静華は眉をひそめた。まだ香澄に抗う気力が残っており、臆面もなく潔白を主張してくるとは考えてもみなかった。あの日のパンと、そこから出た検査結果が偽物であるはずがない。それに、今日のこの計画を、香澄が知る由もなかったはずだ。おそらくは、また被害者を装い、時間稼ぎをする魂胆なのだろう。静華は意に介さず、ただ検査結果が出るのを待った。その間、香澄は終始、目を赤くしたまま、この上ない屈辱に耐える悲劇のヒロインを演じきっていた。やがて外に動きがあり、綾が上ずった声で報告した。「森さん、結果が届きました!」静華はそれを受け取ると、胤道に手渡した。香澄も思わず一歩前に出たが、胤道の射抜くような視線に動きを封じられた。胤道は綴じ紐を解き、検査報告書を抜き出す。一瞥しただけで、その氷のような表情に、初めて変化が浮かんだ。静華は息を呑んだ。長い沈黙が、彼女の胸に得体の知れない不安を芽生えさせる。「野崎、結果はどうだったの?」胤道は書類をテーブルの上に置いた。綾がそれを手に取ると、見る見るうちに顔を青ざめさせ、信じられないものを見るかのように目を見開いた。「そんな……あり得ません!」静華は焦りがこみ上げてくるのを感じた。「どうしたの?」綾は茫然自失といった体で首を振る。「森さん、報告書には……ビタミンC以外の成分は検出されなかった、と……」静華の頭の中が、一瞬で真っ白になった。どうして、そんなことになったの!綾は報告書を握りしめ、香澄を睨みつけた。「あり得ません!あなたが何か、細工をしたのでしょう!」「もういい!」胤道は深く息を吸った。この茶番は、あまりに馬鹿げている。「伊勢、すぐに神崎さんに謝罪しろ」静華は必死に混乱する頭を整理しようとした。してやられたことは分かったが、どうしても理解できなかった。香澄がどうやって自分たちの計画を知り、どうやってそれを逆手に取ったというのか。「待って!」静華の眼差しは、まだ諦めていなかった。彼女には分かっていた。香澄が、無実であるはずがない!「もしこのパンに入っていたのがビタミンCだけだというなら、どうして毎朝こそこそと振りかける必要がありましたか?そこのカメラには、すべて映っていますよ」香澄は心底傷ついた、という表情を顔に貼り付け
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