All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 961 - Chapter 970

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第961話

「そんなことがあるはずがない。きっと部下の怠慢だろう」立花は福本陽子にちらりと視線を送り、わざと白井の手を取って言った。「綾香と福本さんは親しい友人だ。婚約式に福本さんを招かないなんてあり得ないだろう?なあ、綾香?」その一言で、白井の顔はさっと青ざめた。まさか立花がこの場で矛先を自分に向けてくるとは思わなかった。真奈は横で成り行きを眺めながら、さきほど立花に渡されたシャンパンを一口含んだ。なんという見苦しい責任転嫁だ。「わ、私……」白井が声を発するより早く、立花がわざと驚いたふうを装って問いただした。「え?本当に福本さんへの招待状を出し忘れたのか?」白井の顔色はさらに悪化した。自分と福本陽子は親友同士だ。その自分が、福本陽子と婚約を解消したばかりの男と新たに婚約するのに、どうして福本家へ招待状など出せるだろうか。立花はあからさまに責任を白井に押し付けた。こんな場面では、白井はまさに言い訳のしようがなかった。立花が自分をまるで潔白であるかのように見せかけているのを横目に、福本英明が冷ややかに口を開いた。「どうあれ、陽子は俺の妹だ。立花社長、陽子との婚約を解消してからまだ数日しか経っていないのに、もう別の相手と婚約するとは……福本家を飾り物とでも思っているのか?」真奈は福本英明をじっと見つめていた。この口調……ますますあの時のようだ。前に新興新聞社で福本英明に会った時には、彼はこんな様子ではなかったのに。福本英明のひと言で、場の空気は次第に張り詰めていった。福本陽子も白井の前に進み出て、怒りに任せて詰め寄った。「この数日、電話しても出ないし、家に行ってもいなかった!ずっと彼と一緒にいたんでしょう!」「陽子……」白井は弁解しようとしたが、福本陽子はもう怒りの頂点にあった。「言い訳なんて聞きたくない!前に私があなたを立花家の屋敷に連れて行った時、あなたたち二人がよく一緒に出入りしていたのも納得だわ!私はあなたを親友だと思っていたのに……男のために私を裏切るなんて!」福本陽子はますます怒りを募らせ、手にしていたケーキを白井の顔に叩きつけようとした。だが最後のところで気持ちが揺らぎ、足元へと投げつけた。所詮、ただの男にすぎない。もし立花を好きだと言うなら、自分は迷わずこの縁談を譲っただろう。
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第962話

「我が福本家は未熟ながらも、この海外ではそれなりの名声と地位を得ている。立花、あなたが我が妹を侮辱することは、すなわち福本家全体を侮辱することだ。ここで宣言しておく。海外の他の地域までは我が手の及ぶところではないが、この地で立花家と取引をする者は、すなわち福本家に刃向かう者だ。今後は安穏とはいかないぞ」福本英明の言葉に、周囲の人々の表情は一斉に変わった。立花が海外で新たに頭角を現し、黒澤家に対抗する存在になると期待されていたが、その星は輝きを放つ前に、すでに摘み取られてしまったのだ。傍らで真奈は笑いをこらえ、手にしたシャンパンを一気に飲み干してテーブルに置き、わざと声を張った。「まあ、福本社長がそうおっしゃったのに、皆さんまだ残っているの?立花社長と肩を並べて戦うつもりなのかしら?」立花は顔を険しくし、真奈を睨みつけて歯ぎしりした。「瀬川……面白がって火に油を注いでいるつもりか?」真奈は聞こえないふりをして、さらに声を張り上げた。「とにかく私は帰るわ!前に福本家に逆らった会社は、みんな破産したって聞いたもの!」「瀬川!」立花は怒りのあまり、真奈の口を塞ぎに行きそうな勢いだった。だが周囲の客たちもその一言に反応し、次々と会場を後にしていった。残ったのは大勢の記者だけで、会場にはシャッター音が絶え間なく響き渡った。「おい、そこの記者、あっちばかり撮っていないで、こっちも撮れ!」福本英明が声を上げた途端、再び耳元のイヤホンから耳障りな電子音が響いた。思わず表情を崩しかけたが、すぐに危ういほど細めた視線を記者たちに向けた。「どうした?聞こえなかったのか?こっちに来て、しっかり撮れと言っているんだ」記者たちは福本英明の迫力ある声に驚き、慌てて立花の険しい顔をカメラに収めた。真奈は自然な動きでレンズの外へ身を引き、暗い表情を浮かべた立花だけが場に取り残された。真奈は腹を抱えて笑い転げたが、散り散りになる客の中にふと見覚えのある姿を見つけ、笑みをすっと消した。もう一度確かめようとしたその瞬間、背後から白井の声が響いた。「瀬川!全部あんたのせいよ!」振り返った真奈の目に映ったのは、顔を歪めた白井だった。彼女はどこからか果物ナイフをつかみ取り、真っ直ぐに真奈へ飛びかかってきた。立花の表情が強張り、福本英明も思わず表情を崩
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第963話

