花がこの場で矛先を自分に向けてくるとは思わなかった。真奈は横で成り行きを眺めながら、さきほど立花に渡されたシャンパンを一口含んだ。なんという見苦しい責任転嫁だ。「わ、私……」白井が声を発するより早く、立花がわざと驚いたふうを装って問いただした。「え?本当に福本さんへの招待状を出し忘れたのか?」白井の顔色はさらに悪化した。自分と福本陽子は親友同士だ。その自分が、福本陽子と婚約を解消したばかりの男と新たに婚約するのに、どうして福本家へ招待状など出せるだろうか。立花はあからさまに責任を白井に押し付けた。こんな場面では、白井はまさに言い訳のしようがなかった。立花が自分をまるで潔白であるかのように見せかけているのを横目に、福本英明が冷ややかに口を開いた。「どうあれ、陽子は俺の妹だ。立花社長、陽子との婚約を解消してからまだ数日しか経っていないのに、もう別の相手と婚約するとは……福本家を飾り物とでも思っているのか?」真奈は福本英明をじっと見つめていた。この口調……ますますあの時のようだ。前に新興新聞社で福本英明に会った時には、彼はこんな様子ではなかったのに。福本英明のひと言で、場の空気は次第に張り詰めていった。福本陽子も白井の前に進み出て、怒りに任せて詰め寄った。「この数日、電話しても出ないし、家に行ってもいなかった!ずっと彼と一緒にいたんでしょう!」「陽子……」白井は弁解しようとしたが、福本陽子はもう怒りの頂点にあった。「言い訳なんて聞きたくない!前に私があなたを立花家の屋敷に連れて行った時、あなたたち二人がよく一緒に出入りしていたのも納得だわ!私はあなたを親友だと思っていたのに……男のために私を裏切るなんて!」福本陽子はますます怒りを募らせ、手にしていたケーキを白井の顔に叩きつけようとした。だが最後のところで気持ちが揺らぎ、足元へと投げつけた。所詮、ただの男にすぎない。もし立花を好きだと言うなら、自分は迷わずこの縁談を譲っただろう。
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