明日香は昨晩よく眠れず、六時を少し過ぎた頃にはもう目を覚ましていた。階段を下りると、頭は鈍く痛み、意識も霞がかかったようにぼんやりしている。ここ最近は昼夜の寒暖差が激しい。きっと昨夜、窓を開け放したまま眠ったせいで風邪をひいたのだろう。リビングに入ると、台所では使用人が掃除をしていた。片付けはまだ始まったばかりのようで、床には割れた皿や碗の破片が散乱している。「どうしたの?」「お嬢様」使用人は顔を上げ、事情を説明した。「昨晩、どうやらネズミが暴れたようで……遼一様が菌に感染しては大変だとお考えになり、台所の食器をすべて新しいものに替えるようご指示されました」明日香は周囲を見渡し、「芳江さんは?」と尋ねた。「芳江さんは裏庭に異動となり、今は野菜を洗っているはずです。お嬢様、呼んでまいりましょうか」「いいえ、結構です」微笑みながら、棚の下から救急箱を取り出すと、頭痛薬を二錠、水で飲み下した。続いて冷蔵庫を開ける。「私が以前飲んでいたジュースは?」「遼一様がおっしゃいました。これらのジュースには色素が添加されており、常飲は健康に良くないと。すべて牛乳に替えられました。お嬢様がどのジュースをご所望か仰っていただければ、すぐに搾って参ります」明日香は何も答えず、ただ湯を一杯注いだ。解任されて暇を持て余しているから、こんなことまで口を出すのか。ほんとうに、暇なのね。八時半。二階で着替えを済ませ、一人で朝食をとりながら、傍らには色彩理論に関する本を広げていた。ちょうどその時、玄関に車の気配がした。振り返ると、間もなく遼一がドアから入ってくる。その後ろには珠子、そして久しぶりに見るウメの姿があった。明日香の表情は良くも悪くもなく、ただ無感情に振り向いただけだった。手にした粥を口に運び続ける。ウメを月島家に連れ戻すのは遼一の決定に違いない。父が事故で倒れた今、この家のすべてを決めるのは遼一であり、自分――月島家のお嬢様は、名ばかりで実権など持たない存在にすぎない。彼女が望むのは、常に局外にいることだけだった。遼一が椅子を引き、彼女の隣に腰を下ろす。「気をつけて」珠子がウメを支えながら声をかけた。明日香は、自分の存在がまるで余計なもののように思えた。今やこの家で彼女はよそ者にすぎないのだから
続きを読む