しかし、遥はそんなことを気にしてはいなかった。もうすぐ、彼女は遼一とともに役所へ婚姻届を提出しに行く。今日を越えれば、名実ともに遼一の妻となる。遼一が正式に娶る、ただ一人の妻。誰にも、彼女の居場所を奪わせはしない。人間は皆、身勝手な生き物だ。遥もまた、その例外ではなかった。彼女は寛大な人間ではない。結婚さえしてしまえば、密かに明日香を海外へ送り出すこともできるだろう。遥は明日香に歩み寄り、静かに口を開いた。「……実はね、お兄ちゃんは南緒と結婚するつもりなんて、一度もなかったの。あなたがここを離れる前から、もう決めていたことなのよ。もしあなたがあの子を受け入れないなら、お兄ちゃんはあの子を南緒に返して、藤崎家から出て行ってもらうつもりだった。あの子のことも、誰か信頼できる人に託して育てるつもりだったの。二年前、お兄ちゃんが結婚するっていうニュース、嘘だって知っていたでしょう?インタビューも、南緒があの子の命を盾にして作り上げた見せかけなの。一つ、あなたにまだ伝えていないことがあるのだけど……南緒は二年前のあの交通事故で、すでに亡くなっているの。お兄ちゃんがR国にあなたを探しに行った時、南緒も同行していて、運転中に揉み合いになり、車が墜落してしまったのよ。お兄ちゃんは奇跡的に助かったけれど、今も病院で……意識不明のままなの……」その知らせを耳にした瞬間、明日香の揺るがぬはずの心が大きく震えた。「な、何て……言ったの?」「ごめんなさい。あの時、『お兄ちゃんは元気だ』って言ったのは、遼一がいたからなの。今の遼一には、誰も逆らえない。藤崎家に関するあらゆる情報は、彼によって封鎖されてしまったわ。メディアにも警告を出したの。藤崎家のことは一切報道するなって。藤崎家はあの金融危機を乗り越えられなかった。藤崎グループの株は切り売りされ、資産もほとんど手放し、残ったのは古い屋敷だけよ」明日香の視界は一気に暗転した。足元が揺らぎ、崩れ落ちそうになったところを、遥が慌てて支えた。「どうして……どうしてこんなことに……?」明日香は遥を見つめ、押しつぶされるような苦しさの中で声を絞り出した。「お兄ちゃんが病院に運ばれた時、医師は言ったの。もともと足は完全には治っていなかったうえに、あの事故で、もし意識
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