香澄の胸に、得体の知れない不安がこみ上げた。下唇を強く噛みしめ、無理やり笑みを作る。「ど……どうなさいましたの、野崎さん?森さんのことではないのでしたら、私をこちらへお呼びになったのは、いったいどういうご用件ですか?」胤道は目を鋭く細め、容赦なく言い放った。「静華が言っていたぞ。お前が彼女を桐生に会わせに行った日、伊勢の失踪について触れたそうだな……それは、本当か?」心臓が大きく跳ね、香澄の顔からさっと血の気が引いた。静華が、胤道にこんなことを話すなんて?もう彼に失望し始めていたはずじゃなかったの?それに、胤道はどういうつもり?まさか、疑われているとでもいうの!香澄は額にじっとりと汗を滲ませ、どうにか言い訳を考えようとした。「伊勢さんが……」胤道は冷ややかに言葉を遮った。「まさか、伊勢のことなど一度も口にしていない、すべては静華の嘘だ、などと言うつもりではあるまいな。静華が俺に嘘をつくかどうかくらい、俺には分かる」その言葉には威圧感がこもり、彫刻のように整った顔は険しくなり、引き締まった顎のラインが際立っている。漆黒の瞳は、目の前の女に対する圧力と不信感に満ちていた。香澄も分かっていた。もし綾のことなど言っていないと言い張れば、胤道に白々しい嘘をついていると断じられるだけだろう。香澄はあっさりと認めた。「あの日、確かに伊勢さんが失踪した件に触れましたわ。少し噂を耳にしましたので、森さんに確かめてみようと思ったのです。ですが、森さんもご存じないようでしたわ」胤道の眼差しが次第に冷たくなっていく。胤道は苛立たしげに椅子に腰を下ろし、シャツの袖をまくり上げると、平静を装って言った。「伊勢は、俺が極秘裏に組織から追放した。だから、彼女がアジトを離れた瞬間、情報は完全に封鎖した。組織の人間と俺以外、この件を知る者は一人もいるはずがない」胤道は不意に黙り込み、手元のグラスに水を注いだ。グラスに水が注がれる音を聞きながら、香澄の胸にもまるで冷たい液体が注ぎ込まれたかのように、重苦しい窒息感が広がった。香澄は緊張に唇を引き結んだ。やがて胤道が瞼を上げ、その瞳に氷のような光を宿して問い詰める。「答えろ。なぜお前が、そのことを知っている?」「野崎さん」香澄は瞬きをし、心底傷ついた
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