船で逃げるから車は置いていくしかない。純は車を路肩に停めたが、船着き場までまだかなりの距離があった。痕跡を残さないように、二人は車を降りて走っていた。十一時までに船に乗り込まなければいけなかった。一睡もしてない静華は、激しい運動に耐えられず、突然下腹部が引きつるように痛み出した。お腹を押さえると、鋭い痛みと一緒に、股の間に生温かいものが流れ出るのを感じた。「どうした、静華?疲れたか?」顔面蒼白のまま、静華は首を横に振った。純は彼女をなだめるように言った。「もう少しの辛抱だよ。貨物船は待ってくれないんだ。あそこに着きさえすれば、すべてが落ち着くから」「うん……」静華はかすれた声で頷いた。体の異変を純に告げることはできなかった。もう時間は残されていない。彼女は歯を食いしばって前に進み続け、ついに海岸にたどり着いた。下腹部の痛みはもうそれほど感じなくなっていて、彼女はホッとため息をついた。もう二、三歩進んだところで、突然携帯が鳴った。純もそちらに目をやった。静華は一瞬ためらったけど、結局携帯を手に取り、通話ボタンを押した。胤道は飛行機を降りたばかりのはず。一言二言なだめて、逃げる時間を稼ごう。そう思って、彼女は電話に出た。雑然とした騒音の向こうから、胤道の何度も繰り返される必死の声が聞こえてきた。「静華、行かないでくれ……」静華はぼう然とした。彼の声は泣いてるみたいで、弱々しかった。だがよく聞こうとすると、かえって聞き取りにくくなる。「静華、すまなかった、行かないでくれ!頼む!残ってくれ!」静華は歯を食いしばって電話を切り、携帯を海に投げ捨てた。「どうしたんだ?」静華の唇が白くなった。彼女は首を振って言った。「早く行きましょう。野崎に気づかれたみたいです」どうして胤道が気づいたのかは分からない。声から察するに、まだ空港の近くにいるんだろうけど、考える時間はない。貨物船の乗組員に声をかけ、二人は船倉へと入った。船倉には何かが積まれてるらしく、強い匂いがした。純は上着を脱いで木箱の上に置き、静華に座るよう促した。船が動き始めたのを感じ、出航したことに気づいた静華は、顔を上げて尋ねた。「余崎市まで、どのくらいかかりますか?」純は答えた。「早くて一日半、
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