もしかしたら、明日香はどこかに隠れているのかもしれない――そんな淡い希望が、ふと胸をよぎった。だが次の瞬間、珠子が大型トラックの前方に立つ人影を指さして声を上げた。「遼一さん、あれ......明日香じゃない?」遼一の手がハンドルを握る力を緩め、車は徐々に速度を落とした。そのときだった。明日香が、見覚えのない車に乗り込もうとしている姿が、彼の目に飛び込んできた。「えっ、明日香が知らない人と一緒にどこかへ行っちゃうの?何かあったんじゃない?遼一さん、警察に連絡した方がいいかも......」珠子の声には明らかな動揺が滲んでいた。だが、遼一は険しい顔をしたまま、そっと視線を逸らした。「構わない。放っておけ」「本当に......それでいいの?」珠子が不安げに尋ねても、遼一は一言も発さず、ただ黙って運転に集中した。その間にも大型トラックは猛スピードで走り去り、あっという間に彼らの視界から消えていった。アクセルを強く踏み込んだせいか、車のスピードが上がっていくのを珠子ははっきり感じ取った。心臓がざわつく。でも、彼があの車を追っているのだと信じたかった。我慢するしかなかった。やがて前方の信号が赤に変わる。到着した瞬間だった。遼一はその赤信号を無視し、強引に曲がり角を一つ越えたが、もうその車の姿はどこにもなかった。「遼一さん、見失っちゃった......どうしよう?」焦ったように問いかけた珠子が隣を見やると、遼一の瞳には冷たい闇が宿っていた。その目に射す陰の色に、思わず背筋が凍る。明日香、今度はどんな手を使ってくるつもりだ?一方、明日香は助手席からバックミラーをのぞき込み、遼一の車が遠ざかっていくのを確認してほっと息をついた。今回こそ、伝わってほしい。私が「離れる」と言ったのは、最初から嘘じゃなかった。珠子のこともあった。あれで十分思い知らされた。かつての縁を考えて、これ以上彼女を巻き込まないでほしい――遼一には。もう一度殴られたら、さすがに、痛いし......運転席には、長距離輸送を生業とするドライバーが座っていた。助手席にはその奥さんも同乗している。どちらも物腰柔らかで、親切な人たちだった。「お父さんとケンカしちゃって......お母さんを探しに行くんです」明日香がそう説明すると、二
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