「私がご紹介しますね!」千奈は一歩も引かず遼一の前に進み出ると、真剣な面持ちで、しかし毅然とした態度を崩さず、身振りを交えて語り始めた。「こちらの作品をご覧ください。田崎教授が『生気』と名付けられたものです。これは私たちが熱帯雨林の奥地で目にした光景を描いたもので、一本一本の木も、一枚一枚の葉も……当時の景色そのままを表現しています。絵の中では静かで穏やかな雨林に見えるかもしれませんが、実際には――私たちのいた場所は、危険に満ちていたのです」周囲の人々は息をのんで耳を傾けた。千奈の語り口は、まるで奇想天外な冒険譚そのものだった。「私たちはサシハリアリに遭遇しました。ご存じない方もいらっしゃるでしょうが、これは世界で最も毒性の強い生物の一つで、アリの中でも異質な存在です。遠目にはハチのように見えますが、強靭な大顎と鋭い毒針を備えています……」そこから千奈は、熱帯雨林で彼らが経験した数々の出来事を語った。命を落としかけた瞬間さえ含め、手に汗握る場面の連続だった。中村は耳を傾けながら、にわかには信じがたい思いでいた。どうりでこの数年、明日香の消息がつかめなかったはずだ。彼女は田崎教授の学生チームと行動を共にしていたのだ。千奈がこの数年間の挫折や苦難を語るうちに、遼一はむしろ、明日香が去ってからの四年間、どのように過ごしていたのかを知ることになった。それらの体験は、常人にとっては到底信じがたいものだった。遼一には想像もつかない。かつて台所で包丁を持てば手を切り、重い荷を担げずに困っていたお嬢様が、どうやって数々の困難や危険を乗り越え、今こうして無事に戻ってきたのか。遼一は口元に微かな笑みを浮かべた。皮肉を帯びた笑みだった。大げさに脚色されているだけだろう。話の大半は、馬鹿げたほど誇張に満ちていた。だが、彼にとって重要なのはそこではなかった。「俺の知る限り、田崎教授には四人の学生がいるはずだが……」俊明がすぐに応じた。「一番下の後輩のことですか?彼女は月島明日香といいます」中村の瞳が大きく見開かれた。まさか……本当に、あの明日香だとは。長いあいだ耳にしていなかったが、決して忘れられない懐かしい名だった。彼らが四年間探し続けてきた人物が、まさか本当に戻ってきたとは――俊明は続けた。「彼女は私
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