美羽がホテルに戻って間もなく、星璃から電話がかかってきた。彼女が部屋にいると知ると、星璃はそのままこちらにやって来た。星璃も今、このホテルに滞在している。部屋に入るなり、星璃はマフラーを外し、その華やかな顔をあらわにした。「美羽、ごめんね。午後、哲也に『ちょっと急ぎの用がある』って呼び出されて……そのまま彼と行っちゃって、美羽に声もかけられなかったの」「大丈夫。用事は済んだの?」「……」どう言えばいいのだろう。哲也の言う「急用」とは、占い師が選んだ「一年に一度の妊娠の好機」――その時間に合わせて彼が彼女をホテルへ連れ戻した、というものだった。事が終わった後、彼女は思わず彼の頬を平手で打った。白く整った顔にくっきりと赤い跡が残り、かえってその美貌を際立たせた。けれど彼は気にも留めず、煙草に火をつけ、紫煙の向こうで笑いながら言った。「母さんが占い師に頼んで見てもらったんだ。この時間にやれば、一人でも十分、運がよけりゃ双子だってさ」哲也は「マザコン」ではない。母親の言うことに盲従するタイプでもない。ただ――星璃のために翠光市まで来たのに、彼女が仕事ばかりでかまってくれない。ひとりで過ごすのが退屈で、ふと思いついたように、彼女をからかってみたくなったのだ。二十代の男なんて、どんな馬鹿げたことでもやりかねない。星璃は深く息を吐き、話題を切り替えた。「まあ……済んだわ。それより、帰り際に霧島社長を見かけた気がしたけど?」美羽はソファの肘掛けに身を縮め、手にしたカップを抱いていた。雪の中を少し歩いたせいで、鼻先がほんのり赤い。「うん。彼、示談金を二億まで上げて、『従妹を見逃してほしい』って」星璃は眉を寄せた。「それで、美羽は?」「断ったわ」星璃の表情に一瞬のためらいが走ったのを、美羽は見逃さなかった。「星璃も、和解したほうがいいって思ってる?」星璃は正直にうなずいた。「法的に見れば、今の証拠で訴訟に勝つのは確実。結意は一年から三年の実刑になるはず」そんな前置きのあとに続くのは、決まって「でも」だ。美羽は淡く笑った。「でも?」やはり、星璃は小さくため息をついた。「でもね、宮前さんの計画では、被害者は彼女自身だったの。そうなっている以上、裁判所は『実際の被害者なし』『社会的影響も小さい』と判断する
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