「君を待つのは、俺がそうしたいからだ。君が俺を待たせているわけじゃない。それに、君は自由だし、俺も自由だ。もし、いつか俺が待ちきれなくなったら、その時は潔く諦めるさ。でも、今は違う、君と友達でいられるこの時間を楽しみたいし、君が心から俺を受け入れてくれるまで、待ちたいんだ」湊の言葉に、静華は返す言葉も見つからなかった。彼女は狼狽し、か細い声で懇願した。「湊さん……後悔するようなことは、しないでください」「今、君を諦めることこそ、俺の人生最大の後悔になる」受話器の向こうから聞こえる声は、有無を言わせぬほど力強かった。静華は、ぐっと下唇を噛みしめた。やがて看護師長が病室を訪れ、患者の安静を理由に静華に退室を促した。「棟也から連絡があって、もうすぐこちらに着くそうだ。もう遅いだから、ちゃんと帰って休んだあと、来てもいい」湊の体調が気になったが、彼の負担になるわけにもいかない。静華は頷くと、静かにドアを開けて外に出た。病院からホテルまでの道は覚えている。一人でも問題ないはずだった。しかし、なぜだろう。今日に限って、背後に誰かの気配を感じる。歩調を速めると、後ろの足音も同じように速まる、それでいて、巧みに一定の距離が保たれていた。目の見えない自分の歩調に、ここまで合わせられるのは偶然だろうか。それが意図的でないとすれば、静華には到底信じがたいことだった。恐怖に駆られ、彼女はほとんど駆け足になった。前方から聞こえる人の話し声に、吸い寄せられるように飛び込む。「あの、すみません……」痛々しい顔の傷を持つ女が不意に声をかけてきたことに、数人の大学生らしき若者たちは一瞬ぎょっとした。だが、彼女に敵意はなく、目の焦点が合っていないことにすぐ気づいた。「はい、どうかしましたか?」指先が白くなるほど強く握りしめる。不躾なのは分かっていた。けれど、見知らぬ誰かを警戒させることより、得体の知れない危険に巻き込まれることの方がずっと怖かった。「あの……私、目が見えなくて、この辺りの道に不慣れなんです。もしよろしければ、聚楽ホテルまでご一緒していただけませんか?」ちょうど手持ち無沙汰にしてどこへ行こうか話していた学生たちは、障害を持つ人からの頼みを断るはずもなかった。「いいですよ、お姉さん。すぐに場所を調べますから、送り届けますね」「ありがとうございま
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