佐藤は一蹴りをくらっても、一言も発さずに地面にひざまずいていた。胤道は無言でスマホの画面を見せつける。そこには診療記録が表示されていた。冷たく、恐ろしいほど無表情なまなざしで彼を見下ろす。「これは……どう説明する?」佐藤はすでにこの状況を予測していたように、あらかじめ考えておいた言葉を低い声で口にした。「申し訳ありません。当時、すぐにお伝えしようと思いました……ですが、私は野崎様の性格をよく知っています。森さんが獄中で失明したと知れば、必ずや彼女を救い出すためにあらゆる手段を講じるでしょう。ですが、当時は世間の目が厳しく、野崎グループに大きな影響が出かねなかった……ですから、私の独断でした。処罰は甘んじて受けます」「確かに、お前の勝手な判断だ」胤道は怒りに冷たい笑みを浮かべた。視線はなおも冷酷に佐藤を見下ろしている。「どうやらお前に優しすぎたようだな。主従の分も忘れさせてしまったらしい。今日限りで、お前は解任だ。俺の命令がない限り、二度と戻ってくるな」「……なに?」りんは信じられないというように口元を手で覆った。ただの静華ひとりのために?胤道が、佐藤を……?「胤道、考え直してください!」彼女は車椅子を動かしながら訴えた。「佐藤は何年もあなたに仕えてきたのよ?その忠誠を、あなたが一番よくわかってるはずよ。森さんの目はもう見えなくなった以上、あなたに伝えても、もうどうにもならなかったじゃない……彼は、あなたのために、野崎グループのためにそうしたのよ!」「俺のため、グループのため、だと?」胤道は冷笑した。「あのとき、森の目には、まだ可能性があった。見える可能性があったんだ!それを黙っていたせいで、彼女の目は完全に失われた。……それで『俺のため』だと?それじゃあ、俺が自分の手で森の目を奪ったって言ってるのと同じだろうが!」りんの唇が震え、つい口を滑らせる。「……目が見えないくらいで、グループより大事だっていうの?その時あなたは、森のために、グループを危機に晒すつもりだったの?」その瞬間、りんは、足元から凍りつくような視線を受けた。深淵のように黒い双眸、死水のように冷たいまなざしが、彼女の言葉を一瞬で凍らせた。「――望月」胤道が、初めて彼女をこんなにも冷たく呼び捨てにした。
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