「私のクラスでの立場、わかってるでしょ......私のせいで迷惑かけたくないの」「朔良って、ただの地方都市じゃない。ただ何しに行くのかは謎だけど......まあ、それはどうでもいいわ。明日香、大丈夫。たとえ親友じゃなかったとしても、私が話しかけたときに無視しなければ、それで十分よ」明日香はこくりと頷いた。「勉強の邪魔さえされなければ、無視なんてしないわよ」「明日香って、本当に優しいんだから!」静香はぱっと笑顔になって、嬉しそうに明日香を抱きしめた。けれど明日香には、どうして静香がそこまで自分と仲良くなりたがるのか、正直よくわからなかった。記憶を辿ってみても、特別深い関わりがあった覚えはない。まわりの人たちとの関係も、どれも浅くて、表面だけの付き合いばかりだった。「こんにちは」「じゃあね」と、ただ挨拶を交わして、それで終わる。次の日には、名前さえ思い出せないような、そんな関係。そんなことをぼんやり考えながら歩いていた明日香は、少し先で立ち止まった。視線の先には、黒いデニムジャケットに左手をギプスで固めた淳也の姿があった。ふたりの距離は、だいたい五、六百メートルくらい。そしてその近くには、もう一人。懐かしい顔――珠子がいた。最近、珠子はやたらと彼女の前に姿を現すようになっていて、どれだけ避けようとしても、なかなか振り切れなかった。「ほら、あの子。帝都第二高校に転校してきた珠子って子よ。学校で一番キレイな女子って評判」静香は前方の女子生徒の背中を指差しながら、声をひそめた。「こっちに来て、まだ一週間も経ってないのに、淳也に気に入られたらしいわ。今はまだ付き合ってるかどうかは不明だけど......帝都第二高校には淳也とつながりのある連中が何人かいてね、この前そのメンバーで集まったときに彼女も連れてきたんだって。あと、彼女にはかなり出世してる専務の兄がいるらしいけど、血は繋がってないらしいの。でも、その兄がものすごく厳しくて、恋愛なんてもってのほかって感じなんだって。たぶん、珠子が帝都第二を抜け出して私たちの学校に来たこと、兄には内緒なんじゃないかな」静香の言う「兄」とは遼一のことだった。少し気になって、明日香は尋ねた。「......なんでそんなことまで知ってるの?」「学校の掲示板で見たのよ」静香は少し得
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