目の前の光景を見て、これまで恋愛をしたことのない福本英明は咳払いをした。隠し立てしないんだな。こんな甘い恋愛、いつになったら自分の番が回ってくるんだろう……一方、立花は白井の腕を掴み返し、冷ややかに言った。「何を騒いでいる?」白井は唇を噛みしめ、視線を黒澤へと向けた。黒澤の目には真奈しか映っていない。彼女は立花の手を振り払って二歩進んだが、黒澤に近づこうとしたその瞬間、鋭い冷たい視線を浴びせられた。その目の冷たさに、白井は思わず身を震わせた。「遼介……」「近寄るな」黒澤は眉を寄せ、近寄る者を拒む気配を纏っていた。白井はその場で硬直した。黒澤の視線には嫌悪こそなかったが、冷たく、まるで見知らぬ人間を見るようだった。「白井さん、刃物で人を傷つけるのは犯罪だって分かってんのか?」福本英明が一歩前に出て、冷えた声で言った。「陽子の友達ってことで情けをかけて、黒澤様に頼んでやることはできる。でも……許すかどうかは瀬川さん次第だ」そう言って、福本英明は真奈を見やり、答えを待つような顔をした。その瞬間、みんなの視線が真奈一人に集まった。とりわけ福本陽子は、真奈が白井にどう向き合うのかと緊張していた。真奈も取り繕わず、はっきりと言った。「こんなふうにわざと刃物を持ち出して人を傷つけるなんて、絶対に許さない。警察に突き出すべきだわ」「瀬川!」白井は、真奈が黒澤の前ですら一切取り繕わないことに驚いた。だがすぐに真奈は言葉を続けた。「でも、私は大して怪我もしてないし、海外の警察は相手にしないかもしれない」それを聞いて、福本英明は真奈がこの件をなかったことにするつもりなのかと思った。ところが真奈はさらに続けた。「だったら示談にしましょう。お金で償ってもらえばいいわ。立花社長は白井さんの婚約者なんでしょ?婚約者のために少しくらい金を出すのなんて、大したことじゃないはずよね」福本英明の胸にかすかな期待はあったが、それもとうとう潰えた。この女、なるほど黒澤と馬が合うわけだ。金を巻き上げる手際の見事なこと……立花は呆れ半分、苦笑まじりに言った。「怪我もしてないのに、何の賠償をしろっていうんだ?」「精神的損害賠償よ」真奈は指を二本立てて示した。「このくらいでいいわ」「2万か?今すぐ払うぞ」「2
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第964話

