棟也が夜通し車を飛ばして病院に駆けつけた時、病室には一人の女性が顔を覆って泣いていた。看護師の黒木梨々花だ。梨々花は彼に気づくと、まるで救世主でも見たかのように叫んだ。「秦野さん!」「話は聞いた。湊は?」「新田さんは……もう警察署へ行きました」「あいつ、正気か?ベッドで安静にしてなきゃいけないのに!」棟也は眉をひそめ、電話をかけながら車を走らせた。電話は一向に繋がらない。警察署の前に着くと、棟也は中に一人で立つ湊の姿を見つけた。病衣を着たまま、警官が羽織らせてくれたコートを肩にかけ、手にはスマホを握りしめている。警察官たちは皆、彼に敬意を払っていた。一人はお湯まで持ってきて、「どうぞ……」と差し出している。棟也は早足で近づき、男の腕を掴んだ。「湊!何をしてるんだ!調査は僕が手配したと言っただろう!手術を終えたばかりで、長時間立ってはいけないんだ!早く戻るぞ!」男は動かなかった。もともと病的なほど白い顔が、今はさらに青ざめている。整った顔立ちはやつれ、黒い瞳は伏せられていた。やがて、棟也の手から自分の腕を振りほどいた。「俺が……彼女を助け出さなきゃならないんだ!」声はひどく掠れていた。今回は、スマホで文字を打って発声させるのではなく、直接口を開いて言った。だが、その場にいた誰も、それを不思議には思わなかった。その時、警察官がファイルをめくりながらやってきた。「ご安心ください。すでに防犯カメラを調査し、捜索隊も派遣しました。すぐに森さんの行方が分かるはずです」棟也は湊を見た。まるで生ける屍のような彼の姿を、今まで一度も見たことがなかった。「俺のせいだ」長い間水を飲んでいなかったせいで、湊の声はひどくかすれていた。「彼女が出て行くと言った時、俺が止めるべきだった。あれが罠だと、とっくに気づくべきだったんだ」「君のせいじゃない」棟也の表情はさらに険しくなり、声を低くした。「こんなことになるなんて、誰に予想できたっていうんだ!」「でも、避けられたはずなんだ」湊は手の中のものを強く握りしめた。棟也が目をやると、それは二枚のドイツ行きの航空券だった。湊は自嘲した。「全部計画してたんだ。一週間後には、彼女を連れて行くつもりだった。彼女が望む生活をさせて、庭で花
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