福本家の屋敷内。真奈と黒澤は福本陽子を家まで送り届けた。福本陽子が門に入ると、そこには焦った様子で待ち構えていた福本英明の姿があった。「兄さん!」福本陽子は小走りで駆け寄った。福本英明の顔に喜びの色が浮かび、思わず抱きしめようと腕を広げたが、その背後に立つ真奈と黒澤の姿に気づいた瞬間、その笑みは凍りついた。伸ばした腕も宙に止まり、動けなくなった。――こんな場面、打ち合わせてなかった。黒澤と真奈を前にして、どう反応すればいい?冬城!どこにいるんだ、助け舟を出してくれ!福本陽子は兄の異変に気づくこともなく、そのまま胸に飛び込み、泣きながら訴えた。「兄さん!もう二度と会えないかと思ってたのよ!」福本陽子は涙に濡れた顔を上げると、福本英明が真奈と黒澤をじっと見つめているのに気づき、緊張して唾をのみ込み、不思議そうに尋ねた。「兄さん?どうしたの?」福本英明ははっと我に返り、妹の泣き腫らした顔を見て、仕方なく取り繕うように彼女を脇へと押しやり、低く重い声で言った。「陽子、お客様の前だ。礼儀を忘れるな」礼儀?家で礼儀なんて気にしたことあったっけ?「黒澤様と奥様には、妹の命を救っていただき、心より感謝申し上げます」福本英明は背に回した手のひらに汗をにじませていたが、真奈は笑みを浮かべて言った。「福本社長、送り出したあのボディガードのことは気にならないんですか?」「ボディガード……?」福本英明は一瞬考え、真奈の言うボディガードが冬城のことだと気づいた。くそっ、あの冬城の姿がボディガードだと?毎日怪しい仮面をつけているボディガードなんてあるか?真奈は福本英明が誰のことか気づいていないと思い、さらに言った。「松雪さんのことです」――松雪?誰だそれ?「あ、あの者は確かに福本家のボディガードですが……どうかしましたか?一緒に戻らなかったのですか?」真奈は穏やかに答えた。「本来なら一緒に戻れたはずですが、気がついたらもう姿がありませんでした。福本社長の部下は、なかなか神出鬼没のようですね」「彼はいつもそうなんです。陽子が無事で何よりです。今夜は本当にありがとうございました」福本英明はそう言い、探るような目でこちらをうかがう真奈に視線を向けた。「もしよければ……お茶でもいかがでしょうか?」真奈は黒
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