立花は顔を険しくしていた。「そろそろ見物も十分だな。俺は先に車を回してくる」「ええ」去り際、黒澤は福本英明にちらりと視線を送った。それだけで福本英明の全身に鳥肌が立った。黒澤……オーラがあまりにも強い。どうして福本家が黒澤と敵対できるなんて言うやつがいるんだ?家で一番肝の据わっている自分ですら、目の前にすると怯むのに。ましてや他の連中なんて……「福本社長、私が10億出してあなたを雇ったの、覚えてるよね?」「覚えてる」福本英明は気軽に答えた。その言葉に真奈は怪訝そうな顔をした。直後、福本英明の耳元でジリッと音がして、彼はすぐ真剣な口調に切り替えた。「新興新聞社の件だね、もちろん覚えてる」「覚えてるならいいわ」真奈はそう言って、くるりと背を向けて歩き去った。福本英明はその場に立ち尽くし、訳が分からない様子だった。一言聞いただけで、もう行っちゃうのか?「忠司、ここを片づけさせろ。俺たちも引き上げるぞ」立花はここにいる気を失い、立ち去ろうとしたが、ふと足を止め、振り返って白井を見やった。「白井さん、今日の婚約パーティーはもう台無しだ。俺たちの婚約もこれで終わりにしよう」「……なに?」白井は信じられないという顔で立花を見つめた。今回の婚約パーティーのために、親友の福本陽子を失い、海外での評判まで失ったというのに。それなのに立花は、たった一言で婚約解消だと言い放つなんて……白井はすぐに駆け寄り、立花の腕を必死に掴んで叫んだ。「あなたは約束したじゃない!反故にするなんて許さない!」立花は淡々と告げた。「確かに約束はした。だがそれは、お前との婚約が俺にとって利益になる場合だけだ」そう言って立花は福本英明の方へ視線を向けた。その鋭い目に気づいた福本英明は、慌てて背筋を伸ばし、わざと気取った様子を見せた。「福本家のおかげで、今や白井家と組んでいる企業は一つとして俺に肩入れしようとしない。なら婚約なんて結ぶ意味もない」「でも私…」「瀬川への2億の賠償で十分義理は果たした。白井さん、もう俺たちに関係はない。俺は黒澤とは違うんだ。俺は特に面倒ごとが嫌いだ。もし今後、黒澤を頼るみたいに俺のところに来るようなら……俺の部下がお前を追い出すかもしれん」そこで立花は一拍置き、冷ややかに言葉を継
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第965話

立花は必死にドラゴンホテルから駆け出し、馬場がすぐ後を追った。「ボス、どうしてそんなに急ぐんです?」「お前には分からん!」立花は足早にホテルを出ると、真っ先に黒澤のベントレーを探した。だが、停めてあったはずの場所はすでに空っぽだった。もう帰っていったのか?そんなに早く?立花は眉をひそめた。傍らの馬場が不思議そうに尋ねる。「ボス、何を見てるんです?」「車だ」「車?」「黒澤の車は?」「……たぶん、もう走り去ったんじゃないですか?」「走り去った……」立花はじっくりと思案した。黒澤が何の厄介事も残さず、ただ立ち去るはずがない……そんな気がしてならなかった。すぐに立花の顔が真っ黒になった。「まずい!」「ボス、どうしたんです?」立花が自分の駐車スペースへ駆けつけると、フェラーリの後輪が二つも外されていた。その光景に、立花の顔はさらに険しくなる。黒澤……卑怯で下劣なやつめ!自分は一つしか外さなかったのに、あいつは二つも外しやがった!ちょうどその時、ホテルの周りをぐるぐる回っていたベントレーが三周目に差しかかった。窓が開き、真奈が顔を出して立花に声をかける。「立花社長、海外じゃもうやっていけないんじゃない?洛城に戻って、一城の覇者でも続けたらどう?」「せ、が、わ!」立花は奥歯を噛みしめ、砕けそうなほど強く噛んだ。車内の黒澤が口元をわずかに吊り上げ、立花に近づく道でアクセルを思い切り踏み込んだ。瞬く間に白煙が立花の目の前にもうもうと立ちこめる。馬場は慌てて立花の前に立ちはだかったが、二人とも煙にむせて声も出せなかった。その中で、立花はかすかに助手席の窓から真奈が中指を突き立てているのを見た。馬場は立花の険しい顔を見て、慌てて言った。「ボス、あんな連中と張り合うことはありません」立花は怒りに震え、脇に停められたフェラーリを指差した。「張り合わないだと?じゃあこれはどうする?車を担いで帰れってのか?」「……すぐにレッカーを呼びます」馬場はすぐに携帯を取り出し、レッカー会社へ電話をかけた。立花は怒りで目の前がちらつき、こめかみを揉みながら吐き捨てるように言った。「車を呼べ。冬城に会いに行く」「承知しました、ボス」――十分後、福本家の屋敷。福本英明は寝室
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第966話

