「純君が帰ってくるんですって?」静華は意外な知らせに驚いた。「お正月まで、まだ間がありますよね?」幸子は静華に向かって悪戯っぽく笑った。「この間、電話でね、ついあなたのことを話しちゃったのよ。そしたら、会社に長期休暇を申請したんだって。半年以上も会ってないから私に会いたいなんて言ってたけど、十中八九、あなたに会いに来たのよ」「私に会いに?」静華はタオルを絞りながら、怪訝な顔をした。「何のために、私に?」「この子ったら、気づいてないふりしちゃって」幸子は笑みを浮かべ、からかうように言葉を続けた。「純は、小さい頃からあなたのことが好きだったのよ。知らなかった?」ちょうど水を飲んでいた静華は、思わずむせてしまった。幸子が慌てて背中をさする。静華は落ち着きを取り戻したが、まだ少し呆然としていた。静華は田中純のことを、ずっと兄のように慕ってきた。ここを離れる前も、彼らにはあまり交流はなかった。純は高校から実家を出ており、滅多に帰ってこなかったからだ。純が自分のことを好きだったなんて、夢にも思わなかった。静華は気まずげに言った。「田中おばさん、冗談はやめてください」「嘘をつくとでも思うのかい?あの子が中学生の時の日記、あなたのことばっかり書いてあるんだから。信じないなら、持ってきて読んであげようか」「い、いえ……結構です……」静華はきまり悪そうに言った。「それに、もう昔のことですから」「昔のことだから何だっていうの?純はまだあなたのことを諦めきれてないと思うわ。じゃなきゃ、長期休暇を犠牲にしてまで、すぐに車で帰ってくるはずがないもの」幸子は静華の手を握った。「いっそ、このままうちに残って、田中家の嫁になったらどうだい!」静華ははっと我に返り、思わずその手を振り払った。幸子は静華の言いたいことに気づいた。「静華ちゃん、まさか純じゃ不満だって言うのかい?自慢するわけじゃないけど、純は昔からハンサムで有名だったし、今じゃ立派な好青年よ。名門校を出て、大財団で勤めてる。それに、心根も優しいから、あなたをないがしろにするような子じゃないわ」「いえ、そういうわけでは……」静華は力なく笑った。「田中おばさん、昔は、純君に甘えてばかりでしたから、好きになられるのも当然でし
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