どうやら前世でよほどの罪を犯したに違いない。だからこそ、生涯の知識をこんな馬鹿に教える羽目になったのだろう。「どうした?具合でも悪いのか?」冬城は福本英明を一瞥し、吐き捨てるように言った。「お前の師匠になったことは、この人生で一番の後悔だ」そう言い残し、呆然とする福本英明を置き去りにして部屋を出ていった。バンッ!ドアは容赦なく閉ざされた。福本英明はしばし呆けた後、納得がいかずに叫んだ。「俺の出来が良かったって言ったじゃないか!」一方その頃、冬城はポルシェを走らせてドラゴンホテルへ向かった。到着すると、寒風の中に立つ立花の姿が目に入った。立花はすでにスーツの上着を脱ぎ、ネクタイも乱暴に外し、腰に手を当てながらレッカー車に愛車を運ばせていた。ポルシェを乗りつけた冬城を目にした瞬間、立花は胸が締めつけられるように息苦しくなった。冬城は窓を下ろし、立花を頭の先から足元まで眺めて言った。「立花社長、これは……運が悪かったってことか?」立花は苦笑すらできずに答えた。「今年はついていないらしい」その時、馬場が冬城のドアを開け、恭しく言った。「冬城社長、どうぞ」「俺の車は地下駐車場に停めておけ。他人のタイヤを外すような真似は、俺の車にはご免だからな」冬城の一言は、立花の胸にもう一度鋭く突き刺さった。真奈の趣味って何なんだ……どいつもこいつも碌でもない連中ばかりじゃないか!立花は深く息を吸い込み、声を押し殺して問うた。「今日の婚約パーティーで福本信広が騒ぎを起こしたのは知ってるか?」冬城は淡々と答えた。「大手のメディアサイトが十五分前にはもう動画や写真を公開して、今夜の出来事を千字の記事にしていた。知りたくなくても耳に入るさ」「……何だと?」立花はすぐにスマホを取り出し、ネットニュースを確認した。画面を見た瞬間、その顔は一気に険しくなった。福本信広のやつ……本当にこんなものをネットに流しやがったのか!「ボス、すぐにニュースを抑えさせます」「十五分も経って拡散は千万を超え、全国中に知れ渡ってるんだぞ!今さら抑えて何になる!」立花は奥歯を噛みしめて吐き捨てた。「次に福本信広に会ったら、必ず痛い目を見せてやる!」冬城はちらりと立花を見ただけで、黙っていた。正直、あの二人の頭の悪さはいい勝負だ
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第967話

冬城の言葉で、立花が続けようとしていた言葉は完全に塞がれた。傍らの馬場が眉をひそめて口を開く。「冬城社長は、福本陽子と白井が親しいことをご存じだったはずです。軽々しく婚約などすれば、福本家が必ず乗り込んでくるのに、なぜ事前に一言もなかったのですか?」冬城は落ち着いた声で答えた。「冬城家は福本家とも白井家とも縁が薄く、福本陽子と白井が親しいことなど知るはずもない。もし知っていたなら、立花社長に白井との婚約を勧めたりはしなかった」「ではさっきの発言は明らかに……」「ネットで見ただけだ」冬城はスマホを取り出し、立花・福本陽子・白井の三角関係をまとめた記事を見せた。そしてわざとからかうように言った。「立花社長の恋愛遍歴、ずいぶん華やかなんだね」馬場がなおも言い募ろうとしたが、立花は顔を険しくして遮った。「もういい!」どうせここまで事がこじれた以上、責任の所在を追及したところで無意味だった。立花は深く息を吐き、低く言った。「車に乗って帰るぞ」そう言って歩を進め、車に乗り込もうとした。その様子を見て、冬城は眉をひそめる。「立花社長、それ……俺の車だよ」「分かってる。俺の車は壊れてるだろ?」立花は意に介さず、馬場に向かって言った。「忠司、乗れ」「はい、ボス」馬場と立花は同時にドアを開けた。乗り込む直前、立花は冬城に一言残した。「今夜は世話になった。これからの協力は、もっと気持ちよく進むだろう」そう言って、そのまま車に乗り込んだ。冬城はその光景を見て、来たことを少し後悔した。てっきり立花が責任を問いただすつもりで呼んだのかと思えば、ただの便乗。結局は厄介を押し付けられただけだった。冬城も車に乗り込み、ボタンを適当に押すと、耳慣れた電子音が車内に響いた。「おい、何をしてる?」立花が眉をひそめて問いかけた。「メーター入れたからな。降りるときはちゃんと運賃払ってくれよ、立花社長」「……は?運賃まで払うのか?」冬城はバックミラー越しに立花を見やり、淡々と告げた。「まさか立花社長、運賃すら払えないなんてことはないだろうな?」「今日、瀬川に2億ふんだくられたばかりだ」「それは俺とは関係ない」「でも、お前はあいつの元夫だろ」「言っただろ。元夫だ」冬城は冷ややかに言い放った。「立
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第968話

その時、隅の暗がりから立花の去る背中をじっと見つめる影が、静かに拳を握りしめた。黒澤家の屋敷内。「トレンドが一億を突破したわ。今度は立花が有名になるみたいね」真奈は身支度を終えると、ベッドに寝転んでスマホのニュースをめくっていた。今日のこの茶番で、立花を海外から完全に追い出せそうだ。福本家の支援もなければ、白井家の後ろ盾もない。要するに、立花には海外に基盤がなく、黒澤の地位を揺るがすことなど到底できない。黒澤が浴室から出てきて、濡れた髪を拭きながら言った。「こちらの処理はだいたい終わった。二、三日したら海城に帰ろう」そう言って真奈を抱き寄せ、低く囁いた。「そろそろ婚姻届を出さないと」その言葉に、真奈の頬がほんのり赤くなった。海外での騒動は驚くほど早く鎮まった。あまりに早すぎて、どこか現実味がなかった。真奈は黒澤の胸にもたれ、かすかに息を吐いた。「でも……どうしても不安が消えないの」「なんだ?俺の力を信じてないのか」「今日……宴会場で、ある人を見た気がして」「誰を見た?」顔を上げた真奈は、黒澤の奥深い眼差しと真正面からぶつかった。「あれは……」冬城。けれど黒澤の前でその名を出すことはせず、真奈は首を振った。「……きっと見間違いね」冬城が黙って海外に来ていたとしても、もし立花の婚約パーティに現れていたら大騒ぎになっていたはずだ。静かに姿を潜めているなどあり得ない。「もう考えるな。すぐに智彦にチケットを取らせる」黒澤は真奈の髪に手を伸ばし、優しく撫でた。その眼差しは、愛情に満ちていた。真奈は小さくうなずいた。海外での危機はすでに収まり、福本家も黒澤に特に敵意を示してはいなかった。何より大きかったのは、立花と福本陽子の婚約を壊したことで、立花は海外でこれ以上波を起こせなくなったことだ。ここで過ごす日々も、もう十分だった。その頃、海城。Mグループでは、幸江が朝食を手に入ってきた。机の上には書類が山のように積み上がり、伊藤はすっかりその中に埋もれていた。小さな丘がいくつも連なったようで、伊藤の姿はほとんど隠れてしまっている。幸江は何とも言えない表情を浮かべ、腕を伸ばして指先でそっと伊藤の腕をつついた。次の瞬間、伊藤はバネのように事務椅子から飛び起きた。「会議だ!遅
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第969話

夕暮れ時、真奈は海城へ戻る荷物を整理していた。すると突然、携帯の着信音が鳴り響いた。画面に表示されたのは見覚えのない番号だったため、そのまま切った。だがすぐに、同じ番号から再びかかってきた。真奈は眉をひそめ、通話ボタンを押した。受話口からすぐに福本陽子の声が響いた。「瀬川、会いたいの!今すぐドラゴンホテルに来て!」相変わらず高飛車な口調に、真奈は思わず笑みを浮かべた。「福本さん、今度はどんな芝居かしら?今日は相手している暇はないわ。明日の朝早く海城に戻るんだから」「そんなの知らない!今日どうしても会わなきゃだめ!」電話の向こうの福本陽子は、どこか焦った様子で続けた。「前のことは私が悪かったわ。謝りたいの。それに本当に大事な話があるの!黒澤のことよ、早く来て!」そう言って、彼女はすぐに通話を切った。真奈はスマホを見つめながら、しばらく黙り込んだ。寝室の片付けを終えた黒澤が入ってきて尋ねた。「誰からの電話だ?」「福本陽子よ」「何の用だ?」「多分……話があるんだと思う。さっきドラゴンホテルで会おうって言ってた。かなり焦ってたわ」真奈はスマホを机に置き、スーツケースの荷物整理を続けた。「行くのか?」と黒澤が短く問いかける。「行くわ」「じゃあ俺も一緒に行く」「女同士のことだから、私たちだけで解決するわ」真奈は目を細めて笑い、手にしていた服の束を黒澤の腕に押し込んだ。「ちゃんと畳んでスーツケースに入れておいてね。戻ったときに、きちんと整理されてるのを期待してるから」黒澤は苦笑し、「わかった」と素直に応じた。そう言うと、真奈は携帯を手に外へ出た。夕暮れ時のドラゴンホテルは人影もまばらで、真奈は車を路肩に停めた。車の外では、黒いスーツにサングラスをかけた二人の護衛が待ち構えていた。車から降りた真奈に、二人は歩み寄って言った。「瀬川さん、福本さんが別の場所でお話ししたいそうです」真奈は二人のスーツに刻まれた福本家の家紋を一瞥し、意外にも抵抗せずに応じた。「いいわ、案内して」すぐそばに停まっていた黒いセダンの中には、運転手がすでに待機していた。真奈は後部座席に腰を下ろし、窓の外を何気なく眺めながら、どこか上機嫌な様子を見せた。ボディガード二人は外で目を合わせると、そのまま車に乗り込んだ。
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第970話

真奈が二人のボディガードに歩み寄ると、思わず二人は一歩後ずさった。「どうしてそれを知ってる?!」護衛がポケットからスタンガンを取り出そうとした瞬間、真奈は彼らの胸元にある福本家の家紋を指先で軽く弾き、冷ややかに言った。「福本家の家紋さえ間違ってるなんて……偽造に関しては、もっと注意した方がいいわね」「お前……」ボディガードの顔色が険しくなったが、真奈は背を向け、声を張った。「もうここまで来たんだし、出雲社長、そろそろ姿を見せてもいいんじゃない?それから福本さんも一緒に出てきて、少しお話でもしましょうか」ほどなくして、廃工場の奥から人影が現れた。わずか半月の間に、出雲はすっかりやつれていた。顔には無精ひげが伸び、髪も整えられず、着ているシャツさえ汚れている。真奈は思わず舌を打ち、皮肉っぽく言った。「出雲社長、最近はずいぶん落ちぶれてるみたいね。うちのMグループが用意した運転資金、足りなかったのかしら?」Mグループの名が出ると、出雲はさらに苛立った。真奈が罠を仕掛けなければ、自分がこんなざまになることなどあり得なかったはずだ。出雲は危うげに目を細めた。「どうして俺だとわかった?」「福本陽子みたいなわがままなお嬢様が、私に謝るなんてありえないわ。前から海城であなたの動きを監視させていたの。この前、伊藤が部下からあなたを見失ったと聞いて、きっと海外まで来るだろうと踏んでいた。お金が欲しいんでしょう?」痛いところを突かれ、出雲は二人のボディガードに怒鳴った。「何を突っ立ってる!早くやれ!」ボディガードは一瞬たじろいだものの、すぐにスタンガンを振りかざし真奈に襲いかかった。だが次の瞬間、真奈は軽々と一人を肩越しに投げ飛ばし、地面に叩きつけた。続けざまに相手の手首を押さえ込み、スタンガンを奪い取ると、そのままスイッチを押して相手の首筋に電流を浴びせた。もう一人が襲いかかろうとしたが、真奈の蹴りが急所に入って、苦痛にのたうち回った。真奈はスタンガンの出力を最大にし、相手の首元にぐっと押し当てた。ボディガードは二度ほど痙攣すると、そのまま意識を失った。真奈は淡々と告げた。「どうして誘拐までこんなに素人なのかしら。車に乗せた時点ですぐ気絶させるべきでしょう?私に道順を覚えさせ、対策を考える時間を与えるなんて」その言
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